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黒紋付でやらかして、破門に。 落語家 三代目 柳亭小痴楽さん (後編)

黒紋付でやらかして、破門に。 落語家 三代目 柳亭小痴楽さん (後編)

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若手真打の中でも名の知れた着物好きである三代目柳亭小痴楽さん。初めて誂えた着物をやかんの熱で溶かしてしまったり、大切にしていた小千谷紬の反物を雑に仕立てられ、呉服屋へ殴り込みにいくなど、前座時代の貴重なエピソードをお話しいただいた前編に続き、噺家ならではの興味深い着物話が展開する、必見の後編です。

落語家といえば、欠かせない羽織

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落語家といえば、羽織。高座には羽織を着て上がるもの。マクラから噺(はなし)に入るときに、するりと脱ぐことが多い。羽織の数が増えるはそのせいだろうか。

「いや、ただもったいないから(笑)。着物は飽きたら羽織に直せるのがいいところですよね、柄や生地にもよるけど。

羽織でいうと、噺に入るときに脱ぐものでしょってよく聞かれるけど、僕は気にしてないんですよね。噺に入ってても外を歩いてるシーンでは脱がない。このタイミングで脱ぐ、っていうのは、あんまり決めてないです。
人によっては脱がない、っていう人もいる。まず文治師匠はほとんど脱がないです。噺の中で脱いだほうがいいシーン以外は脱がないですね。

ただ、めんどくさいから脱がないでいたときに三遊亭小遊三師匠から、「脱がないって決めてるの?」って聞かれて、「いや、とくに」って言ったら、「じゃあ脱いだほうがいいよ。お客さんはそれを見るのも楽しみにしてるから」って。そうか、それも魅せる芸のうちかと」

それを目当てに観に行くわけではないが、客として演者がどこで羽織を脱ぐのか、また、脱ぐのを見届けるのはささやかな醍醐味でもある。

あえて、高い縫い紋を入れる理由

「ひとつ、こだわりで言うと、基本的に僕、紋付を着ないんですよ。紋を背負うっていうのが嫌なんです。プレッシャーというか。
ただ、紋を入れるのをケチってるって思われたくないので、高い縫い紋を背中にひとつ、見えないところに入れていますね。これは着物でも羽織でもそうです。なるべく着物の生地と同じ色味にして、あんまり目立たないようにしてる。頭下げたときに、見える人には見えるかな、ぐらいで。
いま着ているのは縫いの一つ紋ですね。五つ紋入れる金がなくてやってるんじゃないんですよ、っていう。ケチってるんじゃなくてこだわりなんです、っていうのがあります。ケチと思われたくないんで」

どうしても落語家の正装というと、黒紋付きになってしまうが。

「そうですね。でも僕は黒紋付はほとんど着ない。正月も着ないですね。襲名のときの口上だけですね、口上のときは絶対なので。でも、高座には黒紋付で絶対に上がんなかったですね。誰かのお披露目の口上のあとに、すぐに高座ってなっても、出囃子中に着替える。
まぁ、1、2分で着替えられるので。それぐらい黒紋付で高座に上がりたくないっていう。なんか気持ちが、締め付けられるんですね、紋付は。

文治師匠の弟子だったときに黒紋付でやらかしてしまって、クビになっていますからね。
文治師匠は二ツ目上がってから15年間、黒紋付でずっと高座に上がっていたんです。高座は絶対、黒紋付って決めてたのを、僕が師匠の黒紋付を預かったまま、寝坊したんですよ。
で、師匠の高座に間に合わなかった。常に着流しで歩いてる人なので、高座には着物で上がれて問題がなかったんですけど、人の大事にしていたポリシーを壊してしまった、というのがあって。
それから黒紋付というのは、僕にとってとても苦手で。そんなことをしてしまった自分は、黒紋付着られる身分じゃないって思ってしまうんですよね」

役者とは違う、噺家の粋な着こなし

着物を着ていく上で、参考にした男性の着物姿というのはあるのだろうか。

「それはやっぱり親父ですね。着物で出歩く人だったので、普通に着物姿見ていましたから。
歌舞伎役者は、襦袢からして襟元ぴっちりやるじゃないですか。でも、落語家はけっこうクタッとしてるんですよ。うちの親父はその中でも、もっと開けてクタッとやっていて。クタッとさせているのって一般的に昔のヤクザ者が多いんですよね」

気っぷがよく、豪胆で遊び人の父・五代目柳亭痴楽師匠らしい着物の着方。

「自分で着物なんか着たことない16歳でこの世界に入門して、文治師匠に着付けをいちから教わったとき、言われた通りやって、最後「はい着れたね!」っていうのと同時に、僕、無意識に胸元つかんでグッて上げちゃって、師匠から「なんで広げた?」って(笑)。「それは教えてないぞ!」って言われちゃった。文治師匠も胸元はゆったりしてる人なんですけど。

親父は、着物着たら、ピッと襟元合わせたあとに、襦袢と着物の胸元つかんでグッと上げて広げて、もう一回軽く整えて外に出て行くの。その姿を見ていたんで、すり込まれたんでしょうね。
ちょうどだらしなく見えないくらいに広がってるのが、絶妙で。文治師匠もそうだし、うちの親父もそうで。だから、その姿、その着方がかっこいいって覚えちゃってますね」

帯はピッチリ締めるが、襟元はややゆるく。ベテラン噺家ならではの「こなれ感」の妙は、ぜひ寄席などで確認して欲しい。

派手だと高座で落ち着かない

では、同年代の落語家で、着物の着方がお洒落だと思う人は。

「いますよ。春風亭正太郎さんとか。正太郎さんは化繊が好きで、色合わせとかもお洒落で。あと、量もいっぱい持ってますね。
柳亭市弥さんもお洒落だな。
師匠方では、柳家花緑師匠、林家たい平師匠、桃月庵白酒師匠の着物の合わせ方、色使いはキレイだな、と思いますね。

でも、みなさん明るい色味が多いんですよ。僕に合わせるとなると、いかんせん派手で。
周りからは、「若いんだから、あれぐらい派手なの着たほうがいいよ」といわれるので、一時期派手なのも作ったんですけど。
「明るいなぁ〜」って、噺を演ってて落ち着かない(笑)。やっぱり地味なのが好きなので、結局、人にあげちゃったりしました」

色合わせはとにかくガチャガチャしない、うるさくみえないように気をつけている小痴楽さん。
日々の着物のコーディネートはどういう風に組み立てているのだろうか。

「だいたい僕、羽織でも着物でも、襦袢でも、作ったら、まず全部、手元にある着物と合わせます。どんどん合わせていって、色合いをみて、ある程度「あ、これとこれは合うな」っていうのを決めるんです。決めたらもう、それをワンセットとして頭に入れちゃいますね。いちから毎日選ばないです。だいたい「あのセット着よう」で済ませます」

1,000円のリサイクル着物で勉強するのもいい

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最後に美しく着るコツをうかがったが、「わからないなぁ」と。でも、気をつけていることはある。

「基本的に僕は裄を長めに作りますね。そっちのほうが、スラッとしてかっこいいかな、って。若旦那とか、そういうイメージになりますけど、そうじゃなくても、そのほうがきれいじゃないかな、色っぽくなるかな」

これから着物に挑戦したい、という人へは。

「とにかく着てみること。リサイクルショップの外に出ている1,000円ワゴンからでもいいから、買って着てみる。そこから始めて、だんだん素材とか、どういうサイズ感がいいのかとかわかってくるようになるから。僕も最初はリサイクルショップでたくさん買いましたよ」

着物好きな方が参加しやすい、おすすめの落語イベントは。

「寄席は着物割引があるところもありますよ。池袋演芸場とか、浅草演芸ホールも夏は浴衣割引があるのかな。着物に限らず、初心者の方には、「渋谷らくご」こと「シブラク」がいいと思います。僕は毎月一回くらい出させてもらっていますね。着物で席に座っていると、高座からも目が行きます。ぜひ、着ていらしてください」

小痴楽さん、次回は愛用の品々をご紹介いただきます。

(取材協力:浅草演芸ホール)

企画・構成/渋谷チカ
撮影/五十川満

ー 愛用の品々へつづく ー

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