着物・和・京都に関する情報ならきものと

和洋の楽しい模様がたくさん! ~師走(しわす)の巻~ 「十二ヵ月のアンティーク半襟」vol.8

和洋の楽しい模様がたくさん! ~師走(しわす)の巻~ 「十二ヵ月のアンティーク半襟」vol.8

記事を共有する

12月におすすめのモチーフは、クリスマスにちなんだ「クリスマスツリー」「サンタクロース」「トナカイ」「煙突」などの明るく楽しいもの。また、雪を連想させる「雪華文」「雪輪文様」、雪で楽しむ「雪だるま」、「白鷺」「梟」「柚子」など、冬の風景をイメージさせるものがたくさん揃っています!

着物姿のなかで一番目につく面積の狭い「半襟」。
しかし、かつては…

「お話しする時は相手の目ではなく、半襟をみてお話しするように」

という躾(しつけ)の言葉や、

「いずれ白襟で伺います」
※普段掛けている色襟を正式な白襟に替えて(=あらためて)伺う

という礼儀の言葉があったように、「半襟」は特別な意味を持つ和装小物です。

アンティークの刺繍半襟や染めの半襟にはすばらしい手仕事が凝縮されており、礼装はもちろん、縞の着物などに季節の半襟を掛ける(つける)ことが、明治から昭和、当時の女性の楽しみでした。

刺繍半襟は、

「着物を一枚仕立てる贅沢のかわりに、せめて刺繍の半襟を…」

という女性の気持ちに寄り添って作られた、小さな贅沢だったのでしょう。

そんな半襟に込められた和の美と季節の再発見をテーマに、旧暦の月名にあわせたアンティーク半襟をさとうめぐみの「半襟箱」の中からご紹介していきます!

さとうめぐみの半衿箱

二十四節気と半襟について

さて…
今月12月は、旧暦名で「師走」(しわす)。

「師走」は当て字で、その語源で最も有名な説では、師匠の僧がお経をあげるために東西を馳せる月と解釈する「師馳す(しはす)」があります。

その他、師走の語源には、「年が果てる」意味の「年果つ(としはつ)」が変化したとする説もあります。

そんな冬に訪れる「二十四節気」は、

「大雪(たいせつ)」(2021年は12月7日)
「冬至(とうじ)」(2021年は12月22日)

です。

銀杏の半襟

大雪から冬至までは、陰陽五行でいうと、どんどん「陰」が強まっていくときにあたります。昼が短く、寒さも厳しくなるので、自分自身に優しくし、心と体に栄養を与えるとよい時期です。着物では、しぼの大きな縮緬(ちりめん)地が着たくなる季節ですね。

冬至:「一陽来復」一年で一番昼が短く夜が長い日!

「冬至」は旧暦の中でも特別な意味を持つ節気。別名を「一陽来復(いちようらいふく)」とも呼びます。これはこの日極まった陰が、陽に転じるという意味で、冬至を境に日が長くなり太陽の光が戻ってくる様子をあらわしたもの。やがて「悪いことが続いたあとに幸運がやってくる」という意味でも使われるようになりました。

「雪」に「冬」…文字を見るだけでも、いよいよ冬本番を感じますね。

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

二十一番目の節気は「大雪(たいせつ)」。
「雪が大いに降り積もるようになる時期」という意味です。

雪が降る前に…ということで、「大雪」の翌日の8日は、日本各地で「事納め」(別名「事八日」・ことようか・「八日節句」)といって、一年の農作業や神事の終わりをする風習があります。

女性の「事納め」行事、和裁の行事として有名なのが「針供養」です。
二月八日の「事始め」から使い始め、折れたり曲がったりした針をこんにゃくや豆腐に刺して淡島神社に奉納するもので、針の始末をきちんとすることで裁縫が上達し、幸せな結婚ができると信じられていました。

その知恵を現代版に生かすなら、今年一年身の回りで使ったもので、不要になったものを整理してみるのはどうでしょうか。

まだ使えるものなら譲り先を探す、処分するなら段取りを決めるなど、感謝の気持ちをもって身の回りを整えて、ゆとりをもって雪の季節を迎えましょう。

そして二十二番目の節気「冬至」は、「立冬」から「立春」までの「冬」のちょうど真ん中にあたり、「一年で一番夜が長い日(北半球)」です。

この日、太陽は真昼になっても高い位置まで昇らないため、夏至に比べて約4時間~5時間、昼が短く夜が長い日となります。

別名「一陽来復(いちようらいふく)」とも呼ばれる「冬至」。

これはこの日極まった「陰」が、「陽」に転じるという意味で、冬至を境に日が長くなり太陽の光が戻ってくる様子をあらわした言葉。やがて「悪いことが続いたあとに幸運がやってくる」という意味でも使われるようになりました。

冬至の日といえば、南から伝わった野菜・南瓜を食べて柚子湯に入るという風習がありますが、これは日照時間の少ないこの日、太陽に見立てた黄色いものを体の内外に取り入れようとしたいにしえの知恵です。

「ゆず」の読みが「融通」に、色が金に似ていることから、この日柚子湯に入ると「金運に融通がつく」とも言われています。

「大雪」に「冬至」…
この「15日ごとの季節」=「二十四節気」という小さな区切りこそ、半襟のお洒落の見せ所です。

着物や帯の季節のモチーフを取り入れてしまうと、短い時期しか着ることができなくなってしまいますが、ほんのわずかな面積が襟元からのぞく程度の半襟なら、印象に残ることも少なく、着ている方は季節の移り変わりを密かに楽しむことができます。

師走の半襟1『縮緬地 遠山に雪 刺繍半襟』

『縮緬地 遠山に雪 刺繍半襟』
霰文様を刺繍した風情のある刺繍半襟

そんな師走にご紹介する一枚目の半襟は…

『縮緬地 遠山に雪 刺繍半襟』

藤紫色の縮緬地に、銀色と濃紫色で遠山文様と、霰(あられ)文様を刺繍した風情のある刺繍半襟です。

藤紫色は明治から大正にかけて流行した色で、当時輸入されはじめた合成染料によって作られた彩度の高い色です。

文明開化のハイカラ趣味に迎えられ、友禅・小紋・お召しの地色に多く用いられたとされていますが、半襟にもそうした流行色が取り入れられたようです。

遠山文様は遠く霞(かすみ)に姿をのぞかせる穏やかな山をあらわした文様で、『源氏物語絵巻』の几帳(きちょう=室内のしきりに使った道具)に同じ文様があり、実景をもとにして描かれたものであると考えられています。

霰文様は空から舞い落ちる氷の粒「霰(あられ)」をあらわしたもので、大小の点々が散りばめられた文様。

ヒョウのような大きな粒ではなく「霙(みぞれ)」よりも細かい氷の粒で、パラパラと美しく空を舞い幻想的な景色を描く霰。その霰越しに遠くに見える山を見事に刺繍で表現した半襟は、繊細に自然を捉える目を呼び起こしてくれるようです。

自然を捉える目を呼び起こしてくれるようです。

師走の半襟2『縮緬地 雪輪に花文様 刺繍半襟』

『縮緬地 雪輪に花文様 刺繍半襟』
古典的でありながらモダンな雰囲気の半襟です。

二枚目にご紹介する半襟は、

『縮緬地 雪輪に花文様 刺繍半襟』

シボの高い黒色の縮緬地に、金銀で雪輪文様と二種類の花文様を刺繍した、古典的でありながらモダンな雰囲気の半襟です。

橙色と白のグラデーションでかたどられた丸い花は晩秋の名残の菊の花、そして、白一色で刺繍された花をハイカラなポインセチアと見立ててみました。

「雪輪」は雪の結晶の形から生まれた文様です。

雪の文様はさまざまにありますが、雪輪文の形は六角形の雪の結晶の輪郭を曲線で繋いだもので、丸に六ヶ所くぼみがある形をしています。

「雪の織物」と呼ばれる越後縮などの伝統産業や雪についてまとめた随筆・江戸時代のベストセラー『北越雪譜』にも雪の結晶は「六花(りっか)」という別名で紹介されています。
とすると、六枚の花びらを持つ刺繍は雪の結晶「六花」でしょうか…

寒い冬に積もった雪は、春になれば雪解け水となり、野山の草花をはぐくみ、さらに秋の実りをもたらします。このことから「雪は五穀の精」と言われており、その年が豊作になる吉祥の象徴ともいえます。

黒地の縮緬は、暗く寒い冬の隠喩。
そこにやがて実りをもたらす雪を模した雪輪を散らした半襟で、「一陽来復」の縁起を担ぎます。

「一陽来復」の縁起を担ぎます。

師走の半襟3『縮緬地 雪柳に丸紋 染め 刺繍半襟』

『縮緬地 雪柳に丸紋 染め 刺繍半襟』
幻想的なデザインは大正ロマンならでは。

三枚目にご紹介するのは…

『縮緬地 雪柳に丸紋 染め 刺繍半襟』

です。

黒地に白で雪柳を刺繍し、背後に藤紫色、新橋色そして曙色の大小の丸紋を染めた半襟です。

まるで冬の夜、風に揺れる雪柳を雪洞(ぼんぼり)が照らしているような、幻想的なデザインは大正ロマンならでは。

藤紫色は前述の通りですが、新橋色(しんばしいろ)とは明るい緑がかった浅鮮やかな青色で、洋色名はターコイズ・ブルーです。明治中期に輸入され、ハイカラな色として大正時代にかけて大流行しました。

この色名の「新橋」は、当時は実業界や政治家が訪れる振興の花柳界(かりゅうかい)だった東京の新橋のことで、その芸者衆に愛好された色、ということでこう呼ばれるようになりました。

また芸者の置屋が金春新道(こんぱるじんみち)にあったことから「金春色(こんぱるいろ)」とも呼ばれ、鏑木清方(かぶらぎきよかた)や上村松園(うえむらしょうえん)などの美人画に用いられた色としても知られています。

曙色(あけぼのいろ)は、オレンジ色がかったピンク色のこと。別名は東雲色(しののめいろ)、オーロラ色と呼ばれます。サーモンピンクに近い色味で、薔薇色、牡丹色などとともに明治期の華やかな色の流行色のひとつです。

和名の「東雲(しののめ)」は、現在でいう網戸の網目にあたるもののことで、網戸を篠笹(しのざさ)で作っていたので、網目のことを「篠の目(しののめ)」と呼び、東の雲が薄いピンクに染まり、真っ暗な室内に「篠の目」から明かりが差し込んだことから、“東雲色”を「しののめいろ」と呼ぶようになったようです。

真っ黒な縮緬はまさに、闇夜。
その闇の中に浮かび上がる雪柳と光のページェント。あたたかな灯りが目にうれしい半襟です。

あたたかな灯りが目に嬉しい半襟です。

師走の半襟4『縮緬地 冬木立に雪文様 刺繍半襟』

『縮緬地 冬木立に雪文様 刺繍半襟』
縮緬地に、雪を表現した刺繍半襟です。

四枚目の半襟は…

『縮緬地 冬木立に雪文様 刺繍半襟』

柔らかな縮緬地に、白一色で冬木立とそこに降りかかる雪を表現した刺繍半襟です。

いっけん北欧モダンのファブリックのようにも見える斬新なデザインですが、これが大正~昭和初期の日本の職人によるものと思うと、そのセンスの良さに驚きを隠せません。

「冬木立」は葉を落とし、冬の装いになった木々のことで、静寂を暗喩する冬の季語となっています。

秋には赤や黄色に色づいた木々の葉が、褐色の落ち葉となり、最後の一葉をわずかに枝に残す師走。

暗闇のなかに降りはじめた小雪が、薄明りのように木々を浮かび上がらせる、凍てつく空気のなかにあらわれた風景を半襟の中に閉じ込めたような一枚です。

凍てつく空気の中に風景を閉じ込めたような一枚

12月のモチーフ

冬の風景をイメージさせるモチーフで楽しんでみませんか?

12月におすすめのモチーフは…

明治時代にキリスト教とともにもたらされ、すっかり日本の年中行事として根付いたクリスマスにちなんだ「クリスマスツリー」「クリスマスリース」「サンタクロース」「トナカイ」「天使」「煙突」「暖炉」「ギフトボックス」「柊」「ポインセチア」「雀」など。
明るく楽しいモチーフが季節にぴったりとマッチします。

そのほか、雪を連想させる「雪華文」「雪輪文様」、雪で楽しむ「雪だるま」、「白鷺」「梟」「鴛鴦」「柚子」など、冬の風景をイメージさせるモチーフで12月の着物姿を楽しんでみませんか?

師走のとっておき

師走のとっておき

今月のとっておきのコレクションは、クリスマスにちなんだ洋風モチーフの半襟です!

クリスマスといえば、サンタクロースやポインセチア、そして暖炉など、温かみを感じるような「赤」がテーマカラーのひとつです。

『縮緬地 洋花文様 刺繍半襟』

一枚目は、

『縮緬地 洋花文様 刺繍半襟』

真っ赤な縮緬地に、釣鐘草のようにうつむく花と、六芒星のように広がる名付けようのない花を刺繍した半襟です。

どこか洋風な趣を漂わせる花は、大正後期から昭和初期にかけて京都で木版絵師として絵はがき・絵封筒などのデザインを手がけ「謎の抒情版画家」と呼ばれた、小林かいち(こばやしかいち)を彷彿とさせる意匠です。

小林かいち(本名は小林嘉一郎・1896年~1968年)は、日本の木版絵師・図案家。
シンプルでシャープな線と面、印象的な色彩表現で、アール・デコ様式の装飾性を特徴とした「京都のアール・デコ」と称されるスタイルを作り上げました。

京都京極三条の「さくら井屋」を版元に、ハート・月・星・薔薇・トランプ・十字架・女性のシルエットなどのモダンなモチーフの絵はがき・絵封筒・カレンダー・ぽち袋などの木版刷りの作品を多数発表しましたが、2008年2月に遺族(かいちの次男)が名乗り出るまで、かいちの性別・生没年・正確な作品点数・私生活などは不明で「謎の叙情版画家」「謎の画家」といわれてきました。

真っ赤な縮緬に白の刺繍半襟といえば、舞妓さんの半襟を連想しますが、図案しだいでこんなモダンな半襟にもなるというおもしろさを感じる一枚です。

図案しだいでモダンな半襟にもなる面白さ。
『塩瀬地 椰子の葉に鸚鵡文様 刺繍半襟』

二枚目は…

『塩瀬地 椰子の葉に鸚鵡文様 刺繍半襟』

梅鼠色に、繊細な刺繍で椰子(やし)の葉とカラフルな羽根の鸚鵡(おうむ)を表現した半襟です。

梅鼠色とは赤みのある薄い鼠色のことで、「梅」とは紅梅の花に由来する赤みの形容です。

江戸後期には「奢侈(しゃし)禁止令」によって、染色の色が茶色系統・鼠色系統・紺色系統などに制限されました。そんななか、微妙な色の違いをあらわす「鼠」のつく色名が多くなり「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」といわれる多くの色が作り出されます。

梅鼠はそのひとつで、当時の人々は新しく作り出された色を装いに取り入れて楽しみました。

異国情緒漂う鸚鵡と江戸の色「梅鼠」

一方の鸚鵡は、外来種の鳥。
もともと日本にはいませんでしたが外交によってもたらされ、正倉院の文様に瓔珞(ようらく)などをくわえた含綬鸚鵡文(がんじゅおうむもん)があるなど、文様では古くから見られます。

鸚鵡はつがいで子育てする姿から夫婦円満・家庭円満の象徴とされ、二羽を向かい合わせにした「向鸚鵡の丸」は唐衣の上紋に用いられるなど吉祥文様として定着しています。

この半襟に刺繍された鸚鵡も古くからの様式を守った二羽で、つがいとなっています。
クリスマスシーズンによく読まれる洋書・童話のひとつに『小公女セーラ』が挙げられますが、主人公セーラの相棒として登場するのが英国領であったインドを象徴する鸚鵡です。

異国情緒漂う鸚鵡と江戸の色「梅鼠」を一枚の布でひとつにした和の芸術品、半襟の物語性やおもしろさを教えてくれる一枚です。

さて、歌舞伎好きの眼福になればととっておきをご紹介しましたが、いかがでしたか?

ひと月に一度、半襟箱という名のタイムカプセルを開けるドキドキをみなさまともにに…
以上が今月のさとうめぐみの半襟箱でした。

次号は「師走(しわす)」の巻、12月7日二十四節気「大雪」の前日の配信をお楽しみに!

半襟撮影協力/正尚堂

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
さとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)他
アンティーク着物や旧暦、手帳に関する著作本多数!
 

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • マンスリー

HOT KEYWORDS注目のキーワード

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する