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ライフスタイルに合うきものとは 「台湾きものスタイル考」vol.15(最終回)

ライフスタイルに合うきものとは 「台湾きものスタイル考」vol.15(最終回)

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日本でいう梅の季節に、桜が満開となった台湾。日本との気温差もありますから、3月の暑い日には、いくらその季節の花が描かれていても袷のきものなら、着るのは諦めなくてはなりません。実は私は、2月に桜柄の帯は早すぎると思いながらすでに解禁してしまいました。

ご自身の心地よさを大切に着物を楽しんでいただきたいと思います。

何故こんなにも桜の花が私の心を捉えるのか… これは、ごく個人的な思いに起因しているのですが、寒い冬を越えパッと咲いたかと思うと、わずか10日やそこらで見る人の心を和ませ笑顔を生み、惜しまれつつも一気に散りゆくその潔さに深い憧れを持ったのがはじまりでした。

台湾は紫陽花の季節

日本でいう梅の季節に、桜が満開となった台湾。
3月はさまざまな花が一斉に、競うようにあちこちで開花する時期です。

すでに紫陽花が咲いていて、脳内の季節感が崩れ落ちる感覚を味わっています。

紫陽花

日本の気候とは違う場所で季節の花柄を先取りしてきものを楽しもうとする場合、実際の目の前の花に合わせるのか、日本の四季の感覚に合わせるのか、迷うことがしばしばあります。

もちろん日本との気温差もありますから、3月の暑い日には、いくらその季節の花が描かれていても、袷(あわせ)ですと着るのは諦めなくてはなりません。

実は私は…

2月に桜柄の帯は早すぎる、と思いながらも、すでに解禁してしまいました。

真珠と桜

桜の帯

この帯は、昨年京都きもの市場さんのサイトで見て一目惚れし、約1年寝かせておいたものです(笑)

シーズン前にみつけたらギリギリその季節に間に合うこともありますが、シーズン真っ最中か、その季節が終わりかけるころにみつけてしまうと、「来年」の楽しみになってしまうこともしばしば。やはり物理的な距離には勝てません。

それでなくとも台湾では春は駆け足で過ぎていき、日本の本格的な春の頃には初夏の暑さとなりますから、身に纏うには少し厳しく、翌年の早い時期に持ち越しとなるのです。
そして、3月を待たずに春を身に纏うようになっているのです。

真珠箔織の帯

ため息が出るほど美しいこの帯は、西陣織のなかでも「真珠箔」織といい、真珠の表面を削った粉が用いられているものです。

和紙の上に箔を敷き、その上に真珠の粉を重ねる。
そうやってできた箔糸が織り込まれて、上品な光や深い奥行きが生まれるそうです。

真珠は日本の神話のなかでも不老長寿の秘薬とされたり、また世界中でも「人魚の涙」や「月の雫」など、ロマンチックな名称で呼ばれてきました。

古来より宝石として珍重されてきた美しい真珠玉、実に2000粒分がこの袋帯一本に使われているとのこと…

ため息がとまりません。

見て美しいのはもちろんのこと、聞いて知ると、さらに特別感が増しませんか?

京都・西陣の地で発展した「西陣織」は、日本を代表する絹織物として世界に名を馳せています。とりどりの先染め糸を用い、彩り豊かにそして緻密に織り上げられる文様の美しさ。着物ファンなら知っておきたい西陣織の歴史や特徴、魅力、そして品種とそれを実現する技法についてご紹介します。

自慢したい気持ちとの葛藤

持ち物を自慢するのは「はしたない」ことだといつ誰に刷り込まれたのか…
金額について明らかにすることもしかり。
私のなかで、それらについて話したり書いたりすることに、強いブロックがありました。

ところが人によっては高価であることや、国宝級の逸品であることを、また別の人は、信じられないほどお買い得、安価で購入できたことを、どちらも「黙っていることのほうが難しい」とおっしゃるのを聞いた時には、自分に許可していないだけだった、ということに気づきました。

たくさんのきものや帯に触れるようになり、さまざまなものを実際に手にしたり、話に聞いたり、ネット上で勉強するにつれ、その技法が生みだされるまでにかけられた年月、情熱や実際の技術に驚くことばかり。

美しさに感動し、畏敬の念も深まって、誰かに伝えずにはいられない気持ちも理解できるようになりました。

とはいえ、私にとってのきものは「着るもの」であり、美術品のように扱いたいわけではなく、もっと身近に触れていたいものなのです。

天元宮
天元宮2

こんな話をすると「きものは高価な贅沢品」と敬遠されるかたもいらっしゃると思いますが、今の呉服業界は、本当に幅広い層が楽しめる時代となっているのではないでしょうか。

いちから誂える。
お買い得な反物で仕立てる。
仕立て上がりのものを購入する。
シーズンオフのセールやリユースを利用する。

経済に合わせて、さまざまな楽しみ方があります。

海外にいる私でも、ネットで注文したり誂えたりできることは、本当にラッキーな時代だと思います。

洋服にもTPOがあるように、きものにもその場に合わせた着こなしがあります。

普段着の範疇は人によりさまざま。ライフスタイルが違えば、選ぶきものもおのずと変わってきます。

音楽会にて

私が、こんな宝石のような帯を結ぶ機会は年に数回。

それでも「もったいない」としまいこんでおくのは、もっと「もったいない」と思うので、自然の美しさと競わせることなく、出番をつくりたいと思っていました。

そんなおり、日本人声楽家の方が出演される音楽会が開催されました。
感染が抑えられている台湾ですが、やはり大人数で集まるのには規制や自粛がありましたので、久しぶりのこと。

日本の童謡唱歌が歌われるということで、多くの在台日本人の方々の懐かしいお顔が拝見できました。この帯の出番としては絶好の機会ととらえ、台湾の桜はすでにシーズンも終わりかけていましたが、この日本らしい桜に郷愁の思いをのせました。

最近の好みは紬の訪問着

ライフスタイルは人それぞれ、きものを着始めた人同士でも、普段きものの好みはまるで違うものになっていくのではないでしょうか。

自宅で家事をするから木綿、着倒して柔らかくなじんだ紬が便利だという方もいれば、お客様をお迎えする機会が多いからやわらかものの数が必要、という方も。

また、趣味で着ているので華やかなものやアンティークが好き、という方。
洋服の延長線上にきものがあるので化繊素材やウールが着やすい、という方も。

着かたも好みも人の数だけあり、私のようにジャンルが交錯している方もいらっしゃるかと思います。

全ての方の共通点は「きものが好き」ということ。争う必要はないですね。

「きものが好き」が共通点

私は、最初の頃は自分に何が似合うのか、保管やお手入れや、着るシーンが定まらずに、たくさんの種類のきものや帯に手を出しました。

着心地や使い勝手、保管やお手入れ、好き嫌いの輪郭がだんだん定まってきたのは最近になってからのこと。

ライフスタイル的に言えば、私は何をどう着ても誰にも迷惑をかけることがないのですが、小紋や色無地、江戸小紋あたりは使い勝手が良いですね。

訪問着以上は、本来なら出番が限られるものですし洋服がどんなシーンでもカジュアル化の傾向が強い昨今、私自身は「普段使い」はしていませんが、海外の方で訪問着を気楽に着ているのを目にすると複雑な気分になったりします。

「着たい」に正直な姿

ごちゃごちゃ考えずに、「着たい」に正直な姿はいつも刺激的です。
それらに影響を受けてかどうかはわかりませんが、最近の私のお気に入りは紬の訪問着です。

訪問着といっても、紬ゆえ格はカジュアルに分類されます。

とはいえコンビニなどに行く程度の普段着とは大別される、「カジュアル」というとても広い範疇の中の「一軍」とでも言いましょうか、何よりカッコいいおしゃれアイテムなのです。

今の私の感覚では、紬の訪問着は、やわらかものの付け下げと同程度のドレスコードとして着用しています(ただし私は、お祝いの席や茶道の席には使いません)。

小紋より少しだけ「おしゃれ」

美術館に行く、観劇やコンサートに行く、女友達とロケーションの良いカフェに行く、記念日の食事に行くなど…

気張らないけれど、小紋より少しだけ「おしゃれ」をしたい時に着ています。

また私は訪問着でも付け下げでも、「ザ・礼装」の印象が強い花柄や吉祥文様ではない、モダンな印象の色柄のものを好んで着ています。

モダンな印象の色柄
モダン訪問着付け下げ

モダンなものなら、帯次第でカジュアルダウンできますし、もちろん重厚な金糸銀糸のおめでたい文様の帯にしたらお祝いの席にも使えます。

入学式・卒業式の年頃のお子様がいない、または巣立った後にきものを新調するのであれば、モダンな付け下げをおすすめしたいですね。

偶然同じような事を考え、書こうとしていましたが、言語化するのが難しかった「訪問着と付け下げの違い」をとてもわかりやすく記事にされているのを拝読し、さすが!と膝を打ちました。

訪問着と付け下げの違いについてはこちらを是非ご一読ください。

そろそろ桜も

無地感覚の「付下げ」や「訪問着」に祈りを込めた帯を合わせた装いなら、ゴージャス過ぎず、大多数の人から“きちんとしている”と認識されやすい適度なフォーマル感もある。スーツやワンピースで出席するクラスの現代のフォーマルシーンには、ほぼ対応すると思います。

写真に映る真実

台湾の桜は散ってしまいましたが、私の桜への思い入れは、やはり日本のソメイヨシノが咲き乱れるあの場所へと飛ぶようです。

先日、写真に写る”とある女性”の変化に気付きました。

写真には、撮影者と被写体の関係性そのものが写し出されていました。

たった一枚の写真からわかること。それは”私”の10年前…

10年前のある日

その日私は、美容室でセットと着付けをお願いしながら、今の夫である彼(アーティストであり写真も撮る)に「私の写真を撮ってほしい」とはっきり伝えることができないまま、カメラ持参を促していました。

桜の花には興味のない彼に、桜を観に行くデートを提案。
あわよくば「桜と私」の写真を撮ってもらおうと目論んだ私は、彼には言わずに着物姿で待ち合わせ場所に到着。当時は自分で着物を着ることができなかったのに、です。

当然、いきなり着物姿で現れた私に驚いた彼。
「この後、偉い人のアテンドがある」とかなんとか…その場しのぎの嘘をついたことを覚えています。

今考えると「私と桜の写真を撮ってほしい」と言えばよかったのにと思うのですが、プロである彼に気軽に頼むことがはばかられたのと、さらには「彼女の写真を綺麗にとる彼」という妄想に私は憧れていましたが、彼はそういうタイプではなかったからです。

ともあれ、この一枚の写真に私のうれしさがあふれているのがわかりますでしょうか。

当時、付き合い始めて3ヶ月という、お互いを想う気持ちが写しとられたものです。眉毛の形が時代を感じさせますね。

付き合い始めて3ヶ月

あれから、10年。

本連載での私の写真は、一部を除き、夫となった彼に撮ってもらったものです。

今では「この構図にして」「この表情はシワが目立つからダメ」「不細工に見えるからこの角度はやめて」など、具体的な要求までも伝えられるようになりました。

…時の流れを感じます。

人生の始まりの時

日本の桜の下で撮った最後の一枚は、短い交際期間の終わりと、二人三脚で歩く人生の始まりの時のものです。

おわりに

4月からは趣向を変えた方向で

台湾きものスタイル考、vol.1の「パートナーシップと着物」から15回。

台湾から、徒然なるままに綴ってまいりました。

4月からは今までとは趣向を変えた方向でお届けしようと考えています。
引き続き、よろしくお願いいたします。

新しい年の始まりに

タイ在住時代から本格的に着物生活をはじめ、毎日ではないものの外出時に着る機会が増えていくのを、当初夫は快く思っていなかったようです。それでも夫の持つ「着物への特別な感覚」は、時間をかけ少しずつ変化してきたように感じます。良い面も面倒くさい面も見せたり話したりしながら、私の「好き」を理解してもらうために、楽しんで着てきました。

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