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鍵善良房15代目当主・今西善也さん(後編) 「京のつくり手語り」vol.6

鍵善良房15代目当主・今西善也さん(後編) 「京のつくり手語り」vol.6

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美術館「ZENBI- 鍵善良房 -KAGIZEN ART MUSEUM」を作ることで今西善也さんが伝えたかったこととは。開館記念特別展第二弾は鍵善良房の紙袋のイラストでも所縁の深い山口晃のエキシビション。展覧会とあわせてお楽しみいただける特製和菓子もご紹介します。

今西善也さん

「鍵善良房」の15代目当主で、2021年1月にオープンした美術館「ZENBI- 鍵善良房 -KAGIZEN ART MUSEUM」の館長も務める今西善也さん。伝統を受け継ぎながら、時代の風をつかむことに長けたバランス感覚の奥に息づく、ものづくりへの想いを伺いました。

この人が守っているのは自分の店やお菓子だけではなくて、祇園という町のあり方や「京都らしさ」のような曖昧で輪郭は掴めない、けれども確かにそこにある、そんな何かなのではないだろうか…

というのが、私が以前から善也さんのSNSでの発言に触れるなかで抱いていた印象。

だから、そこに行けば感じることができる「場所」を残す役割も「ZENBI- 鍵善良房 -KAGIZEN ART MUSEUM」にはあるのだと伺って、すとん、と腑に落ちたのでした。

和菓子屋がなぜ今、美術館なのか

もともと、アート系のレンタルスペースとして利用していた建物を改装して「ZENBI- 鍵善良房 -KAGIZEN ART MUSEUM」は誕生しました。

ZENBI外観

「構想は5年くらい前からありました。きっかけは鍵善良房の12代当主と交流の深かった、京都生まれの人間国宝・黒田辰秋さんの作品を多くの方に見ていただき、黒田さんのことをもっと知ってもらえる場所を作りたいという想いです。ZENBIでは鍵善良房が所有する黒田さんの作品を中心に、この町、この場所に息づく日常の暮らしの中にある美を後世に伝えていければと考えています」

自然光が差し込む館内は壁の色や床材などに温もりが感じられ、小さなテーブルと椅子が置かれたスペースにも、ついさっきまで誰かがお茶でも飲んでいたような雰囲気が漂います。
三つある展示室の一つにはすっきりとした陳列棚に美しい螺鈿の黒田作品が並んでおり、暮らしの中にある美、とは言い得て妙。

今西善也さん

今回の改築に当たり、善也さんが最も心を砕いたのは「街並みを崩さないこと」。
館内には実家にあった棚や古道具などを配し、祇園の街並みを感じながら静かにゆっくりと過ごせる空間を目指したそうです。

ZENBIの館内

鍵と打ち出の小槌の意匠が印象的な金具もその一つ。
これは「自在鉤(じざいかぎ)」といって、囲炉裏の上で鍋や湯釜などを吊るし、高さや向きを自在に動かすために梁に取り付けられていたもの。

囲炉裏を知らない世代にもアイコニックな美しさは響くようで、写真を撮る来館者の姿も見られました。

手提げ紙袋でおなじみの

開館記念特別展第一弾の黒田辰秋展に続いて七月から始まったのが山口晃のエキシビション。
鍵善良房の手提げ袋に描かれている、カフェでお茶をするおじいさんの絵の作者といえば、ピンとくる方も多いのではないでしょうか。

展示室を訪れた今西善也さん

「山口さんの作品は僕も大好きで、うちの店の紙袋の絵を描いてもらってるご縁でいつか展示をやりたいと思っていたんですが、黒田辰秋さんに続いて第二弾の展示に登場となりました。好カードを切り続けてしまったので、来年の企画はどうしよう!って実は焦ってます(笑)」

山口晃の作品一部

「山口さんのすごいところは細部にまで技術が盛り込まれていて、僕のように普通の人が見ても、プロの人が見ても楽しめる、誰が見てもいいなと思える大衆性があるところだと思う」

と思わず原画に見入ってしまうシーンも。

作品に見入る今西善也さん

「この展示室だけでも相当な点数ですが、前期・後期でほぼすべての作品が入れ替わるため、ぜひともどちらの会期中にも足を運んでいただき、山口さんの作品が放つ多彩な魅力に触れていただきたいです」

「手のひらに乗るギフト」を探して

美術館を訪れたなら、隣接するミュージアムショップ「Zplus(ジープラス)」にも立ち寄るのをお忘れなく。

「手のひらに乗るギフト」がコンセプトの店内には、ここでしか買えない鍵善良房のお菓子、黒田辰秋の作品集やオリジナル文具など、限定アイテムが揃います。

展示会特製のお菓子6種

ZENBIの入場券に付いてくる鍵善良房の代表銘菓『菊寿糖』を一回り小さくした『菊寿糖 小菊』も、Zplusでは箱入りでご用意。

展示会特製のお菓子6種

店内中央のテーブルに鎮座ましましている和菓子は山口さんのアイデアスケッチをもとに鍵善良房で誂えた特別なもの。
生菓子4点(菓子の下に檜葉が敷いてあるもの)を会期中の水曜と土曜にだけ箱入りで販売しています。(緊急事態宣言の発令を受け、9月より当面の間、販売日は土曜日のみとなっております。)

なかでも手のひらにお迎えしたくなるのがこちらの薯蕷饅頭。
指で衝かれて「はあ」とためいきを吐いている挿絵から生まれた「ためいきちゃん」。
頭のてっぺんがツンと立っているフォルムとユルイ表情がたまりません。

薯蕷饅頭ためいきちゃん

「思い通りにならぬときなど、ため息の一つくらいはつかせてもらって、さっさと次へまいりましょう」との山口さんの言葉が添えられていました。

なんとも今の気分にぴったりなお菓子。こうした試みができるのも鍵善良房が手がける美術館ならではのコラボレーションかもしれません。

「Zplusでは曜日限定での入荷となりますが、限定菓子のうち、ためいきちゃんや落雁は本店にて毎日販売しております。お菓子から美術館へ、美術館から本店へと足を運んでいただけるきっかけになればと思います」
と善也さん。

美しい祇園の町を楽しみながら巡ってもらえること必至。そして、新しく生まれ変わったこの場所が本店同様、皆様にとって着物を着て出かける理由の一つになったら素敵だなと思ったのでした。

撮影/スタジオヒサフジ

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