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“意外性”で自分らしく着こなす feat. 作家・綿矢りさ「きもの、着てみませんか?」 vol.3-1

“意外性”で自分らしく着こなす feat. 作家・綿矢りさ「きもの、着てみませんか?」 vol.3-1

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着物スタイリスト・薬真寺香さんのスタイリング連載第3弾。作家・綿矢りささんをお招きし、春の訪問着コーディネートを提案しました。学士会館の重厚な雰囲気のなかで浮きたつ、可憐さと凛々しさの同居する着物姿をご覧ください。

作家・綿矢りささん ― 清雅かつモダンな着物姿

着物や和のこと以外の分野で活躍されている方をゲストにお招きし、着物スタイリスト、薬真寺 香さんによるスタイリングで着物姿になっていただいてお話をお聞きするという本連載。

”浴衣×ハット”で夏の都会へ feat. 刺繍作家・小菅くみ』『大島紬で際立つ”静かな迫力” feat. 俳優・片岡礼子』に続き、シリーズ3回目となる今回は、作家・綿矢りささんにご登場いただきました。

作家・綿矢りささんをゲストにお迎えして

2001年『インストール』で第38回文藝賞を受賞しデビュー、早稲田大学在学中の2004年『蹴りたい背中』で第130回芥川賞受賞。19歳での芥川賞受賞は、当時の最年少記録を大きく更新し注目を集め、有名作家となった綿矢りささん。

その後も、2012年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞、2019年『生のみ生のままで』で島清恋愛文学賞を受賞するなど活躍を続けられ、結婚出産を経た現在も精力的に執筆活動に取り組まれています。

等身大の女性の生き様が鋭い感性で描かれている作品たちは、『勝手にふるえてろ』(2017年・監督 大九明子)、『私をくいとめて』(2020年・監督 大九明子)、『ひらいて』(2021年・監督 首藤凛)と近年、女性監督により次々と映像化され、さらに共感の輪を広げています。

今回の撮影は、「古い西洋建築が好き」という綿矢さんの言葉をきっかけに、昭和3年に創建された学士会館で行われました。

学士会館のレトロ建築に良く馴染む、綿矢りささんの着物姿

荘厳な雰囲気のなか、柔らかな淡藤色の着物を身にまとい光を集める綿矢さんの姿。

それはまるで、文学という格式ある舞台でしなやかに魅力を発揮し続ける、ご自身を体現しているかのようでした。

“意外性”をテーマにしたスタイリング

綿矢りささんが着こなす綺麗色の訪問着コーデ

薬真寺さんが綿矢さんにもっていたイメージは、「意外な人」なのだそうです。

「ささやかな幸せや素朴なやさしさが描かれていたかと思うと、突如生々しい展開に飲み込まれたり、できれば目をそらしたくなるような、人間のすごく嫌な部分が、とてもきっちりと書かれていたり。

そういった、これまで綿矢さんの作品が自分に与えてくれた感触やうれしい驚き、意外性を今回のスタイリングにも反映させたいと考えました」

淡藤色の着物に、カラフルな帯。
柔らかながら印象に残る色づかいのスタイリングは、綿矢さんの作品の随所で感じられる豊かな色彩と重なります。

ごく淡い藤色の訪問着がとてもお似合いの綿矢りささん

訪問着は江戸染繍の名門、大羊居のもの。

観世水が地紋にたゆたうすべらかな絹地に清雅な花模様が染められ、春らしい気配が漂います。友禅の上には刺繍が施され、光を受けると絹糸とともに撚りあわされた金糸がさりげなくきらめく美しい着物です。

優しい色合いのなかにも枝の墨色が全体が引き締め、日本画のような趣きある風情も。

「可憐で、目を奪われる美しさ。でも大胆で力強い。そんな第一印象が私の抱く綿矢さんと作品のイメージにぴったりでした。

《常に新しい草を求めて前進する羊のように、古典を深く学びながらもとらわれず、新しさと自由な発想を大切にし、着物を纏う歓びを伝えたい》

大羊居さんが掲げておられるこの理念も、最後の一節の「着物」を「小説」に読みかえるとそのまま綿矢りささんだ、と感じられて」

薄藤色の訪問着を纏った綿矢りささん

合わせた帯は、彩り豊かな唐織の優彩花亀甲文。伝統的な柄ながら、どことなくモダンな雰囲気をたたえています。

川島織物 優彩花亀甲文の帯

「京都で生まれ育ち、東京で学び作家活動をされている綿矢さんに寄せて、京都、東京それぞれの技が光る着物と帯を合わせました」

柔らかな生成り色の半衿とレトロ建築に良く似合う色味の帯揚げ

帯揚げや半衿の選び方にも、薬真寺さんの工夫が光ります。

「帯揚げは、壁や絨毯など学士会館全体に漂う重みのある深い色合いに合わせて茶色を選びました。半衿も、レトロな内装と綿矢さんご自身の雰囲気に合わせて真っ白ではなく絹の生成りのものを。

明るい色で整えるのも素敵ですが、場所も含めてのバランスを意識したスタイリングもおすすめです」

春めいた色を基調としながらも、場所との統一感をふまえたコーディネートにより、重厚な雰囲気のなか綿矢さんの着物姿が華やかに浮きたちます。

異国情緒を添える小物づかい

・バッグ

美しい青磁色が目をひくバッグはヨーロッパで学ばれたデザイナー・藤井陽介さんによる「Yosuke Fujii」のもの。

フランス製のシルクサテンに手描きで絵柄が表現されたバッグ

フランス製の発色の良いシルクサテンに手描きで施されているのは、洋風ながらどこか懐かしみも感じるオリエンタルな柄。繊細な絵の雰囲気が、綿矢さんの小説世界を思い起こさせます。

「綿矢さんの作品『私をくいとめて』のなかで表現されていた、「日本とイタリアとでは同じ色も違って感じられる」という内容がとても印象に残っていて。何かヨーロッパの雰囲気を感じられるものを取り入れたいなと思っていました。

皇族の方ための特注寸を踏襲しているとのことで、サイズが少し小さめなところも魅力のひとつ。小柄な綿矢さんにしっくり似合います」

繊細な絵柄のエレガントなバッグ

・帯締め

着物姿を引き締めるアクセントに、「有職組紐 道明」の笹浪組・大暈しをセレクト。

鮮やかな色の道明の組紐が全体のまとめ役に

「目を引く鮮やかな色が季節にふさわしいさわやかな雰囲気を添え、コーディネートの要として全体を整えます。帯揚げの色のとりあわせにも、意外性を意識しています」

鮮やかな色の道明の組紐が全体のまとめ役に

・ヘアスタイル、髪飾り

綿矢さんのショートヘアを、着物に合わせて華やかにスタイリングした薬真寺さん。

片側ウェーブでショートカットに華やかさをプラスして

「右サイドはタイトに撫でつけ、左サイドはふんわりと大きな曲線に仕上げることで、ショートヘアを優雅にアレンジしました。

髪が短いからと着物を諦めてしまう方もいらっしゃいますが、それはもったいない。アップにできない長さでも、今回のように左右のボリュームを違えたスタイルなら手軽で新鮮に映ります。

また、髪飾りをうまくつかうこともおすすめです。着物の柄は左側が華やかに描かれている場合が多いので、右側に飾りをつけると左右どちらから見ても寂しい印象になりません」

帯とささやかにリンクさせたパールの髪飾り

「SHIMONE ROCHAのパールの髪飾りで、さりげなく洋のエッセンスを加えました。このブランドのガーリーな狂気もまた、綿矢作品に通じると感じられて。パールの配置と帯の優彩花亀甲文が似ているので、そこも良いなと」

フォーマルも自分らしく魅せる

軽やかで気負わない訪問着スタイル

セオリー通りの着こなしになってしまいがちな訪問着ですが、薬真寺さんの小物選びによって綿矢さんらしさが際立ちます。

「着飾って出歩く機会が少なくなってしまった今だからこそ、今回のスタイリングでは”時には張り切って装う”楽しさをあらわせるといいなと思っていました。

フォーマルな着物も、バッグや髪飾りといった小道具づかいによって、軽やかに、着る人の内面をあらわすような魅せ方ができると思います」

作家・綿矢りささんならではの訪問着スタイルをご提案

格式高い着物に、綿矢さんから感じる瑞々しさや意外性、おかしみの表情を加え、フォーマルを楽しむヒントを教えてくださった薬真寺さんのスタイリングでした。

インタビュー編もお楽しみに

次回は、インタビュー前編を4月上旬に公開予定。綿矢さんご本人の魅力や作品に込める想いに迫ります。

ロケーションの変化もどうぞお楽しみに!

バッグ

『Yosuke Fujii』
2014年、デザイナー 藤井陽介によって設立される。有史以来生まれた色、 形に着想を得て一点一点手描きで表現されるドレスをはじめ、 現代に生きる女性の生活に添いながら、 着用する事で人類の文化とその未来に想いを馳せる事ができる衣服を提案する。
HP : https://www.yosukefujii.com/concept/
お問い合わせ先:藤井服飾デザイン 03-6804-0065

藤井陽介
1987年生まれ。 イギリス、 ロンドンのセントマーティンズ美術学校を卒業後、 数年に渡りヨーロッパ各地に滞在する。帰国後、 画廊勤務を経てブランドを立ち上げる。皇室をはじめ、財界や芸能界の顧客のためのドレスをデザインする。
Instagram : https://www.instagram.com/yosukefujii0108/?hl=ja

帯締

有職組紐 道明
江戸時代初期の1652年(承応元)に上野池之端で糸商として創業して以来、組紐づくりを生業とする老舗。伝統を受け継ぐ東京の老舗として、雑誌などで数多く紹介されている。
https://kdomyo.com/

有職組紐 道明

江戸時代より東京・上野で組紐を製作し続ける「道明」。道明が取り組むのは、日本で脈々と受け継がれてきた、組紐の長い歴史の上に立脚したものづくり。

※半衿、帯揚げ、髪飾りはスタイリスト私物

構成・文/青葉鈴 greenery_aoba
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

取材協力

学士会館
東京都千代田区神田錦町3-28
https://www.gakushikaikan.co.jp/

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