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あの『ミズノ』が生み出した雪駄?和職人との二人三脚で見えてきた、ものづくりの意義

あの『ミズノ』が生み出した雪駄?和職人との二人三脚で見えてきた、ものづくりの意義

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大手スポーツメーカーのミズノが大和工房と開発した新時代のフットウェア『SETTA C/6』。日本伝統の履物・雪駄に着目した理由とは?ミズノが目指す未来と、最新技術を活かしたものづくりの裏側に迫ります。

「現代の生活者に向けた商品を」ミズノと大和工房の出会い

雪駄

東京2020オリンピックの開催や、大正時代の日本を舞台とした『鬼滅の刃』の大ヒットにより、世界からあらためて注目を浴びている日本の文化。
特に和服、和モチーフの雑貨や小物を取り入れるのはもはや一部の愛好家だけでなく、若い男女や外国の方にまで広がりをみせています。

そんな中、大手スポーツメーカーのミズノが奈良の雪駄(せった)メーカー「大和工房」とのコラボレーション商品『SETTA C/6』を発売。天下一の茶人・千利休の考案で生み出されたとも言われる雪駄は、古来より防水に優れた履物として日本人に愛されてきました。

「きものと」では、『SETTA C/6』の開発に携わったミズノ商品企画担当・三浦さんにインタビューを実施。
「あのミズノが、なぜ雪駄を?」という素朴な疑問を投げかけます。

ユニセックスは男女ともに使いやすいネイビー。鼻緒は市松模様
ユニセックスは男女ともに使いやすいネイビー。鼻緒は“縁起が良い”とされ、オリンピックエンブレムにも用いられている市松模様

1906年の設立から長年スポーツグッズ、スポーツウエアなどのスポーツに関わる製品の製造・販売に携わってきたミズノ。
三浦さんによると、近年ミズノは雪駄にかかわらず、「スポーツ品製造で培った技術をスポーツ品以外の用途で活用した新たな商品展開」を検討していたそう。中でも野球バットやテニスのラケットなどスポーツ用具の部隊に所属する三浦さんは、軽さと弾性を兼ね備えた”カーボン技術”を使った商品を企画していました。

「ウォーキングシューズやウォーキングポールなど、これからはスポーツに関わる人以外の“生活者”に向けた商品も普及していきたい。ミズノが蓄積したノウハウを活かしたものづくりで、社会貢献できればと思っております」

『SETTA C/6』ウィメンズ
『SETTA C/6』ウィメンズ

そんなミズノと、奈良県三郷町集積地の和履きメーカーである大和工房の出会いは運命的なものでした。偶然大和工房と接点を持ったミズノは、“現代のライフスタイルに合った新たな雪駄を普及させたい”という大和工房の想いを知ったのです。

それがミズノの「スポーツからライフスタイルへと」いう考えとマッチング。ふたつの会社は『SETTA C/6』開発に乗り出しました。

MIZUNOと大和工房が開発した次世代の雪駄『SETTA C/6』
麻調の織物を採用したブラウンのフットベットとホワイトの鼻緒が涼しげ。赤色の前坪がワンポイントに

顧客から予想以上の反響も

『SETTA C/6』はつま先部が高く、中足部を下げたアーチ形状が特徴的
『SETTA C/6』はつま先部が高く、中足部を下げたアーチ形状が特徴的

115年の歴史の中で、プロ野球選手のバット削りやマラソン用シューズ製作のような”クラフトマンシップ”を大切にしてきた側面と、水着素材や軟式用バットのような”テクノロジーの進化”を続けてきた側面を持っているミズノ。

テクノロジーの進化のひとつとして、ゴルフのシャフト、テニスラケット、野球バット等にカーボンを使用。素材の特性や加工に関するノウハウを蓄積しながら、その軽さと弾性によってスポーツ用品を進化させてきました。

そして、カーボン繊維にやわらかくなったプラスチックを染みこませて固めた「カーボン繊維強化プラスチック(CFRP)」は、軽量かつ高強度という特長から飛行機や鉄道車両、自動車、電化製品など、あらゆる分野において金属の代替素材として大きな期待を寄せられています。
すでにTOYOTA「MIRAI」用高圧水素タンクのパーツ、ETC開閉式阻止棒などの生産をミズノテクニクス(株)が行い、本格的なカーボン事業をスタート。

ミッドソール部分には低反発発泡ウレタンを採用し、足の疲れにくさを実現している
ミッドソール部分には低反発発泡ウレタンを採用し、足の疲れにくさを実現

そのためミズノの用具開発チームのメンバーには、アイデア段階での構想のひとつに「靴にカーボンを使う」という考えがあったといいます。

実際に商品の開発を進めていく中で、インソール内部に「カーボン繊維強化プラスチック」を採用。これにより「つま先の形状の進化による歩きやすさ」や「芯材のヘタリを軽減させる」などの効果を得ることができました。

ミズノ内部でも期待値が高く開発に向けて盛り上がりを見せていた一方で、雪駄にインスパイアされた商品がすでに他からも出されていたこと、すでにビニールや合成樹脂製のサンダル文化が定着していることなどから、あらためて『SETTA C/6』が世間の人に注目してもらえるかが不安点だったといいます。

コルク材を使用したアウトソールには、共同開発の証としてMIZUNOと大和工房のロゴをプリント
コルク材を使用したアウトソールには、ミズノと大和工房のロゴを

「手応えを最初に感じたのは、2019年にミズノ直営店舗にて行ったテスト販売です。
当時はインバウンド需要も予想し、27.0cm以上の大きなサイズのみを取り扱いましたが、日本人のお客様から予想以上の反響を得ることができました。

日本の伝統である雪駄を長年作り続けて来られた大和工房様と、スポーツ品のテクノロジーをスポーツ以外の商品に展開させようとしたミズノの共同開発によって、日本企業ならではのお互いの強みを活かした商品になったと感じています」

そこで2020年には、直営店以外にもビームス、mita sneakers、オッシュマンズなどでも商品を展開し本格的に販売を開始。250足もの売り上げを出すことができました。

そして3年目に突入した2021年には、ジェンダーレス仕様で再発売。初回生産分はインターネット販売の在庫がほぼ完売の状況になったのだとか。
コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言で実店舗が休業となりましたが、宣言解除後は実際に手に取っていただく機会も増え好評。最終的には1000足以上の販売数量になると見込まれています。

和職人との二人三脚で見えてきた、ものづくりの意義

数名の職人がひとつひとつ丁寧につくりあげた『SETTA C/6』。

完成までの道のりは想像以上に時間がかかり、特に従来の雪駄よりもアームの角度が強く、作業には苦労も伴ったと三浦さんは語ります。

2021年より発売されたユニセックスの『SETTA C/6』
2021年より発売されたユニセックスの『SETTA C/6』

「実際に現場にも赴き、職人さん達と密にコミュニケーションを取るように心がけました。
生産数が伸びていることを報告するたびに喜ぶ顔を見れたのがうれしかったですね。川上から川下まで多くの方に喜んでいただけているのが、間に立っている私としてはとても幸せに思います」

特にこの開発で強い意義を感じたのは、日本の伝統的な履物である雪駄を老若男女問わず幅広い方たちに興味を持ってもらえたこと。
普段から和装で過ごしている人だけではなく、洋服文化が発展した現代でも雪駄のすばらしさを伝えられたことは、日本文化の伝承にも繋がります。

鼻緒の先端・先緒にはポリエステル起毛PU加工を施す
鼻緒の先端・先緒にはポリエステル起毛PU加工を施す。肌触りが良く、たくさん歩いても痛みが出にくい仕様

今後は海外展開も視野に入れ、もっとたくさんの方に『SETTA C/6』を届けていきたいという三浦さん。

「メディアにも多数取り上げていただき、少しずつミズノが大和工房様と共同開発した商品であることが世間にも広まっています。
ただ、パッと商品を見たときに“これはミズノが出したものだ”と気づいてもらえるかは疑問。ブランド力を強め、社員が胸を張って『うちの商品です!』と答えられる基盤を作っていきたいと思っています。」

取材協力/ミズノ

MIZUNO SETTA

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