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端午の節句に菖蒲尽くし 「#京都ガチ勢、大西里枝さん家の一年」vol.5

端午の節句に菖蒲尽くし 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.5

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扇子製造卸を営む大西常商店の4代目、大西里枝さん。家業に新風を吹き込む若き女将がつぶやく、ガチ勢な京都暮らしの本音炸裂ツイートが、いま注目を集めています。2023年社長となる彼女が母から受け継いでいく「大西さん家の季節行事」に密着する一年。

2023.04.17

よみもの

桜花祭で織姫 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.4

「菖蒲打ち」で、魔とストレスを祓え!

道行く人たちが、振り返る。

その視線の先には、十数人が菖蒲片手に集う光景。

菖蒲打ち

これぞ、“大西里枝 扇子屋若女将”Twitterがバズった話題の行事「菖蒲打ち」

毎年、京都で人気のミニツアーを企画運営する『まいまい京都』のイベントとして行っているが、今年は店舗改装に伴い、実施を見送った。そのため、当コラム撮影用にと里枝さんの友人知人が大西常商店へ駆けつけてくださった。

「Twitter見て予習してきました!」という声が聞こえる中、まずは全員で里枝さん渾身の手本を拝見する。

みなの失笑。千切れる菖蒲。瞬時に、空気が和む。

いざ、本番。

「いろんなストレスを頭に思い浮かべながら、思いっきり打ちつけてください!」

という里枝さんの声がけで、一斉スタート!

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まずは、第一陣の面々と

大人たちのガチな様子に、キッズはドン引き。

「うおー!!!」だの「いてーーー」だの、さまざまな雄叫びとともに、菖蒲を叩きつける。

菖蒲打ちをみなで

続く第二陣は、呉服関係の方々

西陣織の職人カナさんは、

「こんな行事があるって知りませんでした。自分ではストレスを抱えてない方だと思ってたけど、地面に次々と顔が浮かんできて……過去イチ、腕を振りました(笑)」

と、朗らかな笑顔に。

菖蒲打ち第三陣

第三陣はメンズ二人が力強く

近くの問屋街から着物で参加されたカズヒロさんは、

「最初、菖蒲打ちって聞いたときは、菖蒲を頭に巻いて畳に打ちつけるのか?と思ってました(笑)。実際にやってみると、全力で振るだけでスッキリするし、魔を祓うというのも解ります」

と、得心顔。

ほがらかな笑顔

そもそもこの「菖蒲打ち」。

玄関で菖蒲を打ち、その匂いで外から入ってくる魔を祓うというもの。

里枝さん曰く、「一番びちゃびちゃになった人が勝ちというのが大西家ルールです」。店先には、まさに薫風が吹き抜けていた。

男の子の節句

気づけば、出入りの大工さん(大西常商店は現在大規模改装中。お披露目は7月を予定)が、本来業務でもないのに門掃きをしてくれていた。

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彼は、里枝さんのTwitterにも度々登場。彼女の心を鷲掴みにしている職人さんだ。

ちなみに、撮影準備をしているとき、表に停めてある自転車を見て、「中に入れますか?2~3台なら入るんで言うてください」と気遣ってくださり、スタッフの心も鷲掴みにされた。

力強くたくましく、と願い込めて

そもそも端午の節句とは

大西家に伝わる兜

そもそも端午の節句とは、男の子の健やかな成長と健康を願い、祝う日

古代中国の陰陽道では奇数を「陽」と考え、奇数が重なる日は「強い陰を成す節目の日」として恐れたことから、身を清めてお供えをした。

年に5回の節句=五節句は日本において「吉祥の日」とされ、別名「菖蒲(=尚武)の節句」とも言われる端午の節句が「男の子のお祭り」として親しまれるようになった

掛軸

お床のお軸も勇ましく

鯉のぼりを揚げ、五月人形を飾る端午の節句。

「孫(里枝さんの息子)が生まれて、久しぶりに蔵から出してきました」

という母・優子さんの言葉通り、代々大西家に伝わる武者人形や兜飾りはどれも年代物。兜には、出世を願い、身を守るという意味が込められている。

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「金太郎に桃太郎? これは誰やろ?」

と、右に飾られた人形を見ながら首を傾げる里枝さんに、母・優子さんは、「んー、あー、……武将」と素っ気ない返答。

「それは見たら判るけど!」と思わず里枝さんのツッコミが入る。いつもの応酬だ。

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武将の掛け軸前に供えられた粽(ちまき)と柏餅。物心つく頃から暦と結びついている和菓子の代表格だろう。

元は茅(ちがや)の葉で巻かれていたため「茅巻き」と呼ばれた粽は、現在は笹の葉で包まれている。祇園祭の名物でもあるお守りの粽と違って、食べられる粽だ。

また柏餅を包んだ柏は、新芽が育つまで古い葉が落ちないことから子孫繁栄に繋がる縁起の良い植物で、どちらも無病息災を祈って食べる行事菓子。

甘いものが得意ではなかったという優子さん。嫁いできて驚いたことのひとつが「京都ってこんなに和菓子を食べるのか!」だった。それくらい、京都の行事と和菓子は切っても切り離せない。

柏餅

一般的には白い餅だが、大西家御用達の『たから餅老舗』ではカラフルな柏餅が売られている

無理なく楽しく風習を継ぐ心意気

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中国では端午の節句に、菖蒲を屋根に吊るして魔除けにしたり刻んでお酒に混ぜて飲んだりしていたといわれている。それが日本に伝わって、室町時代には菖蒲湯・菖蒲酒・菖蒲刀といった習慣が根付いた。

取材当日、里枝さんは蓬(ヨモギ)摘みのために朝から桂川へ。事前に、京都市河川管理局桂川出張所に問い合わせ済みというから、抜かりなし。

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川べりは犬の散歩道。ゆえに、「食べるのはちょっと…」と苦笑する里枝さん

川べりで立派に育った香りの強い蓬と、華道の先生から教えてもらって贔屓にしているという錦市場の佐竹生花店で調達した菖蒲を玄関に吊るして、節句を迎える準備は万端だ。

町中で古くから受け継がれてきた風景を目にするだけで、季節の行事を身近に感じ、風習や伝統について考えるきっかけになる。自分たちのためだけではない、町の子どもたちのため、引いては京文化のため、そういった役割を担ってくれている彼女のような存在は本当に得難い。

風習を今に

菖蒲打ちの後「菖蒲湯にしてくださいね~」と菖蒲を配り、おもてなしは一段落。

参加者の面々を送り出し、一息つく。

菖蒲酒
菖蒲酒を呑む

緑眩しい坪庭に面した濡れ縁に腰掛け、仕込んでおいた菖蒲酒の味見といこうではないか。

盃に注がれた酒からふわりと立ち昇った独特の香りが鼻先へと届く。「あ〜、これこれ」と、一年ぶりの風味に酔いしれる里枝さん。

さて、気になるそのお味は…?

読者諸君には、ぜひ来年の端午の節句に実地でお試しいただきたい。

菖蒲を刻む

菖蒲酒に使うのは、根っこの部分だけ

酒を注ぐ

刻んだ菖蒲に好みの酒を注ぐ

この日の里枝さんの着物は、初夏らしい淡いグリーンの白大島。

こどもの日にちなんで童と源氏香の柄の名古屋帯を合わせ、帯締め・帯揚げも緑系で爽やかにまとめたコーディネートだ。新緑の季節にぴったりな装いに、里枝さんの喜色が映える。

装いが分かるカット

次回も、行事菓子が登場!

上半期の締め括りに欠かせない「夏越の祓」とは?

撮影/スタジオヒサフジ

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