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名作歌舞伎は装いのヒントの宝庫 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.7

名作歌舞伎は装いのヒントの宝庫 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.7

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歌舞伎鑑賞教室は、初めてご覧になるみなさまにも気軽に楽しんでもらえるようにと、人気の演目が選ばれています。歌舞伎俳優が見どころなどをわかりやすく解説する「歌舞伎のみかた」も好評で、今回は名作『義経千本桜』から「河連法眼館(かわつらほうげんやかた)の場」が上演されます。

わかりやすく楽しい歌舞伎鑑賞教室

梅雨に入り、きものでの外出の支度に、空とにらめっこの日々が続きます。
豊かな実りのためには必要な雨ですが、きものを着るとなると、少々憂鬱になることも。
7月は、国立劇場の歌舞伎鑑賞教室(7月3~27日、8・15日は休演)に出掛けて、晴れやかな気分を味わいましょう。

歌舞伎鑑賞教室は、初めてご覧になる方にも気軽に楽しんでもらえるようにと、人気の演目が選ばれています。親子・外国人・社会人など対象別の日程が設けられているのもうれしいところ。
「歌舞伎のみかた」では、若手歌舞伎俳優の中村種之助が見どころなどをわかりやすく解説します。
今回の演目は名作『義経千本桜』から「河連法眼館(かわつらほうげんやかた)の場」。正統実力派の中村又五郎、市川高麗蔵をはじめ、又五郎の子息で花形の中村歌昇・種之助兄弟らによる見応えのある舞台が期待できます。

国立劇場チラシ01
国立劇場チラシ02

7月27日には外国人のための歌舞伎鑑賞教室「Discover KABUKI」も。
こちらの公演に限り、解説は英語も使用する特別バージョンで上演(英語のナビゲーターは木佐彩子)、英語・日本語イヤホンガイド無料、英語の字幕表示あり、日・英・中・韓・仏・西の6か国語対応リーフレットの配布があるそうです。

キーワードは狐と鼓

源平の合戦に題材を取った『義経千本桜』は、大胆なフィクションを盛り込んだ長編の物語です。
兄・頼朝と不仲になって都落ちする源義経の流浪の旅を軸に、生き残りの平家の武将をはじめとする多彩な登場人物がドラマを繰り広げます。
「河連法眼館の場」は物語の終盤近くで、吉野山に潜む義経のもとを、忠臣・佐藤忠信に守られた愛妾の静御前が訪れるという場面です。

静御前を守護していたのは、本当の忠信ではありません。忠信に化けた狐でした。静御前が義経から預かった「初音の鼓」には、この狐の両親の皮が張られており、親恋しさで鼓についてきたのです。
ところが、そこに本物の忠信が現れ、正体がばれてしまいます。親への思いに感じ入った義経は、狐に源九郎の名と鼓を与えます。源九郎狐は、鼓を手に喜んで故郷へ帰っていきました。

佐藤忠信と源九郎狐の二役を中村又五郎、静御前を市川高麗蔵、源義経を中村歌昇が演じます。
メルヘンチックな要素に加え、早替りやアクロバティックな動きもあり、歌舞伎ならではのお楽しみが多い演目といえましょう。これから歌舞伎を見てみようという方にはうってつけの公演です。

【田村哲彦】手描き友禅訪問着「狐図」
【田村哲彦】手描き友禅訪問着「狐図」

袖丈は何を語る?

今回は、2人(と1匹?)の衣裳を見てみましょう。
静御前は、赤姫と呼ばれているいわゆる「お姫さま」の衣裳です。赤の綸子や縮緬が四季の花や扇面の縫い取りで装飾され、裲襠(うちかけ)とセットになっています。髪形も髪飾りも姫そのものですが、袖丈に注目してください。
ちょっと短め、中振袖なのです。それは、静御前が「姫(娘)」ではなく、義経の「愛妾」だから。お姫さまの格好をしていても、袖丈が彼女の立場を物語っています。ほかにも違いがあるそうですから、注意深くご覧になってくださいね。

袖丈が社会的立場を表すのは現在も同じで、振袖と留袖の違いなど、皆様もよくご存じのことと思います。振袖は、袖丈によって大振袖、中振袖、小振袖に分かれます。それぞれ、足のくるぶし、ふくらはぎ、ひざの辺りまでの長さ。成人式などでお召しになるのは中振袖が多いでしょうか。昔のお嬢さまが家の中で着ていたのは小振袖でした。
袖丈にはそれなりの意味があるのです。着る人の身長やきものの種類によっても適した袖丈がありますが、現在は標準的な袖丈にそろえることが多いようです。長襦袢と合わせることなどを考えると、やむを得ないのかもしれません。

優雅な楽器の文様

静御前が手にしているのは「鼓」です。
鼓をはじめ琴や琵琶など、楽器の文様は雅な趣があります。笛や火焔太鼓、面なども含めた舞楽文様となると、ぐっとフォーマル感が増しますね。
鼓は、鼓単体だけでなく、草花や他の楽器とともに描かれたりもします。長い調べ緒の曲線がことさら優美に見えます。青海波との組み合わせを見たことがありますが、こちらはとてもリズミカルでした。
和楽器だけでなく、ピアノやバイオリンなど洋楽器のモチーフも多く、帯やきものから音が聞こえてくるようで、なんだか心浮き立ちます。
「鼓」はこの物語を象徴する小道具です。鼓の帯留めでさりげなく装うのも素敵ですね。

源氏車に込められた意味

続いて、忠信の衣裳です。
彼の衣裳に共通する文様は金や銀の「源氏車」。地色は場ごとに異なります。源氏車は、もとは源氏物語を描いた源氏絵文様からきており、御所車(牛車)から車輪だけの円形へと簡略化していったようです。家紋としても使われます。
また、車輪の半分だけを描いた「片輪車」は流水や観世水と組み合わされており、流転の人生を歩む義経、『義経千本桜』の世界を象徴しているかのようです。

動物柄は時代とともに

そして、正体をあらわしてからは、狐そのもの。白いフリンジを縫い付けた毛縫(けぬい)という衣裳が、ふさふさ感を演出します。白地に「火焔宝珠(かえんほうじゅ)」の文様が施され、動くたびに狐火が揺らめくようです。
さすがに、このスタイルはまねできませんが、狐をモチーフにしたものなら気軽です。中でも、狐に霰(あられ)の小紋柄は江戸の昔から人気のようで、「ワタシは化かされ(だまされ)ないわよ!」という江戸の町人の心意気を感じます。

きものには存外、動物柄は多いのです。
有職文様では、鳳凰をはじめ鴛鴦(おしどり)、孔雀(くじゃく)などの鳥や蝶など、飛ぶ動物が多いことに驚きます。そして、獅子や龍、麒麟(きりん)など空想上の動物も。
昔の人は鳥が好きだったのかしら? 
かつて、大きなお屋敷の庭には鳥小屋が設けられていたものでした。珍しい鳥も飼われていたのでしょうね。人と鳥の距離はとても近くて、きものに帯にと、よく描かれました。インコや鳩、孔雀などの柄は本当によく見かけたものです。

しかし、写実的な動物の柄にはやはり好き嫌いがありそうです。鳥の柄も以前ほどは見なくなりました。鳥を好まない人も増えているようです。
そのぶん、猫や犬の柄が目立つようになったのでしょうか。キャラクター化した描き方もあり、かわいらしさに思わず笑みがこぼれます。江戸時代から犬は画題にもなり、殿中や商家では「狆(ちん)」を飼うのが人気でした。狆を刺繍した帯などもあったようです。

縁起がいいとか、おめでたいとか、多産、繁栄、武運長久など意味のあるものや、図案化されたものとはまた別に、「好きな動物柄を着たい!」という思いがあるのでしょうね。

人と動物の距離や関係性が変わるにつれて、身にまとう柄も変わっていくようです。
そして形を変えながら、長く、広く、根付いていくのかもしれません。

◆ 観劇の記念に「歌舞伎フォトスポット」へ ◆

写真撮影スポット

国立劇場では、6・7月の歌舞伎鑑賞教室期間中、大劇場ロビーに「歌舞伎フォトスポット」を設置しています。

「梅」「桜」「紅葉」の3カ所で、「日本博」の総合テーマ「日本人と自然」にちなんだもの。
歌舞伎の大道具で使用する造花などが飾られ、舞台装置をバックに歌舞伎俳優気分で写真を撮ることができます。

観劇の記念に、#日本博 #歌舞伎みたよ を付けてSNS上でおしゃれな着姿を披露してみてはいかが?

監修:大久保信子
文:時田綾子

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