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家業から逃れたくて最初は会社員に。 染織作家・秋山眞和さん(インタビュー前編)「染織がたり」vol.1

家業から逃れたくて最初は会社員に。 染織作家・秋山眞和さん(インタビュー前編)「染織がたり」vol.1

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各地の染織作家をお招きして、もの作りへの思いやここだけのエピソードなどについて「京都きもの市場」銀座店店長の菅野が聞き出す新企画。宮崎県『綾の手紬』秋山眞和さんにお越しいただきました。

初回ゲストに秋山眞和さんお迎え

各地の染織作家をお招きして、作品を取り上げつつ、もの作りへの思いやここだけのエピソードなどについて「京都きもの市場」銀座店店長の菅野が聞き出します。

知る人ぞ知る隠れ家バーを舞台に、日頃から作品を通じて密なやりとりのある菅野だからこそ聞き出せる”ここだけの話”を、動画と記事にてお楽しみください。

記念すべき第一回は、宮崎県『綾の手紬』秋山眞和さんにお越しいただきました。

日本在来種の蚕「小石丸」、天然藍染、貝紫染で、きもの愛好家にとりわけ人気の高い秋山眞和さん。

インタビュー前編では、染織の道に進まれた経緯や、天然染料を使うようになったきっかけなどについてじっくりと伺っています。

電電公社の社員を辞めて家業へ

菅野大介(以下、菅野):先生はいつごろから染織の道に入られたんですか?

秋山眞和さん(以下、秋山さん):22~23歳のころからですね。親が倒れたのをきっかけに、仕方なく(笑)。他に跡取りもいないし、途絶えさせるわけにはいかないと思って、家業を継いだんです。

菅野:別にやりたかったことがあったんですか。

秋山さん:実は電電公社、今のNTTグループの前身に勤めていたんです。一本の電力線で何百サイクルもの通信を送る、搬送通信の仕事をしていました。会社を辞めて、染織の道へ入りました。

菅野:染織は何の勉強からされたんですか?

綾の手紬

秋山さん:中学生くらいから家業の手伝いをさせられていました。学校から帰ったらすぐに親にとっ捕まって。だから15歳頃には、一人前というのはおかしいけれど、親と同じ仕事をしていました。だから逃げたいと思って電電公社に勤めたんだけどね。

菅野:それはすごいですね。でも、違うこともしてみたかったんですね。

藍染を始めたきっかけ

菅野:藍染はもともとされていたんですか?

秋山さん:当時、親は化学染色ばかりでした。家はもともと沖縄で織物をしていて、戦争で従業員と一緒に宮崎に疎開して、そのまま宮崎で織物をするように。そして「琉球古典紬」の名称で沖縄時代の問屋に納めていました。

家を継いだときは20代で、やるからには宮崎の地名を付けようと綾町に引っ越して『綾の手紬』の名前で始めました。

菅野:藍染との出会いは?

秋山さん:『綾の手紬』の特徴をどうしようか考えて、京都、久留米、博多などの産地を見て回りましたが、どこも新しい技術を追いかけているんですね。自分が今からやっても追いつかないと思いました。

いっそのこと今の流れに回れ右をして、天然染料にしようと思って。その中のひとつが藍染でした。

それで、天然染料の中で、最後までできなかったのが貝紫染でした。

貝紫染について

貝紫の着尺を持参する菅野

菅野:貝紫のお話をうかがいたくて、今日は貝紫の着尺をもってきました。……素晴らしい色ですね。かつて”最も高貴な色”と言われたのがよく分かります。

秋山さん:絣の部分は濃い色なんですけど、この薄い地色も貝紫染なんですよ。経糸たていとに入っている薄い線が藍染です。

貝紫の着尺

菅野:「小石丸×藍染×貝紫」という3つの特徴で、とても秋山先生らしい着尺だと思います。貝紫染を始められたきっかけは?

秋山さん:瀬戸内寂聴さんの『比叡』という本で、染色家の吉岡常雄さんの貝紫のことを書いておられたんです。

菅野:吉岡常雄さんは、有名な『染司よしおか』の四代目ご当主ですよね(現当主・更紗氏の祖父)。それで貝紫を見にメキシコに行かれたと。

秋山さん:その前に、吉岡先生と九州の海岸沿いを歩いたんです。

吉岡先生は「貝紫は日本にもあるはず」とおっしゃっていましたが、そのときはアカニシガイではなくて、イボニシガイを探してらっしゃいました。でもイボニシガイではハンカチの一部をちょっと貝紫で染めるくらいの量しかできなかった。趣味で楽しむ程度で、商品作りには向かないと。

菅野:なるほど。

秋山さん:
研究すると、貝紫の色素と藍の色素の化学式は、br(臭素)がちょっと違うだけで、ほとんど一緒なんです。じゃあ藍染と同じように染まるだろうと、貝紫の染料を採って、藍と同じように染めました。それが最初です。45年前くらいですね。

菅野:「直接染」じゃなくて、分解して、藍のようにできないかと「還元法」で染めたのは先生がはじめてですよね。

秋山さん:貝紫は動物染料です。藍は動物染料ではありますが、化学的には動物染料の仲間なんです。

菅野:面白いですね。日光に当てて発色するということですか。

秋山さん:というより、空気に触れて酸化する。藍染と一緒です。貝紫染をされる方は何人もいらっしゃいますが「直接染」の方が多いですね。とても強烈なにおいがしますね。

菅野:”アッキガイ(悪鬼貝)”というくらい臭いと聞きますけれど、どんなにおいなんですか?

秋山さん:……ニンニクの腐ったような臭いです(笑)。

ただ、「直接染」だと臭いんですが、私がしている「還元法」だと酵素で分解していますので、臭くないんです。それを「臭くないから偽物だ」っていう人もいますね(笑)。

次号後編は、来月公開。

『綾の手紬』の”糸へのこだわり”について、深く掘り下げます。

取材・文・構成/笹川茂美

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