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七草粥と牛玉宝印(ごおうほういん) 「#京都ガチ勢、大西里枝さん家の一年」vol.1

七草粥と牛玉宝印(ごおうほういん) 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.1

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扇子製造卸を営む大西常商店の4代目、大西里枝さん。家業に新風を吹き込む若き女将がつぶやく、ガチ勢な京都暮らしの本音炸裂ツイートが、いま注目を集めている。2023年社長となる彼女が母から受け継いでいく「大西さん家の季節行事」に密着する一年。

まなぶ

【扇子のギモンを解決!】きくちいまがプロに聞くシリーズ

おくどさんで炊く七草粥

作業中も工程の都度、スマホで写真を撮る。

1月7日朝、底冷え厳しい土間の台所では、割烹着姿の里枝さんが母・優子さんに教えを乞いながら七草粥の支度に精を出していた。

作業風景
七草

冷たい水で米を研ぎ、七草を湯がき、米を入れた羽金に水を注ぐ。

「これがふつう、うっとこは軟らかく炊くから水は多めに」と優子さん。「どれくらい?」と娘が訊けば、「もっと、もっと。そんなもんかな」と目分量な指示が返ってくる。これぞ、口伝。

火熾しも口伝

現役のおくどさんの前に陣取り、まずは火を熾すところから。

スギの枯れ葉を新聞紙でくるんで

乾燥したスギの枯れ葉を新聞紙でぎゅっとくるみ、着火剤代わりに。そこに細い枯れ枝を何本か差し入れ火を大きくしていき、薪をくべていく。

そのタイミングも量も、経験則。手際よく進める母の手元を見つめながら、習うより慣れろとばかりに挑む。

鍋底にあたる火

釜の底ではなく端からまんべんなく火が回るよう、薪を置く位置も重要だ。

薪が燃える煙に釜からの湯気が加わる頃、「炊き具合は、音と匂いで確認するんやで」という母の教えに、釜に耳を澄ませる里枝さん。

ぷつぷつと泡が立つ

蓋の隙間からぷつぷつぷつと泡が立ち、中で米が踊っているような音が聴こえる。炊き上がりの前に、水にさらした七草を細かく刻み、準備は万端。

七草を準備
炊き上がり

米粒を指でつまんで火の通りを確認し、そこへ餅を投入する。

粥柱を投入

七草粥や小豆粥に入れる餅のことを「粥柱(かゆばしら)」と言い、新年の季語でもあることを知った。風情ある言葉の奥深さにふれるのも、季節行事ならでは。

餅がとろとろになったところで、主役である七草の登場だ。

七草を混ぜる

青々とした七草を素早く混ぜて、まずは神様へお祀りし、次いで仏様へお供えする。

仏前へ

それもいままでは優子さんの役目だったが、今年は里枝さんが担う。

ささやかだが、大事な日々の習わしやしきたりを、一つひとつ受け継いでいく。伝統はそういう日々の積み重ねから成ると分かってはいても、口で言うほど容易なことではない。

できあがり

軟らかく炊き上がった「おかいさん」に香の物と塩昆布を添えて。

いただきます

家族で食卓を囲んだ後は、一息つく間もなく、出かける準備。これから、里枝さんは清水さんへ御札をもらいに行くという。

男膳・女膳

男膳(左)と女膳(右)。男性はあぐら、女性は正座で食事をするため、男膳より女膳の方が足が高い

御札もらいに清水さんへ

清水さん(音羽山 清水寺)では、元旦から7日まで本堂にて「修正会(しゅうしょうえ)」が行われる。新しい年の五穀豊穣・家内安全・商売繁盛・世界平和を祈願する法会で、その結願日にあたる7日には、無病息災を念じた「牛玉宝印(ごおうほういん)」が授与される。

本来は額に朱印を押すものだが、参拝者は御札として持ち帰ることができるという。部屋の高いところへ掲げて、一年のお守りとするもので、里枝さんのお目当てもこの御札だ。

清水寺にて

さっそく持ち帰った御札に取り換える。今年一年間の無病息災と商売繁盛を祈らずにはいられない。

早速貼りかえる

父・久雄さんは、額に朱印を押してもらっての帰宅。

「やっぱり私も押してもらえばよかったー!!」と悔しがる姿が、Twitterでの印象そのままで微笑ましい。

正月飾り

立派なしめ飾りは、予約必須。一般的には松の内を過ぎたら片づけるものだが、大西家では夏越の祓まで飾ったまま

床の間

床の間も正月のしつらえに。朱塗りの盃台に三つ重ね盃と銚子の屠蘇飾り。7日には日本酒も併せて飾るという

根引松

京都の商家では、門松は「根引松(ねびきのまつ)」が一般的。繁栄と安定を意味し、「神様が家に根づくように」「地に足がついた生活が送れるように」といった願いが込められている。大西家では12月28日に飾りつけを行う

気づけば集まる着物たち

この日の里枝さんの装いは、新春らしい色柄の小紋にはれやかな濃い朱色の絞り帯。

頂きものの帯は手が短く、「こんな帯はじめて!」と慌てる一幕も。いつもとは違った帯結びの方法にあたふたしながらも、帯揚げ・帯締めを同系色でまとめた明るいコーディネートがお似合いだ。

里枝さん

ふと見ると、部屋の片隅に積み上げられたいくつかの着物。聞けば、すべて譲り受けたものだとのこと。思い切って洋服は全部処分し、どんなときでも着物で過ごしている里枝さんの元には、気づけば多くの着物や帯や小物がやってくるという。

淡麗グリーンラベルをこよなく愛し、呑むのが大好き!な彼女。宿酔い(ふつかよい)になったら甘えて洋服を着てしまうという理由で、洋服を処分したというから驚きだ。

その思い切りのよさ、外連(けれん)のない物言い、心根の明るさが、彼女の持ち味。

ざっくりとしたラクそうな着こなしにも、その気質があらわれている。

機能性インナーがのぞく

袖口からは機能性インナーがのぞく。底冷えの京町家での日常着物、寒さ対策もぬかりない。この日はなんと!薄手のダウンベストも仕込まれていた

この日も、新品の帯締めを締める際、手早く抜き取った房カバーをさっと袖に放り込んだ。躊躇い(ためらい)のないその動作は、いつもそうしている慣れた様子をうかがわせた。

その瞬間に頭を過ったのは、「なんでも入るんよ、着物。」という手描きのイラスト付きバズりツイート。

無理なく、心地よく、着物暮らしをする里枝さんの“ガチ勢ネタ”は尽きない。

自然体の彼女の日々から、(本人曰く大変で面倒な)大西家のしきたりや習わしから、あらためて京の美しさをお伝えしていこうと思う。

次回は、2月。

大西さん家の「節分」をお届けします。

大西里枝さん02

撮影/スタジオヒサフジ

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