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盲人の富豪、鳥山検校 「知ってた?べらぼうなお江戸話」vol.3

盲人の富豪、鳥山検校 「知ってた?べらぼうなお江戸話」vol.3

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鳥山検校自身、確かに調子に乗ってひどいやり口で大儲けしていたんだけど、幕府は財源を潤わせるために検校たちに好き放題させた結果、いつの間にか自身の足元から崩されていた、というのがなんとも皮肉ですね。

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ナンバーワン花魁・瀬川を大金で身請けした鳥山検校とは

きものと読者のみなさま、こんにちは。tomekkoです。

江戸時代、実在の人物からそれを取り巻く環境や時代背景を紐解き、先入観なく歴史の一端を覗いてもらえたら……あわよくば興味を持ってもらえたら。

そんな思いで書いているこの連載ですが、出版ビジネス性産業と来て、今回扱うのは……

知ってた?べらぼうなお江戸話1

前出の吉原ナンバーワン花魁・瀬川を驚きの大金で身請けしたことで有名な盲人の富豪、鳥山とりやま検校けんぎょうを通して、江戸時代の『障がい者』について知っていきたいと思います。

ドラマでは穏やかで知性と品に溢れた盲目のイケメンとして描かれ、瀬川へのひたむきな愛情には思わず、

「えっ……蔦重つたじゅうより全然幸せになれそうじゃん?」

なんて心変わりしかけた視聴者も多かったのでは?(私です)

が。

まぁ史実を調べてみると、どう頑張ってもこの人物像にはならないんですよね……

あまり鳥山検校自身の人柄などに関する一次史料が無いもので、逆にいくらでも想像はできるはずなんですが、残っている史実、いわゆる「彼の財の成し方」を知ってしまうと"良い人キャラ"は厳しい気がします……

でもね、悪徳成金に嫌々身請けされる人気遊女、なんて構図はちょっと昭和の連ドラ時代劇のベタなお約束すぎますもんね。

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男性盲人のための自治的職『当道座』

鳥山検校個人の話をする前に、そもそも彼ら盲人が所属するこの特殊な組織がよくわかりませんよね?それになぜ目の不自由な人だけがこんなにお金持ちなの?

そこで、簡単に起源と経緯をイラストにまとめてみました。

知ってた?べらぼうなお江戸話2

障がいと言ってもさまざまな症状があるなか、なぜ盲人だけが特別扱いされたんでしょう?

それは平安時代に親王を起源とする盲人の集団に官職を与え庇護し、その後音曲や鍼灸治療といった専門的技能職を独占させたことに由来します。

室町時代には『平家物語』をまとめた検校を頂点とした『当道座』という男性盲人のための自治的職能互助組織を作り、幕府が保護。

組織には階層があり、江戸時代には、元々は能力に優れた者や年功序列的に得ていた肩書きを金で買い早期昇進する慣習ができました。

幕府がこの団体を保護したのには、自治組織と言いながらも当道座内での昇進に際して昇進料を徴収していたため、幕府にとっての良い収入源だったというのも理由の一つのようです。

要するに、昇進するにも金が要り、昇進してからも納める金が要る。この金を工面させるために幕府は当道座に金融業も許可し、更には租税も免除……。

あれあれ?なんだかきな臭くなってきましたね。これが彼らの莫大な財力と権力に繋がっていったわけです。

幕府の金策のために与えられた盲人の特権

もちろん表向きの保護理由もありました。

『平家物語』を広め受け継ぐ琵琶法師のように、文化・芸術の隆盛は治世の権威、そして正当性を高める重要な要素でした。

そして障がい者保護は「弱き者を救う慈悲深い政府」という"徳政イメージアップ"にも繋がります。いや、他にもたっくさん救われるべき人々はいたわけですけども、大事なのはイメージですから。

当時の政府機関であった幕府が公式に認める特定の職業や団体の共通点は

由緒の正しさ(高貴さ)
生産性

でしょうか。

武家の世と言いつつ、将軍の正室には天皇家や公家の血筋を欲しがるところからも分かるように、常に幕府の正当性って天皇の存在感にバックアップしてもらっているんですよね。

そして常に金策に困っていた幕府としては、租税以外で間接的に国民から金を吸い上げられる「財源」が保護対象になるのは当然。盲人に特権を持たせたのは、彼らが持つ職能的に生産性が高いから。

盲人たちの会計能力は記憶・計算ともに非常に優れていたそうで、そんなところからも金融業への道が拓けたのかもしれません。

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2025.07.06

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『鳥山瀬川事件』から透ける江戸っ子の"差別意識"

さて、ようやく鳥山検校の話に戻りましょう。

本名は鳥山玉一たまいち。生い立ちや音曲・鍼灸などの功績はよくわかっていませんが検校まで上り詰めた方法はヤバいで有名!

幕府から許可された金融業ですが、実態は高利で貸し付け取り立てる手法。今なら闇金ですが、これが幕府公認というんだから恐ろしい話です。さらに、貧乏旗本や御家人などに貸し付けるやり方で莫大な財と権力を成したのです。

武家は庶民と違って、公的な立場がありプライドも高いので踏み倒して夜逃げってわけにはいきませんよね。さらに、表立って言えない貸しを作ることで身分制度などあって無いような状態に。

つまり金を貸し付けることで武士さえも言いなりにできたのです。

知ってた?べらぼうなお江戸話3

こうして本来「慈悲」をもって「保護」されるはずの立場が逆転、いつの間にか江戸の人々の生活を脅かし暗に支配するようになっていた、というわけ。

鳥山検校はこの財を投じて吉原で豪遊し、ついには当時のトップ花魁、松葉屋の瀬川を破格の大金で請け出すまでしたわけですね。その額なんと1400両、現在価値で1億6千万ほどにもなるそうです!!宝くじレベル……

この出来事は、他の真っ当な豪商や殿様たちがする遊女の身請けとは同列には受け止められませんでした。

『鳥山瀬川事件』と呼ばれ江戸中をざわつかせ、たびたび戯作本のネタにも。

額も額だし何より相手が……金持ちの大盤振舞いは威勢の良さや宵越しの金を持たない精神を好んだ江戸っ子たちにとっては批判よりも大いに面白がる話題なんですが、それが検校となると……さすがに複雑だったでしょう。

知ってた?べらぼうなお江戸話4

とはいえ御公儀が認める立場の検校を表立って責めたり批判したりはできません。ひたすら金額の大きさに驚き呆れ、目の見えぬ盲人が美貌で名を馳せた花魁を手に入れることを狂歌などでからかうのでした。

遊女にとって身請け金額の大きさは名妓の誉れとなるものですが……楼主はホクホクでも瀬川本人は内心どんな気持ちだったのでしょうね。

この事件にほんのり透ける、江戸っ子の間に流れる"差別意識"。

吉原者も江戸っ子たちからしたら蔑む対象。その吉原者からしても恐らく検校は金払いの良さに頭は下げても内心見下していたのではないでしょうか。

多額の金で吉原脱出できるのは羨ましいけど、金のためにそこまで堕ちたくない……現代でも時折SNSをざわつかせるパパ活やら海外出稼ぎ女子やらに向ける目線を当時の江戸っ子に感じるのでした。

しかし因果はめぐるもので、その後鳥山検校は厳しい貸し付けに耐えきれず夜逃げしてしまった武家が出たことでそれまでの悪行が幕府に知られ、厳しい処分を受けました。

瀬川のその後ははっきり分かっていませんが、検校とは離縁し大工の妻になったなどの諸説があります。

まぁこの顛末を見るとなんというか……鳥山検校自身確かに調子に乗ってひどいやり口で大儲けしていたんだけど、幕府は財源を潤わせるために検校たちに好き放題させた結果、いつの間にか自身の足元から崩されていた、というのがなんとも皮肉ですね。

2025.07.07

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『大吉原展』 東京藝術大学大学美術館 「きものでミュージアム」vol.33

描かれなかった人々の暮らしを想像して

前回、吉原に売られた娘以外の、表だっては見えにくい貧困家庭の子どもたちにも思いを馳せてほしいと記しました。同じ史実でも華やかな姿は積極的に描かれ、それ以外は描かれないから知られないけれど、そこに存在していた人々がいることを。

2025.09.01

カルチャー

遊郭は江戸のセーフティネット? 「知ってた?べらぼうなお江戸話」vol.2

今回の盲人の当道座という組織も、少し吉原と似たところがあるように感じます。

盲人たちだって吉原の遊女同様、当道座に所属するしか生き残るのに選択肢がなかった。そして内部では激しい出世争いがあり、勝ち残るのは賢く金を工面できたほんの一握りのみ。

保護対象にならなかったその他の障がいを持つ人々の生き様もまた過酷です。珍しい身体障がいを「見せ物小屋」で晒して生きる人もいました。知的障がいはほぼ理解されず放置されました。

近年、時代考証もよく反映され、解像度の高い時代劇を見ることができるようになってきました。ドラマや演劇で庶民の暮らしを観る時に、同じ立場でもそこには映らない人々を想像してみるとさらに奥行きを感じられるかもしれません。

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