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羽織のおしゃれは、ここがポイント! 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.12

羽織のおしゃれは、ここがポイント! 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.12

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はやいもので、歌舞伎座の公演も一年の締めくくり、『十二月大歌舞伎』を迎えます。ようやく少しずつ日常が戻りつつありますが、まだまだ気軽にお出かけというわけにもいきません。せめて12月は楽しい舞台を見て、大変だった一年を乗り切ったご褒美にいたしましょう。

紅葉柄のきもの

花魁の装いは夢を見るための世界のもの。私たちがまねするわけにはいきませんが、ここはひとつ、浦里の衣裳にちなんで、紅葉の文様を取り入れるのはどうでしょう。ちょうど、楓が色づき始めるころです。

一年の締めくくりは歌舞伎座で

はやいもので、歌舞伎座の公演も一年の締めくくり、『十二月大歌舞伎』を迎えます。

ようやく少しずつ日常が戻りつつありますが、まだまだ気軽にお出かけというわけにもいきません。せめて12月は楽しい舞台を見て、大変だった一年を乗り切ったご褒美にいたしましょう。

まずご紹介するのは、第二部から『男女道成寺(めおとどうじょうじ)』。

「道成寺」といえば『京鹿子娘道成寺』が有名ですが、「道成寺もの」はいくつも種類があり、これは男女ふたりの踊りです。

冒頭では白拍子姿の花子(中村勘九郎)と桜子(尾上右近)。ところが桜子の正体は狂言師左近で、途中から男の姿に変わり、ふたりで「道成寺」を踊ります。

続いては第三部の『信濃路紅葉鬼揃(しなのじもみじのおにぞろい)』です。

能の「紅葉狩」が原作で、鬼女を坂東玉三郎が踊ります。
これも複数のバージョンがあり、『信濃路―』は能衣裳を用いるところに特徴があるようです。信州、戸隠山に紅葉狩りに来た平維茂(中村七之助)は、侍女を連れた高位の上臈(実は鬼女)と出会い、酒宴に招かれます。
やがて、正体を現した鬼女が維茂に襲いかかり、大立廻りとなるのです

厄除けの「鱗文」

このふたつの舞踊劇の衣裳には、共通の文様が登場します。
それは「鱗(うろこ)文」です。

鱗紋

『男女道成寺』では、最後の、左近が清姫の亡霊に変じる際の衣裳に、黒と金の鱗文が使われています。清姫は蛇の化身なので、鱗文で蛇を表しているのです。

そして、『信濃路紅葉鬼揃』では、高位の上臈の一行が唐織の装束の下に、鱗文のきものを着ています。

上臈は銀の鱗文、侍女たちは金の鱗文。鬼女に変化すると、大きな三角の中に花の文様を織り出した鱗文の衣裳に。能では嫉妬や恨みを持つ鬼女が鱗箔の装束をつけるのだそうです。

「鱗文」は三角形をつないだもので、魚や蛇の鱗を模したといわれます。

有職文様や名物裂にも見られるように、古くからある文様で、呪いや魔除けの力があるとされ、武具や陣羽織、紋章などにも用いられました。

来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の主人公、北条義時の北条家は、三角形を3つつないだ「三つ鱗」を家紋にしています。
また、厄を落とし、再生するという意味もあります。

白生地の地紋に、きものや帯の組み合わせの文様として、長襦袢や羽裏に。
きものの世界ではとてもなじみ深いですね。

リズミカルでバリエーションも豊富、取り入れやすい文様なので、お好みのものをお選びください。

このコロナ禍の〝厄除け〟にぴったりかもしれません。

鱗紋

羽織のかなめは丈と乳の位置

さて、11月に入り、気温もだいぶ下がってきました。はおりものがほしい季節です。
今回は羽織の装いのコツをお伝えしましょう。

羽織が似合うようになるのは、ある程度年齢を重ねてから。
丸くなってきた背中をカバーしてくれるのです。お若い方はスタイルがよろしいのですから、羽織で隠してしまうのはもったいないです。

羽織は文字通り羽織るもの。袖山の線が肩の真上にのらないように着ます。そうすると裾が後ろ下がりのラインになり、自然と衿の左右の先が前で合わさります。
「裾つぼまり」です。

丈は流行もありますが、膝裏の長さが適当です。
小柄な方は少し短めでもよいでしょう。丈が長すぎると、歩くたびに羽織の裾がひらひらと開いてしまい、美しく見えません。

羽織でもっとも重要なのは、丈と乳(=ち、羽織の紐をつけるところ)の位置です。

乳の位置は、帯の上線あたりです。仕立て上がりの品では、これより下に付いていることが多いので、気を付けてください。

下すぎると胸のあたりが開いてしまいます。

羽織紐にも十分、意を用いてください。

女性なら、華奢(きゃしゃ)なものがおすすめです。
頻繁に交換するものではありませんから、どんな装いにも溶け込む、あまり主張しないものがいいですね。羽織の中から1色をとるのも、反対色を使うのもよいでしょう。

ほっそりした羽織紐は、案外、古いものの中に見ることができますから、アンティークのお店や骨董市などをのぞいてみてはどうかしら。
ネックレスやブレスレットの細い金の鎖も、羽織の紐として使えます。

羽織を着ると、帯の周りに色や紐が重なります。
きょうは羽織を脱がない、という日なら、豪華な帯はしない、帯揚げは見せない、帯締めは目立たせない、などを意識すると、バランスがとりやすくなります。

さらに、なるべく背中は平らに近いシルエットになるようにするのもポイントです。帯枕を薄くしたり、お太鼓の位置を少し低くしたり、と工夫してみましょう。

加えて、仕草も大切です。

コートと違い、羽織は部屋の中で着ていてよいものです。体感に合わせて着たり、脱いだり。さりげなく脱ぎ着できるよう、慣れておきましょう。座るときには、裾をお尻の下に敷かないように。

いずれも、エレガントに、です。

美人画に見る黒の羽織姿

最後にとっておきのおしゃれをご紹介しましょう。

みなさんは、近代美人画の名手、鏑木清方(かぶらぎきよかた)の『築地明石町』をご覧になったことはおありでしょうか?

単衣の水色の小紋に黒羽織、素足に下駄の女性―
袖をかきあわせた姿がちょっと寒そうな朝です。黒羽織の振りから、ちらりと赤い色がのぞいています。

黒の羽織はいいものです。
洋服で黒のジャケットが一枚あれば重宝するのと同じこと。

もし、黒の羽織をお持ちでしたら、そしておばあさま、おかあさまの簞笥から紅絹(もみ)が見つかりましたら、振りに紅絹を付けてみてください。紅絹の布幅は多くいりません。内側は幅5㎝ほどあればよく、表からほんのぽっちり見えるように縫い付けます。

年を重ねたら、紅絹から錆朱(さびしゅ)に。粋な羽織姿の出来上がりです。

一年の締めくくりに、どうぞおしゃれをして、歌舞伎座へお出かけくださいませ。
鱗文で厄を落として、スッキリと新しい年を迎えたいものです。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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