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ニューヨークの着物、東京の着物。 文筆家・岡田育さん(インタビュー前編)「きもの、着てみませんか?」 vol.5-2

ニューヨークの着物、東京の着物。 文筆家・岡田育さん(インタビュー前編)「きもの、着てみませんか?」 vol.5-2

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数々の著作を執筆し女性の共感を呼んでいる岡田育さん。薬真寺 香さんによるスタイリング編では、東京タワーに春を連れてきたような着物姿をみせてくださいました。今回は、ニューヨークで生活しながら着物を楽しむスタイルについてお話を伺います。

2023.03.09

よみもの

軽やかに突き抜ける春カラー feat. 岡田育「きもの、着てみませんか?」 vol.5-1

前回、東京タワーでの軽やかな着物姿を披露してくださった、文筆家・岡田育さん。

今回は着物での撮影を終えた岡田さんに、着物初心者から愛好家になるまでの道のり、そして自分流の着物の楽しみ方について伺います。

文筆家・岡田育さんとスタイリスト薬真寺さん

東京滞在中の岡田育さんに、着物スタイリストの薬真寺 香さんがインタビュー

NYで着物を着るようになるまで

文筆家・岡田育さんとスタイリスト薬真寺さん

薬真寺香(以下、薬真寺):ご自身で着物を着るようになったのはここ数年ということですが、きっかけは何だったのでしょうか?

岡田育さん(以下、岡田さん):はじめて自分で着物を買ったのは、40歳の春でした。

『40歳までにコレをやめる』(サンマーク出版)という本を出したように、ちょうどいろいろなことをやめていたタイミングだったんですが、代わりに何か新たなこともはじめてみようと思い一念発起しました。

まずは東京で、何にでも合わせやすそうなデニムの無地の単衣を買いました。

薬真寺:最初はデニム着物からでしたか。

岡田さん:そうなんです。一式揃えたのは良かったんですが、春から夏の間は結局着られずじまいで、ニューヨークに戻ってから着付け教室を探しました。

知人のツテで、ちょうどニューヨークで着付け教室をはじめた方を紹介してもらい、最初の生徒になりました。もちろん着付けのお免状を持っていらっしゃる方なんですが、ニューヨークでバーレスクや着物パフォーマンスもされていて。

リサイクル着物を衣裳にリメイクしたり、良い意味でいろいろな決まりごとに縛られていない、いわゆる”着付けの先生”のイメージとは違う方でしたね。

春の付下げコーデ・文筆家岡田育さん

薬真寺:魅力的な先生ですね。レッスンも楽しそう!

岡田さん:ニューヨークは道が悪いので、草履を履いて外を歩くのも難しいのですが、あっけらかんと「ブーツもオシャレよ!」と言われたり。

日本と違って小物を買うにしても不便ですし、私の着付けはどんどんカジュアルに、あるものを活かすスタイルになっていって……ニューヨーク特化型ですね。なので、東京で着物をお召しになっている方々の白足袋姿は、光り輝いて見えます!

ひと通り着付けられるようになってからは、自分で学んでいきました。派手柄の着物を探して柄on柄など、好きに楽しんでいます。

薬真寺:教えを受けた先生の個性と街の特性が合わさって、現在の育さんのスタイルが形成されたということですね。ニューヨークで着物を着ていると、周りの反応はどうですか?

岡田さん:多種多様な人々が集まる大都市なので、それぞれの国の民族衣装というのは関心を持たれますね。「ジャパンレストランのウェイトレスと全然ちがうね」とか「ドレスみたいに着ていいんだ」なんて言われました。言われてみれば普段着としての着物は珍しいのかも。

アフリカンプリントの浴衣を着ていたら、「それは私の生まれ故郷の布地よ!そんなのあるなら私も着たいわ!」と道端で全然知らない黒人の方に話しかけられたり。着物を着てるだけでモテるんです(笑)。

薬真寺:ステキ!

春の付下げコーデ・文筆家岡田育さん

岡田さん:着付け教室の生徒さんもルーツはさまざま、日本人以外の着物姿を見る機会もあります。

恰幅の良い人が着物を着ると、体の丸みにビシッと帯が映えてかっこよかったり、白人の方で淡いブルーのやわらかものに目の色までぴったり合うのがステキだったり、暑い国の方が寒い産地の着物を着ると独特の情緒が匂い立ったり……

日本人じゃないと和装が似合わないなんてことはない。和装でそれぞれの個性が引き立ってとても美しいんですよね。

薬真寺:本当に、そう思います。私は外国の方に着付けをさせていただく機会もあるんですが、肌の色、瞳の色によって同じ着物でも異なって見えることがあって。

おそらく、染めや織りには幾重にも色が重ねられているから、着る方によって異なる色が顔を覗かせるのかなと。つくづく着物って奥深いなと感じます。

岡田育流、ネットで着物を買うコツ

春の付下げコーデ・文筆家岡田育さん

薬真寺:着物や帯はネットで購入されることが多いということですが、見極めのコツや、ご自身のなかでの流儀などはあったりしますか?

岡田さん:ただ見惚れているとあっという間に時間が溶けるので、まず自分に合うサイズで絞り込んだり、どこどこのサイトを巡回する、などと決めておいて、セールの時に選抜したりして購入しています。

ハマりたての頃はあまりにも目移りしすぎて、「ひとつのジャンルでひとつ買うまで次に行かない!」と決めて検索を絞ったりもしました。

薬真寺:江戸小紋はクリア、次はお召しだ!といったことですよね。ゲーム感覚で制覇していくように着物を選んでいくやり方はすごくユニークですね。

岡田さん:「格」の話とか、一覧表だけ見ててもわからないじゃないですか。カテゴリごとにお気に入りを一着ずつ体感してどんなものかわかったら、自分が好きなスタイルも見つけやすいのではないかと思っていて。

例えば「私は付下げより格上のものはなかなか着ないな」と自己認識すると、「留袖より先に色無地を攻略してみよう」と判断できたり。

春の付下げコーデ・文筆家岡田育さん

薬真寺:失敗しちゃった、なんてこともあったりしましたか?

岡田さん:ポリエステルで家で洗えるとあったのに、実際に洗ったらしぼしぼになって、実はシルクのちりめんだったのでは?というものがありました。膨れ織りではないのに、ほこほこしてしまって。でも長羽織と合わせて変わり織りのもののように見えないかな?とか、どうせもともと新品ではないのだし、ごまかしながら着ちゃいますよね。

薬真寺:ハプニングを活かす姿勢、いいですね!

岡田さん:あとは、柄物が好きなので、似たようなものをまた買っちゃった……というのはしょっちゅうあります。

薬真寺:それは私も!きっと着物好きあるあるですね(笑)。

データベース化しつつ、トライ&エラー

春の付下げコーデ・文筆家岡田育さん

薬真寺:育さんのSNSでは、着物姿の写真が目を惹きますね。

岡田さん:あんなに着付けが大変だったのに、脱ぎたくない!と思って自撮りしてみたのが最初ですね。今でこそもう少しスムーズに着られますが、最初は着付けに3時間もかかるくらい苦労して着ていたので。

写真を撮るのは、着崩れ度合いを確認して記録に残すためという意味もあるんです。私は正統派の着物教育は受けていないですし、着付け教室に通い続けて常に先生にチェックされているわけでもないので、自分で試す→チェックする→振り返る、というトライ&エラーで改善点を次に活かそうとしています。

春の付下げコーデ・文筆家岡田育さん

岡田さん:撮った写真は、メモアプリにコーディネートの記録として残しています。買ったときに書かれていた商品説明を一緒に残しておいたり、情報の蓄積ですね。データベース化しておくと「この帯はこの着物に合わせづらいな」など、ネットで古着を買うときにも便利なんです。

薬真寺:お店の商品管理レベルに徹底されている……!もともとそういった考えを生活に取り入れることがお好きなんですか?

岡田さん:こんなことするのは本当にはじめてで。洋服でもしたことはなかったです。着物は形が同じだから整理の苦手な私でも管理しやすいのかな?着物で”自分が考えやすい仕組み”を作ってみてはじめて、洋服が好きで着回しが得意な人たちが何をやっているのかわかりました。

着物を着はじめたら、和柄をビシッと当てたり、作家ものの作品が一瞬でわかるようになるのかと思っていたんですが、そのあたりの解像度は粗いままで。どうしたら長時間ラクに綺麗に着られるのか?という方に一番オタク的興味が向いています。

着物はいろいろな便利アイテムもあるので、クラウドファンディング感覚で買って試してみています。工夫の余地がたくさんあるのがおもしろいんです。

薬真寺:着付けの便利アイテムは次々にあらわれますよね。オタク心を全開にして楽しむには申し分のない沼が広がっている(笑)。私自身は昔ながらのやり方が好きなのであまり使わないのですが、工夫の仕方はものすごく勉強になります。好みや性格に合わせて楽しめると良いですよね。

自分のスタイルで着物と向き合ばいい

薬真寺:今日の撮影は、”東京の着物”というのがテーマのひとつでもありました。ニューヨークと東京、着物に関して違いを感じる部分はありますか?

岡田さん:やはり東京はニューヨークよりも着物を着ている方が多いので、とにかくたくさん見ちゃいますね。

普段から着物を着ている人が「何をしていないか」はすごく見ます。

春の付下げコーデ・文筆家岡田育さん

岡田さん:冬は寒いからと思って着物用にダウンジャケットを買ったりもしたんですが、東京で着ている人はなかなか見ない。着物は何層にもなって温かいから、羽織に首巻きロンググローブでいけるんだな、とか。

教科書的には”肩掛けバッグはご法度”って書いてあるけれど、かけている人はいっぱいいたり。

”肌が見えるのははしたない”と言われるけど、活動的な方々のチラリズムまでふまえた着姿を見ると、それはそれでセクシーだなと感じたり。

教科書通りではない着こなし、これでいいのよっていうさじ加減は、街中で着こなしている先輩の姿から学ばせてもらっています。

薬真寺:なんだかロールプレイングゲームの話を聞いているようです!育さんが旅人で、旅をしながらいろいろな人と話したり、アイテムを集めたり(笑)。

岡田さん:自分で着るようになる前は、着物というと完璧に着付けていらっしゃる方のイメージしか持っていなくて、そのレベルに達するまで街を歩いてはいけないように感じていました。ズルできる着方やラクな襦袢があるのは入門してから知りましたし……尻込みしたままじゃなくてよかったなと本当に思います。

薬真寺:そうですね。着て出かけてみると意外と怖くない、みたいな感じはありますよね。

春の付下げコーデ・文筆家岡田育さん

岡田さん:ひと通り自分でできるようになってからは、お店屋さんのおかみさんは仕事着だから裄が短いんだなとか、着物だって洋服と同じように人によって着こなし方が違う、ということに目が行きます。

教科書的なことも、目で見て学ぶことも、取捨選択をしていく必要がある。もはや現代は江戸や昭和の街並みではないし、ましてやニューヨークでは文化も違う。自分に合うスタイルを見つけていきたいですよね。

薬真寺:着物との付き合い方は人の数だけあると思っていましたが、育さんのエピソードはマニアックだけど身につまされるし本当におもしろいです。これから着物をはじめたいと思っている方々の背中をどーんと押してくれると思います。育さん自身の着物旅もまだまだ続きそうで、そちらも楽しみです!

インタビュー後編もお楽しみに

次回は、インタビュー後編を3月末に公開予定。

ご著書の内容にも触れながら、育さんの着物沼をさらに深く伺ってまいります!どうぞお楽しみに。

※半衿、帯締め、帯揚げ:スタイリスト私物

構成・文/青葉鈴 greenery_aoba
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

撮影協力
「東京タワーで、あいましょう。」計画
https://tta-keikaku.jp/

特別協力
株式会社TOKYO TOWER
https://www.tokyotower.co.jp/

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