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『çanoma』クリエイター 渡辺裕太さん(前編) 「彼らが”和”を想う理由」vol.1-1

『çanoma』クリエイター 渡辺裕太さん(前編) 「彼らが”和”を想う理由」vol.1-1

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茶道、茶の間、『çanoma(サノマ)』。クリエイター渡辺裕太氏による「上質な日常」をテーマにした香りは、日本人の感性とフランスの技術が溶け合い絶妙なさじ加減のもと誕生した。モードに着物を纏う裕太氏との時間を。

両極の存在

陸上100メートルでインターハイまで出場し、体育会系かと思いきや、東大の理系に入学。
外資系金融会社に勤める左脳派エリートかと思えば、今や香水業界に新たな風を吹かせているのが『çanoma(サノマ)』クリエイターの渡辺裕太氏だ。

すでに文武両道は超越し、誰もがうらやむ輝かしい経歴に飽きたらず、次に彼はどこへ向かうのか…

今に全力集中していながら、思い描くのはもっとずっと先。思考を張り巡らせながら、自身の衝動や感性を最も大切にしている。冷静でありながら、熱い。裕太氏のなかには常に両極がある。

彼がディレクションする香りには、左脳と右脳、上質と日常、フランスと日本、様々な対極のエッセンスが溶け込んでいる。

それは、纏う人それぞれの生活に寄り添うだろう― 

おのずとそんな印象を抱く。

そんな彼に、「和を想う理由」について尋ねてみた。コロナ禍の影響でフランスに戻れず日本に足止めされるなか、着物姿での登場だ。

サノマ 渡辺裕太氏

『çanoma』生まれる

『çanoma』の香りは、裕太氏の個人的な感動が出発点となり作られている。

まずは自身の鼻で嗅いで、香りを全身で感じ、存分に味わってみよう。みなさまはどちらの香りに刺さるだろうか。何を感じるだろうか。

サノマのボトル

1-24 鈴虫

スパイシー・オリエンタル
サフラン、オークモス、アンバー
夏の終わり、うだるような暑さは健在、じめっとした空気が肌にまとわりつく。そんな中、ほんの刹那、秋の到来を告げる乾いた風が通り抜ける。

2-23 胡蝶

ウッディ・スパイシー
山椒、ローズ、パチュリ
ポルトガルはシントラ。霧が立ち込める森の中を歩いていた時に、ふと、幼少期に山椒の葉の上に見つけたアゲハチョウの卵を、蝶にまで育て上げた思い出がよみがえった。

3-17 早蕨

ウッディ・フローラル
青リンゴ、ヴァイオレット、松
寒い冬の朝、ふと目が覚めると、窓から柔らかな、そしてほのかに温かい光が差し込んでいる。がらんとした部屋の中には、アイロンが丁寧にかけれらたシャツが一枚。春はすぐそこに。

4-10 乙女

フローラル・マリン
イランイラン、グリーンノート、マリンノート
「トランクをこじあけてみると、宛名はピエトロ・クレスピだが一通も出したことない手紙が、みずみずしい白百合の花にはさまれ、まだ涙に濡れたままの状態で、ピンクのリボンで束ねられているのが見つかった。」(『百年の孤独』ガルシア・マルケス 訳:鼓 直、新潮社 2006年)

彼が最もやりたいことは、ただただ”良いものづくり”。

住まいを構えるフランスのエッセンスに、日本で生まれ育った彼の琴線が共鳴し振動した経験がクリエイションのアイデンティティである。

『çanoma』の”和”とは

”日本らしさ”、”和”を連想すると、なぜか日本の古典的なものに安易に陥ってしまう。例えば空港にあるようなお土産屋さんのような。

では、『çanoma』から感じる日本とは。

裕太氏が”和”に興味を持ったのは「器(うつわ)」が入り口だったという。きっかけは三井美術記念館の「楽茶碗」の展示。

「この美意識ってなんだろう、その中で価値の高低がある、この世界観ってなんだろう、知りたい」

千利休が大成させた茶の湯の世界に興味を持ち、そこからお茶の稽古に通うようになり、着物と出会う。

「日本人が”和”を発信するとなった時、伝統的なものやクラシックなものをばかり発信しがちだなと。
ANAでフランスから帰国した際、客室の機内安全に関するビデオが歌舞伎だったんです。一方でエールフランスの方は、伝統的な要素が一切ないのにすごく”フランスぽいな”と感じさせられて。現代におけるフランスらしさやパリらしさを、うまく発信しているなと思いました」

”和”=伝統的というのは必ずしもすべてではない、こう語る裕太氏。今の日本が持っている良さやおもしろさこそ、本来”和”として発信していくことではないか。

「日本で生まれ育った”私”というフィルターを通すことで、クリエイションにおける哲学や軸となるものが十分にあれば、あえて、”桜”や”歌舞伎”などのアイコニックなテーマに頼る必要はない」

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自分の琴線がどう共鳴するかこそ、今の日本的なものなのではないか。

香水と着物① 4種の香りを着物に例えると

香りを纏い、着物を纏う―

裕太氏は、茶道をきっかけとして、ときにワードローブのひとつとしてご自身も着物をお召しになっているようだ。

そこで、チャコールグレーの小紋に紹巴織(しょうはおり)の袋帯という和姿で臨んだ筆者に、おすすめの香りを選んでもらった。

裕太氏に香りをセレクトしてもらう
(筆者)着物:絞り染色作家 藤井浩 帯:大倉織物 誠之輔 (渡辺裕太氏)羽織と着物:祖父譲りの結城紬

シックな着姿そのままを演出するのであれば『2-23 胡蝶』。逆に、着姿に華やかさを添えるイメージであれば『3-17 早蕨』とのこと。

そこで、「それぞれの香りから連想される着物のイメージ」も伺ってみた。

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『1-24 鈴虫』― 結城紬

ざっくりと重厚な感じ

『2-23 胡蝶』―大島紬

さらっと滑らかな感じ、きりっと紋付袴の男性も

『3-17 早蕨』―浴衣

上質かつ華やかでかっこいい感じ、以前目にした大きなシャモが描かれた浴衣を回想

『4-10 乙女』―振袖

華がある、表には明るさをまとい裏にはかっちりメンズライクな要素も

自身の雰囲気と合わせて、”近しいイメージ”を香りとして纏うのがひとつ。
あえて”反対のイメージ”を纏うのも、またひとつ。

自身がどうありたいか、その時の気分も反映させて自由に選んでみよう。

『çanoma』のクリエイション

では、”良いものづくり”とは一体どういうことなのか深堀りしてみよう。

香水業界の話でありながら、他の業界でも同様なのかもしれないと思わせる。モノからコト、ストーリーや共感が大切と言われる昨今に一石を投じる、クリエイションに対するこだわりとは。

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さりげなく、『çanoma』のブランドネームが記されたネイル

「例えば水が入ったグラスがあります。「これをテーマに香水を作ってください」となった時に、解釈の幅はいくらでもあるので誰でも作れる。本来、”インスピレーションソース”自体は重要ではなく、そこがスタートであったとしても、その後プロダクトがどうやって良いものになっていくかが重要だと考えています」

”良いクリエイションとは何か”
”どうやって良いものにするか”

この定義をクリエイター自身が持っているかが大切、と言う裕太氏。これ無くしては、ただ奇抜なテーマを求めるだけになってしまう。

「良いクリエイションであれば、本来発信する必要もない。極論で言うと「良いものを作りました」で良く、テーマは本来重要ではない。
このプロダクトが好き、良いプロダクトだと思う、…でどういう背景なんだっけ。本来これが、プロダクトとその裏にあるストーリーのありかたです。

でも今は真逆になっている。あんなストーリーの香りを嗅いでみたい、という”ストーリー先行型”ですね。しかしクリエイションにおいてまで”モノ”でなく”コト”を優先してしまうと、ものづくりの質は圧倒的に落ちてしまいます」

「ストーリーとブランドイメージだけが先行してしまい、本当に良い香りとは何か?を知るチャンスがないのは、とても残念なことだと思っています。
だからこそ、自身がそれぞれの香水を作るにあたってもちろん一番最初のインスピレーションはあるけれども、そこはあまり強調したくないんです」

良いクリエイションを追い求める裕太氏

香水と着物② 着物の時に纏う香り

裕太氏に香水について伺う

洋服の時と同様に、着物の時にも香りを楽しむとしたら。

そもそも着物の時に香りをつけてもいいのか、生地に影響はないのか、大変気になるところである。おすすめの纏い方を教えてもらった。

着物のときの香りの纏い方

・あらかじめつける
 着物を着て最後の仕上げにではなく、着物を着る前の下着の状態でつける。

・首筋につける
 (手首につけると)手首は動くので、その分周りにとても香る。着物の時以外でも言えるが、周りにやわらかく、かつ自身が香りを楽しみたい時におすすめ。

・噴射したまま
 シュッと噴射したら決してこすらない。そのまま乾かすのが理想。

生地への着色は、直接噴射しない限りは大丈夫。また肌についたものが生地に色移りすることはほとんどない。香水によっては着色されているものもあるので、気になる方は透明のものを選ぶと良いだろう、ということだった。

続く後編では、裕太氏が香水のクリエイションに至るまでのストーリーと今後の展望、「着物と香水」に関してもさらに伺っていきます。

ポップアップのお知らせ

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【神戸】折角堂
2021年9月18日~20日

〒650-0011 兵庫県神戸市中央区下山手通4丁目1−6 清山ビル2階東
https://www.sekkakudo.com/
※渡辺裕太氏終日在店

【富山】greenroom
2021年10月2日~3日

〒930-0083 富山県富山市総曲輪3丁目2-15
https://www.makes.jp/fs/makes/c/greenroom
※渡辺裕太氏終日在店

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