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“自分”を知る、”似合う”を知る 「台湾きものスタイル考」 vol.5

“自分”を知る、”似合う”を知る 「台湾きものスタイル考」 vol.5

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憧れと現実は必ずしも一致しないことは、ぼんやりながらわかっていました。ならば現実を愛し楽しみ、その延長に理想を掲げることで「老いへの怖さ」が少し減ったように思えました。「自分を知ること」は、「選択しやすく」「生きやすくなる」ことにつながると思います。

マスク姿にて

新型コロナウィルスの影響から全世界的になかなか抜け出せない状況ですが、台湾国内においてはほぼ感染の恐れもなく、若干異次元にいるような感覚になります。公共の場所でのマスク義務が、かろうじてコロナ禍であるという現実を思い出させてくれます。

マスク不要論を耳にすることもありますが、ウィルス流入防止に成功したとされる台湾ですら未だにマスク義務があるわけですから、ぜひ医療用不織布マスクなどでご自身とご家族を守っていただきたいと思います。

海外展示会場と着物

4月は私にとって、まるでジェットコースターに乗っているような浮き沈みの激しい月でした。
本帰国が決まった着物友達とのお別れを惜しむ様々なイベントに奔走するなか、夫の緊急入院があり…
おかげさまで一命を取り留め、無事退院してからの自宅療養の日々、ほとんどの予定を白紙にして過ごしました。

アーティストである夫。
緊急入院という不測の事態がありながらも、月末には予定通り、今年で3回目となる『春季當代藝術沙龍展(※)』に参加することができました。

※毎年春と秋に台北で開催される現代アートの展覧会(contemporary art salon)。

ありがたいことに、夫にとって退院後初となる公の場が晴れがましい作品発表の機会となり、また体調への不安もありながら何事もなく、さらにはうれしい結果をいただき会期を終えることができました。

引き続き5月にも個展の機会がいただけています。
台湾では、美術館やギャラリーも通常通り。世界的に有名な日本人アーティスト・奈良美智さんや塩田千春さんの展示も行われており、6月にはteamLab(チームラボ)の展示も予定されていています。

展示会2人
皆様と

会場には私の着付け講座を受けてくださった生徒さんや、もとからの着物仲間もいらしてくださり、ここが台湾とは思えないほどたくさんの着物姿が見られる華やかな会となりました。

タイ在住時代から私は、夫のアート関係の集まりには着物を纏ってまいりました。それは「好きだから」というのはもちろんですが、別の狙いも含んでいます。

着物にはインパクトがあります。
特に海外展示において着物姿の日本人がいれば、ある程度目を引きます。
大きな会場で私1人が着物という場面が多いのですが、今回のように着物姿の方が多く集まると、場はとても華やかになりますね。
会場に来ていた台湾人の方々や、SNS上で写真を見た方のおひとりでも新たに「着物を着てみたい」と思ってもらえるきっかけにはなったのではないでしょうか。

そうそう…
この『きものと』での連載を読んで、「台湾のことを書いてくれてありがとう」と台湾人の方がわざわざ訪ねてきてくださいました。

もともと京都きもの市場さんで着物を購入していたそうで、サイトで買い物をしていた際に偶然この『きものと』の私の記事にたどり着いたのだそうです。

タンス3棹分の着物を所有する彼女は、裏千家茶道も嗜まれるとか!

Sue Annさんと
後ろ姿

台湾では、「着物ファン」が着物を着る機会を求めて「日本文化のファン」になり、そこからお稽古をはじめるパターンが多いようです。

そして、「日本人なら誰もが着物は(一人であたりまえに)着られる」と思っている方も多いと聞きました。真実が明るみにならないうちに、ぜひ私のYouTube動画をご覧いただいて、1人でも多くの方が着物をご自身で着られるようになってほしいと思います。

仕立て上がりを待つ時間

台湾では、5月に入って気温が上がればもう浴衣の似合う季節です。

浴衣は、日本人なら着物よりも手軽で身近にあるものではないでしょうか。私は浴衣から着物をはじめることを大いにおすすめします。
夏の間は浴衣で着物の扱いや所作に慣れておき、秋には襦袢を入れて単衣着物の着付けをすれば、来年には1年を通して何をどう着こなすかの基本がマスターできます。

そして、初めての「誂え(あつらえ)」にも浴衣は最適。
「自分サイズの着物を着る感覚を知る」のにも、「インターネットで誂えを注文する」のにも、浴衣は比較的リーズナブルなためハードルは低いと思います。

今から仕立てても今年の夏に着るのに十分間に合います。もちろん、買ったらすぐに着られるプレタポルテ(仕立て上がり品)も素敵な色柄が多数ありますので、そちらをチェックしつつ…ですが。

ゆかた

写真提供 ROBE JAPONICA

タイ在住時代から私は、毎年浴衣1枚は必ず、日本の呉服屋さんやブランドにてお仕立てをお願いしています。

数が欲しい時の満足には「プレタ」、少し上質な”オトナ浴衣”として使いたいものは「誂え」と分けてきましたが、どちらにも思い入れがあり、手元に届くまでの時間は旅の計画を立てる時のそれに似ていると感じています。

というのも、仕立て上がるまでに2ヶ月以上待つことになりますので、オーダーしたこと自体忘れてしまうことが多く、注文するまでの「吟味する時間」の印象の方が強いのです。

EMS(国際郵便)を使えば日本から台湾への荷物は3日で届きますが、私が日本に注文したものは一旦日本の登録住所を経て台湾まで配送される形をとっており時間がかかるため、プレタを購入しても、私が台湾で受け取るタイミングまでには記憶から抜け落ちてしまうことがあります。
すぐに受け取れる環境にないことは、不便というより、受け取った際の新鮮な喜びや驚きがあり2度楽しめます。

そんなことで、今年2月にオーダーした新しい浴衣も仕立てた実感はまだ湧いていなかったのですが、ちょうどこの文章を書き上げる直前に、仕立て上がったとの連絡と画像が送られてきました。

昨年誂えた竺仙の奥州小紋とは違い、かなりモダンな印象の「片身替わり」の浴衣です。それぞれに良さがあるので、その日の気分で「着る」を楽しみたいと思います。

もう十分に浴衣を着られる気温となっている台湾。
雨や汚れを気にせず気軽でカジュアルな日常のお出かけに、浴衣の出番も増えそうです。

ゆかた

写真提供 ROBE JAPONICA

歳の重ね方

バリエーション

私は、自分のことを比較的「客観視できている」と自負しています。

そのためコーディネートを作り上げる際には髪型から足元までをトータルで考えることが多く、その仕上がりイメージは、自らが他人目線になって眺める視点から狙ったものに重なり、またそれは私の「表現」のひとつでもあります。

「自らを演出する」その源泉は、自分自身のコンプレックスを十分理解しカラー診断などから学んだ”経験”からくるものと、過去の職業柄、モニター越しに自分を見るなど良くも悪くも”人目を気にしてきた”ことによるのかもしれません。

アラフィフを過ぎ白髪染めからグレイヘアへの移行を決めたり、体力的にも見た目にも「老い」を意識していることは前回告白しましたが、「どんなふうに老いるか・老いたいのか」は漠然としすぎていてモヤモヤしていました。

そもそも狙ったように老いられるものなのかも疑問で、流れにのるにしても、その流れがどんなものかもわからないことが不安で知りたくて…とうとうパーソナルスタイリングのコンサルティングを受けることにしました。

コンサルや、なんらかの診断を受ける人は2タイプに分かれるのではないでしょうか。
「全くわからないから教えてほしい」というタイプと、「ある程度自分自身の方向性は決まっているけれど決め手がほしい」タイプとに。
どちらかといえば、私は後者だったと思います。

下向き

「老い」は私にとっては身近でありながら、まだまだ未知のもの。
「綺麗に老いたい」気持ちと「ナチュラルに老いたい」という両極を行き来する思考に、決着がつけられずにいました。

そんな折、かねてから拝読していたパーソナルスタイリスト『renoncule』木村牧子(リンゴ)さんのブログに強い衝撃を受けました。

「ボロじゃなくヴィンテージになろう」

パーソナルカラータイプと
骨格タイプと、
体格・顔立ち・肌質を見れば、
数十年後にどういう年のとり方をするかは
ほぼわかります。

おばあちゃんになっても
きちんとメイクで頑張ってる服が
いいタイプと
ナチュラルでいるほうが美しく見えるタイプは
確実に分かれます。
老けるスピードもタイプによって違います。

「わかる」?!老い方の傾向は決まっているの?
「未知」ではなく「ほぼ予測できる」と書いてあるではないですか。
わかることならもちろん知りたい!と、オンラインのパーソナルスタイリングを迷わず申し込み、数週間を経てリンゴさんと対面したのでした。

分析していただいたシートには、「生まれながらにして持っているもの」「生きてきた過程で持ったもの」など、今の私を私以上に客観的に分析した内容が書かれていました。
それは私のすべてではないけれど、事実だったり願望だったり、また指針だったりが詰まっているものでした。

内容もさることながら、コンサルを受けて1番良かったことは、結局「自分がどうしたいのかというところに立ち戻らなければ何も決められない」と再確認できたことでした。

「老けこみたくない」し「イタクならないまま歳を重ねたい」という自分の「どうしたいか」に気づき、ぼんやりしていた視界がひらけたような気がしました。

外見を気にすることは「生き方」として正しいのか。
おしゃれも好きだし自分をよく見せたいと思う。
でもそこに囚われているのは苦しいんじゃないか?と思う出来事が過去複数回私の身に起こりました。
そのたびに私は、自分を客観的に「演出」していることを自分の「価値」にしていて大丈夫なのか?を自問してきました。

そんな、「複雑な思考を抱えている自分」がクリアに見えたのです。

「ナチュラル」や「自然体」という言葉の持つ響きには憧れるけれど、私がそれを目指すと「所帯じみた疲れたおばさん」になってしまう。リンゴさんにはっきりと指摘してもらえたことで迷いが吹き飛びました。

黒よこ

まだまだ老いてなんていられない。

憧れと現実は必ずしも一致しないことは、ぼんやりながらわかっていました。ならば現実を愛し楽しみ、その延長に理想を掲げることで「老いへの怖さ」が少し減ったように思えました。

「自分を知ること」は、「選択しやすく」「生きやすくなる」ことにつながると思います。
客観的に分析してもらえる機会は、もしかしたらあなたのまだ知らない(意識していない)自分に出会えるきっかけになるかもしれません。

5月の台湾

2月に咲いた桜、3月の藤、4月はカラーや薔薇が咲き乱れ…
いよいよ5月には、大きな紫陽花の花が見頃となります。

後ろ姿2人

一緒に紫陽花を見に行こうと話した約束を果たせないまま本帰国をした友人とは、最後の茶道稽古の日に、揃って紫陽花の帯をつけました。

紫陽花は、彼女との別れを思い出す花となってしまいました。
そして、もうひとつ。
ちょうど一年前に『きものと』を書きはじめた時の写真が、竹子湖の紫陽花畑でのものでしたね。

ゆかたからはじめた海外着物生活 「WORLD KIMONO SNAPS」 – TAIWAN –

着物を纏い、外に出る。 日常から着物が消えつつある今、その行為は日本でも世界のどこの国でも、平和で平時でなければできないことなのだと強く感じました。逆に言えば「着物は平和の象徴」なのだと。

ひと雨ごとに色づき美しいという印象の紫陽花ですが、台湾は例年よりも雨が少なく、台北以外は深刻な水不足だそうです。

着物を楽しむのに雨はできるだけ降ってほしくないのですが…
そうも言っていられないので、雨季に向けて、手持ちの着物や帯には少しずつパールトーン加工を施したり、洗える着物を増やしたりしてきました。今年の私は、洗える着物・パールトーン加工を施した正絹の夏着物・お気に入りの浴衣と、雨ごしらえの準備も万端です!

恵みの雨よ、どうぞふりそそぎたまえ。

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