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思いやりの心があらわれる立ち居振る舞い 「花柳凜の、和でも洋でも美しく」vol.3

思いやりの心があらわれる立ち居振る舞い 「花柳凜の、和でも洋でも美しく」vol.3

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美しさとは、容姿だけにあるのではなく、心そのものがにじみ出るように立ち居振る舞いにこそあらわれるのではないでしょうか。今回は、着物姿での所作から学ぶ「和でも洋でも美しい自然な立ち居振舞い」「思いやりの心から成り立つ所作の大切さ」について考えてみましょう。

1 母と祖母の教え

母と祖母の教え

美しい女性の立ち居振る舞いについて、花に例えて表現された言葉があります。

”立てば芍薬(しゃくやく) 座れば牡丹 歩く姿は百合の花”

幼い私の手を引き、芍薬が咲く野道を歩きながら母がポツリと言ったのを今でも鮮明に覚えています。
それはどういう意味かと聞くと母は、

「美しい人を例えた言葉で、立っているとまるで芍薬のよう、座っても牡丹のよう、歩く姿は百合のように綺麗だと言う意味なのよ」

と教えてくれました。
幼い私がどこまで意味を分かっていたのかは分かりませんが、とにかくその言葉の響きが気に入って、「立てば芍薬座れば牡丹……」とぽつぽつと繰り返していました。

それからしばらく経ったころ、茶道のお稽古中、祖母が私に、

「そうね、上手上手。”立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花”、ね」

と言いました。私が照れてはにかむと祖母は、意味が分かるのねとうれしそうに笑い、

「どれだけ美しく着物を着飾って髪を結っても、立ち居振舞いがよくなければ全てが台無しになってしまう。だから美しい所作を学ぶのはとても大事だし、その心を忘れないようにね」

と教えてくれました。
決して気取って大仰に振る舞うのではなく、謙虚な気持ちで楚々(そそ)と居ることが大切、というのが祖母の教えでした。

2 動きも、布のように繋がっている

「楚々と」というのは、今でも私の立ち居振舞いを意識する上で大切なイメージになっています。

「楚々とした振る舞い」とは、品よくお行儀よくありながらもつくろわない奥ゆかしさがあり、「自然体である」ということだと感じています。
「自然体」とは、ただ雰囲気がナチュラルというだけでなく、着物を着ている際には着物が着崩れないような動き、また着物の中の身体に無理のない動きだと捉えられます。

腕をあげるときも綺麗な所作

例えばものを取るとき―

◆腕だけを伸ばすのではなく、重心を引き上げるように身体を伸ばす。

◆落ちたものを取るなら、腰を曲げるのでなく座って取る。

振り向くときも綺麗な所作

◆振り向くときには、首だけをねじるのではなく身体を向ける。

何気ない日常の動作が、「着物が一枚の布であることを意識」して「動きも布のように繋がっている」と考えることで、無理なく着崩れない動きとなります。
またそれが同時に、美しい所作になると思うのです。

3 着物は、美しい所作に順応した衣装

美しい所作や立ち居振舞いは、無理して苦しい体勢を作らなければと思われがちですが、実は、

着物が着崩れない効率的な動き=美しい所作

であり、着物は、美しい所作に対して無理のない形で作られ進化してきた衣装といえるのではないでしょうか。

そしてまた着物での美しい立ち居振舞いは、現代を生きる私たちが、洋装でも「自然でありながらエレガントに日々を過ごす」ためにとても大切な学びとなります。

4 「上品な動き=小さい動き」?

大小つけた所作を

また、私が美しい立ち居振舞いを考える上で意識するのは、“大きな動き”と“小さな動き”、両方の大切さです。

よく着物での所作で誤解されるのが、歩幅にしろ動きにしろ、「小さければ上品」と思われがちなところです。

例えば、お茶席やお食事の場などでなるべく慎重に大きな動きは避けるのは、ほこりが立たないように気を付けたり、大切なお道具や食器を壊したり傷付けたりしないようにという意味合いであって、ただ単に「上品な動き=小さい動き」だからそうするというのではないのです。

所作には「思いやり」の気持ちがあってはじめて成り立つと考えています。

ですから逆に、美しい花を見て喜んだり、大切な人に再会できて感動したり、着物でも、手を大きく広げて美しい袂が風にたなびく瞬間があってよいでしょう。
そのようなのびのびとした所作があるからこそ、着物には一面に、丹精込めてすばらしい意匠や文様が描き上げられているのだと思います。

5 立ち居振舞いとは、人生の表情

所作とは、ただ「手がここからここへ動けばいい」とか「この形だから美しい」とかいったことではなく、「思いやり」や「ものを大切にする精神」「心のあらわし方」が表に出て形になったものだと考えます。

立ち居振舞いとは、人生の表情ではないでしょうか。

和装でも洋装でも、立ち居振舞いには必ず「心」があらわれます。

所作を、枷(かせ)となる窮屈な決まりと思うのではなく、より毎日を楽しく彩ってくれる表現のひとつとして向き合っていけたらステキだなと思います。

日本舞踊のなかには、ただ月を指す、涙を拭う、お酒を注ぐ…といった日常の動作を、より美しい所作で表現した振りがたくさん散りばめられています。
何気ない日常のなかでの美しい所作、そして日本舞踊での表現。
もちろん和でも洋でも、現代の私たちが活用できる立ち居振舞いとして、今後も少しずつ紹介していけたらと思います。

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