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先取り単衣と染め帯の愉しみ 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十一夜

先取り単衣と染め帯の愉しみ 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十一夜

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気温差の激しいこの時期は、袷、単衣、羽織に至っては薄物、と各種入り乱れての調整期間。いわゆる”暦”にとらわれすぎず、その日の気温や体調によって、さまざまな組み合わせで心地よい着こなしを。

そろそろ桜も

無地感覚の「付下げ」や「訪問着」に祈りを込めた帯を合わせた装いなら、ゴージャス過ぎず、大多数の人から“きちんとしている”と認識されやすい適度なフォーマル感もある。スーツやワンピースで出席するクラスの現代のフォーマルシーンには、ほぼ対応すると思います。

体感と相談しつつ微調整

初夏のような陽射しに慌てて日焼け止めを塗ったかと思いきや、雪がちらつく寒の戻りがあったり…雪月花というと聞こえは良いけど、季節の変わり目は対応に困りますね。

3月の後半から5月にかけては気温差が激しく、殊にこのところの温暖化によって尋常じゃない暑さの日もあったりします。

かと思えば、7、8年前だったでしょうか。
5月31日に着物を着る予定があり、5月下旬に入ってから単衣でも暑いような気候になってきていたので、すっかりもう気分は夏で、薄物に近い感覚の単衣を用意していたところ、その日だけいきなり冷え込み、あまりの寒さに慌てて洗いに出そうとしていた袷に再登場願ったこともありました。

ということで、この時期は袷、単衣、羽織に至っては薄物、と各種入り乱れての調整期間。

その日の気温や体調によって、さまざまな組み合わせになります

少し透け感強めの薄羽織

袷の着物と帯に重ねたのは、少し透け感強めの薄羽織。

私は薄羽織を、真夏だけではなく、塵除けコートの感覚で3月後半〜10月くらいまで着用しています。

このときは長襦袢は単衣だったかな…?
着物と襦袢、どちらも袷の場合もあれば、どちらかを袷にしたり単衣にしたりとその都度微調整。

柳の地紋の薄羽織

柳の地紋の薄羽織。

素材は紋紗ですが透け感が弱いので、3月初めくらいから下手をすると11月半ばくらいまで活躍します。

秋の袷の季節に入ってからも、暑い日が結構ありますしね。

文目柄の小紋を単羽織に

この柄は絶対この時期しか着ないな、と文目(あやめ)柄の小紋を単羽織に。

こう温暖化が激しいと出番は少なめですが、先程のエピソードのように急に冷え込んだりもあるので、そんな時には嬉々として袖を通します。
季節限定のお愉しみは、こんな使い方も。

江戸小紋に、藤鼠色の長襦袢。

こちらは、両面染めの江戸小紋に、藤鼠色の薄物の長襦袢をあわせて。

実際の単衣の時期にももちろん着用しますが、薄物の長襦袢は3月半ばくらいから、単衣の着物との組み合わせではGW前後くらいから出番が増えます。

絽目がなく透け感も弱めなので、夏物感が少なく織物にも柔らかものにも合わせやすいので重宝しています。

袷の時期にも活躍する単衣には、もともと(いわゆる6、9月の)単衣向きとして作られている、薄物よりは透け感の弱い軽やかな素材という雰囲気のものではなく、御召や紬などのしなやかでかつしっかり目の詰まった織物や、染めであれば袷にしても良い生地感で、両面染めや裏まできちんと染めが通ったものがおすすめです。

織物であれば裏表がないので良いのですが、染めの小紋などを単衣にした場合、いかにも「裏」というのが翻って見えるとちょっと薄っぺらく見える場合があるので、私は、できれば裏にも色柄があって欲しいなと思っています。

それであれば、八掛を付けない季節にも裏の愉しみを手放さずに済みますし。
裏にも色柄のある着物は、ちらりと翻った際にも一見八掛のように見え、袷の方と同席していてもさほど違和感がありません。

両面染めの江戸小紋

両面染江戸小紋「角通し(紫色)/万筋(紺色)」
両面染江戸小紋「角通し(紫色)/万筋(紺色)」

どちらを表にするかは、お好みで。

両面染江戸小紋 「鮫(藤色)/万筋(水浅葱色)」
両面染江戸小紋 「鮫(藤色)/万筋(水浅葱色)」

所作に連れて、綺麗な色がちらりと見えるのも嬉しい。

両面で違う柄が織り出された御召

先染両面織御召「枝葉紋に梅鉢亀甲」
先染両面織御召「枝葉紋に梅鉢亀甲」

両面で全く違う柄が織り出された、こんな御召も。

先染両面織御召「立枠唐草に鱗」
先染両面織御召「立枠唐草に鱗」

どちらを表にするかで、ずいぶん雰囲気が変わりますね。

紋紗や麻の長襦袢は、暑がりの方でしたら一年中愛用、という方も。

襦袢は袖口からちらりと見えるので、いかにも夏物っぽい白だと袷の下には浮いてしまうこともありますが、色柄があるものだと違和感なく着られます。

洋服で言えば、薄手のカットソーやシャツをベースに、肌寒ければ下にこっそりヒートテックを着込んだり、カーディガンやショールなどの羽織もので調節したりする、そんな感覚。

そう考えると、日常着として着物を着る場合、実は単衣ってとても重宝するアイテムだったりするんですよね。少し前まで、6月と9月の2か月しか着られないなら、持ってなくてもいいかな…そんな立ち位置だったとは思えないほどに。

式典など、ある程度の格式を持った着こなしが必要になる場はともかく、日常に着物を着るのであれば、衣更(ころもがえ)のタイミングは着る本人の体感次第。

春〜初夏の暑い日に汗だくで袷を着ているのは見る方にとってもあまり美しい姿とは思えませんし、着ているご本人も快適ではないでしょう。

着物は着るもの。
自分なりの工夫で、心地良い着こなしを楽しみたいものです。

その緩さが良いところ

大輪の杜若と大胆な鯉
【誉田屋源兵衛】絞り染め帯「鯉」+ 【吉川染匠】京友禅塩瀬染め帯

冒頭でご紹介したのは、水辺に咲く大輪の杜若。そして絞りで表された大胆な鯉。

桜に続き、藤、牡丹と、4〜5月はまさに花盛りの季節。その中でも、この杜若などは、まさにこの時期を旬とする季節限定感のある意匠です。

それに対して鯉は、厳密に言うと5月限定ではなく通年使えるものなのですが、やはり「鯉のぼり=端午の節句」のイメージが刷り込まれている私たち。
ここぞとばかりに楽しみたいモチーフですね。

リアルに咲く文目(あやめ、菖蒲とも)や杜若(かきつばた)、花菖蒲(はなしょうぶ)は区別がちゃんとありますが(花菖蒲と菖蒲湯に使う「しょうぶ」はまた別物でややこしい…笑)、着物や帯に描かれたものはどちらにもとれるように描かれていることが多いので、そう野暮な追求はしなくても良いのではと思います。

この帯は、流水が添えられていることや紫の花弁に入った白いラインなど、割とわかりやすく描かれていますが、シルエット的に描かれていたり現実にはない色で描かれていたりする場合は、5月から7月にかけて、文目、杜若、花菖蒲…と順々に咲いていくので、その都度「これは文目です」「これは杜若です」って顔してしれっと使っちゃいましょう。

八つ橋とともに描かれているからこれは杜若だな、とか(伊勢物語で在原業平が詠んだ「からころも〜」の歌にちなむ)、水辺だから杜若か花菖蒲だろうな…とか想いを巡らせるのも楽しいし、これはシルエット的に描かれているから、武具をあしらい「尚武(しょうぶ)」にかけて「端午の節句」の着こなしに、とか。

あるいは水のモチーフを添えて杜若ということにしようか…などと、どこか曖昧な方が、俄然想像力を働かせることができて面白くなるってものです。

染め帯の愉しみ

織の着物にさまざまな表情をもたらす染め帯は、季節感をより楽しめる格好のアイテムでもあります。

土台に選んだのは、藍のグラデーションが美しい鰹縞と格子が交互に織り出された手織りの紬。

軽快で活動的な着こなし

薄手でしなやかながらしっかりとした地風なので、先取りの単衣として、また、秋の袷の時期に入ってからも木綿のように単衣で着るカジュアルな日常着として活躍してくれそうです。

縞だけだと粋になりすぎてしまうこともありますが、格子との組み合わせが絶妙で、適度なかわいらしさもあり、いろんなタイプの着こなしが楽しめそうな一枚。

南国生まれらしいポップな配色の紅型の帯を合わせて、軽快で活動的な印象の着こなし。

地色が同系色なので、すっきりとシンプルで都会的な印象は損なわれず、柄に使われた鮮やかな色が効果的なアクセントに。

どの色を小物に選ぶかで個性が出せそうです。

季節のイメージを強めて装う
※小物はスタイリスト私物

帯に描かれた愛嬌のある鳥は、お腹の縞が似ているので「ほととぎす」ということにして。
楓を象った(かたどった)帯留を添えたら、初夏の代表的な風物を詠んだ句として有名な山口素堂の『目には青葉、山ほととぎす、初鰹』をそのまままとうコーディネートに。

こういった色のない楓モチーフ(銀細工や墨描きの柄なども)は、この季節には青葉、秋には紅葉として。

帯揚げや帯締めの小物で、それぞれの季節のイメージを強めて装う楽しみも。

艶やかでエレガントな雰囲気
【玉虫正直】手織民芸紬 + 【吉川染匠】京友禅塩瀬染め帯

個性ある紬は、冒頭でご紹介した主役級の帯もしっかり受け止める懐の深さ。

大輪の杜若が描かれた染め帯を合わせると、ぐっと艶やかでエレガントな雰囲気に。
どこかこなれた、大人の女性の余裕のようなものが感じられるコーディネートになりますね。

元気で愛嬌のある表情

大胆で主張の強い帯も似合います。

背中の鯉がいっそう元気よく、なんだか愛嬌のある表情に見えるのは気のせいでしょうか。

季節のコーディネート

〜皐月の空に〜

皐月の空に

絞り風の柳と燕(ツバメ)が染められた焦茶の小紋。

明るい黄色の地に五色の吹き流しを思わせる流線が描かれた染め帯を合わせ「端午の節句」をイメージして。
4月に入り、空に鯉のぼりが勢いよく泳ぎ始める頃から楽しみたいコーディネート。

〜鯉の滝登り〜

鯉の滝登り

これぞ主役といった感の大胆な絞りの鯉の帯を合わせたのは、滝縞と呼ばれる、グラデーションになった縞の紬。

艶のあるさらりとした質感の紬で、モダンとクラシカルな粋が同居する軽やかなモノトーンコーディネートです。

お太鼓の大胆さと、鱗が散らされただけのシンプルな前柄とのギャップが、遊び心のある小粋な雰囲気をより印象付けます。

〜葵祭〜

葵祭

5月半ばに開催される「葵祭」から、葵の文様もこの時期らしさを感じる柄。

とは言えこのように文様化されたものは、はっきりと季節を限定する柄ではないので、もちろん通年で使えます。
顔映りの良さそうな深みのある紺の地色は、上品で凛とした雰囲気を醸し出します。

柄には綺麗な色が使われているので、適度な華やかさも。

「葵祭」で執り行われる流鏑馬(やぶさめ)をイメージした矢羽根の帯に、和綴本(わとじぼん)の帯留を添えて。

文武両道、ということで、七五三や入学のお祝いなどにも似合いそうです。

葵祭コーデ2
※小物はスタイリスト私物

「葵祭」もですし、ゆかた解禁、と言われる浅草の「三社祭」など、ここ数年開催が難しかった各地のお祭り、今年はどうでしょうね…

舞台や大きなイベントなども、できる限りの対策をして開催されるようになってきているので、社会全体がようやくそういう方向に動きつつあるのかなと感じます。

毎年同じことが同じ季節にできることの有り難さを、身に染みて感じる昨今。

藤のモチーフ

「藤」モチーフ自体、見頃が短く先取りのタイミングが難しいのに、素材が縮緬なので余計に逃しがち。

塩瀬より、やっぱりちょっとほっこり感のある縮緬は、できれば4月の初め頃に締めたいなぁと思うんですよね。

桜が盛りを過ぎ、藤が咲く前のほんの1週間くらいだから、もしかしたら紗袷よりもチャンスが少ないかもしれません。

お気に入りなのに「しまった、タイミング逃した…」と涙を呑むことの多いこの帯ですが、だからこそ締められたときの喜びが大きく、希少価値があると言うか(有り難みが増す?笑)。

さて、この春は機を逃さず登場させられるでしょうか。

次回の第十二夜は…

染めに織り、織りに染めって…?

わりと混乱を招きがちな“きもの用語”あるあると、セオリーから外れるときに必要なものについて。

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