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菱屋善兵衛トークショー「創業200年の物づくりの歴史」 “華ときもの祭 2020 美の共演” イベントレポート vol.3

菱屋善兵衛トークショー「創業200年の物づくりの歴史」 “華ときもの祭 2020 美の共演” イベントレポート vol.3

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今回は、西陣の老舗・菱屋善兵衛さんのトークショーに参加いたしました!歴史ある物づくりについてのお話しを聞く貴重なひととき…お話しくださるのは、専務の木野善太さんです。レポーターとしての感想や、トークショーの内容についてみなさまにお伝えいたします。

田園都市線の通る世田谷の地。
「水と緑と光」の豊かな自然環境と調和した二子玉川は、最近注目を集めている大人の街です。
そんな雰囲気ある街で今秋11月に開かれた今回の展示会は、‶美の共演″をテーマに、美しく輝く着物や帯の数々が一堂に揃い、響きあいました。

会場に入ると、色鮮やかな美しい花々が私たちを出迎えてくれました。

会場に入ると、まさに華やかで色鮮やかな美しい花々が私たちを出迎えてくれます。
今回は、西陣の老舗「菱屋善兵衛」さんのトークショーに参加いたしました!
歴史ある物づくりについてのお話しを聞く貴重なひととき…
レポーターとしての感想や、トークショーの内容についてみなさまにお伝えいたします。

レポーター 美鈴

レポーター 美鈴

母の着物を受け継いでから「自分で着物を着たい!」と着付け教室へ。
美術鑑賞や音楽鑑賞に着物を着てでかける。
京都きもの市場ウェブサイトで商品の説明を読むのが大好き。

締め易く、配色や発色が美しい現代の着物シーンによく合う帯

菱屋善兵衛さんの帯は、「締めやすい」こと、また「配色や発色が美しく現代の着物シーンによく合う」との前評判をお聞きしてからまいりました。いよいよ対面です!

会場には多くの着物や帯が並んでおりました。
コロナも一旦は落ち着いていた状況とはいえ、ディスタンスなど、会場の体制は万全のようでした。

会場では多くの着物や帯が並びます

西陣の織元「菱屋善兵衛」とは?

常に顧客や時代のニーズに答えた帯や着物づくりを心がける「菱屋善兵衛」

「菱屋善兵衛」を屋号とする木野織物は、江戸時代の文化元年(1804年)の創業以来200年を超える西陣の老舗。昭和44年には京都府知事より「京の老舗」として認定され表彰されています。

さらには「京都府知事賞」や「通商産業大臣賞」「京都市長賞」など数々の賞を受賞し、常に顧客や時代のニーズに応えた、締め心地の良い帯づくりや着心地の良い着物づくりを心がけておられます。

こちらの作品は、平成21年度の西陣織大会において「京都市長賞」を受賞した帯だそう。

『水月』と銘打たれておりました。

平成21年度、京都市長賞を受賞した帯 「水月」
平成25年度、伝統的工芸品産業振興協会賞を受賞した帯「レリーフ」

さらにこちらは、平成25年度の西陣織大会において「伝統的工芸品産業振興協会賞」を受賞した帯とのこと。

銘 『レリーフ』。
菱屋さんならではの美しいターコイズブルーに、現代的とも古典的とも感じられる魅惑の意匠が心に迫ります。

木野善太専務によるトークショースタート

それでは早速…
菱屋善兵衛さんの、織物にかけるこだわりと技術についてその神髄を伺ってみましょう。

お話しくださるのは、専務の木野善太さんです。

「菱屋善兵衛」のこだわりと技術についてお話しくださる専務の木野善太さん

丸巻の帯や図案集が「蔵」から

復刻帯地「蔵」
復刻帯地『蔵』

創業200年の記念となる帯の製作のためにあらためて蔵を整理していたところ、明治・大正時代に製造していた生地や図案、小物などが多くみつかりました。
丸帯の図案が200枚ほど、そして当時の著名画家が描いた図案集も100冊ほど出てきたそう。
当時の生地というのは、糸の込み具合、ジャガードの細かさなどたいへん緻密なもので、現在の技術では復刻することが困難なものも多数ありました。

見事な織の帯を現代に蘇らせる

とても穏やかな語り口で説明される専務

「出てきた帯地を顕微鏡で調べると、経糸(たていと)の本数が、現在一般的な帯地の経糸の2倍にもなることが分かりました。その生地の風合いややわらかな手触り、軽さを今に蘇らせるため研究を重ね、織機を新しく作り直した上に大変に細く良質な原糸(※ブラタク糸)を採用することに。経(たて)と緯(よこ)の込みを一般の帯の2倍織り込むことにより、実にきめ細かな模様表現を可能にしました。さらには、元の図案を、現代の感性に照らして配置や配色を吟味し復刻しました」

…と、とてもおだやかな語り口で、特徴的な帯2点を示して説明される木野専務。
早速それらの作品をじっくり拝見いたしましょう。

※ブラタク糸
美しい光沢と強度があり、高品質として世界での評判が高い「ブラタク社」によるブラジル産の糸。フランスの高級ブランド『エルメス』のスカーフの素材もブラタク糸が使用されていることで有名

菱屋善兵衛の作品拝見

こちらは、120年前のアールヌーボーの柄を復刻した帯。
オフホワイトの地に、青緑色の葉が美しい草花模様の帯です。 

120年前のアールヌーボーの柄を復刻した帯。
オフホワイトの地に、青緑色の葉が美しい草花模様の帯

アップはこちら。

ラベンダー色の小さな花がたくさん咲いています。そしてクリーム色の大きな花も。よく見ると二種類の花が描かれているのです。
何と緻密な文様でしょう…とても120年も前の文様とは思えず、見事に蘇っています。私には、全く新しくデザインしたものに見えました。

こちらは、昔ながらの柄を使って新たに織りあげられた帯。
墨黒の地に白く隈取りされた茶色の笹の葉が描かれており、一見して古典柄と分かります。

昔ながらの柄を使って新たに織りあげた帯
笹の葉の葉脈とともに下には唐草模様が何気なく見えます。

アップはこちら。

よくよく見てみますと…笹の葉の葉脈とともにランダムな黒い点が描かれ、実際の葉の質感がリアルに感じ取れます。
笹の葉の下には唐草模様がさりげなく。
この主張し過ぎることなくサラリと織り込まれているところが、ニクイ!
古典を生かしたデザインの良さが光っています。

菱屋善兵衛の織り方

帯地の製織には「錦織」という織り方を用いているそうです。これは「綾織(あやおり)」とも言います。
織物の三原組織に「平織」「朱子織」「綾織」の3つがありますが、「綾織」は糸と糸との密度を高めて織ることができ、ストレッチ性に優れシワになりにくいそう。錦織はこの織り方の仲間とのことでした。

菱屋善兵衛さんでは、細くて良質なブラタク糸を用います。
ですので糸の本数を増やして打ち込みを密にし、密度を高めて織ることができる「錦織」が柄の緻密さの秘密であり、またそうして生み出される伸縮性が定評ある”締めやすさ”を実現するそうです。

…これが、菱屋善兵衛さんの織りへのこだわりと技術なのですね!

帯を手に取ると、しっかり打ち込んであるにも関わらずとても軽く、しなやかに薄手に仕上がっていることに驚かされます。
「生地の良さが自慢」、こうおっしゃられる通りでした。

それでは、「蔵」から出てきたお宝の図案を蘇らせた帯の数々をご覧ください。

帯を手に取ると、しっかり打ち込んであるにも関わらず、とても軽く、薄いことに驚かされます。
「蔵」から出てきたお宝の図案を蘇らせた帯の数々
草花をモチーフにした美しいデザインがたくさんありました

蔵から出てき図案集は100冊にものぼります。多種多様な文様があるわけですね!
今回の展示会のテーマに合わせられたのでしょうか、草花をモチーフにした美しいデザインがたくさんあり、気持ちが弾みました。

柳条御召(りゅうじょうおめし)

菱屋善兵衛さん自慢の織物は他にもあります。
それは「柳条御召(りゅうじょうおめし)」という着物用の反物。
お召は緯糸(ぬきいと)に撚りをかけて織る織物で、生地に「シボ」が生まれることにより、シャリシャリとした質感がある織物です。

さらにこちらの「柳条御召」は山切りカットと呼ばれるシボが特徴。
緯糸に3,000回転という撚りをかけることで縦にシボが入るように計算して織りあげるそうで、この質感は他にはないものとのことです。

お召は山切りカットと呼ばれるシボが特徴。

徳川家斉公が愛用した「柳条御召」。
細い縞模様を、‶山と谷を付け立体的に織る″ことにより柳の枝のような陰影が出るのが特徴。
一度途絶えた技法を西陣の職人魂により現代に復刻。

山切りカットにより陰ができる。
これを楽しむ織物。

ウーン、すごい!

もうひとつ自慢の織物、三重織御召

糸羽織機という特殊な機械を使い、緯糸3本で一越の柄を構成。
そのため柄に立体感が生まれ、生地にボリュームが出るのが「三重織御召」。
この立体感が奥行きと深みを与え、染め柄では決して出せない表情が特徴となります。
菱屋善兵衛さんのお召機は、なかでも特に繊細な柄が表現できるとか…

手に取ると、凹凸(おうとつ)がはっきりと感じられます。
たて(経)とよこ(緯)の糸が独立していて、光と陰で見え方が変わります。       

たて(経)とよこ(緯)の糸が独立していて、光と陰で見え方が変わります。
菱屋善兵衛さんのお勧めの、無地の着物に帯を立たせるコーディネート

菱屋善兵衛さんのおすすめは、無地の着物に帯を立たせるコーディネート。
先ほどの御召と帯のコーディネートをご覧ください。
モダンな組み合わせ、シックな面持ち…いろいろと楽しめそうですね。

最後にもうひとつ

近年、帯結びのバリエーションを楽しむのにおすすめなのが「半幅帯(小袋帯)」です。
カジュアルな着こなしによく合い、美しいキモノでもあらためて特集されるなど、愛好者が増えています。
通常の帯の半分ほどの幅で織り上げた半幅帯は、浴衣用では?と思われる方も多いかと思いますが、小紋や紬などに合わせて締められるように、実は素材やデザインが豊富にあります。

ご覧ください、半幅帯のイメージが一変しませんか?
こちらはなんと…パイソン(へび革)の文様が描かれた小袋帯!素材には漆が使われています。
たれを三つ折りにしたり、花結びにしたり、帯の結び方に変化がつけられる良さもあります。

文様や色遣いが豊富で、もちろん愛らしい柄の帯も。
ぐっと着用シーンが広がりますね!

素材に漆が使われている、へび皮の文様が描かれた小袋帯を紹介する専務。

あとがき

華ときもの祭2020、美の共演。
創業200有余年、菱屋善兵衛さんに伝わるすばらしい織技術と図案、そしてそれらを現代に蘇らせた職人魂。
素材と織りにこだわり、研究と研鑽を重ねて時代のニーズを読み取り、私たちの心を躍らせる美しい帯やきものを生み出していらっしゃる姿。

今日もまた、キラキラと輝く帯や着物たちに出会えて、うれしくも楽しい一日でした。
ありがとうございました。

数々のこだわりの帯たち

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