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女性職人がえがく江戸の『粋』 石塚染工5代目 石塚久美子さんの江戸小紋 in 京都きもの市場 銀座店

女性職人がえがく「江戸の粋」 石塚染工5代目・石塚久美子さんの江戸小紋 in 京都きもの市場・銀座店

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石塚染工5代目の若き女性職人・石塚久美子さんが手がける江戸小紋は、発色のいい鮮やかな色使いが特徴です。「着物をファッションの一つとして楽しんでほしい」という思いから、製作工程をSNSで発信。着物を知るきっかけ作りを心がけていらっしゃいます。 今回、久美子さんの師であり父である4代目・石塚幸生さんとの親子展開催に際して、久美子さんのトークショーが開催されました。

みなさま、「江戸小紋」と聞くと何を思い浮かべますか。

・型染めの文様の種類
・ごく細かい模様の彫られた伊勢型紙を使い、一色染めにしたもの
・江戸時代に武士の礼装であった裃(かみしも)に使われていた
・武士好みの鮫、行儀、万筋などの模様がある
・同じ方向に繰り返し模様を染めた着尺
・落ち着いた色に染めた渋い着物

といったところでしょうか…

時は江戸時代、 幕府による贅沢禁止令のため、町人たちは着ることのできる柄や色が規制され、華やかな着物を着ることができませんでした。

そこで発展したのが「江戸小紋」。

遠くからは無地に見えますが、近づくと柄が見え、裏地に趣向を凝らすなど…隠れたところに贅をほどこした江戸小紋は、まさに江戸の「粋」が詰まった染めものです。

今回、京都きもの市場・銀座店にて、八王子で「江戸小紋」を中心に染色をしていらっしゃる石塚染工さんの親子展が開催されるということでお伺いしてまいりました!

レポータ- / 手弱女 安里(たおやめ あんり)

職人の手技に恋して十数年。
洋の東西を問わず、逸品との出会いを求めて、気の向くまま、心のままに、美術館、展示会、劇場、工房等を訪問させていただいております。
着物美人を目指して日々、奮闘中。

レポータ- / 手弱女 安里(たおやめ あんり)
明治23年創業 石塚染工5代目 石塚久美子さん

明治23年創業の石塚染工4代目・石塚幸生氏と、5代目・久美子さんの「石塚染工 親子展」。

会期中に久美子さんのトークショーが開催されるということで、ワクワクしながら銀座店に到着。
会場には品のいい若草色の小紋に身にまとった小柄な美しい女性が…
そう、この方が石塚染工5代目の石塚久美子さんです!

目の前にいる華奢な女性が、重い長板を持ち上げたり、夏の暑い日に工房で汗だくになり、染色をしているとは…とてもにわかには信じられません。

まずは、石塚久美子さんの経歴と作品の特徴をご紹介いたします。

久美子さんは、4代目石塚幸生氏を師とし浴衣・江戸小紋を中心に、伊勢型紙を使い、一反一反、伝統的な手作業で型染めをしていらっしゃる女性職人さんです。

久美子さんの作品を拝見したときにまず印象的だったのは、何といっても染め色の鮮やかさです。

反物を手にとり鏡に映った自分を見ると、顔周りがぱぁっと明るくなり、美人度アップ!
着る人の顔を引き立てる明るい色使いが特徴です。

石塚久美子作・鮮やかな青色の「江戸小紋」

ともすると派手に見られるピンク色を、品よく可愛くまとめていらっしゃるのは、配合の妙。

それもそのはず。久美子さんは大学で日本画科を専攻し、色彩についても学ばれたそうです。卒業後は、就職したアパレルメーカーにて、顔映りのいい色彩について研究を積まれたとか。

こちらは、裏にちらりと見える紫が大人の女性の色っぽさを演出します。
見えないところにまでさりげないお洒落を…まさに「江戸の粋」です。

石塚久美子作・裏側に紫が覗く「江戸小紋」

幼少期から自宅に隣接した工房に出入りし、手仕事に触れてきた久美子さん。

「家業がなくなることは後悔につながる」「ものづくりがしたい」という思いが少しずつ芽生え、大学卒業後、父である幸生さんに弟子入りを申し出たそうです。しかし「甘い世界ではない」と断わられてしまいます。

そこでアパレルメーカーに就職、数年間は社会人生活を送りましたが、ものづくりへの熱い思いは募るばかり。

石塚久美子作 手ぬぐい

「精緻で繊細な小紋の柄を父のように染められるようになるために、長い期間の修業が必要。1日でも早く教わりたい」と再度申し出て、アルバイトと工房での修業の二足のわらじで、色を練ることから教わったそうです。

まずは手ぬぐい、次に浴衣を染めはじめた久美子さん。

次第に「伊勢型紙を眠らせてはもったいない」と中型染め小紋染めに着手するようになります。
そして『形梅(かたうめ)』という自分のブランドを立ち上げ、江戸小紋の伝統を大切にしながら、「帯ベルト」や型紙をマスキングした反物、コラボ商品など、現代の生活にマッチした作品を生み出しています。

「ファッション」として楽しむ着物を提案する着物屋『kapuki』とのコラボレーションでは、斬新な「帯ベルト」の生地としても。

石塚久美子オリジナルブランド『形梅』 帯ベルト
帯ベルト きもの『kapuki』
kapuki 帯ベルト
帯ベルト きもの『kapuki』
帯ベルト きもの『kapuki』

着やすくおしゃれな作品とのコラボレーションは、二児の母であり、妻であり、職人である多忙な久美子さんだからこその共感から実現したものかもしれないですね。

塚久美子オリジナルブランド『形梅』 浴衣

「着物をファッションの一つのアイテムとして着てほしい」「着物で遊んでほしい」とおっしゃる久美子さん。

「komonishizuka」 インスタグラムより
久美子さんのインスタグラムより

着物を身近に感じ多くの方に関心を持っていただくために、製作工程などの動画をSNSで積極的に発信していらっしゃいます。インスタグラムの投稿を見て、製作の依頼がくることもあるそうです。

ちなみに自身のブランド『形梅』は、初代石塚梅次郎の屋号とのことでした。モダンに見える久美子さんの作品ですが、創作の根底にある「伝統を重んじることと先代への敬意」が伝わってくるエピソードです。

久美子さんに、染めの作業の中でも最も気を使うところを聞いたところ、「型付け」とのご回答でした。

型付けとは型紙を生地の上に置き、型紙の上から防染糊を駒というヘラで塗りつけていく作業のことです。

糊を塗った部分は地色に染まらず白く残り、それが柄となるため、いかにうまく糊を置けるかが染めの完成度を左右します。

型紙や柄によって糊の固さや粘り気を調整し、湿度や天候による違いを理解するなど、どんな状況下においても型紙どおりに糊を置けるようになるには、多くの経験を重ね、体感にて会得していくことが重要とされます。

「父のように『極雪輪』が染められるようになるのには何十年かかるのかしら…」と遠くをみつめていらっしゃいました。

伊勢型紙について説明する久美子さん
石塚染工4代目・石塚幸生作 極雪輪の江戸小紋

『極雪輪』とは、約1センチの雪輪の中に50個ほどの穴を錐であけた柄のこと。
想像を絶する精密さです。

一方、こちらが久美子さんの江戸小紋。

「父にはまだまだと言われる」とのことですが…いやはや久美子さん、お見事です。

石塚久美子作 伝統柄「江戸小紋」

伝統を大切にしながらも、ご自身の発想を取り入れた作品づくりを心がけておられる久美子さん。

最後に手仕事のおもしろさについてお伺いすると、

「染め上がり、水で糊を洗い流した時に、自分のイメージどおりの作品ができたときの達成感」
「作品を購入した方からSNSでメッセージをいただいた時の喜び」

と、うれしそうにおっしゃいました。

女性らしい感性と優しさにあふれ、凛とした佇まいが印象的ですが、一方で「やりたいことを諦めない」という芯の強さも兼ね備えていらっしゃいます。

その澄んだまなざしの先には、どんな光景が浮かんでいるのでしょうか。

10年後、20年後にどんな作品を作っていらっしゃるのか、
これからもずっと見守っていたい、そう思わせる石塚染工5代目・石塚久美子さんでした。

明治23年創業 石塚染工5代目 石塚久美子さん

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