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『橋弁慶』の世界を「弁慶格子」で満喫 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.1

『橋弁慶』の世界を「弁慶格子」で満喫 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.1

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『初春海老蔵歌舞伎』の『橋弁慶』。弁慶は市川海老蔵、牛若丸には海老蔵の長男・堀越勸玄という親子共演です。荒法師の弁慶が、美少年の牛若丸にきりきり舞いさせられる豪快な立ち回りが見どころ。華やいだ心持ちになるためにも、ぜひ、着物で。演目や役者にちなんだ〝何か〟を身に着ければ、さらにワクワク感が増すというものです。

新年の幕開けは歌舞伎鑑賞から

新型コロナウイルスの影響で、いつものような暮らしはできませんが、劇場は席数を減らすなどの対策をして公演を行っています。感染に十分注意をして、観劇を楽しみたいものですね。
そして、華やいだ心持ちになるためにも、ぜひ、きものでお出かけになってください。
演目や役者にちなんだ〝何か〟を身に着ければ、さらにワクワク感が増すというもの。
でも、「何を着ていけばいいのか分からない」という方もいらっしゃることでしょう。そんなとき参考になるようなスタイルを、これからご紹介していきます。

まもなく新年を迎えます。
お正月には『初春海老蔵歌舞伎』(新橋演舞場、2021年1月3日~17日)に足を運んでみませんか。
『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』『毛抜(けぬき)』などが上演されます。
今回は演目の中から『橋弁慶(はしべんけい)』にちなんだ装いを考えてみました。

『橋弁慶』にちなんだ装いとは?

弁慶と牛若丸

『橋弁慶』は長唄の舞踊劇。「京の五条の橋の上」で始まる唱歌『牛若丸』でもおなじみ、比叡山の僧・武蔵坊弁慶と、源氏の御曹司・牛若丸こと源義経の出会いを描いたものです。
五条橋で、ひらりひらりと舞うように、小太刀を持って切り回る牛若丸の噂を聞いた弁慶が、「退治してくれん」と出掛けていきます。
腕に覚えがある弁慶ですが、身軽な牛若丸に翻弄され、ついには手に持つ長刀(なぎなた)を打ち落とされ降参。ふたりは名乗り合い、主従の誓いをかわすのです。

弁慶

『橋弁慶』の世界に合わせるなら、「弁慶格子」の染め帯で装ってはどうかしら。
弁慶格子は、たて2色、よこ2色、色幅の等しい、碁盤の目のように見える格子縞。
この柄は人形浄瑠璃の弁慶の衣装がはじまりといわれ、歌舞伎の『勧進帳』で広まっていったようです。誰もが一度は目にしたことがある柄だと思います。

弁慶格子

格子の大きさはさまざまで、中でも「小弁慶」といわれる小さな格子は大人気、江戸の人々を夢中にさせました。
一方、威勢のいい人、荒くれの伊達男などの衣装に用いられた大柄の格子は、きものにすると、かなり大胆です。そんな「弁慶格子」ですが、帯なら気楽に身に着けられます。地色は白や茶、黒もいいですね。

「弁慶格子」の帯に合わせるなら、こんな着物

「弁慶格子」は〝カッコイイ〟イメージのある柄です。そして、この格好良さをさらにワンランクアップさせるには、なんといっても大島紬と合わせるのが一番です。

黒が美しい大島紬
藍大島もぴったり

泥染めによる艶やかな黒地や、藍を用いて染めた深い紺色の地の大島は、帯をいっそう引き立てることでしょう。とても粋で、本当におしゃれなスタイルです。

「織りのきものに染めの帯」とよくいわれます。大島のような織りのきものには、塩瀬や縮緬などの染めの帯をということですが、自由な組み合わせを楽しむ、いまの普段のお出かけでは、守るべき〝決まり〟ではありません。
最近では、織りのきものに織りの帯を合わせる方も多いですね。ですが、もっと染め帯の魅力に目を向けてほしいなとも思います。染め帯ならではの、やわらかな風情はとてもいいものですから。

織のきものに織の帯
織の着物に染の帯

「お正月だし、やわらかものが着たいわ」という方には、面白い柄の江戸小紋をご紹介しましょう。小宮康孝の手による「牛若丸と弁慶」です。小宮家は、三代続けて重要無形文化財保持者(人間国宝)を世に送り出している江戸小紋の作り手です。

弁慶を象徴する「長刀」、牛若丸を象徴する「扇」、そして物語の舞台である五条橋の「擬宝珠(ぎぼし)と欄干(らんかん)」が細かく染められています。まさに『橋弁慶』の世界そのもの。物語をまとう楽しみはいかばかりでしょう。
「鮫」や「行儀」といったオーソドックスな江戸小紋をお持ちの方は多いと思いますが、ときには遊び心にあふれた柄も素敵です。

このような江戸小紋には名古屋帯を合わせましょう。重たいものではなく、織りでも染めでも、すっきりした柄がしゃれています。遠目には無地でも、近づいてよくよく見れば…という江戸小紋に、おしゃれ心が満たされるのではないかしら。

小宮康孝・江戸小紋01
小宮康孝・江戸小紋02
小宮康孝・江戸小紋03

もちろん新春ですから、訪問着や付け下げに替紋の杏葉牡丹(ぎょうようぼたん)など、團十郎家にちなんだ柄が描かれているものも、歌舞伎ならではのおしゃれです。帯でも良いですね。
帯締めや帯揚げに團十郎茶を差し色として使うのも、ファンの方のお楽しみです。

市川海老蔵・堀越勸玄の親子共演、そして「にらみ」も必見

さて、『初春海老蔵歌舞伎』の『橋弁慶』。
弁慶は市川海老蔵、牛若丸には海老蔵の長男・堀越勸玄という親子の共演です。荒法師の弁慶が、美少年の牛若丸にきりきり舞いさせられる豪快な立ち回りが見どころ。泉流日本舞踊の家元・泉徳右衛門は、「『橋弁慶』を踊る心得」の中で、凜然(りんぜん)とした美しさが要求される牛若丸について「無心なお子さんの方が良い味を出せる」と述べていました。
海老蔵の弁慶はもちろんのこと、勸玄の牛若丸にも期待が膨らみます。

そして、海老蔵の「にらみ」には邪気を払い、病を退ける効果があるとか。
初春に心躍る舞台を見て、コロナ禍に負けず、無病息災の一年を過ごしたいものです。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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