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伝統を受け継ぐ・守るということ 「京友禅染匠・富宏染工 藤井友子」

伝統を受け継ぐ・守るということ 「ひとつひとつの色をつくる 、京友禅染匠がみる景色」 vol.1

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「藤井寛のきもの」でも広く知られる京友禅染匠・富宏染工。その工房を今年社長として継がれる予定の藤井友子さんは、伝統を受け継ぎ守りながらも、京友禅の可能性を広げる新しい取り組みを積極的に行っておられます。今回より全5回、呉服の本場・京都室町より見える景色と未来への想いをお聞かせいただきます。

京都の扇面画家・宮崎友禅斎がはじめた京友禅

京友禅は、江戸時代に京都の扇面画家・宮崎友禅斎がはじめたと言われています。
江戸時代、「金紗・縫・惣鹿の子」を禁じる奢侈禁止令が出され、武家の女性や商家の女性を顧客としていた呉服商が販売するものがなくなり、策を練った結果、新しい友禅染めの技法が生まれたのではとも言われています。
ファッション雑誌のように『友禅ひいながた』という見本帖も発刊されて、元禄時代に大いに流行したようです。

私は「染匠」と言われる仕事を営んでいます

私は「染匠(せんしょう)」と言われる仕事を営んでいます。
京友禅は15前後の工程に分かれており、各工程の職人が代々受け継いだ仕事をして、染匠は意匠・デザイン配色・着物のできあがりまでを統括します。全く知られていない職業のため何をしているか理解してもらいにくく、「今でいうクリエイティブディレクターやアートディレクターみたいな仕事です」と説明することがありますが、いつも「ちょっと無理目にかっこよくいいすぎやなあ」と思います。

弊社は、「藤井画房」という名で父が大学の時に着物製作をてがけたのがはじまりです。
当時はお歳暮などの贈答品に白生地が選ばれることがあり、父の大学時代の恩師の奥様にお客様を紹介していただいたりしていたと聞いています。
その後、室町で取引するようになり「富宏染工株式会社」を創業しました。
私が小さい頃は中京の家のまわりも着物関係の家が多く、ごく一般的な家業という認識で、「伝統工芸の仕事」と耳にすることもほとんどありませんでした。

よくいつも、またなぜ家を継ぐ決心をされたのですか?と聞かれるのですが、私は一人っ子で後を継ぐ兄弟もいませんし、なんとなくいつの間にか…としか答えようがありません。
父は継いでほしいような雰囲気でしたが、業界が厳しく、大変だとわかっていますし、跡を継がれるおうちも少なくなってきていたので、はっきりいえなかったのではないでしょうか。

きっかけとしては、ビジネススクールに行って他業種の方々と話していくうちに、自分の家の仕事の特殊性とか、日本らしさ・京都らしさが客観的にわかったこともひとつです。
古い業界の常識についていけない部分があったのですが、いろんな業界の事情や変化を知ることができて、そういう常識に縛られなくてもいいかもと思えたのも要因だと思います。
また、母が亡くなったことで、現実的に父をフォローしていかなくてはならなくなり、徐々にちゃんとやっていかないとなあ、と思うようになりました。
幸い、古くからの職方やスタッフも暖かく迎えてくれ、新しいスタッフにも恵まれたので、自分も支えてくれているそれぞれのために頑張りたいな、と思うようになりました。
今年社長を継ぐ予定ですが、まだ父も元気ですので、手描き友禅、それに携わる人の仕事がずっと継続していけるように整えていきたいと思っています。

自分の家の仕事の特殊性を再発見する
伝統的な友禅は全工程手仕事による一点ものが基本

伝統的な友禅は「全工程手仕事による一点ものの作品」を基本としています。
白生地を仕入れてから、市内に住む職方の家を順々にまわってできあがるという、昔ながらの製作のしかたを今も続けています。
白生地に糸目糊という糊を使って模様を描いて染めるため、隣り合う色が混ざらず、世界に類を見ないほどの多彩な色彩をほどこすことが可能です。
振袖や訪問着といった着物は仮絵羽をして、まるで一枚の日本画のような姿でおさめられます。

現在、振袖のほとんどがインクジェットプリントになり、手描き友禅の着物が製造される割合は1割程度になっています。
かつては弊社のように職人をかかえる工房がたくさんありましたが、今残っているのは片手にもおよばない状況で、職人の数も減り続けています。

手描き友禅の着物が製造される割合は1割程度に
人生の大事な日を彩り思い出も一緒に受け継げる着物

そんな状況ですが、私と私のまわりにいる人々は、今も、そしてできるなら未来もずっとこうした仕事を続けていきたいなあと考えています。
着物は、細部に凝縮される美と時間に価値をおき、手間ひまがかかり、量産性もありませんが、その人の人生の大事な日を彩り、母や祖母の思い出も一緒に受け継げるものです。

そういう日本の価値観や美意識を形にしたものが着物だとも思っていて、京都はそれを⼤切に伝えてきたまちだと思います。
昔からの宝ものを踏襲しながら、変化に柔軟に対応して、今の仕事として続けて行けたら、と考えています。

京の街並み

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