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佐竹美都子さんトークショー「オリンピックと西陣織」 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.5

佐竹美都子さんトークショー「オリンピックと西陣織」 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.5

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一昨年に東京・丸の内KITTEにおいて開催された「2021 日本最大級きもの展示会」のお楽しみイベントから、佐竹美都子さんによるトークショーをレポート!今月行われる、京都きもの市場 銀座店8周年記念特別催事での特集に先駆けて、美都子さんの沸き立つエネルギーの源泉をご紹介いたします。

2017.12.20

まなぶ

かはひらこ

「着物で女性にエールを送りたい」

アテネオリンピック出場後、家業の西陣織製造業へ、異色の経歴を持つ(株)西陣坐佐織の佐竹美都子さん。

一度話せば、エネルギッシュで快活な人柄と着物に対する深い愛情に誰しもが魅了されます。

佐竹美都子さん、フルムーンに蝶がデザインされた帯1

2013年にはオリジナルブランド『かはひらこ』を立ち上げ。

「私の作った着物や帯が、昔からの友人のように、人生の大切な節目に寄り添ってくれるものでありたい」

という思いを込めて作り出される『かはひらこ』の作品。女性の心を捉えた可愛らしくキュンとするデザインや絶妙な色合わせが特徴的です。

展示作品1
展示作品2

立ち上げから10年、今や全国の展示会から引っ張りだこの『かはひらこ』。

3年後までスケジュールが決まっている美都子さんは、まるで人気女優のような売れっ子ぶり。直近では、KOSE『コスメデコルテ』のサイトでもその活動が紹介されています。

「着物で女性にエールを送りたい」と語る美都子さんの言葉に応えるかのごとく、日本国中には美都子さんの作品と人柄に魅了された「かはひらこたち」が増殖中、かくゆう私もその一人です。

美都子さんの沸き立つエネルギーの源泉と『かはひらこ』に込めた思い、現代女性へのメッセージなど、その魅力をたっぷりとご紹介させていただきます。

レポータ- / 手弱女 安里(たおやめ あんり)

職人の手技に恋して十数年。洋の東西を問わず、逸品との出会いを求めて、気の向くまま、心のままに、美術館、展示会、劇場、工房等を訪問させていただいております。
着物美人を目指して日々、奮闘中。

手弱女 安里(たおやめ あんり)

『かはひらこ』に込めた想い

フルムーンの蝶の帯

この日の美都子さんのお召し物は…

真綿の渦巻き柄の単衣着物に、フルムーンに蝶々が描かれた黒の帯。現代的でシックな装いです。

佐竹美都子さん、フルムーンに蝶がデザインされた帯2

「蝶」といえば美都子さんのオリジナルブランド『かはひらこ』のメインモチーフ。

『かはひらこ』とは大和言葉で「蝶」を意味します。

その色彩の美しさから華やかなイメージのある蝶ですが、武将の家紋に用いられるように、「再生」「永遠の命」という意味もあらわしています。

佐竹美都子さん、フルムーンに蝶がデザインされた帯3

ヒマラヤ山脈を一匹で超えるブ-タンシボリアゲハをイメージして製作された、フルムーンの蝶々の帯。文様に込められた意味を知ることが、作り手の作品に対する思いを受けとめるきっかけとなり、作品への理解と愛情が増していくように感じました。

か弱いように見えて、古代より厳しい環境を果敢に生き抜いた生命力を持っている蝶を、現在の日本女性に置き換えて、蝶のようにたくましく現代の過酷な社会を生き抜いてほしい、「きもの」という羽根をもって羽ばたいてほしい。そして、蝶の持つ生命力で着物の世界を再生したい――

そんな思いを込めて、2013年『かはひらこ』ブランドが立ち上がりました。

京都西陣の織元に生まれて

3兄弟の末っ子として、京都西陣の織元に生まれ、着物を製造する環境に慣れ親しんで育った美都子さん。けれども、幼少期は「全く着物に関心がなかった」とか。

成人式も、お母様に「今日は何着るん?」と聞いたほどで、「着てあげる」感覚だったそうです。

そんな美都子さんが自らの意思で家業の西陣織製造業に携わることを決めたのは今から16年前の2005年。アテネオリンピックにセーリング日本代表として出場した翌年です。

西陣織の織り方について説明する美都子さん

西陣織の織り方について説明する美都子さん

歴史のある業界で、長く続く独特な慣習もあり、男性を中心とした西陣織の世界。帯づくりに携わる女性はごくわずか。

いくら織元の跡取りとは言え、業界に受け入れてもらうまでには相当の苦労と時間を要したこと、想像にかたくありません。

「人生に何ひとつ無駄はない」とまっすぐに語る美都子さん。

話した相手の心を捉えて離さない、そのバイタリティーの源は何なのかしら。その答えを探るべく、美都子さんのルーツをお伺いしました。

家業の歴史

山中温泉の機場、糸作りの様子
出典:かはひらこ・西陣坐佐織HP

大正2年、石川県加賀市にて漆業として創業した佐竹家のご先祖さま。その後、戦争での休業、石川県への疎開を経て、昭和24年織物業を開始、京都で佐竹孝機業店をはじめられました。

「西陣織のメーカーとしては新しい方なので、いろいろなことをやり続けることができた」(美都子さん)

山中温泉の機場
出典:かはひらこ・西陣坐佐織HP

おじいさま、そして美都子さんのお父様でありかつ師匠でもいらっしゃる佐竹司吉(かずよし)さんの、「西陣織の枠にとらわれずに、いろいろな工芸と融合したものづくりをしたい」という想いから、今から約40年前に佐竹孝機業店は、京都にあった機場(はたば)を石川県の山中温泉に移転しました。

山中温泉では、養蚕、糸づくり、草木染による染料作りなど一から手掛け、分業が進んだ一般的な西陣織とは異なったものづくりをするようになったそう。

柿渋染の名古屋帯1 展示作品より
柿渋染の名古屋帯2 展示作品より

2005年から家業に携わるようになった美都子さん。お父様に言われて最初に作った帯は、無地の柿渋染の八寸名古屋帯。ごまかしのきかない作品です。

来る日も来る日も柿渋染を染める日々。美都子さんはその経験から、手作業でしかできない素朴さ、静かで力強い表現を学ばれました。

大海原へ―ヨットとの出会い

西陣織について語る美都子さん

幼少期からお姉さまと一緒に日舞やお茶など数多くのお稽古事をなさっていた美都子さん。

そのなかのひとつである剣道は、元警察官でもある父・司吉さんの得意分野。兄弟揃って、お父様から厳しい指導を受けていたそうです。

そろばんをモチーフにした司吉さんの作品

そろばんをモチーフにした司吉さんの作品

後に一緒に働き始めてからは、お父様のものづくりに対する自由な発想と天賦の才に感銘を受けたという美都子さん。

けれど思春期の美都子さんにとって、自由気まま、一方でとても厳しい司吉さんの指導は耐えられるものではありませんでした。

高校生になった美都子さんは、厳しい父の影響から逃れたい一心でヨットをはじめます。

元来の負けず嫌いで努力家、勝負好きな性分が幸いし、あれよあれよとヨットにのめり込み、数年後には、創設80年を超えるヨット界の中の名門クラブ・同志社大学ヨット部における女子第一号の選手として入部が認められるほどに成長を遂げました。

オリンピアン、そして家業の西陣織へと

2002年、全日本女子選手権で優勝、ナショナルチームへの選抜を経て、2004年、セーリング競技の日本代表としてアテネオリンピックに出場した美都子さん。

オランダ発祥のヨット、元々は輸送や連絡などの実用目的で活用されていましたが、その後、上流階級のレジャーとしてヨーロッパ諸国で広まったスポーツです。その歴史から、特に王室のある国では、ロイヤルヨットクラブでのパーティが多く開催されます。

遠征先の海外でパーティに参加した際、「日本人で、kimono factoryの家に生まれたのに、どうして着物を着ていないの」と言われたことをきっかけに、自分のルーツを意識するようになった美都子さん。

パーティの場で、堂々と自国の文化や歴史について語る外国人選手が多い一方、自分は、日本文化、歴史について何も話せない、と自身のふがいなさを痛感したとか。

オリンピックを終え実家に戻り、「西陣織」という日本を代表する伝統産業に携わる家業の仕事を見た時に、いつもと変わらずただ粛々と機を織っている職人のエネルギー、モノづくりに対する熱い思いに触れ、

「この家のことを、祖父や父がやってきた(やっている)ことを誰かが知っておくべきではないのか」

という気持ちが日に日に強くなったそう。そうなるともう迷いはありません。翌2005年には家業の西陣織製造に従事するようになりました。

現代の女性のための着物づくり

典型的な男性中心の西陣織の世界。帯づくりに携わる女性はごくわずか。まず求められたのは、自分で、自分だけの柄を起こすことでした。

幼少期から、日常的に数えきれないほどの着物や帯を見ていらした美都子さん。

「工芸的、技術的にすごい帯はあるけれど、自分が身に着けたいと思うような、胸がキュンとする、見ているだけでワクワクするような帯がない」と思うように。

だったら自分の締めたい帯を女性目線で作ろう!ということで、1作目として出来上がったのが代表作ともなるレース模様の帯でした。

レースの帯、展示作品

遠目にはレースを貼り付けたかのように見えるこの帯…実はすべて織り技法によって作られています。

なんとも女性の心をくすぐるデザインですよね!

中世ヨーロッパでは牧師の襟や花嫁のベールに使用され、神の前で穢れを落とす「厄除け」の意味合いもあったというレース。

この繊細な模様を、西陣織の技術でリアルに再現した作品にはファンとなる女性が今なお絶えません。立体的に織る方法は、父・司吉さんのアドバイスでした。

織りのきものは華やかに、礼装はお洒落にコーディネートを愉しめそうですね!

文様に込められた意味を知り着る

『かはひらこ』展示風景2

今では「古典柄」と呼ばれる柄も、制作された当時は最先端のもの。柄は願いや祈り、想いを形にしたもので、良いものだけが生き残って受け継がれています。

時にかわいくチャーミング。またある時にはモダンでカッコイイ『かはひらこ』の帯たち。そのなかからいくつかをご紹介してまいります。

椿

国産の「小石丸」を用いて、日本が原産の藪椿を織り出した帯。

「小石丸」(こいしまる)とは日本古来の繭=「古代繭」(こだいまゆ)で作られた絹糸のこと。形は小さくツヤも光沢も良い良質な糸が特徴です。軽くて柔らかい、ツヤのある帯に仕上がっています。

刺繍のような立体感あふれる唐織の技法で織られた、白と赤、黒と赤のコントラストが効いた上品でモダンなデザイン。シンプルな着物に合わせて、そこに一輪の椿があるかのような着姿になること間違いないですね。

お多福

『お多福』の帯

なんとも優しい表情のお多福さん。

目が吊り上がっていない(怒っていない)、鼻ぺちゃ=鼻が高くない(威張っていない)、口が小さい(いらないことを言わない)、は円満の象徴でしょうか。

紬に合わせても素敵ですね。

会場で試着していらしたお客様の着姿も、とても素敵でした。

『お多福』の帯、着用イメージ

着る人と着物と帯、1+1+1=50!

この10年間、年間3,500人以上のお客様にコーディネートをしてきたという美都子さん。

美都子さんの接客を観察すると(失礼!)一人ひとりのお客様にいかに寄り添っているかがわかります。

展示作品3

どんな生活スタイルなのか、何を大切にし、どんな部屋に住んでいるのか、どういう自分になりたいのか――

これらをさりげない会話の中から引き出し、その方のライフスタイルにあった着物と帯を総合的にアドバイスされていらっしゃいます。

「お金・手間・時間がかかることを承知で、着物がある人生を楽しめる人に、『かはひらこ』の着物でエールを送りたい」

と美都子さん。

「着物と帯で1+1=2」ではなくて、「お召しになる方と着物と帯で1+1+1=50!」になっている――

そんな素敵な出会いを演出されている美都子さん。想像するだけでワクワクします。

展示作品5
展示作品4

『かはひらこ』の着物は、「自分のために着る着物」。

そんなスタンスで日々パワー全開の美都子さんは、まさに自家発電の方!全国の「かはひらこたち」に愛される理由、納得です。

呉服業界のハンサムウーマン

かつては街のあちらこちらから機音が聞こえていた西陣ですが、現在は西陣の街に機音が響くことはわずかになってしまいました。

「織元の跡取りであるとともに、西陣の職人さんが長い歴史の中でやってきたことを発信する役割もある」と語る美都子さん。

時間がかかるのは承知の上で、展示ではなく、生きた機を戻し、商品としてのものづくりができるよう、近くの町家で機の組み立てもされていらっしゃいます。

展示作品6
展示作品7

かつてオリンピックでアテネの海上をただひたすら自身と向き合い戦われたように、現在は呉服業界という大海原を果敢に航海する美都子さん。決して凪ばかりではなく、むしろ荒波に立ち向かう瞬間の連続かもしれません。

ぶれない軸を持ち、かつ状況の変化をいち早く読み取る能力を兼ね備え、持ち前のバイタリティーと柔軟な発想で、困難な局面を乗り越えていく。そういう強さを秘めた美都子さん、まさに現代のハンサムウーマンです。

過酷な環境を果敢に生きぬく蝶のように、美しく、またたくましく羽ばたく姿を「かはひらこたち」の一員としてこれからも応援してまいります。

美都子さん、ありがとうございました!

2019.12.24

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かはひらこ主宰・佐竹美都子さんによるトークショーレポート!「オリンピックと西陣織のよもやま話」in二子玉川 華ときもの祭

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