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水墨画の世界が、青春芸術映画の新たな金字塔に!『線は、僕を描く』 「きもの de シネマ」vol.19

水墨画の世界が、青春芸術映画の新たな金字塔に!『線は、僕を描く』 「きもの de シネマ」vol.19

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回は、スタイリスト・新崎みのりさんのお話から『線は、僕を描く』の魅力に迫ります。

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白と黒の世界に吹き込まれる「命」

ごきげんよう。椿屋です。

俯き加減の横浜流星さんが端整すぎる!と、幾度となく唸った『線は、僕を描く』が本日公開でございます。

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

原作は、砥上裕將著の同名小説。

水墨画家として活躍する作者が紡ぎだす圧倒的なリアリティで、2019年TBS「王様のブランチ」BOOK大賞を受賞し、2020年には「本屋大賞」3位に入賞した作品を、『ちはやふる』で青春映画の金字塔を打ち立てた小泉徳宏監督率いる製作チームが実写化しました。

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

心に傷を抱えた青年・青山霜介(横浜流星)がアルバイト中に目にした水墨画に惹かれるところから、物語は動き出します。

「弟子になってみない?」

水墨画の巨匠・篠田湖山(三浦友和)から声をかけられ、右も左も分からぬままに水墨画を学び始める霜介。

湖山の一番弟子である西濱(江口洋介)、孫の篠田千瑛(清原果耶)とともに過ごしながら、彼は線のみで描かれる白と黒の世界に魅了されていくのです。

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

予告動画でも耳にすることができますが、劇中もっとも印象的だったのは、何かを見つけようともがいている主人公に、気負いなくかけられた西濱の一言。

何かになるんじゃなくて何かに変わっていくものかもね、人ってもんはさ。

原作にもあるこの言葉がすごく印象的だったと、演じられた江口洋介さんご本人も語ってらっしゃいました。

何気なく発せられた言葉それ自体は軽やかで、スッと通っていくのに、どこか身体の底の方にずっと残るような重みを感じる——とても力のある表現に、いつでも前を向いて真っ直ぐに行く心意気というか、覚悟のようなものを見ました。

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

彼の“気のいい兄ちゃん”っぷりを拝見するのは久しぶりで、渋くて陰のある役どころも素敵ですが、やっぱりこういう周囲を和ませる陽気なキャラは板についているようにお見受けしました。

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

そして、何より「水墨画」。

それこそが本作最大の魅力であり、もはや主役と言っても過言ではありません。ときに静謐さを湛え、ときに迫力ある筆致で衝撃を与える作品の数々が、堅苦しさや小難しさといったイメージを見事に払拭しているのも見どころ。

水墨画の上達とともに霜介の心もまた成長していく丁寧な描写で、水墨画の知識がなくても、気づけば画に見入り、共感しているのです。

横浜流星さん

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

ちなみに、本作は京都&滋賀オールロケで撮影。京都の大学やホテル、滋賀にある商人屋敷など見知った場所を見つけながらご覧になるのも一興かと存じます。

場ごと華やかにする力ある着物たち

冒頭、湖山による揮毫会を筆頭に、展覧会などあらたまった場にはやはり着物が似合います。

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

実は、本作の湖山展のシーンにて「京都きもの市場」で取り扱っている商品が登場しております。

西陣織の老舗「梅垣織物」が独自の技法で織り上げた有識唐織「疋田文」は、極力抑えられた配色で粋な印象に。シンプルなデザインは印象的な着物との相性もよく、変わり結びにするとまた違った表情を見せてくれる洒落帯です。

2020.10.21

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この帯を選ばれた決め手について、スタイリストの新崎みのりさんは次のように語ってくださいました。

「無地ベースの帯は特に質感や織の表情が非常に大事だと思いますが、そういった点から見ても、西陣織の帯はとても素敵でした。ハリもあったので、帯芯なしで使用しています」

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

椿柄や秋の葉柄のインパクトのあるお着物もよくお似合いでしたが、清原さんの衣装の中では、とくに最後の四季展授賞式で着用されていた一枚が一際輝かしい存在感を放っていました。

そのセレクトについて、

「千瑛は基本黒メインの衣裳が多く、最後はあえて白にしました。とても貴重なお着物だったのですが、あまりにもイメージ通りでしたので、藤娘きぬたやさんのご厚意でお借りすることができました」

と、新崎さん。

大変美しい白地の着物だったゆえ、わたくしなどは、墨が撥ねたらっ……!とヒヤヒヤしながら見守っておりました(苦笑)

2019.07.31

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和のスタイリングに関しては、

「現代の遊び心として着物ルールを無視することもありますが、なるべく不愉快に映らないようにしています」

とのこと。洋服と違って着物は色や柄に意味や由来などが含まれていることが多いため、それらがなるべくキャラクターとリンクするように選ばれているのだそう。

「水墨画という伝統を受け継ぐ千瑛には伝統的な手法で作られているものが相応しいと考え、清原さんには古典的な柄や手法(総絞り、型押し、手描きなど)だけれどもモダンにも見えるお着物を選びました。

また、富田さんは原作とは違うキャラクターでしたので難しかったのですが、黒の帯と重ね衿をアクセントに個性的な柄でキャラクターが出るように心がけました。

清原さんや富田さんが、それぞれの役として着こなしてくださったおかげで、スタイリング時よりもはるかに素敵になったと思います。どれも気に入っています」

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

富田靖子さんが演じる藤堂翠山は、水墨画の評論家。

最初の登場シーンでは黒を基調としたお洋服をお召しになってますが、後半の和服姿も凛々しくていらっしゃいます。年齢によって着姿や雰囲気が変化するのも着物の醍醐味だと、あらためて感じ入っておりました。

富田靖子さん

©砥上裕將/講談社 ©2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

……余談ですが、14日から公開となった『向田理髪店』では、これまた全く違った朗らかな頼れる母親を演じてらして、そのレンジの広さにも感服した次第でございます。

大きなスクリーンに映し出される素晴らしい着物コーデは、まさに眼福。

ぜひ目を凝らして、柄の一つひとつまでじっくりとご覧になってください。

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