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親子ほどの歳の差をつなぐ浴衣 「きものとわたしのエイジング」vol.9

親子ほどの歳の差を繋ぐ浴衣 「きものとわたしのエイジング」vol.9

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親子ほど歳の離れた太陽のようなパワフルガールと私を繋いでくれた、お祖母様の浴衣。時を超え、世代を超えて共通していたものとは。

2023.08.14

よみもの

昭和の夏の風物詩、再び 「きものとわたしのエイジング」vol.8

日本人と浴衣

この夏、浴衣を通して気づいたことがあります。

それは日本人にとって浴衣は小さい頃の思い出とセットになって、郷愁を感じるアイテムだということ。

そして私にとっては、きものを纏う際の身体に沿わせる感じや、紐を丁寧にかける過程には、自分の身体と向き合うとともに、心に作用している「何か」があることを感じたのです。

その「何か」とは、きものが好きないくつかの理由のなかでも、とりわけ大きな軸になっている部分のように思います。

絞りのゆかた

私はきものといえば、母よりも祖母を思い出します。祖母は毎日着物を着ていましたし、何か縫いものをしていることが多かったように覚えています。

初めて浴衣を着せてくれたのも、帯を結んでくれたのも、祖母でした。
そうそう、中学か高校の授業で浴衣を縫う、という課題がありましたが、私の代わりに縫い上げてくれたのも祖母でした(笑)。

そんなふうに浴衣にまつわるあれこれを鮮明に思い出すきっかけとなったのは、SNSで繋がった台湾ブロガーのCocoさんとの出会いからです。

色褪せない思い出

普子さんとCocoさん

SNSで繋がったCocoさん。

彼女は16歳で留学した後、ニュージーランドを始め海外を拠点に生活し、2019年にはラグビーワールドカップの帯同リエゾンとなるなどワールドワイドに活躍する日本人女性です。

そんな彼女と、ひょんなことから浴衣の話題となり……

彼女が子どもの時にお祖母様が縫ってくれた浴衣が、ご実家にしまわれたままだということをお聞きしました。

Cocoさん子ども時代

Cocoさん子ども時代

Cocoさんは、実は台北でも仕事先の海外でも、浴衣を着たいお気持ちがあるとのことでしたので、早速日本への一時帰国の際に、浴衣を台湾に持ち帰っていただきました。

肩上げ、腰上げを解いて大人サイズになった浴衣。30年ぶりに袖を通す 台北京都和服館にて

こちらの浴衣、なんと彼女が大人になっても着れるようにと、肩上げや腰上げをして縫われており、すでに数年前に糸が解かれ、今の彼女が着れるようにお直しがされていたのです。

一人で着れるよう中に結べる紐まで付いていて、今の彼女には、裄が少しだけ短めでしたが、快活な印象そのものと相まって、唯一無二のまさに「お誂え」

鮮やかなブルーの浴衣は退色もなく大切に保管されており、約30年の時の流れを感じさせることなく、今の彼女に似合いすぎていて眩しいほど。

お祖母様が数年前に他界されたため形見となってしまった浴衣からは、お祖母様の愛情が手に取るように感じられ、とてもとても素敵でした。

これからはたびたび袖を通してほしいですね。

更年期に見られる鬱

実はCocoさんとは数年前にお会いできるタイミングがあったのですが、私がチャンスを逃し、今回あらためてお声をかけさせていただきました。

というのも、閉経前後の10年間という長期間に見られる心身の変化や不調のなかに「無気力になる」「人に会いたくなくなる」などの鬱症状が私にも一時あったから。

コンクリートの壁の前で

約束をしても、当日どうにも身体が重く、起きたくなかったり、気分が乗らずに、どう断ろうかと悩んだり、また約束を反故にする自分を責めて苦しくなったり……

ごく親しい人には状態を理解してもらおうと、更年期には起こる症状だと話しても、やはり約束をしないことのほうが簡単で、ちょうどコロナ禍も重なったために、引きこもりがちになりました。

「きもの好き」「きもので出かける」ことを中心に、着始めた頃から発信してきましたから、その作り上げた自分でいられないことにも憤りを感じる日もありました。

でも「無理をしない」と決めて(無理もできませんでしたし)、「更年期」だからと開きなおると、きものをしょっちゅう着ていなくても、きものが好きなことには変わりないし、むしろ意地になって頑張っていたことにも気づけたのです。

奥州小紋を着て、レンガの前にて。

今フラットな感覚で、きものを洋服と同じように「着るもの」とごく自然に捉えられていることは、更年期の恩恵かもしれません。

ライフスタイルに合わせて、心地よくきものを取り入れることに、幸せを感じています。

布に包まれる安心感

鏡越しの二人

親子ほど歳の離れた太陽のようなパワフルガールと私を繋いでくれた、お祖母様の浴衣。

時を超え、世代を超えて共通していたのは、日本での浴衣の思い出と祖母から受けた愛情でした。

Cocoさんの浴衣についた縫われた紐を見て、私は自分の祖母を想い出し、涙腺が緩むのを感じました。

祖母を想うと、小さい頃の、まだ人と比べることなく、無邪気で無敵で全肯定で、愛される存在だった自分を、思い出す感覚が呼び起こされます。

普子さんとねこ

それはきものを纏う時の、洋服にはない護られる感覚や、安心感に包まれる感覚に似ていて……

ああ、だからきものが好きなのだと実感しました。

私の場合少なからず、きものを纏う時、郷愁であったり、小さい自分そのものを愛する感覚を無意識のうちに呼び起こしていたのだと思います。

新緑の中で。

そんなことを実感したさなか、この夏初めて、顔の見える和裁士さんに仕立てていただいた浴衣が届きました。

これもまたSNSでのご縁。花輪直弥さんとは、お互いに長年フォローをし合っていましたが、お会いしたことはなく、今回突然依頼したのにもかかわらず、快くお引き受けくださったのです。

蜘蛛絞りのゆかた01
蜘蛛絞りのゆかた02

呉服屋さんで注文すると縫ってくださるかたのお顔が見えないことが多い昨今ですが、お顔が見えることによって、仕立て上がってきた時に、特別感が増すのですね。

縫い手の温もりに感謝して纏う浴衣は、優しく私を包みこんでくれました。

縫い手の温もりに感謝して纏う浴衣

暑い台北では、まだまだ浴衣の季節。 

日本ではそろそろ浴衣をしまう準備をしている頃でしょうか。

プレタも反物も、もしかしたら今がお買い得なのかもしれないですね。ゆっくり仕立てていただいて、来年の夏には、幼い頃を思い出しつつ、ぜひ浴衣を身に纏ってほしいと思います。

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