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鍵善良房 祇園の涼味『くずきり』 「京都・和の菓子めぐり」vol.9

鍵善良房 祇園の涼味『くずきり』 「京都・和の菓子めぐり」vol.9

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例年であれば祇園祭で賑わう7月の祇園。巡行も神輿渡御もありませんが、八坂さんに疫病退散のお参りをした後は、鍵善良房でつるりと喉越しのよい『くずきり』をよばれてみては如何でしょう。街に流れるコンチキチンのBGMに家路への足取りも軽くなりそうです。

7月の京都といえば祇園祭。
今年は伝統技術の継承のため鉾建てが行われましたが、昨年同様に山鉾巡行や神輿渡御など多くの観客で賑わう神事は中止とのこと。

そんな中、疫病退散のお参りに八坂神社を訪れる人の姿は静かながらも、熱いものを感じさせます。

参拝後は甘味でクールダウンと洒落込みませんか。

入り口の暖簾

八坂神社から徒歩1分。
創業三百有余年の老舗、「鍵善良房」といえば最も多い反応が「あの、くずきりの」ではないでしょうか。

鍵善良房の店内

夏の暖簾をくぐると、外の明るさから目が馴染むまでに一呼吸を要する店内。
物言わずとも歴史を語る大飾り棚や、螺鈿の施された通い箱、そして美しい生菓子やお干菓子が並んでいます。

鍵善良房の棚

さらに奥に進むと、自然光の差し込む喫茶空間が広がり、どのお席からも美しく手入れされた庭や重厚な扉が印象的な蔵を眺めることができます。

「鍵善良房」の暖簾や調度品に見られる文様は「鍵」。
現代の鍵しか知らない世代にはピンとこないかもしれませんが、これは蔵の鍵をモチーフにしているのだそうですよ。

鍵善良房の喫茶内観

やわらかな絨毯のフロアにゆったりとした配席。
南座に芝居がかかると、着物をお召しの方で店内が賑わう理由もわかる気がします。

喫茶では7割以上の方が注文する『くずきり』。
元々は祇園界隈のお茶屋で食後の甘味として人気を博し、口コミで広まった仕出しメニューで、店先や店内で提供するようになったのは昭和初期のことだそう。

「鍵善良房」の『くずきり』は葛粉と水だけで作られるため、「水を売っている」と皮肉を言われたこともあるのだとか。
製法も原料も非常にシンプルというのは、裏を返せば、それゆえに奥が深く、原料の質も問われるということ。

一口に「葛」といってもさまざま。
「鍵善良房」では滑らかな喉越しと食感、そして特有のコシの強さを求めて奈良吉野・大宇陀産の「吉野本葛」のみを使用しています。水はかつては井戸水、現在は水道水を入念に軟水処理して使っているそう。

当初から一貫して、注文を受けてから一から作るスタイルを守り続けており、今回はその製造風景を見せていただけることに。

くずきり製造風景

葛粉を水で溶いた液体を銅の平鍋に張り、じっくりと湯煎。
葛が固まった頃合いを見て職人がサッと鍋ごと湯にくぐらせると、一瞬で透明に変わったので、思わず小さく歓声をあげてしまいました。

透明になった板状の『くずきり』を冷水に晒し、鍋底からはがします。

くずきり製造風景
くずきり製造風景

パントマイムのように見えますが、手の中にはちゃんと円形の『くずきり』があるんですよ。

できたては普通の庖丁ではうまく切れないため、こちらの大きな庖丁でダンッダンッと激しく音をたてて断ち切るように5〜6mm幅に整えます。

くずきり製造風景

鍵の文様が描かれた信玄弁当風の漆器に盛って、お客さんの待つテーブルへ。
テーブルの四隅にも螺鈿細工による鍵の意匠が…!

くずきり

氷水を張った器から透明な『くずきり』をすくい、蜜に絡めていただきます。
歯を押し返すような抵抗を感じる独特の食感は、初めてなら驚き、二度目以降は「そう、これこれ!」となるおいしさ。

自家製蜜は白蜜と波照間島産の黒糖を使った黒蜜の2種類。

9割近い方が黒蜜を選ばれるそうですが、「白蜜党のお客様は『絶対に白蜜』と仰ってくださるので、こちらもなくすわけにはいかないんです」とお店の方が嬉しそうに教えてくれました。

『くずきり』はできたてが命!
時間が経つと白濁し、食感も「腰抜け」になってしまうので、ぜひ早めにお召し上がりを。

通年愛されるメニューですが、夏の喉越しは格別です。

撮影/スタジオヒサフジ

“ハレとケ”のメリハリ 「Junko Sophieの秘伝京都」vol.3

鍵善さんも登場!

さまざまな美の発見と日本文化の奥座敷への探求、京都で暮らす女性としての新しい視点。今回は、バランスのとれた循環から生まれる文化の知恵「ハレとケ」について― 日本語・英語・中国語、三か国語にてお読みいただけます。

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