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オトナの夏着物 装いに涼をあらわす 「WORLD KIMONO SNAPS」 - TAIWAN -

オトナの夏着物 装いに涼をあらわす 「WORLD KIMONO SNAPS」 – TAIWAN –

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着物を纏うのは誰のため?と問われれば、当然自分のためと答えます。が、暑い時期の着物には、自分よりも見ている人に涼を感じさせる役割があるのではないでしょうか。

九州地方の集中豪雨にお見舞い申し上げます。
被災地が一日も早く日常を取り戻せるよう、心より願います。

外出を自粛しているうちに、あっという間に季節はめぐり、今年は春に単着物を着る機会を逃しました。
というのも台湾は冬が終わると一気に気温も上昇します。

台湾では旧暦

日本にはあまり馴染みがありませんが、タイや台湾などが中華圏だと強く感じることのひとつに暦があります。

普通のカレンダー上では日本と同じ時を刻みますが、年間行事などは全て旧暦で行われます。

今年は1月25日が春節(元旦に当たる日)で、その暦で1年が動いていきます。
6月末にも、端午節という、日本でいうところの「こどもの日」の大型連休があったばかりです。

日本と比べると、約ひと月遅れで祝日や「〇〇の日」がやってくる感じです。
ということで、7月7日の七夕はいつなんだろう、と確認してみると、8月25日でした。
しかも「恋人節」(七夕情人節)というなんともロマンチックな名称で呼ばれているではありませんか。

でもその中身は、日本のひと昔前のクリスマスイブのごとく、男性が女性にいかにお金をかけてプレゼントや高級レストランのお食事などでもてなすか、という一大イベントのようです。

ちなみに台湾では、バレンタインデーもホワイトデーも男性から女性にプレゼントを贈るようですよ。台湾の男性、なかなか大変そうですね。

日本でいう七夕は、1年にたった1度の織姫と彦星の逢瀬の日。
雨が降っては切ないですね。
一説によれば、雨天でも雲の上は晴れているとのこと。それを信じましょう。

旧暦で「〇〇節」という節目を大切にしている国に居ると、着物が日常だった頃の日本を想像します。

月の満ち欠けで季節を計るなど本当に風流だなぁと。

ゆったり流れる川や吹く風、色を徐々に濃くする山の緑や、見上げる空など…
自然が豊かだった頃は、きっと今よりゆるやかに時間も流れていたのではないでしょうか。

夏塩瀬 鮎の柄の染め帯

着物警察が腕を鳴らす「衣替えの時期」問題も、当時の慣習によるもの。
現代生活においては、命の危険にもつながりかねないほど夏の気温が上昇するなど、世界中で気候変動が起こっていますね。

薄物を纏う、南国にふさわしい装い

さて、南国で着物を着ている私に1番多い質問が、「暑くないですか?」です。

「暑いですよ」
南国ですから。

この質問は国内外から、実際お会いした方以外にも写真だけを見た方までもが、必ず投げかけてくるもう挨拶のようなフレーズです。

台湾は沖縄とほぼ緯度が同じくらいということで、暑さ寒さを比較されることも多いです。

が、台湾本島は、日本の九州の面積よりやや大きく南北に細長い島ですから地域によって差があります。
日本でも、北海道と九州では気候が違うのと同じですね。

私の住んでいる台北は台湾の北部に位置する盆地となり、夏は暑く冬は寒いといった印象です。寒いといっても10度前後ですから日本の冬よりはずっと暖かいですね。春や秋のような時期が極端に短く、暑い時期が長いのが特徴です。

特に夏(4月〜10月くらい)は気温が35度前後。
日本でいう「暑い」をさらに超える酷暑が続きます。

その「暑い」中での着物。
なぜ涼しい顔をして着られるか、という秘密をお話すると、日本と比べて南国の冷房の強さにあると思います。

外は確かに暑いのですが、乗り物や建物の中、とくに大きな施設になればなるほど冷房は強くかかっています。
そのため、長く外にいなければかえって身体が冷えやすい環境にあるとも言えます。

お腹や肩、腕をカバーしてくれる着物は冷房対策にはもってこいなんです。

日本は身体に優しい「弱冷房」が基本ですから、外も暑い、中も暑いので汗がひく時間がないのでしょう。
もう、日本も気候が南国化していることを認めて、冷房を「おもてなし」レベルに強くすることを求めたいです。

正絹紗の着物 夏椿の帯

もうひとつの秘密の理由は、下着をきちんとつけること。
実は襦袢や補整のタオルが汗を吸ってくれるので、着ていた方が快適なのです。

私の感覚ですと、南国では、「衿つきにしないゆかた1枚」か「襦袢などをきちんと着て正絹の絽や紗の着物を着る」のが1番涼しく感じられます。

絹はやはり天然素材、汗をこもらせない優れた特徴があるものだと感心します。
その際、やはりお手入れは必須。汗じみに数年後泣かないよう、シーズンが終ったらプロにおまかせする必要があります。

そういう意味でも正絹の着物に直接汗をつけるのでなく、肌着だったり襦袢だったりがまず肌につく、というのも理にかなった着こなしですね。

とはいえ、何を着ても暑い夏の日。
特に南国では突然の雨に降られる日も多いため、洗える素材の着物も重宝します。

暑さを覚悟して、お手入れの手軽さを優先するのも、賢い選択だと思います。
私も天候と用事により、使い分けています。

ゆかたから着物をはじめた私ですが、夏の透ける着物を手にいれてからは、ゆかたを着るよりも薄物(透けもの)が気にいってよく着ています。

絽や紗の絹の繊細な透け感は、着ている自分よりも、見ている人に涼を感じさせる役割があるようですね。

着物を着るのは誰のため(海外での着物)

私は着物を着るのが好きです。
そして、ゆかたを含め、着物を着る方がまわりに徐々に増えていくのをほほえましく見ているひとりでもあります。

私自身が、夏の暑さのなか、美しい透け感の凛とした着物姿の方を目にしたら…感動すると思います。

だからといって手放しで「誰もが海外で着物を着ればよい」とは思っていません。

それは女性だから、余計にそう思うというのもあります。
まず、その国の気候や治安、日本と友好的な国かどうかは重要ですし、十分着慣れていること。
慣れるまでは誰かと一緒に行動する緊張感も必要だと考えています。

台北の地下鉄の駅で

つい先日、台湾人の着物友達と話していた際に、彼女がストーカー被害の未遂事件にあったことを聞かされました。

前回のコラムで書きましたが、台湾での着物姿はそこまで珍しいものではないのにです。

それでもやはり、着物を着て歩くというのは目立ちますし、比較的治安の良い国だとしても夜分に無防備に出歩くのは危険でしょう。

幸い私は海外で着物を着ていて、被害に遭ったことは一度もありません。

ですが一度でも何か事件に巻き込まれたら、多分「着物を着ていた」ことのせいにされてしまうのではないでしょうか。

「着物なんか着て、悪目立ちするから」と。
悲しいことですね。

実際、その彼女のSNSのコメント欄には「着物姿が惹きつけた」という文字がならんでいました。

好きな服や好きな着物を着て出かけているだけなのですが、被害に遭ったとたん、あたかもそれが原因かのように言われてしまう。

どんな時でも、被害者に非があるような見方は世界的にも大きな問題点として長年議論報道されてきていますが、まるで変わっていないのが現実です。

「海外で着物を着て歩く」というのは、そういう現実があることも頭の片隅に置かなくてはなりません。

安全を過信せず、多少の緊張感をもち、「目立つ」ことも自覚することが大切だと私は思っています。

着物に限らず、「着るもの」は自らの表現や満足のためという面と、その場に敬意を表す、想いを代弁させる文化でもあるという側面を持ちます。

安全に安心して「着る」を楽しみたい、改めてその彼女の無事に胸を撫で下ろしたのでした。

洗える夏着物 羅の帯

最近の着物でのお出かけ

私が着物を着ていく場所で1番多いのはギャラリー(仕事)ですが、その次が茶道稽古ですね。
台湾に引っ越して、しばらくしてから日本人の先生とご縁が繋がり、お世話になっています。

※写真では、膝を痛めているので特別に座布団を使わせていただいています。

それ以外では、フォトジェニックな場所だったり、着物仲間との集まりといったところでしょうか。また次回にでも詳しくご紹介しましょう。

そうそう、6月から対面少人数制ではじめた「ゆかた着付けレッスン」には、当然ながらゆかたで出かけています。

国際色豊かなゆかた着付けクラス
台湾 日本茶花千鳥さん
http://www.hanachidori.tw/
台湾 東京彩健茶荘さん
https://saikencha.tokyo/

台湾ならではですが、生徒さんには日本人・台湾人はもちろん、ウクライナ人やペルー人という面々も。

着物の魅力は国境を越えています。

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