着物・和・京都に関する情報ならきものと

特別展『運慶 祈りの空間―興福寺北円堂』東京国立博物館  「きものでミュージアム」vol.50

特別展『運慶 祈りの空間―興福寺北円堂』東京国立博物館 「きものでミュージアム」vol.50

記事を共有する

特別展『運慶 祈りの空間―興福寺北円堂』が東京国立博物館で開催中。運慶晩年の傑作である奈良・興福寺北円堂の本尊・弥勒如来坐像はじめ国宝7軀が寺外で約60年ぶりに公開。運慶の最高傑作が織りなす祈りの空間を!

2025.08.02

おでかけ

特別展『江戸☆大奥』東京国立博物館 「きものでミュージアム」vol.49

運慶晩年の傑作、国宝7軀が一堂に

今回は、東京国立博物館で開催中の特別展 『運慶 祈りの空間―興福寺北円堂』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。画像写真の無断転載を禁じます。

展示風景

奈良・興福寺は、藤原氏の祈りを今に伝える法相宗の大本山。世界遺産「古都奈良の文化財」の一角として、長い時を超えて多くの人々を迎えてきました。

境内北西に佇む北円堂は、養老五年(721)、藤原不比等の一周忌追善のために建立され、堂内には9軀の仏像が安置されたと伝えられます。

エントランス

エントランス

その後、度重なる災禍を経て、鎌倉時代に再建されたのが現在の国宝・北円堂です。

当時、運慶率いる仏師たちが仏像制作を担いました。9軀のうち、弥勒如来みろくにょらい坐像と無著むじゃく世親菩薩せしんぼさつ立像が堂内に現存し、四天王立像は現在中金堂に安置される像が旧北円堂像であるという説が有力です。

国宝・興福寺北円堂の外観のパネル前

国宝・興福寺北円堂の外観のパネル前

本展では、鎌倉復興期の北円堂を、国宝仏像7軀によって再現。修理を終えた弥勒如来坐像の東京公開は約60年ぶり。

運慶晩年の到達点ともいえる仏像群が、東京国立博物館に集い、静謐で荘厳な祈りの空間を作り出しています。

東京国立博物館本館

東京国立博物館本館

広報大使・音声ガイドは高橋一生さん

俳優の高橋一生さんが本展の広報大使と音声ガイドを担当!

取材会に登場した高橋一生さんは、濃紺のストライプの三つ揃いスーツにネクタイ、眼鏡姿。知性と仏像に対する畏怖の念を感じさせる佇まいでした。

(左から)世親菩薩立像、弥勒如来坐像、無著菩薩立像 すべて奈良・興福寺蔵

(左から)世親菩薩立像、弥勒如来坐像、無著菩薩立像 すべて国宝 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置

一生さんの音声ガイドは、作品の背景や造形の魅力を丁寧に伝える誠実な語り口が印象的です。仏像に込められた祈りや運慶の造形哲学が、静かな語りを通して深く届きます。

本展の担当研究員・児島大輔さん(東京国立博物館)との「深堀トーク」も楽しめますので、鑑賞のおともにぜひ!

(左から)弥勒如来坐像、無著菩薩立像 すべて奈良・興福寺蔵

(左から)弥勒如来坐像、無著菩薩立像 すべて国宝 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置

鎌倉時代の仏師・運慶

運慶(生年不詳〜1223頃)は、鎌倉時代初期に活躍した仏師で、父・康慶の系譜を継ぐ「慶派」の中心人物です。

力強く写実的な造形が特徴で、従来の定朝様式(穏やかで優美)とは異なり、量感ある肉体表現や動きのある衣文が際立ちます。仏像に人間的な感情や個性を宿らせることで、鑑賞者との精神的な距離を縮めました。

晩年には、静けさと深みを湛えた表現に到達しました。本展の7軀は晩年の傑作とされます。

本展の作品のほか東大寺南大門の金剛力士像(阿形・吽形)や円成寺の大日如来像が運慶作として知られています。

中央:国宝   弥勒如来坐像   運慶作   鎌倉時代・建暦2年(1212)頃   奈良・興福寺蔵 北円堂安置、左:国宝   世親菩薩立像   運慶作   鎌倉時代・建暦2年(1212)頃   奈良・興福寺蔵 北円堂安置、右:国宝   無著菩薩立像   運慶作   鎌倉時代・建暦2年(1212)頃   奈良・興福寺蔵 北円堂安置

中央:国宝 弥勒如来坐像 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置、左:国宝 世親菩薩立像 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置、右:国宝 無著菩薩立像 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置

運慶、晩年の傑作7軀が集う空間

運慶は興福寺北円堂の復興に際し、一門を率いて仏像造像を担ったとされます。本展展示の7軀の国宝仏像は、運慶一門による作と考えられ、日本彫刻史における傑作群像として知られています。

弥勒如来坐像、無著菩薩立像、世親菩薩立像

本展で弥勒如来坐像は光背なしで360度から鑑賞できます。あらゆる角度からご覧ください。

展示風景

弥勒如来坐像は肩を開いて胸を張り、やや猫背です。少し伏し目がちで、静かで柔らかな表情をたたえるそのお姿を拝すると、心が穏やかになっていくのを感じます。

背後からの展示風景

背後からの展示風景

国宝   弥勒如来坐像 (部分)  運慶作   鎌倉時代・建暦2年(1212)頃   奈良・興福寺蔵 北円堂安置

国宝 弥勒如来坐像 (部分) 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置

北円堂の仏像は、写実性と精神性を兼ね備えた造形が特徴です。とりわけ 無著菩薩立像と世親菩薩立像は、人物像でありながら人間性を超越し、崇高な存在を人の姿に託して表現することに成功した稀有な作例です。

無著菩薩立像と世親菩薩立像は目に水晶をはめ込んだ玉眼で、静かな生命感を与えています。彫眼の弥勒如来坐像と四天王と並べて見ると、まなざしの深さや像の気配の違いが浮かび上がります。

国宝   世親菩薩立像(部分)   運慶作   鎌倉時代・建暦2年(1212)頃   奈良・興福寺蔵 北円堂安置

国宝 世親菩薩立像(部分) 運慶作 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置

四天王立像

四天王は、東西南北の四方を司る守護神です。怒りの表情で甲冑をまとう姿が特徴で、それぞれが異なる持ち物を携えています。

持国天は東方、増長天は南方、広目天は西方、多聞天は北方を守り、仏教世界の秩序を保つ役割を果たしています。

国宝   四天王立像(広目天) 鎌倉時代・13世紀   奈良・興福寺蔵 中金堂安置

国宝 四天王立像(広目天) 鎌倉時代・13世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置

国宝   四天王立像(広目天)(部分) 鎌倉時代・13世紀   奈良・興福寺蔵 中金堂安置

国宝 四天王立像(広目天)(部分) 鎌倉時代・13世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置

本展の四天王は鎌倉時代らしい力強い動きのある姿勢と、筋肉の造形に見られる写実的な表現が見どころです。額や手に浮き出る血管までじっくりとご覧ください。

国宝   四天王立像(持国天) 鎌倉時代・13世紀   奈良・興福寺蔵 中金堂安置

国宝 四天王立像(持国天) 鎌倉時代・13世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置

国宝   四天王立像(持国天)(部分)

国宝 四天王立像(持国天)(部分) 鎌倉時代・13世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置

祈りの空間における守護者としての存在感が際立ちます。

国宝   四天王立像(多聞天) 鎌倉時代・13世紀   奈良・興福寺蔵 中金堂安置

国宝 四天王立像(多聞天) 鎌倉時代・13世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置

国宝   四天王立像(多聞天)(部分)

国宝 四天王立像(多聞天)(部分) 鎌倉時代・13世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置

現在、四天王立像は奈良・興福寺の中金堂に安置されていますが、近年の研究ではこれらが鎌倉復興期の北円堂の像である可能性が高いとされています。

つまり、本展では、かつて同じ空間に安置されていたと考えられる7軀の仏像――弥勒如来坐像、無著・世親菩薩立像、そして四天王立像――が、一堂に会するかたちで展示されているのです。

国宝   四天王立像(増長天) 

国宝 四天王立像(増長天) 鎌倉時代・13世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置

国宝   四天王立像(増長天)(部分)

国宝 四天王立像(増長天) 鎌倉時代・13世紀 奈良・興福寺蔵 中金堂安置

分散して安置されている仏像たちが、祈りの場としての本来の関係性を取り戻すように並ぶその光景は、奇跡のような空間です。

鎌倉期の北円堂内陣空間を実際に目の前で体感できる、極めて貴重な機会を存分に堪能してください。

グッズは渋くて個性的

本展の展示にちなんだ多彩なオリジナルグッズが展開されています。仏像の魅力を日常に持ち帰るような、ユニークで美術愛好家にも嬉しいラインナップです。

オリジナルグッズ

オリジナルグッズ

オリジナルグッズ

オリジナルグッズのアクリルスタンド

東博コレクション展も

本展のチケットで東博コレクション展もあわせてご覧いただけます。東博コレクション展は、東京国立博物館が所蔵する約12万件の文化財の中から、選りすぐりの作品を展示する常設展です。

日本美術を中心に、東洋の考古・工芸・絵画・彫刻など多彩なジャンルが並び、季節やテーマに応じて展示替えが行われます。国宝や重要文化財も多数含まれ、何度訪れても新しい発見があります。

本館11室の冒頭を飾る金剛力士像は、2022年に修理を終え新たに加わった注目の仏像で、平安時代・12世紀の作とされています。高さ3メートル近い圧巻の力強い姿です。

金剛力士立像

金剛力士立像 右から 阿形、吽形 平安時代・12世紀

東博コレクション展展示風景

東博コレクション展展示風景

最後に

かつて北円堂に安置されていたとされる7軀の仏像が、ふたたび一堂に並ぶ本展は、現在の興福寺では見ることのできない、きわめて貴重な構成です。

展示風景

運慶が晩年に率いた一門の手によって造像されたこれらの像は、それぞれ異なる気配をまといながらも、祈りの空間の中で静かに響き合っています。

本館大階段前

祈りのかたちを彫り起こした仏師たちの仕事に、そっと耳を澄ませながら、鎌倉復興期の空気を感じてください。

この日の装い

この日の装い
この日の装い

本展は、9月9日、重陽の節句が開幕日ですので菊を装いに取り入れました。

2025.07.06

カルチャー

菊花を満喫する”重陽の節句” – 嵯峨御流「はじめましょう 花であそぶ節句」vol.4

2025.07.05

エッセイ

テーマは菊!9月のお節句って? 「3兄弟母、時々きもの」vol.11

この日の装い
この日の装い

夏牛首紬の地に「菊に籬(まがき・垣根)」に流水模様の友禅の着物にとなみ織物の菊模様の帯を合わせ、道明の亀甲組の帯締めを。

この日はまだ猛暑日で着物は夏物でしたが、帯揚げと帯締めで少し秋を意識しました。

2025.07.06

カルチャー

オートクチュールの世界から仏師へ。 京仏師 宮本我休さん(前編) 「川原マリア×令和の若手職人」vol.5

2025.07.17

カルチャー

【対談】映画作家 河瀨直美さん × 東大寺塔頭宝珠院住職夫人 着付士 佐保山素子さん ―語り尽くせぬ、奈良への愛。

撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

ポスター画像

特別展 「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」

東京国立博物館 平成館(東京都上野)
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/unkei2025/

日時:2025年9月9日(火)~11月30日(日) 9:30~17:30 *毎週金・土曜日および9月14日(日)、10月12日(日)、11月2日(日)、11月23日(日)は20:00まで開館 (入室は閉室の30分前まで)

休館日:9月29日(月)、10月6日(月)、14日(火)、20日(月)、27日(月)、11月4日(火)、10日(月)、17日(月)、25日(火)

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

ゴッホ展ポスター

ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢

東京都美術館 企画展示室
https://gogh2025-26.jp

日時:2025年9月12日(金)~12月21日(日) 9:30~17:30、金曜日は20:00まで ※入室は閉室の30分前まで)

休館日:月曜日、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)※9月22日(月)、10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)、11月24日(月・休)は開室

※土日、祝日および12月16日(火)以降は日時指定予約制

■巡回予定
[名古屋展]愛知県美術館  2026年1月3日(土)~3月23日(月)

インド更紗展ポスター

カルン・タカール・コレクション インド更紗 世界をめぐる物語

会場 東京ステーションギャラリー
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/

日時:2025年9月13日(土)〜2025年11月9日(日) 10:00~18:00(金曜日~20:00)※入館は閉館30分前まで

休館日:月曜日(ただし10/13、11/3は開館)、10/14(火)

◆ 読者プレゼント ◆

ポスター画像

さて、恒例の招待券プレゼント!
今回は『運慶 祈りの空間―興福寺北円堂』の東京国立博物館の招待券を2組4名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆インスタグラム
https://www.instagram.com/kimonoto__

◆X
https://x.com/kimonoto___

※応募期間:2025年9月23日(火・祝)まで

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • マンスリー

HOT KEYWORDS急上昇キーワード

記事を共有する