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馬の文様で験を担ぐ 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.19

馬の文様で験を担ぐ 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.19

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雨が続く季節です。どきどきしたり、わくわくしたり、胸躍るような舞台を見て心晴れやかに過ごしましょう。歌舞伎座の「七月大歌舞伎」から、第一部『當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)』で、スペクタクルとロマンを味わってみませんか。

扉画像

だんだんと、街に人が多くなってきました。 劇場へのお出かけも、少しは気軽になってきたでしょうか? 久しぶりに歌舞伎座へという方もいらっしゃることでしょう。 歌舞伎座「六月大歌舞伎」の第一部『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』で歌舞伎の様式美を楽しんでみませんか。

伝奇ロマンを楽しむ

雨が続く季節です。

どきどきしたり、わくわくしたり、胸躍るような舞台を見て心晴れやかに過ごしましょう。

歌舞伎座の「七月大歌舞伎」(7月4日~29日、11・20日は休演)から、第一部『當世流小栗判官(とうりゅうおぐりはんがん)』で、スペクタクルとロマンを味わってみませんか。

小栗判官は古い伝説が説経節に、後に歌舞伎になったものです。

この『當世流小栗判官』は三代目市川猿之助(現 猿翁)が早替りなどを用いて再構成しました。

貴種流離譚の一種で、小栗判官(市川猿之助)が漂泊の末に父の仇を討ちます。妻・照手姫(市川笑也)との別れと再会、大立廻り、恋のさや当て…と見どころが満載です。

この物語の名場面には馬が登場します。

荒馬が後脚だけで碁盤の上に立ち上がる曲乗りや、小栗判官と照手姫が絵から抜け出た神馬に乗って舞い上がる宙乗りです。

ちなみに、照手姫を演じる笑也は、『當世流小栗判官』初演時(1983年)には、馬の後脚を務めていたとか。現在の美しき女形の姿からは想像もできない力業ですね。

今回は、物語に欠かせない「馬」の文様についてご紹介しましょう。

馬の文様

馬の文様

馬は古来、人と密接に関わってきた動物で、神に奉納されたり、献上物になったりと貴重なものとして扱われてきました。身近でありながら霊性や神性を備え、信仰の対象にもなっており、気軽に身につけるものではなかったのかもしれません。

そんなわけで、染織品に関しては、馬の文様は種類も数も多くはないのだそうです。

よく目にするのは、子供(特に男児)の衣服の野馬の柄でしょうか。名物裂では有栖川錦があります。

西陣織名古屋帯「有栖川馬文様」
西陣織名古屋帯「有栖川馬文様」
【龍村美術織物】名古屋帯「宝祥秀馬文」
【龍村美術織物】名古屋帯「宝祥秀馬文」

鹿文がよく知られていますが、馬文もあり、八角形の中に疾走する馬が織り出されています。

ほかには騎馬人物文や、さらりと馬の姿を描いたもの、馬の玩具の文様などがあります。

中でも、袋帯などになっている「胡服遊行錦」は印象的で、胡服(中国北方民族・胡人の服で、騎馬に適している)をまとった男性が馬でゆく姿が表現されています。

誰もがひとつは持っているというほどの文様ではありませんが、午年のお正月の装いにはぴったりです。午年生まれの方はご自分の干支のものとして、親しみがあることでしょう。

春駒という言葉や、馬が誕生する季節が春であることなどから、馬には春のイメージがあるようにも思います。

縁起物

「左馬」という言葉をご存じでしょうか?

将棋の駒「角」の裏に書いてある「馬」を鏡文字で表したものです。

紬八寸名古屋帯「ひょうたん」
紬八寸名古屋帯「ひょうたん」

福や人を招く、富のシンボルなど縁起のよいものとして駒の置物や小物になっています。お店などに飾ってあるのをご覧になったことがあるのではないかしら。

きものの世界では帯の柄にしたり、根付などの小物で用いたり。

左馬の文字で埋め尽くされた長襦袢も見かけました。

長襦袢「ひだりうま」淡銀鼠
長襦袢「ひだりうま」淡銀鼠
長襦袢「ひだりうま」淡柳鼠
長襦袢「ひだりうま」淡柳鼠

いずれも縁起担ぎにはもってこいの柄です。

また、馬を描くとき、頭を左にすることが多いのですが、右が頭(進行方向が右向き)のものもあり、これも左馬と呼ばれているようです。

夏の小物選び

【吉川染匠】駒絽地付下げ着尺「地紙に流水菖蒲」

6月になり、きものの暦も夏に入りました。半衿や帯揚げも夏仕様、絽の出番です。今回は、夏の小物について考えてみましょう。

まずは半衿です。

絽の半襟には、広く用いられる緯絽(絽目が横方向に通る)と竪絽(絽目が縦方向に通る)がありますが、竪絽の季節は夏の初めだけ。5月の下旬から6月上旬のほんの短い間のものです。

ただ、夏の初めにつけるからといって、夏の終わりにも竪絽かというと、これが不思議なことにそうではないのです。竪絽の半襟は、一瞬のおしゃれなのです。

また、夏の半衿には麻素材が加わります。麻のきものには、ぜひ麻の半衿を合わせてみてください。おしゃれ度がぐんと上がります。

もちろん、ほかの素材の絽でもよいのですが、麻と麻の組み合わせの良さを味わっていただきたいと思います。

次に帯揚げです。

なるべく涼しげな色を選び、見せる分量も控えめに。

白地に朝顔や金魚などの柄はいかにも夏らしく、見る人に涼を感じさせます。

【夏物】飛び絞り帯揚げ「朝顔に流水/青」
【夏物】飛び絞り帯揚げ「朝顔に流水/青」
【加藤萬謹製】紗摺り帯揚げ「ゆらり金魚/柳鼠色」
【加藤萬謹製】紗摺り帯揚げ「ゆらり金魚/柳鼠色」

帯揚げは半衿と違って、麻のきものでも絹でよいのです。帯周りはしなやかに見せましょう。

そして大事なことをひとつ。
夏の終わりには、お手入れを忘れずになさってください。

直接肌には触れていなくても、案外帯揚げにも汗がしみているものです。次の年に広げてみたら黄ばんでいた、などということがないようにしましょう。薄い色は特に目立ちますから、要注意です。

最後に帯締めです。

帯締めは通年使うものですから、特に夏の決まりごとはありません。

しいていうなら、細めのもの、涼しさを感じさせる色を選ぶとよいでしょう。

近年はレース組みの帯締めもありますが、夏の選択肢のひとつであり、必ず必要というものではありません。

帯周りの要ですから、締めやすいものが安心です。

夏のきものは素材の種類も多く、小物えらびの幅も広がります。組み合わせに悩むのもまた楽し、の季節到来です。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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