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ヒンディスタン・ジャーニー ジャイプール編 「忘れえぬこと その3」貴久樹・糸川千尋

ヒンディスタン・ジャーニー ジャイプール編 「忘れえぬこと その3」貴久樹・糸川千尋

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世界中の手仕事を独自の感性で見出し、和服という日本文化へ美しく昇華させてきた着物ブランド、貴久樹。そのすべてのプロデュースを行う糸川千尋さんは、京大卒の庭師という異色の経歴の持ち主。ものづくり、作品、出会い……貴久樹という旅においての「忘れえぬこと」、待望の続編はヒンディスタン・ジャーニーから。

よみもの

貴久樹・糸川千尋「忘れえぬこと」

「忘れえぬこと その3」

ヒンディスタン・ジャーニー
ジャイプール編

インド着

その昔、同じ重さの砂金と引き換えに求められたという更紗の布。
その鮮やかな色彩は人の心を魅了してやまなかった。

すこしご無沙汰しておりました。
みなさんお元気ですか?
お変わりなくお過ごしでしょうか。

インドにいる私のじいや、クラナさんがよく言ってました。

「インドの国はね、本当は”インド”じゃないんですよ!”インド”ってイギリス人がつけた名前。 インド人は自分の国のこと”ヒンディスタン”って言うの!」

「最近のG20でインドのムルム大統領が自分のことをバーラト大統領と表現して物議を呼んだ」とニュースで見ましたが、ヒンディスタンでもないんだな、と思った次第。

私にとってインドはね、万華鏡みたいにいろんな顔をする国です。
飛行機のチョイスはJALとのコードシェアのエアインディア。
ターバンを巻いたマスコット、同じくターバンを巻いた乗客で前が見えづらい。
インド人のおじさんとの真剣な肘掛けの取り合い。
機内はすでにスパイスの香り。
日本食をリクエストする気なんてさらさらなく。
デリーまでの8時間をボリウッド映画を 観て過ごす。

みなさんをしばしインドへお連れしたいと思います。

忘れえぬこと

デリーに着くと、グルガオンにある定宿のトライデントホテルへ。
いつも大体夜に着くのでエントランスの水盤と篝火が美しい。
玄関ホールのドームの金箔はジャイさんの仕事だ。
帰ってきた、という気持ちになるから不思議。

隣のオベロイまで
Threesixtyone Degrees

トライデントは夜のごはんが食べれないので、隣のオベロイまでてくてく。
オベロイはグルガオンでは一番のホテルで、あまりにもドヤ感が強くて苦手なんだけど ここのレストラン『Threesixtyone Degrees』だけは気楽で好き。
明日は朝早くからジャイプールへ行く。
宝石の街、アンティークの街。サーモンピンクの壁が可愛いピンクシティ。

ジャイプールでは空港からそのままスラジさんの工房へ。
私はスラジさんをインドの芹沢銈介先生と思っている。
スラジさんの工房はジャイプール空港から車で1時間ほど。
途中で魔の交差点と呼んでいるところがあって、そこは物乞いの人たちがひしめきあって停まる車の窓を叩いてくる。
外国人と見ると執拗で、なぜかこの交差点は信号が変わるのが異常に遅いので、物乞いの人たちにとっては恰好のスポットなのだ。
目を瞑って信号が変わるのを待つ。
スラジさんの工房はもうすぐ。

更紗の布

広い広い敷地の土の上に、そのまま染まった更紗の布が天日で乾かすために広げられている。

子供達が駆け回っている。
凶暴な牛がいて侵入者の私たちを威嚇する。
日本のバイヤーが見たら卒倒しそうなやり方に思わずくすりとしてしまう。
これでいいよね。なんの問題もない。
だって出来上がった布たちはこんなにも美しく愛おしい。

スラジさんの工房へ

スラジさんの工房には藍の甕もある。
インディゴ染色の最も古い中心地はインドであったとされる。
スラジさんはハイデラバード近くで栽培された藍草を使っているという。
ダブ、と呼ばれる泥で防染する技法や、印金と言ったらいいのか、金彩を施す技法など、サンガネールの町の工房では見かけたことのない古い時代の仕事が、スラジさんのところには残っている。

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