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秘めつつもこぼれ出るものに人は惹かれる「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第七夜

秘めつつもこぼれ出るものに人は惹かれる「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第七夜

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長襦袢は、スーツで言うシャツに近い感覚。確かに下に着るものではあるけれど、まったく見えないわけではなく、所作のたびに動く手元や、後ろ姿なら袂にこぼれる色柄など、意外と目につきコーディネートの印象をかなり左右します。

ちらり、秘かな愉しみ 〜裏とか紋とか〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第六夜

動きによってちらりと見える八掛や長襦袢、脱がないと見えない羽裏。小さくとも存在感のある背紋などは、自分からは見えないけれど、人の目にはとても印象的に映る部分だったりする。

例え脱がなくても

気がつけば、今年も残すところあとひと月ほどとなりました。

冒頭でご紹介したのは、冬のひんやりと硬質な空気を染め出したようなクールな配色が個性的なぼかしの付下げと、雪の結晶が描かれた名古屋帯。さりげなく煌めく帯地に織り込まれた銀糸が、より真冬の雰囲気を高めてくれます。
金糸や銀糸が織り込まれた生地は、自然の光とライトの下とでそれぞれ異なった表情を見せてくれるので、それもまた魅力のひとつ。

長襦袢のお洒落

さて、先月に引き続き裏もののお話です。

コートと違い、羽織は室内でも脱がなくて良いので、出かけてから帰宅するまで脱ぐチャンス(?)がないまま帰宅、ということがほとんどではあるのですが、だからといって
何でも良いわけではありません。

例え人には見せなくても、自分自身は脱ぎ着の際はもちろん、部屋でハンガーにかけていたり畳んだりするたびに目にするわけですから、いかにも裏地という適当なものだと、なんだか気分が上がらない。

着ている間も畳む作業も楽しくなる、目に入るたびにふふっと嬉しくなるような、そんな裏地を選びたいですね。

羽織「サリー唐花装飾紋」
羽織「サリー唐花装飾紋」

同系色で品良く、でもさりげなく印象的な鳥獣戯画の羽裏。

小紋羽織「水玉並紋」
小紋羽織「水玉並紋」

ドットで揃えたモダンな組み合わせ。

絞り染め羽織「彩松皮菱」
絞り染め羽織「彩松皮菱」

個性的な表地に負けない、はっと目を惹く鮮やかな色と大胆な唐花。

江戸小紋羽織リバーシブル「小紋寄/花びら」
江戸小紋羽織リバーシブル「小紋寄/花びら」

珍しいリバーシブル仕立て。
まったく違う色柄で仕立てても面白いでしょうね。

襦袢は大事

長襦袢は下着と言われますが、どちらかというとスーツで言うシャツに近い感覚ではないかと思います。

確かに下に着るものではあるけれど、まったく見えないわけではない。
それどころか、所作のたびに動く手元や、後ろ姿なら袂にこぼれる色柄など、意外と目につくので、かなりコーディネートの印象を左右します。

正装は白、ちょっとだけお洒落にするなら薄色の無地、個性的にしたいなら濃色や柄物…というところなども、シャツ選びに似ています。
(ちなみにシャツの場合は白が基本になりますが、着物の場合は白は留袖などの正装向け。クリームやピンク、グリーンなど、薄色で柄感弱めの無地っぽいものがベーシックとされています)

とりあえずは訪問着〜紬まで合わせられる、無地感覚の薄い色のものが一枚あれば事足りるというのも、確かに事実ではあるのですが…袖口や袂にこぼれる色柄の、鮮やかな効果も捨て難い。

それを知ってしまうと、無難な襦袢がちょっと物足りなくも思えてくるのではないかと思います。

また、見た目のことだけでなく、下に着るものである以上、長襦袢は着物より肌に近いので、やはり汗や汚れなども気になりますよね。
何枚か襦袢を用意して半衿を付けておくと、順番に着られて便利、という実用的な側面からも(この辺りもシャツに近い感覚ですね)襦袢の充実をおすすめしたいところ。

女優さんがメディアでお着物を着られる際、ご用意をさせていただくことがありますが、その場合も、長襦袢は結構大事な要素です。

雑誌など静止画像の場合は省略することもありますが、舞台挨拶やトークショーだったり、テレビ番組などでお話されたりといった“動く”ことが前提の場では、360度全方位から撮影される可能性がありますから、どこからどう映されても大丈夫なようにしておかなくてはいけません(一般人である私たちが日常に着物を着る際も同じですね)。

特にテレビなどでは、上半身がアップになったりお話ししながら手を動かすことも多くなるため、手元の長襦袢が映る可能性が高くなります。
目につきすぎて邪魔をしてしまうほど強烈な色柄を選ぶことはまずないですが、ちらりと見えたときに綺麗な色合わせや、効果的なアクセントになる色などを、その場やお着物に合わせて選ぶようにしています。

特にお着物に詳しく、こだわりのある方の場合は襦袢も2~3種類ご用意して、当日ご相談して決めることも。

例えば、襦袢を鮮やかな赤にして、赤の絞りのある帯揚げを胸元に入れるとリンクして綺麗ですね、とか、反対に、帯揚げ帯締めは抑え気味にして、襦袢の赤と草履のつぼの紅とをリンクさせましょう、とか。
あるいは、帯揚げの赤だけを際立たせたいなら、襦袢は淡い色で馴染ませましょうか…とか。

こんな風に、帯揚げや帯締めなどの小物を選ぶ際の判断材料になったりもするので、襦袢は大事な要素のひとつなのです。

例えばこんな、濃紺に黒の格子が織り出された艶やかな御召。
モダンなワンピースのようでもあり、また大人っぽい小粋な着こなしもできそうです。

〜赤の効果〜
クリスマスをイメージして

クリスマスをイメージして

どことなくツリーを思わせる鱗に、雪の結晶みたいな華紋が散らされた塩瀬の染め帯を合わせて。

同系色の組み合わせに、鮮烈な襦袢の赤を効かせたら一気にクリスマスモードな装いに。

柄じゃない、見立ての面白さ

格子も鱗模様も、当然季節感のない文様ですから、袷の季節であればいつだって着られる組み合わせ。

それこそが、そのものずばりの柄じゃない、見立ての面白さと言えますね。

〜可愛すぎても大丈夫〜
お正月らしい宝尽くし

お正月らしい宝尽くし
可愛らしい淡いピンク地に宝尽くしの長襦袢

お正月には、こんな可愛らしい淡いピンク地に宝尽くしの長襦袢を。

表地として着るにはちょっと気恥ずかしいような愛らしい柄もシックな着物に合わせれば、ちょうど良い加減になりますね。
笹飾りの染め帯で、おうちで過ごすお正月や初詣、新春歌舞伎などに。下着や足袋とともに襦袢を新調して、心新たに新年を迎えるのも素敵ですね。

例えば、柄は気に入っているのだけれど可愛すぎてもう着られない…そんな小紋などがあれば、洗い張りして、長襦袢に仕立て直すのもひとつのアイデアです。
(あまり分厚い生地はNGなど、素材によって向き不向きがありますが)

〜柄を重ねて〜
モノトーンでモダンに

柄を重ねて

個性的なモノトーンの幾何学柄の帯を合わせるなら、長襦袢でも遊びを添えたい。

その表情まで生き生きと感じられる、黒地に白で染め抜かれた鳥獣戯画の長襦袢を合わせて。

アートに浸るお出かけにいかがでしょうか

美術館やギャラリー巡りなど、アートに浸るお出かけにいかがでしょうか。

裏遊び、いろいろ

私自身は、無地感覚のシックなものが好きな分裏で遊ぶことが多いですが、あまり主張が強すぎるものよりは、さりげなくアクセントになるくらいが好み。

菊花の背紋を入れた黒の羽織

大きな菊の葉が織り出された生地に、アシンメトリーな乱菊の背紋を入れた黒の羽織。

羽裏に用いたのは長襦袢地。
私は長めの羽織が好きなので、通常の羽裏だと長さが足りない場合が多いですし、現在羽裏として作られているものは、その数自体が少ないので裏には長襦袢地を使うことが多いです。

半分は羽裏に、半分は八掛にしたりして。

黒と紫に染め分けられた襦袢地

黒と紫に染め分けられた襦袢地を、左右の袂にそれぞれの色が出るように仕立てました。

こういった柄を襦袢に仕立てる場合も、左右の袖口の色が変わるように仕立てると、装いの効果的なアクセントになるのでおすすめです。

紅葉が刺繍された絵羽の羽織

はらはらと散る紅葉が刺繍された絵羽の羽織には、墨描きの秋の景色に秋の風景を歌った和歌を添えた羽裏を。
(この羽織は、残念ながら、今年は出番がないまま季節が過ぎてしまいましたが…)

八掛に付けたものは、“額裏”と呼ばれる絵羽の羽裏

本稿のプロフィール画像で私が着ている、大小霰に南天の小紋。

手元にも絞りが出て来るように、仕立てをしてもらいました。

八掛に付けたのは、もとは男ものの“額裏”と呼ばれる絵羽の羽裏です。

絞りで表現された、リアルじゃない、ぼやんとした(笑)富士山のシルエットが気に入って求めていたのですが、なんとなく羽裏にするのはピンと来なくて、そのまま数年保留にしていました。

この小紋を仕立てるにあたって、ちょうど色がぴったりだし、南天と富士山でめでたい繋がりも良いなと思ったので八掛にすることに。手元にも絞りが出てくるように、仕立ての方に少し無理を言ってやりくりしていただきました。

季節のコーディネート
〜冬の白、冬の色〜

冬を満喫するコーディネート

白や寒色は、暑い時期に涼感を感じさせるものと思われがちですが、あえての真冬の白や寒色の着こなしって素敵だなと。

ほっこりとした手触りが魅力的な結城紬。
白地に白の刺繍を重ねた袋帯は、ナチュラルな素材感が素朴な温かみを感じさせ、クール過ぎない白の組み合わせに。

爽やかなミントグリーンに蛍ぼかしの羽織を合わせて、クリスマスイベントでもそうでなくても、冬の気配を体現したような新鮮なコーディネートが楽しめます。

モミの木みたいなグリーンの紬。

繊細なグラデーションで織り成された、モミの木みたいなグリーンの紬。
合わせたのは、色とりどりのオーナメントのように、ポップでカラフルな市松模様の袋帯。

闇夜に舞い散る粉雪を思わせる黒地の羽織、黒や金茶の小物遣いで引き算しつつ、イベント気分を盛り上げる冬の色遊び。

前回、今回と続けてご紹介したのは、いわゆる「裏勝り(うらまさり)」と言われる日本人特有の美意識。

奢侈禁止令に反発した江戸の裕福な商人が裏に凝った、とか、遊里で脱いだ際におっと思わせるために裏にこだわった、とか、その起りと言われる説はさまざまありますが、日本人の美意識において、見えない(あるいはほんのちらりと見える)ところへのこだわりはもともと強かったのではないかと思います。

古くは“かさねの色目”に代表されるような、表と裏の色の取り合わせ。
鎧兜の内側に描かれた、祈りを込めた文様もそう。

江戸の女性たちが、着物の裏地や下着に紅花で染めた紅絹(紅には魔除けの力や身体を冷やさない効果があるとされていた)を用いたり、防寒のために数枚を重ね着する際に、渋い無地の着物の下に柄の着物を着たりする着方にも、その美意識を感じます。
(生命の危険が常につきまとっていた時代ですから、装飾目的というよりも身を守る、実用としての意味合いが濃いにしても)

あからさまに見せない秘めたものへの愛情やこだわり、そしてその背景や根底に流れる意味。かなりマニアックだけど、日本人の美意識の、とても特徴的な部分が脈々と受け継がれていて面白いなと思います。

さて、次回の第八夜は…

「あえて、はずす」ということ。

揃えることが、必ずしもすべて美しいわけじゃない。
ほんの少しのずれが生み出す美もあるんじゃないかな…

メディアでも街中でも、普段よりは少し着物姿を見ることの多くなるこの時期に、ちょっとそんなことに触れてみたいと思います。

京都きもの市場 長襦袢
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