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エッセンスを取り入れた装いで 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.2

エッセンスを取り入れた装いで 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.2

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さて今回の『於染久松色読販』で上演されるのは、土手のお六、鬼門の喜兵衛の場面。坂東玉三郎・片岡仁左衛門という名コンビの登場です。土手のお六(玉三郎)は、悪婆(あくば)といわれる女方の役。旧主で恩ある奥女中・竹川のために、百両を用立てたい。そんな迫力満点、かっこいい土手のお六の衣装は大きな格子柄です。

2月は、歌舞伎座の演目より

年も明けて、寒さが一段と厳しくなってきました。

2月は、歌舞伎座の「二月大歌舞伎」(2月2日~27日、8日と18日は休演)にご案内しましょう。1月から歌舞伎座は、これまでの四部制公演から三部制公演(各部総入れ替え、幕間あり、2演目)になっています。

身分や年齢を衣装にあらわす

いずれも魅力的な演目が並びますが、その中から第二部の『於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)』を取り上げます。
実際に大坂で起きた、お染と久松の心中事件がもとになっており、この物語では舞台が江戸に移されました。ふたりの衣装にちょっと注目してみましょう。

現代では、着るシーンによって、カジュアルなのかフォーマルなのかを考えますが、かつて服装は身分や年齢などをハッキリと識別するものでした。
大店(おおだな)の、嫁入り前のお嬢さまであるお染の衣装は、友禅染めや絞りを用いた華やかな振り袖に、だらりと垂らした振り下げ結びの帯。髪飾りも大きく、豪奢な装いです。
一方の久松は、店の奉公人ですから、お仕着せで質素な姿です。主筋のお染とは厳然たる違いがあります。
許されない恋、不釣り合いなふたり、というのが衣装からもちゃんと分かるようになっているのです。

大久保信子流きもの・よろけ縞01
東レ「セオα(アルファ)」『大久保信子流きもの』浴衣地

とはいえ、舞台上の久松は少々おしゃれで、薄い藍色の「伊予染め」が定番。伊予簾(すだれ)を2枚重ねて透かした時に見える木目のような模様です。江戸時代には流行した染めのようですが、「よろけ縞」に似ていて、素敵ですね。

たくさん種類がある縞の中でも、波打つような「よろけ縞」は男性の、特に若い方のゆかたにも良い柄だと思います。

坂東玉三郎演じる悪婆・お六の「格子柄」に注目

さて、今回の『於染久松色読販』で上演されるのは、土手のお六、鬼門の喜兵衛の場面。
坂東玉三郎・片岡仁左衛門という名コンビの登場です。

土手のお六(玉三郎)・鬼門の喜兵衛(仁左衛門)夫婦が暮らす莨(たばこ)屋。
それぞれ、訳あって金を工面したいふたりは、ひょんなことから強請(ゆすり)を思いつきます。準備万端整えて(?!)、お六と喜兵衛はターゲットの油屋へ乗り込むのですが…。

格子柄の着物01

お六は、悪婆(あくば)といわれる女方の役。婆という字がついていますが、実際には中年です。根っからの悪人でもありません。
旧主で恩ある奥女中・竹川のために、百両を用立てたい。そんな迫力満点、かっこいい土手のお六の衣装は、大きな格子柄。悪役ふうの、あまりお上品とはいえない感じです。

昔は、「あんなきもの着て、土手のお六みたいねえ」なんて悪口があったとか。そんなふうに言われるのも、お六のキャラクターが愛されていた証拠なのかもしれません。

けれども、格子も選びようなんですよ。大きさを吟味して、藍のゆかたなどで楽しんではいかがでしょうか。

『鬼滅の刃』で注目の「市松模様」も

そして、格子のようにも見える「市松模様」も、歌舞伎ゆかりの柄として忘れてはいけませんね。
江戸時代の中ごろ、歌舞伎役者・佐野川市松が舞台で、四角が連続するこの模様を袴に用いたことから大流行した、という話はよく知られています。「石畳(いしだたみ)文」ともいわれ、模様自体はとても古くからありました。有職(ゆうそく)文様としては「霰(あられ)」と呼ばれます。

昨年大ヒットした『鬼滅の刃』の主人公の羽織の柄から一気に注目され、人気となった市松模様。着るものだけではありません。古くは土器や埴輪(はにわ)、京都の桂離宮・松琴亭の襖(ふすま)などに、最近では東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムにとさまざまなところで使われています。

鬼滅の刃でも有名になった市松柄

市松模様を取り入れた装いなら、帯に用いるのがいいでしょう。
子供のころ、何かという折には、いつも市松の帯だったことが思い出されます。時代も年齢も問わない柄で、「金と黒」「銀と浅緑(煙るような淡い緑)」の組みあわせは、華やかな中にも由緒ある雰囲気が出ます。
気を付けたいのは四角の大きさです。子供なら5センチ角ほどがかわいらしいのですが、年齢とともに小さくしていくのがいいでしょう。

市松柄の染め帯01
市松柄の染め帯02
市松柄の染め帯03

エッセンスを取り入れて楽しむ歌舞伎鑑賞

土手のお六のような着こなしは、今の私たちには難しいですが、ほんの少し、そのエッセンスを取り入れて、さっそうと歌舞伎座へお出かけください。歌舞伎の台詞は七五調が多く、耳に心地よく響きます。演目の名前もまた、なんだか調子がよくて口に上せてみたくなりますね。鏡の前で名ゼリフを口ずさみながら、きものをまとい、帯を締める…気分が盛り上がること間違いなしです。

これまで幾度も、お六と喜兵衛で共演してきた玉三郎と仁左衛門。
息の合った夫婦のやりとりが見どころです。さらに第二部では、ふたりが『神田祭』の鳶頭と芸者を踊ります。こちらも楽しみです。

歌舞伎座初日の2日は節分、すぐに立春を迎えます。
どこかに春をしのばせて。

寒い中にも春の声が待ち遠しい季節です。

春告げ花・梅の染め帯

監修:大久保信子
文:時田綾子

※2021年1月18日現在の『歌舞伎美人』発表の公演情報によります。
今後上演形態や演目などに変更が生じることも考えられますので、随時ご確認ください。

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