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かくも凄まじき芸の道 〜小説の中の着物〜  有吉佐和子『連舞・乱舞』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十四夜

かくも凄まじき芸の道 〜小説の中の着物〜 有吉佐和子『連舞・乱舞』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十四夜

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小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は『連舞・乱舞』。有吉佐和子さんの作品は、どれもこれも衣裳の描写が素晴らしく…絞り込むのが大変です。

華やぎと奥行きを感じさせます。

小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は『御宿かわせみ15 恋文心中』より「祝言」。現代ではまず見ることのできない、夏の婚礼衣裳のお話。

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今宵の一冊
『連舞・乱舞』

有吉佐和子『連舞・乱舞』新潮社
有吉佐和子『連舞・乱舞』新潮社

藤色は美しくて秋子に良く似合う色なのだけれども夏帯は合わせるのが難しい。橋本雅竜や小金頼近のように眼の利く男たちに招待された宵は、衣装選びに神経がいる。あれかこれかと合わせてみて、ようやく色紙を織り散らした絽綴を選びあげると、秋子はほっとして帯を締めた。着物の紋紗は竹の模様なので、帯とで七夕が揃うのである。色はどちらも藤色なのが、いっそ洒落れた組合せになった。 

何もかも揃って、呼んだ車が来てから足袋をはきかえるのも素人には真似のできないことだ。橋本雅竜に足の運びを褒められた後から、秋子は新しい誂え足袋を、新しいまま水を通して締めたものを選んではいた。蹠に喰いつくような小気味のいいはき心地である。

有吉佐和子『連舞・乱舞』新潮社より

今宵の一冊は、有吉佐和子著『連舞・乱舞(つれまい・みだれまい)』。

“流水に梶の葉”を流派の紋とする、舞踊の一門、梶川流。
物語のそこかしこに、その文様が登場します。

冒頭に取り上げた一節は、後半の『乱舞』より。

『連舞』から続く物語の佳境、家元亡き後、流派に君臨する次期家元の座を狙い暗躍する面々を相手取り、自らが立つ覚悟を固めつつあった主人公の秋子が、ここぞという勝負どころで装うシーンです。

敵となるか味方となるかの正念場、探り合いつつ会話を交わす緊迫した席。
同席する権力者の夫人たちは、ひとりは白地に乱菊の総模様の平絽の訪問着、そしてもうひとりは、芭蕉布をさりげなく着こなし、しかし指には大粒のダイヤ…と活写されています。

場所は軽井沢の中国料理店、少人数での会食ということもあり、フォーマル度合いはまちまちながら、そのことにかえって、その場に臨むそれぞれの心持ちの在り様が見て取れるよう。

連作作品なので、続けて読むにはかなりのボリュームではありますが、息もつかせずぐいぐいと引き込み読ませる筆の力はさすがの一言です。

得られない母からの愛情を渇望する想い、舞の力量に対するコンプレックス。幼い頃から、周囲から軽侮され自尊心を傷付けられ続けながら、自ら望んだ訳ではないけれど梶川流家元夫人の三代目梶川月となり、さまざまな葛藤の中で静かに静かに自分自身を研ぎ澄ませていく秋子。

その姿は胸の痛む部分が多いけれど、もしも実在するならばこの人の舞う姿を観てみたいと思わせる、どこか怖いような存在感を持って迫ってきます。

扇子

『猿猴、月を取る』の図が描かれた扇子。

のほほんととぼけた表情からは窺い知ることができないほどに、皮肉な、そしてとても重くシビアな含みを持つこの絵。

扇面のデザインも相まって気に入っているのですが、この作品を読んだ直後だけは、なんだかずっしりと重さが増したような気がして、少々持つのが躊躇われます…。

今宵の一冊より
盛夏のコーディネート

古来より中国で行われていた、天帝の娘で織物・裁縫の名人とされる織姫にあやかり、色糸や針などを供えて染色・裁縫技術の向上を願う儀式や、「棚機女(たなばたつめ)」と呼ばれる乙女が、川のほとりの小屋に籠って神に着せる衣を織り上げ、穢れを祓い豊作を願うという日本古来の風習など、いくつかの行事や伝説が混じり合って現在の形になったと言われる「七夕」。

奈良時代より詩歌管弦を交え宮中で行われていた行事が、江戸時代に五節句のひとつと定められ、民間の風習として定着したと言われます。

現代では願い事を短冊に書き笹竹に吊しますが、もともとは神木として神事や紙の原料にも用いられた梶の葉に詩歌を書き、色糸を付けて梶の葉飾りとして供え、詩歌や書の上達を願ったとされます。また、七夕行事の元となった中に、地上に遊びに来ていた天女の衣を牛飼いの青年がこっそりと隠し天に帰れなくなった天女を妻にしたという中国の物語がありますが、その衣が藤色だったという説も。

“梶川流”という流派の名をはじめ、秋子が眠れない夜にただひとり稽古場で舞う曲が、機に向かう女の真剣さや孤独感を節に乗せた長唄の『織殿』であったりと、あちこちに『七夕』に通じるモチーフが織り込まれたこの物語。

作中で、冒頭のシーンが七夕の宵だとは直接言及されてはいませんが、当日でなくても数日前あたりの近いタイミングであったろうことは確かでしょうし、もしかしたら最初からこのシーンを、クライマックスに向けて雪崩落ちるように進んでいく最初の山場に据えるイメージが作者の頭の中にはあったのかもしれないな…なんて想像してしまいます。

〜七夕が揃う〜

七夕コーデ
紗紬地付下げ「染疋田彩花色紙紋」 +紋絽袋帯「笹竹に螢」 ※小物はスタイリスト私物

作中では着物が笹、帯が色紙でしたが、これは逆の組み合わせ。

柔らかなクリームがかった白の紋紗に短冊が染められた付下げに、大きな笹の葉に蛍が舞い飛ぶ袋帯を合わせて。流水の刺繍半衿で、水辺のイメージを添えて涼やかに。

現代では7月7日限定のように思われている七夕ですが、本来は旧暦での行事。

書や詩歌の上達を願い、梶の葉や短冊に文を書いて供えたり、書物を夜風に晒したりといった七夕の行事に由来する「文月」「文披月(ふみひらきづき)」という異名の通り、少なくとも7月いっぱい、そして今年の旧暦の七夕は8月14日とのことですから、そこまでしっかり楽しみたいモチーフです。

アンティークの帯留
『れん』紋紗帯揚げ 『れん』二分半紐 アンティークの帯留 ※スタイリスト私物

小さく瞬く蛍の光のような、黄色の色硝子の帯留はアンティーク。

扇面を開くと、ここにも蛍。

モチーフをお揃いにするときは、あまりあからさまではなく、開かなければわからない、このくらいの密やかさの方が奥ゆかしくて素敵な気がします。

〜七夕の宵に〜

七夕の宵に
小千谷ちぢみ「小雨短冊紋」※帯と小物はスタイリスト私物

さまざまな絣の柄が短冊状に織り出された小千谷縮に合わせたのは、漆黒の夜の闇に浮かぶ天の川を思わせるような、黒地に霞の刺繍が施された半衿。

加賀千代女の「ほしあい(星合い)を 何とかおもふ 女郎花」という句を書き散らした紗紬の帯を合わせ、墨黒の扇面に、銀で女郎花の一群が描かれた扇子を添えて。

七夕の宵、自宅でのんびりと一献酌み交わす…そんなときに手を通したいようなナチュラルな着こなしです。

短冊と筆を象った銀細工の帯留
『れん』絽帯揚げ 『れん』二分半紐 銀細工の帯留 ※スタイリスト私物

書の上達を願う七夕の風習にちなみ、短冊と筆を象った銀細工の帯留を。

帯前に書かれているのは「をみなえし」。

紗袷のような帯

帯芯に書かれた文字が、山道の地紋にうっすらと透ける紗袷のような帯。

“星合い”という言い回しは柔らかくて、口にすると、なんだか微笑ましい気持ちになります。

7月7日に降る雨に「催涙雨(さいるいう)」と名が付けられてしまうほど雨の多い七夕の宵ですが、さて、今年はお天気はどうでしょうね…?

〜藤色尽くし〜

藤色尽くし
夏物・単衣薄物 本場縞大島染小紋「角通し」 + 友禅絽九寸名古屋帯「朝顔」 ※小物はスタイリスト私物

「色はどちらも藤色…」の描写より、小物の白を効かせながら、繊細なグラデーションを楽しむ藤色尽くしのコーディネート。

着物と帯で反対色を合わせたメリハリのある着こなしはクラシックに、同系色の組み合わせはモダンな印象になる傾向がありますが、現代では割と多い同系色の組み合わせも、この時代ではとても新鮮だったことでしょう。

釣瓶の帯留
釣瓶の帯留 ※スタイリスト私物

ここで使わずしていつ使う⁉︎というほどに、定番の組み合わせ。

その由来である、同じく千代女の句「朝顔に つるべ取られて もらい水」より、釣瓶の帯留を添えて。

〜虫の音〜

虫の音
絽訪問着「秋草虫籠図」+【泰生織物】西陣夏袋帯「月光」 ※小物はスタイリスト私物

秋草に虫籠が描かれた深い青の付下げに合わせたのは、月と月光のようなラインが織り出された袋帯。

秋子が梶川月を襲名した折に舞台で披露したのは、その名にちなんで「月の景色も風情ある…虫の声々さまざまに…」と歌われた曲でした。

作中のこのときの舞台衣装は、梶の葉の地紋を散らした色無地に、銀綴れに紫の流水の帯という流派にちなんだものでしたが、それ以外の家元夫人としての外出の際などにはこんな装いもしていたのではないかなと思います。

少し遡り『連舞』の作中では、戦争が激化して絵羽物が禁止となったことを受け、舞台衣裳を誂えるのに、衣裳担当者が「最近では呉服屋が、苦肉の策で付け下げなどというものを考え出しましたよ…」とこぼすシーンも。

そろそろ桜も

無地感覚の「付下げ」や「訪問着」に祈りを込めた帯を合わせた装いなら、ゴージャス過ぎず、大多数の人から“きちんとしている”と認識されやすい適度なフォーマル感もある。スーツやワンピースで出席するクラスの現代のフォーマルシーンには、ほぼ対応すると思います。

帯留は、ちょうどこの作品の舞台となった昭和初期頃のアンティーク。

細やかで繊細な世界観が魅力
撫子に鈴虫の帯留 ※スタイリスト私物

撫子の花の陰には、近付いてよく見ないとわからないくらい小さな鈴虫。
アンティークの帯留は、この細やかで繊細な世界観が魅力です。

足袋の話

吸い付くような足袋に包まれた皺ひとつなく真っ白な足元は、着物姿の中でも美しさを感じる部分のひとつ。

足袋は本当に、作るお店によって形も大きさも全く違うし、足の形が合う合わないの差が大きいので悩ましいところ。スタイリングの仕事においても、初めての方の場合には、例えば24cmの方なら23.5、24、24.5のそれぞれ極細型、細型、中型といった感じで種類を取り揃えてお持ちするので、白足袋だけで10足前後をご用意します。

また、よくお声がけいただく方の場合も、その方のサイズの新品と水通しをしたもの(冒頭の秋子のように新品のままで)、1サイズ大きいものと、最低でも3足は必ず。

撮影するシーンによって、ずっと正座だったり足元が映らなかったりで足袋が見えない可能性が高い場合などは少し緩めのものにしたり、夕方からの撮影などの場合、浮腫んで入らないこともあったりするので気が抜けないのです。

着物を着慣れた方は、誂えの型をお持ちだったり、◯◯やの**型などのご指定があったりと決めていらっしゃる場合も多いので、それに応じてご用意するようにしています。

中には、同じ◯◯やの同じ型のものでも、舞台のときは5枚こはぜの23.8㎝(こんな微妙なサイズを扱っているところもあるのです)、テレビ番組などのときは4枚こはぜの24㎝、といった感じで使い分けていらっしゃる方も。

やはり足に合った履き心地の良い足袋は、見た目の美しさだけでなく着ている間の全身の心地良さに直結すると思うので、とても大切。

肌着などと同じで、合う合わないという生理的な感覚の部分があり、一概にどこのものが良いとは言いにくいのですが、決してきつくはないけれど無駄なゆとりがなく、程よく締め付ける(適度にホールドしてくれる感じ)、そんな履き心地は、疲れにくさにもつながる気がします。

冒頭に挙げたシーンの数頁前で、橋本翁が訪れた秋子の足運びを褒める場面がありますが、7~8年前にお寺の座敷で上演された会で、上方舞の名手の舞を間近で拝見した際、その柔らかな光を放つような白い指先と、滑るような足運びに目を奪われたことを思い出しました。

好んで履いていた足袋屋さんの型が生産終了となり、その後なかなかしっくりくるものに出会えませんでしたが、数年前に『ゑびす足袋』さんで誂え、ようやく足袋迷子からの脱却が叶いました。

足袋は最初に履きたいかな。

夏は麻、通年ではキャラコの5枚こはぜを愛用していますが、ぴっちりと包むような履き心地でとても気持ちが良いです。

ただ、私はやっぱり足袋は最初に履きたいかな。
着物をすべて着てから足袋を履くのは、正直あまり…それこそ、素人ですのでね(笑)。

『一の糸』

同じく有吉佐和子さんのご著書より、もう一冊は『一の糸』。

芸道一筋に邁進する文楽の三味線弾き、露沢清太郎と、17歳で彼の弾く一の糸の響きに心を捕らえられて以降、お嬢さま育ちで世間知らず、良く言えばその天真爛漫さのままに(一歩間違えればただの我儘、自分勝手なのですが)、ひたすら一途に(ときには傍迷惑なほどに)その恋を貫き通す茜の物語です。

芸を貫く男の我儘と、恋を貫く女の我儘がぶつかり合う様は、なかなかに凄絶で壮観。

大店のひとり娘として生まれ、それこそ“おかいこぐるみ(お蚕包み=すべて絹物の意)”で育ち、着替えも婆や任せ。脱いだものを自分で畳んだことすらない茜の、その着物やヘアスタイルの描写は、まるで映像を見るようです。

大胆な矢絣、マーガレットに結い上げた髪には大きなリボンを飾り、肩には白の毛糸編みのショール。“近頃流行の…”という枕詞に続く装いは、まさに大正浪漫そのもの。

また、物語の冒頭、眼病を患っている茜の手にあるのは紅絹(もみ)の端裂。
その鮮やかな真紅の色彩が目に浮かぶようで、書き出しから一息に引き摺り込まれてしまいます。そう言えば「目病み女に風邪ひき男」(は色っぽい)という、江戸人の好みを表す言葉がありますが、病で潤んだ目とその目元に添えた真っ赤な紅絹という取り合わせが、よりいっそうの効果を発揮していたのでしょうね。

その夜、女中の一人が宵のうちに茜の夜具をのべに来たのだったが、茜は一人で箪笥の前で明日の帝劇に着て行く着物の思案をしていた。つい数年前から流行し始めた夏の無双羽織から思いついて、絽の絵羽に薄い紗を置いて袷に縫った着物を取出し、この季節なら、野暮な単衣を着るよりよほどこの方が気がきいているかもしれないけれども、季節を間違えた非常識という顔をして見るものもいるに違いないからどうしようかなどと踏んぎりをつけかねていた。

有吉佐和子『一の糸』新潮社より

この連載の第一夜でも取り上げた“紗袷”について、本作中で、昭和12~3年頃の話として語られるこんなシーンがあります。

ハイカラさんを地で行く少女だった茜も、このとき37歳。

その時代の女性としては、成人するくらいの子どもがいてもおかしくはない年齢ですが、洋装で長い髪を靡かせ馬を駆り、母には宝石をねだり…と贅沢なお嬢さんのまま独身生活を謳歌している茜でも、やはりそこは気になるのだなと少しおかしくなります。

現代以上に人目も口も気になる、そしてその影響の大きい時代ですから当然と言えば当然なのですが。

17歳で清太郎の弾く一の糸の響きに心を奪われ、20年を経て、その後添えとなり添い遂げるまでの波乱万丈の物語。

思い込んだら一直線、我慢が効かず、思ったことをそのまま行動に移すから敵を作りやすい…こう書いてみると、かなり問題の多い人な気がする茜ですが、根が素直なところや清太郎一筋の健気さは、一周回ってなんだか可愛くも思えてきます(実際近くにいられたら、そうは言っていられないであろう困った人だとは思いますが…)。

どの分野にせよ、稀代、不世出と称されるようなその道の天才が貫く美学の前には、一般常識は通用せず、凡人には理解不能な場合が往々にしてありますが、それに臆せずむしゃぶりついていくには、茜のようなある意味どこかぶっ飛んだ人でないと難しかったのかもしれません(下手に想像できて気を遣える人だと、早々に脱落してしまいそう)。
茜もまた、別方向にタガの外れたタイプの人だったと思うので(しっかりものの母・世喜さんに「お疲れさま」と肩を叩いて言ってあげたくなりますが、茜を育てたのは世喜さんだから仕方ないですね笑)。

ちなみに茜が、少女の頃からお稽古していた舞が“梶川流”。
スピンオフ的なそんな小さな発見も、同じ作家の作品を読む愉しみのひとつです。

有吉佐和子『一の糸』新潮文庫
有吉佐和子『一の糸』新潮文庫

物語に“引き込む”というより“引き摺り込む”と言った方がしっくりくる、迫力ある文章と構成の巧みさ。それに合わせて、有吉作品においては、その物語の中で着物の描写がことごとく重要な役割を占めています。

『芝桜』『香華』も、すでに挙げた2作品とほぼ同時期である大正〜戦後を舞台とした女たちの物語。

舞踊家、芸者、大店の娘、宿屋の女主人…と、さまざまな立場や時代、流行、世相による装いの変化など、印象的なシーンをピックアップするのも難しいくらいに着物の描写が満載ですが、登場人物の性格や心情の変化さえも、それぞれの装いに対する思いや扱い方を濃やかに描写することで表現されていると言っても過言ではないと思います。
それらは、周到な取材、研究、知識、そして冷徹な観察眼に基づいたものなのであろうことは想像に難くなく、どこか底知れない怖さすら感じるほど。

『芝桜』は同世代、『香華』は母娘。

女同士の絡まりまくった凄まじいほどの愛憎を描かせたら右に出るもののない作者ですが、いざ読むには半端じゃなく気力と体力が要るので、体調万全なときにぜひ。

秋子は自らの舞を見つめ、茜は惚れ込んだ清太郎が、憂いなくその芸に向かえるよう心を砕く。

衣食住のすべては当然のことながら、生きるということ、死生観や価値観すべてにおいて激動し変化した、明治末〜戦後を共通の時代背景とし、その過酷な世情の中で芸道を貫く姿が印象的な2作品を取り上げました。

戦時下とコロナ禍、直接的な被害の大きさは比較にならないかもしれませんが、ウクライナなどの世界的な状況を考えると、それも対岸の火事ではないと思わされる昨今。

芸術や音楽、芸能、文化…大義において着物も含め、娯楽やエンターテインメントという分野にはまだまだ厳しい状況が続いています。

確かに、これらは水やお米のように生命に直結するものではないかもしれない。
非常時においては、どうしても後回しにならざるを得ないものだとは思いますが、エンターテインメントというものは、ビタミンやミネラルのように摂取しないと健康ではいられない、人として必須の栄養素だとも思うのです。

現代となんとなくリンクする、そんな思いも感じつつ…。

さて、次回第十五夜。

着る側ではなく、作る側の視点から描かれた物語を取り上げてみたいと思います。

秋月洋子さんプロデュース『れん』の特集もどうぞ!【2022/7/1~7/15 AM9時まで】

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