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知念冬馬氏トークショー in 銀座店 「ものづくりの極意」イベントレポート

知念冬馬氏トークショー in 銀座店 「ものづくりの極意」イベントレポート

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沖縄唯一の染めものである紅型(琉球びんがた)。いつかはほしいお品として、目にする度に心躍らせていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。今回は、京都きもの市場 銀座店で開催された、下儀保知念家十代目・知念冬馬氏のトークショーの模様をお届けします。

2020.04.24

イベントレポート

知念冬馬氏トークショーin京都店 沖縄の歴史から紐とく琉球紅型について

レポーター
手弱女 安里
(たおやめ あんり)

手弱女 安里(たおやめ あんり

職人の手技に恋して十数年。洋の東西を問わず、逸品との出会いを求めて、気の向くまま、心のままに、美術館、展示会、劇場、工房等を訪問させていただいております。着物美人を目指して日々、奮闘中。

琉球びんがたがお出迎え

銀座店店内01

銀座店の入り口

銀座店店内02

ブルーと紫に見惚れる作品

銀座店に到着すると……

いきなり目に飛び込んでくる、色鮮やかな琉球びんがたの反物の数々

燦燦と降り注ぐ沖縄の日差しに映えるであろう鮮やかなブルーや黄色の配色、そして大胆な構図に目が釘付けになります。

目が釘付けになります。

思えば、私が知念冬馬さんの作品を初めて目にしたのも、京都きもの市場 銀座店でのことでした。

ちょうど冬馬さんの、第68回 日本伝統工芸展(令和3年度)での日本工芸会新人賞受賞が決まった頃です。

琉球紅型着物『朧型・島唐辛子』

『朧型・島唐辛子』

第68回日本伝統工芸展工芸会受賞作品

柄アップ

こちらがその受賞作品。

島唐辛子がモチーフになるとは……ユニークですね!

素敵な帯を着用されている紅型愛好家の方

この日の銀座店は、次代の琉球びんがたを担う若きプリンス・知念冬馬さんがご登場とあって、紅型愛好家の方で大変な賑わい

もちろん会場には、知念紅型研究所の作品を着用されていらっしゃる方もチラホラ。

また染め上がったばかりという冬馬さん作のこちらの帯、ピンクの鮮やかな配色も目を惹きますが、ぜひその白生地の地模様にもご注目を。

なんと、クジラとジンベイザメが織り込まれています!

地紋にクジラとジンベイザメ

会場をぐるりと拝見するだけで気持ちが盛り上がってきたところに、いよいよ冬馬さんがご登場です!

銀座店での特別展示

2回目となる銀座店での特別展示。進化し続ける冬馬さんですから、直近で制作した作品を中心に並べられています。

紅型や知念家の歴史については、銀座店の菅野店長から資料が配布されてスタート。

第2回目の展示会

かつての琉球王国お抱えの紅型三宗家、そのひとつであった知念家の流れをくむ家に生まれ、17歳より祖父である故・知念貞男氏の下、紅型ひと筋にこの道を進んでおられる冬馬さん。

10代後半から京都や大阪、イタリア・ミラノでグラフィックデザインを学んで来られた素地をもとに家業に入られ、22歳で下儀保知念家十代目(びんがた七代目)当主となられました。

昨年2022年は沖縄本土返還50周年ということもあり、あちこちに引っ張りだこ、怒涛の日々だったそうです。

知念冬馬さん

動画で工程を説明してくださる冬馬さん。

「みなさん、型を掘る時の下敷きに使う『ルクジュー』は何からできているかご存じですか?」

との問いには……

なんと、会場の全員(!)が手を挙げるという琉球愛あふれる光景も見られましたよ。

ルクジュー

道具類の見本

ちなみに「ルクジュー」は、島豆腐を3か月かけて乾燥させたもの

漢字では「六十」や「六条」と表記されるそうなのですが、ルクジューを2枚重ねると「百二十」の意味に通じ、冬馬さんの紅型のモチーフでもある『やまもも』(モモ=百)と同様に長寿の縁起物とされていたそうです。

やまもも

冬馬さんの紅型のモチーフでもある『やまもも』

王族の衣装から、着物という和装へ

「かつて琉球の王族や士族の衣装として作られていた紅型が、現在の着物という和装に落とし込まれ広く知られるようになるまでには、挑戦と革新があった」

と語る冬馬さん。

そのなかのひとつが、祖父であり師匠でもある故・知念貞男氏が新たに取り入れた「蒸し」の工程

もともと王族のための衣装として着用されていた際には、帯を結ぶという行為が発生せず擦れることがなかったため、紅型=色落ちするもの、とおおらかに捉えられていたそう。

鮮やかな色彩と大胆な構図

ですが、用途が変われば求められることも変わるもの……

着物という用途に変わったことで「色を定着させる」必要が生じ、それまでの制作過程にはなかった「蒸し」の工程が加わることになったとか。

当初は他の先生方から「蒸したら紅型ではない」と言われ、知念貞男氏の作品は展示会から外されたという実話も教えてくださいました。

「今、着たい」と思えるものを

若くして知念紅型研究所の当主となった冬馬さん。

伝統工芸だから、紅型三宗家だから、と気負うことなく、冬馬さんだからこそのものづくりを楽しんでいらっしゃるご様子です。

例えば配色。

「伝統を守ろう守ろうとしてものづくりをすると良いものができないし進歩がない。『残そう』とするのではなく、『今、着たい』と思えるものを作りたい

貞男氏から受けついだ配色を大きく変えるのではなく、

「今年の紫はこうしてみよう」
「地色や隈取り(くまどり)を変えてみよう」

など、今、目の前にいるお客様のニーズに合わせて1滴、2滴ずつ繊細に変化を加えられているそう。

例えば、こちらは配色違いの『花火菊』。

『花火菊』02
『花火菊』01

同じ柄でも、少しの色味の変化によってその印象はがらりと変わっていますね。

守るべきものを守った上での自由な発想と独自の感性が、冬馬さんの作品に新しい息吹を吹き込んでいると、強く感じました。

知念紅型研究所では古典柄から新型まで多数の型紙を揃えていらっしゃいますが、冬馬さんもデザインと型彫りから制作を始めます。

なかでも一番人気が『ゴールデンシャワー』。受注数が多いため、新しい型紙でも5年ももたない……という売れっ子です。

『ゴールデンシャワー』の反物

『ゴールデンシャワー』

かくゆう私も、知念紅型研究所のインスタグラムを見た時、真っ先に「ほしい!」と思ったのが『ゴールデンシャワー』の着尺でした。

それはこちらの配色とは全く異なり、ブルー濃淡の最高に爽やかな作品で、一見しただけでは同じ型だとは気が付かないほど。まさに、配色マジックのなせる技ですね!

「派手かな」と思うくらいのものを

展示会作品01

紅型ならではの鮮やかな色彩と大胆な構図。「素敵、でも私には派手だわ」と躊躇される方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな方に、冬馬さんからのアドバイスです。

「一見派手と思われる配色であったとしても、実際に帯として締めると2トーン、3トーン落ち着くものです。

締める前に『派手かな』というくらいでないと、締めた時には落ち着いてしまう。ぜひ『派手かな』と思うくらいのものを手に取ってみてください

展示会作品02

2022.05.18

よみもの

早く締めたい!紅型の名古屋帯 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.52

小千谷紬とのコラボレーション

トークショー後半には、今回の特別展のために制作された銀座店オリジナル作品のご紹介も。

『月桃』

『月桃』

『椿づくし』

『椿づくし』

最高級の小千谷紬地を用いて染め上げられた帯地も。

『琉球アセビ』

『琉球アセビ』

『やまもも』

『やまもも』

ハリがあり、かつ肌にしっとりとなじむ素材の感触、そして上質な生地だからこそ成しえた染め色の美しさ。

単衣の時期にも活躍すること間違いなしの美しいお品ばかりです。

『帆船文様』

『帆船文様』

『島唐辛子』

『島唐辛子』

どの作品も一点もの。

作品が放つ絶対的なオーラを感じたいと思われました方は、ぜひ京都きもの市場 銀座店までお問い合わせくださいませ。

紅型のこれからを見据えて

紅型を広く知っていただくために、着物以外のものづくりにも積極的に取り組んでいらっしゃる冬馬さん。

そのひとつが、イタリアのチョコレート『MAGLIO』のパッケージデザイン。

『MAGLIO』

さとうきびが描かれたデザインは……まさにイタリアと沖縄の融合、”ちゃんぷるー”文化ですね!

将来の夢

デザインに制作、工房の若手職人の育成に指揮監督、インスタグラムでの発信……

一日24時間では全く足りないであろうフル稼働の冬馬さんですが、今まさに挑戦していること、それは長板の両面紅型

冬馬さんの将来の夢

「実は、色差しの途中で東京に来ています!」

両面染めの紅型、いったいどんな作品に仕上がるのでしょうか。想像するだけでワクワクしますね。

最後に冬馬さんに将来の夢をお伺いしました。それは……

紅型工房が子供たちの就職先のひとつになること

「そのためには、紅型を取り巻く環境の基盤強化が必要だと感じています」

親しみやすい優しい表情の内に秘めた強い覚悟と意思。作品の独創性や多様性、ひたむきで実直な仕事に対する誠意、それに経営者としての資質も兼ね備えた琉球びんがたのプリンス。多くの方の心を捉えて離さない理由が分かったように感じました。

さあ、素敵な作品をたくさん見てエネルギーチャージしたところで、私自身も冬馬さんの着物を誂えることを目標に、明日からも精進してまいります……!

冬馬さん、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!

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