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覚性律庵の大阿闍梨と稲刈り 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.9

覚性律庵の大阿闍梨と稲刈り 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.9

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扇子製造卸を営む大西常商店の4代目、大西里枝さん。家業に新風を吹き込む若き女将がつぶやく、ガチ勢な京都暮らしの本音炸裂ツイートが、いま注目を集めています。毎年ゆかりある田んぼにて、田植えと稲刈りをお手伝いする里枝さん。今年は、滋賀県の仰木集落にある覚性律庵まで行ってきました。

2023.08.17

よみもの

萬燈会とお盆飾り 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.8

気合い十分!稲刈りスタイル

里枝さん着姿

この日の里枝さんの出で立ちは、汚れてもOKなデニムきもの。合わせたのは、締めやすい半幅の博多帯をざっくりと貝の口で

取材先までは里枝さんの運転だったため、帯は持参。着くなり、玄関先でいつの間にか帯結びが完成していた。さっと手拭いをかぶって、万全の稲刈りスタイルに。

足元

足元は、ランニング用のウェアとシューズ。残暑が厳しくとも、稲刈りに肌の露出は厳禁。かぶれないためにも、素肌を晒さないに越したことはない。

しかし、気合い十分でやって来たものの……

出発時から降っていた雨脚はどんどんと強くなり、残念ながら稲刈りは延期となったのだった。

自然に逆らわず、共に生きる

田んぼ

今回の目的地である仰木棚田は、比叡山麓の丘陵地に位置する。琵琶湖を一望できる棚田で、その歴史は1200年にも亘る。

比叡山からの湧き水と標高が高いゆえの寒暖差を有する仰木集落でつくられる米は、献上米に選ばれるほどの上質なものだったが、いまでは専業農家が一軒になってしまったという。

5年前から米作りを始められた光永圓道(みつながえんどう)大阿闍梨曰く、

「今年は晴れ過ぎて水が回らず、その分、根は深くなったのでコケる(倒れる)ことはないでしょうが……米の出来はあまり期待できないかもしれません」

大阿闍梨

光永圓道 大阿闍梨

米どころに住まわせてもらったからには、米づくりについて知らないといけない」と思い、作るのが最も簡単だといわれるきぬひかりを育てておられる大阿闍梨。

「田んぼってね、田植えと稲刈りだけじゃないんですよ。草を刈って、畔を作って、田を起こして。やっと田植えが終わったら、水の管理に気を配り、月に一回は畔の草刈りです。雑草は風通りも日当たりも悪くしますからね。

稲刈りの2週間前には水を切って(抜いて)、やっと収穫です。休みなく働かれている農家の方々の大変さが分かって、有難さが本当によく理解できます

話を聴く里枝さん

大阿闍梨のお言葉に、何度も深く頷く里枝さん。

万に一つの可能性に期待して、ここ覚性律庵を訪ねたが、「この天気では機械がにえ込む(濡れた土にはまって動かなくなる)ので、無理ですね」とのこと。

仏の前で話す二人

ふたりの背後には、織田信長によって為された1571年の比叡山焼き討ちの際に炎の中から救い出された四天王像と金剛力士像が並ぶ

15歳で仏門に入り、28歳で最も苛烈な修業である「千日回峰行」に挑んだ大阿闍梨。

平安時代から続く難行苦行は、7年もの歳月をかけて約4万キロメートル(およそ地球一周分)を徒歩で巡礼し、9日間に亘って断食断水、不眠、不臥で不動明王を念じるというもの。

覚性律庵

覚性律庵

大阿闍梨は、比叡山延暦寺の焼き討ち以降、50人目の満行者だ。

途中で行を続けられなくなった場合、自ら命を絶たなければならないため、自死のための道具となる死出紐(しでひも)、三途の川の渡り賃となる六文銭を常時携帯しているという。

なんたるお覚悟!

「不動明王の化身」となられた

命がけの荒行を達成され、「不動明王の化身」となられた大阿闍梨をもってしても、天候ばかりは如何ともしがたい、ということなのだ。

「どうしようもないことはあるもの。とくに自然相手では、私たちの力なんてちっぽけですから。稲刈りは出来なかったですけど、大阿闍梨のお話を聴くことができてラッキーでした! これもご縁、ですよね」と、朗笑する里枝さん。

朗笑する里枝さん

大阿闍梨との貴重なひととき

清涼感ある白衣に羅の帯

蒸し暑さをも吹き飛ばすような大阿闍梨のお召し物は、清涼感ある白衣に羅の帯。

「要職に就いてからは長襦袢を着るようなりました。夏用は7~8枚を着回しています」とのこと。

注目したいのは、その帯。

「結ぶと帯が傷むので、留め具を使って巻いているだけです。博多帯は締りはいいのですが、滑るので……。行(ぎょう)の際は両端に紐がついた木綿の帯を結んでいます」

注目したいのは、その帯

そんな何気ないきもの話だったのが、いつしか話題は移り、ランニングコースについて盛り上がるふたり。

談笑

大きな一枚ガラスがはまった窓の外の瑞々しい緑を眺めながら、「11月20日頃には、真っ赤に染まりますよ」という大阿闍梨の言葉に、テンションが上がる里枝さん。

景色を眺めながらのふたり02

「公開も予定しているので、近日中に枝ぶりを決めて剪定するつもりです。紅葉もですが、ここはドウダンツツジが見事ですよ。赤のつき方が本当に美しい」と聞き、季節の移ろいを自然の色で確かめる。そんな時間を、改めて、大事にしたいと思ったスタッフ一同であった。

先般、手ずから植えた稲がどれほど生長したのか、当該の田んぼを訪れた里枝さんが、実り多き稲穂を手に微笑み、「頭(こうべ)垂れないとあきませんね」と呟く

田んぼで稲を見る里枝さん

稲穂の如き謙虚さが、すでに彼女に備わっている美徳だということは、言わずもがな。

ススキと一緒に

大阿闍梨と里枝さんのご縁を繋いだ車戸氏が、お月見用にと、里枝さんにすすきを贈る一幕も

大阿闍梨の稲刈り

後日無事に行われた稲刈りでは、大阿闍梨だって作業着! コンバインを操る姿は、レア度★★★ 提供/覚性律庵

まもなく訪れる、中秋の名月。来月は大西家のお月見をご紹介します。

撮影/スタジオヒサフジ

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