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矢絣のお召しで上品に装う 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.15

矢絣のお召しで上品に装う 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.15

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立春を過ぎましたが、まだまだ寒さが続きます。 春にはどんなコーディネートをしようか、と思い巡らすひとときを持つのも楽しいものです。3月には、早春の装いで歌舞伎座へ参りましょう。

さりげなく都会の喧噪に溶け込む

年が明け、寒さも本番です。渋谷で、熱気あふれる舞台を楽しみませんか?クドカンこと宮藤官九郎の脚本となれば、歌舞伎になじみのない方も気軽に見られそう。コートの下にわずかな春をしのばせる、そんな楽しみもありそうです。

〝江戸っ子〟気分に浸る

立春を過ぎましたが、まだまだ寒さが続きます。春にはどんなコーディネートをしようか、と思い巡らすひとときを持つのも楽しいものです。

3月には、早春の装いで歌舞伎座へ参りましょう。

歌舞伎座『三月大歌舞伎』(3月3~28日、10・22日は休演)の第二部は、江戸っ子の香りを味わう2演目。

ひとつは『天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)』から『河内山(こうちやま)』、もうひとつが、落語を元にした『芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)』です。

江戸城の御数寄屋坊主・河内山宗俊(片岡仁左衛門)は、上野寛永寺の使僧になりすまし、松江出雲守(中村鴈治郎)の屋敷に乗り込みます。
腰元奉公に上がった娘・浪路(片岡千之助)を助けてほしいと親から頼まれ、金目当てに請け負ったからでした。

出雲守は、自分の意に従わない浪路を幽閉していたのです。
浪路を救出した宗俊ですが、玄関先で正体がばれてしまいます。大胆不敵な宗俊の、江戸っ子らしい歯切れのよさが見どころ。

舞台となるのは大名屋敷。浪路はじめ多くの腰元が仕えています。

腰元といえば、紫の矢絣(やがすり)のきものに、黒繻子(しゅす)の帯を矢の字に結ぶのが定番の姿。歌舞伎だけでなく、映画やテレビの時代劇でもおなじみ、コントでも使用されるほど、腰元の〝制服〟として認知されていますが、実際のところ、屋敷内でこの姿だったわけではなさそうです。矢絣ではなく、鴇色(ときいろ=淡いピンク)や鶸色(ひわいろ=明るい黄緑)の無地のきもので登場することもあります。

今回は、矢絣に注目です。

矢絣のお召しは今も人気

矢絣は、染め分けたタテ糸を少しずつずらすことで矢羽根の柄を織り出したものです。矢羽根絣、矢筈(やはず)絣ともいいます。

矢は、放てば行ったきり。
戻ってこないことから、嫁入り仕度のひとつでもあったようです。

単純な構成ですが、一反の中で幅や向きを変化させたり、ほかの柄と合わせたりすることで、幅広い表現ができます。

京友禅小紋着尺「矢絣文様

明治から大正時代には、女学生の間で矢絣のきものに袴というスタイルが大流行しました。卒業式でお召しになった方も多いことでしょう。

本来は絣なので織物の模様でした。しかし、人気があったため染め柄として小紋なども作られました。江戸小紋にも矢羽根の柄があります。

矢絣といえば、やはりお召し。いまも好まれています。

お召しは、将軍・徳川家斉が「お召しになった」ことからその名が付いたといわれており、織物の中では最もランクが高く、品のある生地です。
しぼがあるので滑らず、着崩れしにくいのが利点です。着やすいので、街着、おしゃれ着にぴったり。お茶のお稽古などにもいいでしょう。織物なので裏返しても使え、経済性にも優れているのです。

京友禅小紋着尺「矢羽根」
創作友禅小紋「矢絣文」

あまりにも女学生に好まれたためか、矢絣は若い人のもの、と思っている方も多いようです。
そんなことはありません。若い方は遠目にもハッキリうつる大きな矢絣を、年を重ねた方は小さいものを。

創作友禅小紋「矢絣文」

年齢とともに矢羽根の大きさを変えていけばよいのです。

一見、無地にも見えるような小さな矢絣は、とても上品です。

矢絣柄が人気の理由とおすすめコーデを紹介

レトロな着物コーディネートとして人気の”矢絣”柄。縁起ものとして用いられる一方、レトロモダンなお洒落として卒業式の袴とも合わせられることが多い柄です。矢絣に込められた意味や着こなしのポイントを知っておくと、より着物を楽しめるようになります。今回は矢絣柄の魅力に迫ります。

雛の節句の装い

3月に入ればすぐ、雛の節句です。

雛人形を描いた染め帯などは、雛まつりを代表する柄で風情がありますが、身に着ける期間が短いのが残念です。
もう少し幅広く、節句を感じさせるモチーフや春を感じさせる装いを考えてみました。

まずは「桃」。
桃の節句というくらいですから、雛まつりを象徴する花といえます。

九寸名古屋帯「桃の花」
九寸名古屋帯「花桃」

そして、雛飾りの中から選ぶなら、「貝合わせ」や、その貝を入れる「貝桶」の文様はいかがかしら。

貝合わせは、トランプの神経衰弱のような遊びで、内側に装飾を施した蛤を用います。
ほかの貝とは決して合わないので、夫婦円満、幸せの象徴として、それらを収める貝桶とともに大名家の姫君の婚礼調度に欠かせないものでした。そうしたことから、雛飾りの道具に加えられたのでしょう。

きもの、帯、半衿と、さまざまなものに用いられる文様で、貝の内側には精緻な絵を描いたり、刺繍を施したり。貝桶の意匠も凝ったものが見られます。

また、雛まつりには蛤のお吸い物がお膳に上ります。
春は、旬を迎える貝がおいしい季節。通年着用できるおめでたい柄ですが、春の節句を表現するのにもぴったりではありませんか。

色で春を表す

京友禅付下げ着尺「麗花美人」

きもので季節を表現するときに欠かせないのは色です。
春咲く花には、黄色がとても多いのです。

臘梅、まんさく、さんしゅゆ、れんぎょう、山吹など木に咲く花から、福寿草、水仙、菜の花、たんぽぽなどの草花まで、春の花といえば黄色、というほどです。

黄色は春の色といえそうです。

どこかに黄色を用いると、一気に春らしさが増すでしょう。

お雛さまに供える菱餅を思わせる色使いも、春らしさを思い起こさせます。白い雪の下から緑の芽が出て、桃色の花が咲く…そんなイメージです。

桃、白、緑の3色には、それぞれ魔除けや健康などを祈る意味があり、こうした色を取り入れるのもまた、雛の節句らしい趣向といえそうです。

早く、心から春を楽しめる日が来るよう、祈るばかりです。

=塩瀬染め帯「桃の節句」

監修:大久保信子
文:時田綾子

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