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卒業式・入学式の”母きもの” 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.22

卒業式・入学式の”母きもの” 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.22

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これまで入園式3回、卒園式3回、入学式7回、卒業式4回、合計17回を母としてきもので出た過去の経験上、「きものを着なきゃよかった」というママ友には会ったことがありません。こういうときだからこそ、おめでとう、という気持ちを込めて、きものをまとってほしいなと思います。

着物で入学式・卒業式

冠婚葬祭の「冠」は今でいう成人式を表すのですが、実際に子育てをしてみて、お宮参りから始まって、七五三や子どもの入学式、卒業式など子どもの成長の節目の行事はすべて「冠」で、母として着るきものはすべて「冠の付き添い」、つまり「冠のうち」なのではないか、と思うようになりました。入学式や卒業式の主役は子どもなのだから、母親が着飾る必要はない、などと言う人もいるようですが、きちんとした姿で参加することは、母としての礼儀。お世話になった、もしくはこれからお世話になる先生方に、目に見える形でご挨拶をしている姿なのです。それに、いつもとは違うファッションのお母さんというのは、子どもにとっても嬉しいもので、特別な感じが出ます。いつもは木綿のきものを着ているわたしが付下げに着替えても変身した感じになるのですから、ふだん洋服のお母さんがきもの姿になったら、それは子どもにとってはスペシャルな日!ぜひ「入学(もしくは卒業)おめでとう、という気持ちを込めて着ているんだよ」と言ってあげてほしいです。

コロナ禍ということで、歌は歌わない、いすは2m離す、来賓は呼ばない、在校生は出席しないなど、卒業式も入学式も、これまでのものとは全く違う形式になっています。入学式を行わない大学もあるくらいですから、あるだけマシと思うしかないのかもしれませんね。わたしの娘も去年小学校を卒業し、中学校へ入学しましたが、どちらの式もとても簡素なものでした。わたしの住んでいる山形は元々、入卒式でのきもの着用率は比較的高いほうではあるのですが、「さすがに今回は、きもの姿はもしかしたらわたしひとりかもしれないな」と半ば諦めの境地でした。
ところが、スポーティーなイメージのママ友がエレガントな雰囲気の付下げを着ていたり、市役所にお勤めのママ友がスーツっぽい雰囲気できりりと色無地を着ていたり、女性の先生方が袴姿だったりと、思っていたよりもずっと多くのきもの姿が集まったのです。
たった15分の式だとしても、おめでとうの気持ちが薄くなるわけではありません。きもの姿は、それを象徴しているかのようでした。

これから「冠の付き添い」がある方は、ぜひきものに挑戦してみてください。わたしがこれまで入園式3回、卒園式3回、入学式7回、卒業式4回、合計17回を母としてきもので出た過去の経験上、「きものを着なきゃよかった」というママ友には会ったことがありません。みんな心から満たされた表情をしていましたよ。こういうときだからこそ、おめでとう、という気持ちを込めて、きものをまとってほしいなと思います。

◆ イベント報告 ◆
着物カフェbyきものと 2月19日(金)14時~15時
きくちいまさんをリモートでお招きして「卒業式・入学式の母きもの」について

※きくちいまさんへのインタビュー内容の大まかなまとめです。(聞き手:きものと編集長 長瀬)

長瀬:今回のコラムもありがとうございました。いまさん、17回もお子さんの卒業式や入学式に出ていらっしゃるんですね。ちなみに山形での母きものはどういう感じですか?

いま:きもの着用率は高いほうだと思います。学年によっても違いますが、20%の年もあれば90%の年もあります。以前、在校生として入学式に参加した娘が帰ってくるなり「お母さん!今日の入学式、お母さんたち全員きものだった!」と興奮して報告してくれたこともありました。

長瀬:卒業式と入学式では、どのようなコーディネートで行かれるのでしょうか?

いま:子どもが主役の式なのに、母が装うというのはどうなんだという人も中にはいますし、訪問着は着るべきじゃないとおっしゃる人もいますが、子どもを祝う気持ちできものを着ることに間違いなんてあるわけないとわたしは思っています。とはいえゆかたとか振袖をというのはアレですけどもね。わたしの場合ですが、卒業式はお世話になりましたという感謝の気持ちを込めて、ちょっと厳かな雰囲気にしたくて紋付を着ることが多いです。色無地に黒羽織とかですね。逆に入学式は春らしい色合いの付下げが着たくなります。入学式は初顔合わせの先生やお母さんたちも多いですし、そこでコラムにも書いた「まるで優しいお母さん」に見えるきもの、というわけです。

長瀬:「まるで、優しいお母さん」!このフレーズ気になってました。17回の中で見えてきたもの、はありますか?

いま:最初の頃は、母からのお下がりの付下げを着て、二世代制覇、なんてしていましたが、この頃は自分で選んだ付下げなどを好んで着るようになりました。帯締めやハンドバッグを子どもたちに好みを聞いて、それぞれ選ばせたりもします。

長瀬:まわりの人たちの変化というのはありますか?

いま:どんどんきものの人が増えてきている感じがします。これって、着る人がいるとわかると一気に増える、という実感があります。「あの人は絶対きものだよね、じゃあわたしも着よう」みたいな。実は息子の入学説明会のときにいつものようにふだん着のきものを着て行ったんですが、全然知らないお母さんから「あの、入学式もきものですよね?」と念を押されたんですよ。ひとりじゃないって大きいんだなと思いました。

長瀬:今コロナ禍ですが、その中で装うということについてどう思われますか?

いま:たった15分でも式は式。おめでとうの気持ちを込めて着てほしいです。子どもは特別な日のことをとてもよく覚えています。なにかの本で知ったんですが、子どもの記憶って打ち立ての生コンみたいなものなんですって。だから「お母さんが自分のために特別なきものを着てくれた!」っていう嬉しい記憶を、生コンについたネコの足跡みたいにつけてあげてほしいなと思います。残念ながら式自体が無くなったという方もいるかと思います。その場合はぜひ写真だけでも残してほしいですね。

長瀬:17回の中で珍エピソード、もしくは失敗談みたいなものはあったりしますか?

いま:ありますよ!長男が小学校卒業のときです。そのときリサイクルで買った袋帯を用意していたんですが、なんと短くて二重太鼓にできなかったんです。結局一重太鼓で行ったんですが、上から黒羽織を着たので、なぁんだ、これじゃ半幅帯だってバレなかったじゃないかと思ってしまいました。

長瀬:それわたしも経験あります!
では、特に思い出に残る最高に嬉しかったことはどんなことですか?

いま:フィリピンからお嫁にきたママ友が、卒業式にオレンジ色の付下げを着てきてくれたことですね。入学式のときは黒いパンツスーツだったのに、わたしと接しているうちに、きものが着たくなったんだそうです。ただ、ひとりだけそのお母さんにクレームをつけた人物がいたんですよ。「なんで俺のときには着てくれなかったんだ!弟ばっかりずるい!」って。お兄ちゃんでした。付下げにフィリピンの国の花のイヤリングをしていて、それがとても似合ってました。

長瀬:素敵なお話ですね。今日はありがとうございました。

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