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三代目大谷廣太郎夫人・青木果歩さん「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.7  ―祖母の着物に義母の帯、受け継いだ着物をまとって劇場へ

三代目大谷廣太郎夫人・青木果歩さん「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.7  ―祖母の着物に義母の帯、受け継いだ着物をまとって劇場へ

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今回は三代目大谷廣太郎さんのご夫人にご登場いただきます。劇場での装いから、受け継いだ着物、歌舞伎俳優の妻として気をつけていること、思い入れのあるお品についてうかがいました。

2024.11.10

よみもの

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劇場でお客さまをお迎えする装い

──「劇場でお客さまをお迎えするさいの装い」をテーマにお越しいただいております。
どのようなものをお召しなのでしょうか。

三代目大谷廣太郎夫人・青木果歩さん

だいたい今日のような控えめな訪問着か付下げ、もしくは色無地を着ます。あまり格が下がらないように気をつけつつ、派手でないものを選ぶようにしています。

帯も、やわらかい感じでまとめられたら、と思い締めてまいりました」

2024.10.14

まなぶ

おさえておきたい”きものの格”の話 「着物ひろこの着付けTIPs」vol.10

──あられ地紋の綸子地に、薄玉子色からお裾に向かってのシャンパンゴールドのぼかしがきれいです。友禅の着物ですが、梅の模様などに金彩がしっかり使われていて七色に光っていますね。

シャンパンゴールドのぼかしが美しい

御所車に四季花模様の着物です。このゴールドのぼかしが肌の色に合うのか、自分に似合う、という安心感からよく袖を通す一枚です。

夏ですと水色などの寒色系も着ますけれど、こういった黄色やピンク、オレンジなどの暖色系を着る機会のほうが多い気がします」

小倉淳史さんの辻が花の染め帯

──帯締めのピンク色の使い方も、サーモン系で黄みによせていらっしゃいますね。帯は、辻が花・小倉淳史さんの染め帯ですね。染めの帯ということで、かしこまりすぎないようにされているのでしょうか。

「そうですね。こちらは義母大谷友右衛門夫人 青木かずこさんのもので、小倉先生の帯です。色味もよくて、とてもかわいいですよね。

義母からは、年代的にしっくりこなくなった着物や帯をたくさん譲っていただいていて、本当に大変助かっております

青木果歩さん後ろ姿

2022.11.19

まなぶ

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結婚が決まり譲り受けた着物

──全体的にはんなりとした印象です。ご出身は京都のほうでしょうか。

お祖母さまのお着物

「いえ、父方も母方も三代前から東京という生粋の江戸っ子です(笑)。帰省という概念のない家で育ちました。

ちなみにこの着物は私の母方の祖母のタンスに入っていたものでして、祖母はたくさん着物を持っていたので、お嫁に行くときにいくつか譲り受けたのです

──お祖母さまもよろこばれたのでは。

みなさま、大事にしてらっしゃったいいものをお譲りくださる

「そうなんです。それに祖母はその世代の方にしては背が高く、身長も私と同じくらいでして、祖母が誂えたものはぴったりなんです!本当にありがたく着させてもらっています。

また祖母だけでなく、お知り合いの方からも譲っていただくことも多いんです。歌舞伎俳優の家に嫁ぐとなったときに『これから着物、たくさん着るわよね?』と。『うちに使っていない衣装ダンスがあるんだけど……』とお声がけいただいたこともありました。

みなさま、大事にしてらっしゃったいいものをお譲りくださるんですよね。

やはり着物のいいところは、20年30年、長ければ40年50年、祖母の若いころに作ったものですともうゆうに50年は経っていると思うのですが、まだ問題なく着られるというところでしょうか。

むしろ、昔のもののほうがよかったりするのだな、と思うこともありますね」

大学の茶道部で着物にふれて

──ご結婚をきっかけに着物を着られるようになったのでしょうか。

「着物を着るようになったのは、大学で茶道部に入ったのがきっかけですね。学園祭のお茶会などで、着物を着られる人は着ましょうという呼びかけがありまして。年に1~2回ほどは着る機会があったんです。

母は着付けができましたので、母に着せてもらいながら……着せてもらう身として、こうなっているんだな、と理解はしていました。

でもやはり結婚するにあたって、自分できちんとできなければと思い、あらためて母に教えてもらいました。ですので自己流といえば自己流です。

とにかく、慣れですよね。まだ支度に時間はかかってしまうのですが、だんだんと短縮されていっています。

とはいえ本当に奥が深くて……まだまだ素人の域です。

大学で茶道部に入ったのがきっかけで着物を着るように

劇場へ行き、先輩のお姉さま方やお客さま方の着こなしを拝見するのもとても勉強になります。この色合わせはステキだなとか、いつも参考にさせていただいております

──お義母さまのかずこさんに相談されたりすることはありますか。

「はい。結婚前までは、自分なりのコーディネートで着物を着ることはあっても、劇場へ行く、お客さまをお迎えするということは初めてでしたので、嫁いだばかりのころは義母に持っていると着物と帯のラインナップを送り『これとこれにしようと思うのですがいかがでしょうか』と聞いていました。

義母から『いいと思います』というのをいただかないと不安で、毎回確認させてもらっていましたね。

いまでも『この組み合わせで行こうと思うのですが、もっと良い合わせ方はありますか?』と聞いてしまいます

2024.11.10

よみもの

大谷友右衛門夫人 青木かずこさん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.6  ―歌舞伎俳優の妻はみな”プロデューサー”

歌舞伎俳優の妻として

──歌舞伎俳優の妻として生活面など、気をつけていることはありますか。

「主人は、当たり前ですがプロの歌舞伎俳優なので、私が仕事のサポートでできることはないのですが、仕事のオンとオフをしっかり分けるタイプなので、オフのスイッチが入っているときには、家で存分に休めるようにしてあげたいな、と思っています。

歌舞伎俳優の妻として

主人は私にはないものを持っていると感じます。

小さいときから歌舞伎の世界に身を置いてきたからこそ、人との関わり方ですとか、失礼のないような礼儀作法ですとかが、自然と身についている。尊敬しますね。

私自身のことで気をつけていることといえば……嫁いですぐのころです。ふらりと銀座で買物をしていたんです、普段通りにイヤフォンをして音楽を聞きながら。

あとで主人にだめだよ、と言われました。それだと、どなたかに会ったときに気づかず無視してしまうかもしれないと。確かに失礼があってはならないな、とハッとしまして、銀座界隈ではとりわけ気を引き締めて歩くようにしています

思い入れのあるお品

──思い入れのあるお品をお持ちいただいております。

思い入れのあるお品

私の母が若いころ日本刺繍を習っておりまして、その母が刺した日本刺繍の着物です。40年くらい前のものになるのではないでしょうか。

結婚前には着る機会がなかったのですが、ちょうどよく付下げのようにポンポンと柄入っていて、生地もあわい虹色のぼかしでピンクがみえたりと地味になりすぎませんもので、いま一番出番が多い着物かもしれません。

お母さまが刺さされた日本刺繍の着物

お母さまが刺された日本刺繍の着物

結婚式の直後、歌舞伎座にご挨拶に立つさいに着ていったのも、この着物でした。

どれにしようかと、さんざん相談して決めたので忘れられませんね。母に感謝です!

刺繍

──見事な刺繍です。梨地の生地に品良く施されていて手の良さが感じられます。そしてこちらの帯締めは?

道明の冠組の帯締め

私の二十歳の誕生日に、主人がプレゼントしてくれた道明の冠組の帯締めです。

きっと義母と相談して選んだのではないかと思います。合わせやすい色で、これも重宝しております」

──着物好きの女性にとって一番うれしい男性からのプレゼントではないですか!また色味もかわいらくして。二十歳といったら、ご結婚前でしょうか。

「そうです。主人とは幼なじみでしたので、5年ほどお付き合いしてからの結婚でした。

私が大学の茶道部で着物をたまに着ているのを知っていたので、着物の小物ならと思ってくれたのでしょうね

──廣太郎さんから見た果歩さんのイメージがこの色だったのでしょうね。お母さまが刺繍された付下げとも合いますね!

着物ファンへのメッセージ

──着物を着て歌舞伎観劇をしたい方々へのメッセージをお願いします。

着物ファンへのメッセージ

「着物を一式そろえるとなると、値も張りますし手を出すのはハードルが高いかと思うのですが、一度着られるようになると、着物というのものは心の広い衣類だな、と思うんです

最近、とりわけそれを痛感しております。

……といいますのも、息子が1歳半くらいなのですが、妊娠、出産、授乳などで体型が大きく変化するなかでも、着物ですと同じものを変わらず着ることができまして

とくによそ行きのものですと、洋服だと確実に着られなくなってしまいますから、有り難いなと思うんです。

また昔はわりと合わせ方のルールが厳しく、そこを外すと苦言をいただく……と聞いたこともありますが、いまはみなさん楽しんで、着たいように着ていらっしゃる方も多いですよね。

季節やしきたりを守るのも大切だと思いますが、守る方がいらっしゃる一方、自由に楽しめるものであってほしいとも思っています。

これで大丈夫かな?と怯えながらだと家から足がでなかったりするので、『よし、今日は帯だけでも決まった!』くらいの気持ちでお出かけいただければ」

公演情報

2025年2月4日(火)より博多座にて、大谷廣太郎さんが出演する歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』が上演されます。

劇団☆新感線と松竹の共同公演として2007年に初演されて17年ぶり、昨年の新橋演舞場での公演も盛り上がりました。

歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』

チケットなど詳細はこちらのサイト(2025年2月博多座)をご参照ください。

取材・構成・文/渋谷チカ
撮影/TADEAI 久野藍

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