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博多帯でキリリ。風薫る初夏のエンターテインメントへ! 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.5

博多帯でキリリ。風薫る初夏のエンターテインメントへ! 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.5

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夏の大坂を舞台に、市井の人びとの〝義理と人情〟の世界を描く、渋谷・コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』。演目を満喫する着物スタイルのヒントには、登場人物のひとり、お辰の衣裳に注目してみましょう。

渋谷で楽しむコクーン歌舞伎

新緑みずみずしい季節

駆け足で春がやってきました。紅葉から桜まで、といわれる羽織の季節もそろそろ終わりです。きものを楽しむにはいい時期ですが、少し寒い日もあれば、汗ばむような陽気の日もあり、着るものに迷うことも多いですね。

5月は、東京・渋谷で初夏の気分を楽しみましょう。
Bunkamuraシアターコクーンで行われる渋谷・コクーン歌舞伎 第十七弾『夏祭浪花鑑』(5月6~30日、13・24日は休演)です。

熱気あふれる『夏祭浪花鑑』

『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』は、夏の大坂を舞台に、市井の人びとの〝義理と人情〟の世界を描きます。17世紀に大坂で起きた殺人事件を元にした人形浄瑠璃が評判となり、すぐに歌舞伎でも人気を集めました。

団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)、一寸徳兵衛(いっすんとくべえ)、釣船三婦(つりぶねさぶ)という3人の男と、その女房たちが、恩ある人を守るため奮闘しますが、最後には団七の舅(しゅうと)殺しという凄惨な殺人劇へと転じます。
そして、この殺しの場「長町裏」が大いなる見どころとなっているのです。

古くからある演目ですが、コクーン歌舞伎は古典を読み直し、現代に重ね合わせた演出(串田和美)でみせます。
中でも『夏祭…』は、海外でも上演される人気のエンターテインメント。劇場中がお祭り騒ぎのような熱気に包まれるとか。夏祭りの囃子にのせて、江戸っ子とは異なる大坂の男だて(俠客)の気質や、夏の風情がたっぷり味わえます。女房たちの心意気にも注目です。

団七九郎兵衛には中村勘九郎、その女房・お梶に中村七之助。徳兵衛と女房のお辰役を尾上松也が務めます。

出演者

単衣、解禁しましょう

単衣を解禁しましょう

そんな〝夏芝居〟を見に行くのなら、身も心も軽く、さわやかな装いがいいのではないかしら。

きものの暦では、5月までが袷、単衣(ひとえ)は6月から。
しかし、最近の温暖化現象で、東京の5月は暑い日も多く、もはや袷では我慢会。長襦袢など下に着るもので調節するにも限りがあります。

儀式やドレスコードがきっちりしている場ではない、ふだんのお出かけなら、気温と体調に合わせて、単衣をお召しになってよいと思います。例年、立夏(今年は5月5日)を目安に単衣に切り替えています。初日を迎える6日には、すっきりとした初夏の装いが似合う陽気になっていることでしょう。
ただし、半衿や帯揚げなどは袷のもので。ここは、きものの暦に従い、6月になったら夏の小物の出番です。

とても便利な博多帯

さて、きものは単衣にしたけれど、帯は?とお悩みになる方も多いと思います。そんなときに重宝するのが博多帯です。
登場人物のひとり、お辰の衣裳に注目してみましょう。

紺色の紗の着物

お辰は、徳兵衛の女房。役目に徹するため、美しい顔に自ら火傷の痕をつけるほどの強さを見せるかっこいい人です。さらに、亭主は私の顔じゃなくて、ここ(心)を好いているのだと言って胸をたたくシーンは見せ場中の見せ場です。

そんなお辰は、紺色の紗のきものに、献上柄の博多帯という装いです。透けた白の襦袢と、帯の白い地色がなんとも涼しげに感じられる、夏らしい取り合わせです。

博多帯を代表するのが献上帯といわれる平織りの献上柄。
福岡藩の黒田家から江戸幕府に献上されたことが名前の由来で、夏でも冬でも一年中締めることができる、とても便利な帯です。締めやすく、一度締めたら緩まない、お太鼓の形もつくりやすいので、1本あると重宝します。

献上の博多帯
夏用の紗献上

特に、大人のゆかた姿には最高の組み合わせです。

現在は、夏用の紗献上もありますが、これでなくてはならない、ということではありません。紗献上が出てきたのは比較的最近で、昔は見かけませんでした。

献上柄の魅力とは

いろいろな種類がある博多帯ですが、その魅力は献上柄につきると言ってもいいでしょう。
仏具の独鈷(とっこ)と華皿(はなざら)、縞を組み合わせた献上柄は、性別も年齢も季節も問いません。魔除け・厄除け・家内安全と多くの願いが込められ、長く愛されてきた柄なのです。

白と黒の組み合わせの献上柄

そして、なんといっても、白と黒の組み合わせがスッキリしています。
東京の芸者衆はみな白地に黒です。

しかし、ところ変われば色変わる。博多帯の本場、博多の芸者衆は白と赤なのです。
ゆらりと垂れる柳に締めた白地に赤の帯が、黒の引き着にとても映えます。
赤というのは、とてもカワイイものです。赤の色味もさまざまですから、年齢なりの赤を見つけて、楽しみたいものですね。

博多の芸者衆の好みは白と赤

そんな万能の博多帯ですが、少しカジュアルな趣があります。ドレッシーな装いが多い歌舞伎座の1階席よりは、2階席・3階席向きかもしれませんね。
また、キュッキュッと絹鳴りがするから劇場ではどうかしら…と心配する方もいらっしゃるようですが、気にするほどの音ではありませんよ。まして、お祭りのウキウキ気分でいっぱいのシアターコクーンならなおのこと。俠客の女房たちに負けないくらい、かっこよく、颯爽(さっそう)とお出ましになってくださいませ。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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