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白露:朝晩の涼しさを感じる秋のはじまり! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

白露:朝晩の涼しさを感じる秋のはじまり! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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「音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼はおもひに あへず消ぬべし」朝夕の気温差で、植物に露が宿った様子を「白露」と呼び、その儚さを自らの命になぞらえた平安時代の人々。 自然を敏感に感じる心は、刹那を生きる心とともにあったのでしょう。

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。
いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんな素敵な毎日がはじまりますよ。
月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2)「白露(はくろ)」とは

さて、明日訪れる十五番目の節気は「白露」です。
「朝夕の気温差で草に露がつく頃」という意味です。
日中はまだ暑い日が続いていますが、朝夕の風にほんの少し涼しさが混じるようになります。

早朝、草の葉を見てみると、たしかにかわいらしい露が結ばれていることに気づきます。

「音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼はおもひに あへず消ぬべし」
ー『古今和歌集」素性法師

噂だけ聞く人が恋しくて夜は寝られず、菊に白露を置くように起きていて、昼はその白露が消えるように嘆きに耐えず、私の命は絶えてしまいそうだ…

朝夕の気温差で、植物に露が宿った様子を「白露」と呼び、その儚さを自らの命になぞらえた平安時代の人々。
自然を敏感に感じる心は、刹那を生きる心とともにあったのでしょう。

一方、ぐっと下って江戸時代になると、こんな都々逸(どどいつ)が生まれます。

〽土手の芝 人に踏まれて 一度は枯れる
 露の情けで 蘇る

世知辛い世の中で辛い思いをしている庶民(自分)を、無遠慮に他人に踏まれる運命にある土手の芝にたとえ、それでも朝露がつかの間、起き上がる力をくれる。

踏みにじられることの多い中で、ほんのわずかな情け心が身を助けてくれることを唄ったこの都々逸は、人生の機微を粋に教えてくれています。

九月を迎え、残暑の中に秋のはじまりを告げる「白露」そのものを写し取ったような、アンティーク着物のコーディネートをご紹介します。

(3)「白露」のアンティーク着物コーディネート

白露のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…錦紗地 花の丸文様 薄物
◎ 帯…絽綴れに秋草と菊 刺繍単衣帯
◎ 半襟…絽縮緬 流水に撫子文様
◎ 帯揚げ…縮緬
◎ 帯留…花型 人造ダイヤモンド
◎ 履物…籐表草履 絽縮緬鼻緒
◎ 小物…筥迫
◎ 髪飾り…つまみ細工(古布を使った現代物)

花の丸紋で白露をあらわしたこの着物は、まさにこの時期に着たい一枚。

「秋の野に 咲きたる花を 指折り
かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
萩の花 尾花 葛花 撫子の花
女郎花 また藤袴 朝顔の花」

―『万葉集』山上憶良

「秋の七草」は「春の七草」と違って、秋の深まりにあわせて花を咲かせていき ます。

萩と撫子・朝顔(現代の桔梗のこと)が熱い日差しのなかで咲きはじめ、やがて尾花が穂を出し、黄色い女郎花が華やかに野を飾り、葛、藤袴が咲くのは新暦の十月くらいになるでしょうか。

こんなふうに 順番に咲いていく「秋の七草」を数えて、 涼しさを思う風流もいいものです。

秋の七草の後に咲く菊の刺繍をあしらった帯を合わせて、着物から帯へと季節がすすむひとそろえにしてみました。

(4)「白露」の小物合わせ

帯にあしらわれた帯留にもご注目

朱鷺色の着物に丸く染め抜かれた花の丸紋も、「白露」のイメージですが、帯にあしらわれた帯留の輝きにもご注目。

小さな銀細工の花びらの真ん中にきらきらとした石がはめ込まれています。

時の止まったような骨董屋を訪ねたおりのこと…
とても繊細な帯締めに止まった細工に目をやると、骨董屋の女主人が「それ、人造ダイヤモンド。なんだか昔の雰囲気でいいでしょう。」と教えてくれました。

ガラスでもなく水晶でもなく、 ましてジルコニアキュービックという横文字でもなく、「人造ダイヤモンド」という言葉のレトロさに惹かれて求めましたが、大仰でない佇まいがちょうどいい具合の帯留でした。

小さな銀細工の花びらの真ん中にきらきらとした石がはめ込まれた帯留

刀の目抜きや袋物の金具づくりを応用した、繊細な職人技の帯留が消えてゆくとともに、手組みの二分紐(帯締め)も生産量が激減、消えつつある「露」のように儚い運命にあることは残念なことです。

紬糸を使ったような絽綴れに刺繍の単衣帯

今ではすっかり織られることのなくなった、紬糸を使ったような絽綴れに刺繍の単衣帯は、白い雲取り文様が朝靄にも似て…

金糸・銀糸で細かに刺繍された尾花の美しさは、アンティークならではです。

着物のなかから黄緑を一色取り出して、帯揚、鼻緒を合わせ、品の良いコーディネートにまとめました。

籐表(とうおもて)の草履

鼻緒の前ツボの黄色は、煙るように細かな花を咲かせる女郎花(おみなえし)の色を選んで挿げてもらった誂えです。
籐表(とうおもて)の草履は、ひんやり。肌に心地良い履物です。

かつては千葉の漁師さんたちが、海がしけて漁に出られない時の手内職として作られていたという籐表・籐細工。
漁師さんが兼業になるとともに、その手仕事も失われ、今では珍しく貴重な履物となってしまいました。

「お洒落は足元から」は洋服も着物も同じ。
また履物文化が盛んになることを切に願います。

(5)「白露」のモチーフ

残暑の厳しい昨今では「処暑」に引き続き、萩・すすき・葛・撫子・女郎花・藤袴・桔梗など「秋の七草」はぴったりのモチーフです。

白露のモチーフが施された半襟
秋の七草はぴったりのモチーフ

そのほか、竜胆(りんどう)や秋桜(コスモス)、重陽の節句の象徴である「菊」、夜長と共に夜空に照り映える「月」、稲穂に先駆けて秋の実りを表す「粟」、芭蕉が「西瓜の色に咲きにけり」と呼んだ薄紅色の小さな花をつける「秋海棠」、少しずつ色づきを見せる「蔦」など、秋の気配を感じさせるモチーフを取り入れてみてはいかがでしょうか。

着物に親しむことで、身の回りにある植物や花などを自然と再発見できるのも、装いの恩恵のひとつです。
自然や季節との調和した着物姿は、着る人をより美しく見せてくれることでしょう。

(6)「白露」の着物スタイルをイメージする

節気のモチーフを取り入れる

「暑さ寒さも彼岸まで」とはいいますが、まだまだ残暑の残る時期。
かといって、夏の薄物はさすがに寒々しい印象に写ってしまいます。

「白露」は「単衣の着はじめ」ととらえて、あまり透けない、それでいて薄地の着物を選ぶとよいでしょう。

白鷹お召・絽紬・楊柳・真綿縮(ちぢみ)・紬縮緬・絣などがこの時期にふさわしい生地です。
着物を単衣にしたら、帯は夏物に、着物を絽や薄地の織物にしたら帯は紬に。
こんなふうに素材を変えることで、移りゆく季節を表現していくのが、身体にも優しいコーディネート方法です。

秋に移り変わる「白露」にどんな着物スタイルを楽しみたいか、心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。
無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。

一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」をお楽しみください。

次回は9月22日に訪れる「秋分」についてお話しします。
前日21日の配信を楽しみにお待ちくださいね!

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 
※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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