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其処ではすべてが露呈する 〜小説の中の着物〜 澤田ふじ子『宗旦狐ー茶湯にかかわる十二の短編ー』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十三夜

其処ではすべてが露呈する〜小説の中の着物〜 澤田ふじ子『宗旦狐ー茶湯にかかわる十二の短編ー』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十三夜

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小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、澤田ふじ子著『宗旦狐 【茶湯にかかわる十二の短編】』。“茶湯(ちゃのゆ)”という、研ぎ澄まされた美意識が行き渡る静謐で美しい精神世界の裏側に透けて見えるのは、正と邪、善と悪、徳と欲とを併せ持つ、愚かしくも愛おしい“ひと”という生き物の姿。狐の悪戯などかわいいもの、よほどタチが悪いのは……?

2024.10.29

まなぶ

踊る女と傾く男 〜小説の中の着物〜 天野純希『桃山ビート・トライブ』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十二夜

今宵の一冊
『宗旦狐【茶湯にかかわる十二の短編】』

澤田ふじ子『宗旦狐【茶湯にかかわる十二の短編】ー短日の霜ー』

澤田ふじ子『宗旦狐【茶湯にかかわる十二の短編】ー短日の霜ー』徳間文庫

 仕覆とは茶入、薄茶器、茶碗、挽家ひきやなどの道具類を入れる袋。仕服とも書き、名物裂めいぶつぎれなどで作られ、緒括おくくりに緒がつけられている。
 当初、重兵衛がお岩に依頼してきたのは、古瀬戸の茶入の仕覆だった。本物は破損を恐れ、実物に近い木型が持参された。
 「仕覆に仕立てていただきたいこれは、金剛金襴こんごうきんらんと呼ばれる名物裂。太閤秀吉さまが、能の金剛太夫さまにお与えになった能衣裳の裂と伝えられ、中国・明代末のものやそうどす。中に入れるのは、分銅屋の旦那さまから見せていただきましたけど、風格のある小瀬戸の茶入どした。これはその茶入と同じ形に作られた木型。これに合わせて仕立てておくれやすか。小さな古布どすけど、大変高価な裂どすさかい、どうぞ失わんように大事に扱うておくんなはれ」
 枡屋の番頭重兵衛は、茶道具商・分銅屋の番頭忠左衛門とともに訪れ、お岩に頼んでいった。
 金剛金襴は五色の縦縞を繻子地に織り出し、その上に金糸で、宝尽し紋や菱紋を出したものだった。
 お岩は依頼された仕覆を二日で縫い上げた。

澤田ふじ子『宗旦狐【茶湯にかかわる十二の短編】ー短日の霜ー』徳間文庫

今宵の一冊は、澤田ふじ子著『宗旦狐【茶湯にかかわる十二の短編】』。

このコラムを読んでくださっている皆さまの中には、お茶を習っていらっしゃる方も多いかと思います。お茶を習っているから自然と(必要に迫られて?)着物を着るようになった、あるいは逆で、着物を着たいから、その機会を増やすためにお茶を始めた……という方もいらっしゃるでしょう。

陰暦12月19日(現代の暦では11月19日)は「宗旦忌」。

茶道の数ある流派の中でも、最もメジャーと言える千家茶道の礎を築いたとされるのが千利休の孫に当たる千宗旦。彼が没したこの日は、裏千家では三大忌のひとつとして大切な行事とされています。

今月ー霜月/11月ーは、炉開きや口切りの茶事など、茶湯ちゃのゆにおけるお正月とも言われる節目の月でしたから、行事が目白押しでお忙しくされていた方も多かったでしょうね。これを機に、ようやく袷に手を通したという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

その宗旦に憧れて、その姿に化けてはたびたび見事な手前を披露したという、江戸時代初期に京の相国寺に棲みついていた年経た白狐が“宗旦狐”(現代においても、京都市上京区にある相国寺の敷地内には宗旦稲荷社があり、宗旦狐が祀られています)。

そんな伝承をタイトルにした本書において綴られるのは、その副題の通り、掛軸、茶碗、茶花、籠花入などなど、茶席においては欠かせない大切な道具を題材にした茶湯にまつわる12の物語です。

雑念を払い精神を集中して、研ぎ澄ませた美意識を隅々まで行き渡らせ、真心を込めて客をもてなす———そんな静謐な(邪念など入り込む余地などないはずの)精神世界の表出と思われる“茶湯”の道ですが、そこに臨むのが“人”である以上、こと・・がそう簡単にいくはずもなく。

正と邪、善と悪。そして徳も欲も併せ持つ、それが“人間”。12の物語を通して、その姿が浮き彫りになります。

宗旦に化けて手前を披露したり、人々と交わって碁を楽しんだり(勝負に夢中になってうっかり尻尾が出ちゃったりしても、狐と気付きながら付き合っていた人々は見て見ぬふりをしていたとか)といった狐の悪戯などかわいいもので、よほどタチが悪いのは“人の欲”ということなのでしょう。

室町時代、明との貿易によりもたらされた貴重な織物が、その後茶湯と結びついてその価値をより高め、“名物裂”として珍重されるようになりました(先月号で登場した天鵞絨びろうども、実はそのひとつだったりします)。

ちなみに、本作中で取り上げられているのがこちら。

抜粋部分で触れられている“金剛金襴”や、鎌倉の建長寺の打敷うちしき(仏教寺院や仏壇に用いる敷物)であったとされる(源頼朝の着衣という説も)この“鎌倉間道”のように、その由来や好んだ人物などにちなんだ、〇〇間道、〇〇金襴、〇〇緞子と名の付くものが百種以上はあると言われます。

今宵の一冊より
〜名物裂と籠花入〜

「ありがたい。不躾にたずねるが、細工道具を並べたあそこの棚に、古びた耳付籠花入が置かれておる。あれはそなたが拵えたのか」
 公家侍は目敏めざとく古びた籠花入を見つけ、六蔵にただした。
 籠花入には今朝、六蔵が家の裏で摘んだ柘榴の小さな花が活けられていた。
「あんなもんに気づいておくれやして、もったいない。あれはわしの親父が、手慰みに編んだ魚籠びくで、わしが花入にしているにすぎまへん」
 魚籠とは獲った魚を入れる竹籠。別名、胴丸ともいわれ、口がくびれ胴が丸形になっているものや花筒形のものなど、さまざまな形があった。
「ああ、確かにざんぐりと作られた魚籠には相違ないが、それを籠花入に見立て、柘榴の花を活ける風流はたいしたものじゃ。千利休さまの数寄道具の一つに、魚籠を転用した耳付籠花入があってな。わしはそれを一度だけ、遠くからちらりと見た。あれによく似た素朴な数寄道具じゃわい」

澤田ふじ子『宗旦狐【茶湯にかかわる十二の短編】ー大盗の籠ー』徳間文庫

本作に収められた12篇の物語の中で私が一番好きなのは、竹細工職人の六蔵と公家侍の交流が描かれた、この「大盗の籠」。

抜粋部分で描かれた“魚籠”のように、本来はその用途としては作られていなかったものが、何かの拍子に少し道を違え(本来の役割をまっとうした後、の場合も)、でも不思議なほどにしっくりと収まることがある。

今こう在るために、これまでがあったのかな。自然と、そう思えるような。

少し歪で、それが故にかえって深みや味わいを増す……人もまた、同じく。

現代においても、やはり茶道具の仕覆として用いられることも多く、茶湯とは関わりが深い名物裂。その意匠は、着物や帯としてもよく取り入れられています。

季節を問わずワンピース感覚で使えそうな、繊細なタッチで四季折々の植物があしらわれた花籠が描かれた小紋に合わせたのは、名物裂のひとつとして名高い「いちご錦」(「いちご裂」「いちご手」とも)の織り名古屋帯。小菊のような楕円の花柄を、いちごに見立てたのがその名の由来と言われます。

2019.10.08

まなぶ

着物や帯によく使われる柄の意味や由来とは?「器物文様」「名物裂文様」について解説その②

名古屋帯でも、こういった織のものであればしっかりとした格式がありますので、お茶席にもふさわしい装いになります。お稽古やこぢんまりとしたうちうちの茶席ならば、こんなふうに小紋に合わせて、また、付下げや軽めの訪問着、御召や無地紬(紋付で無紋でも)などにも締められますので、かなり幅広く活用できます。

お祝いの食事の席など、重厚になり過ぎず、でもきちんとした格と程良い華やかさは欲しい……そんな場にもぴったりではないでしょうか。

「いちご錦」は、名物裂の中でも可愛らしさのある柄。

黒地の小紋に金茶色の帯。どちらも色としてはシックですが、落ち着いた甘さのある柄なので地味になりすぎず、年齢を重ねても長く着られそう。ここでは濃地の着物に合わせましたが、ベージュなど同系色の薄色の着物と合わせても、また雰囲気が変わりますね。

織の中に使われた淡い秘色ひそく(青磁の肌のようなごく淡い青緑色)を引き出して帯揚げに差し、片身変わりの帯締めでわずかに紅を効かせて。

透明感のある小物遣いで、クラシカルな組み合わせに洗練された都会的な空気感が漂います。

2020.03.02

まなぶ

茶道のお稽古・お茶席で着る着物セレクト!選び方の3つのポイント

茶席の着物・江戸小紋
〜寿ぎの装いに〜

茶席にふさわしく、かつ普段遣いもしやすい着物の代表格と言えるのが江戸小紋ではないでしょうか。

もともと裃の柄として発展した江戸小紋ですから、控えめで上品、無駄なく研ぎ澄まされた、そのストイックな精神性が茶席とは好相性。

だけど、意外と真面目一辺倒というわけでもなく、季節の移ろいや道具の取り合わせによる世界観、見立ての妙やちょっとした遊び心も合わせ持つ懐の深さがあるところも、茶湯における美意識と相通じるものがあります。

茶席においてはきりりと凛々しく、遊びの場では程良く緩く。江戸小紋は、そんな着こなしが叶う着物だと思います。

江戸小紋

しなやかなちりめん地に浮かび上がるのは、重要無形文化財に指定された伊勢型紙を用いて染められた、羽ばたく鶴の群れ。

“鶴”という吉祥文様でもあり、また縫いの一つ紋付なので結婚式などお祝いの席にもぴったりなこの着物には、ベタ過ぎるほど王道ではありますが、亀甲花菱が織り出された唐織の名古屋帯を合わせて“鶴亀”の組み合わせに。

落ち着いた金をベースに、合わない色がほぼない着物的万能色(金茶系&紫&深緑)とも言える配色のこの帯。古典柄でありながらシンプルでリズミカルなパターンゆえにどこかモダンさも感じられ、合わせる着物を選ばず、さまざまなシーンでそのポテンシャルを発揮してくれそうです。

お正月の装いや、もちろん、この組み合わせでお茶席にも。その場合は、半衿を白に、帯留を帯締めにして。

めでたさの相乗効果

小物:スタイリスト私物

濃地の江戸小紋は、柄の白が映え、その細やかさがいっそう際立ちます。

鶴亀に加えて、松尽くしの刺繍半衿、帯揚げには輪出しの梅、鼈甲の竹の帯留で松竹梅に。めでたさの相乗効果といったところでしょうか。

2022.08.13

まなぶ

江戸小紋の種類と意味、江戸小紋の着物の着用シーンをまなぶ

扇子を挿す位置は、帯と帯揚げの間、帯揚げと着物の間など諸説(かつては東西で違っていたとか)ありますが、現代では混じり合ってどちらでも大丈夫とされているようです。

私の個人的見解としては、懐剣の名残でもある意味からも、身体に直接当たらず、表にも響かず収まりが良いということからも、帯揚げと帯の間(通常の袋帯の場合は身体に巻く一枚目の折った間)が良いのではと思っていますが……

まなぶ

扇子のギモンを解決!

映像などでご覧になったことがある方も多いと思いますが、慣れないとその存在を忘れがちで、最初は2〜3㎝程度出るように挿してあったものが、いつの間にやら半分ほども飛び出ていることがあったりします。

特に胸高に帯をきっちり締めていると、身体の動きに伴って押し出されるように飛び出してしまうので、そこはもう致し方ないところではあるのですが……これが意外と変に目立って着姿が野暮ったく見えてしまう一因になったりもしますので、飛び出しがちな帯揚げと一緒に、ときどき指でちょいと上から押し込んでおく習慣を付けておくと良いかもしれません(特に、写真を撮る前には意識して)。

松喰い鶴が描かれた扇面

小物:スタイリスト私物

扇面に描かれているのは、なんだか長閑な表情で飛翔する松喰い鶴。

フォーマルな装いにおける末広(祝儀扇)は、涼を取るためにあおぐという実用のものではなく、胸元に差しておき、結界の意味を込めてご挨拶の際などに手にする儀礼的な役割が強いもの。しかし実際のそういうシーンでは、会場が暑かったり緊張などで体温が上がったりすることも多いため、あおぎたいこともあるだろうということで、あおいでも良いように柄のあるものを作った……と、こちらを求めた際にお店の方からは伺いました。

……が、実際には、やはりあおぐのは避けた方が無難かもしれません(遠目だと、柄があるかどうかはわかりませんしね。また、柄があるのがわかったとしても、柄があるものならあおいでも大丈夫ということを知らなければ、会場でその姿を見た方から常識がないと思われたり、末広はあおいで良いんだと誤解されたりしても困りますよね)。とは言え、そのお店の方の気遣いも理解できますし……

着物だけに関わらず、すべてにおいて言えることですが、ルールやマナーといったものはその場にいる大多数の人の共通認識であって初めて成り立つもの。それを知らなかった場合は、初めての場で目にしたり年長者から教えていただいたりして知り、次の世代へと受け継いでいきますが、知らない方が多数になっていく(すでにそうなっている)状況の中で、それをどう保っていくのか。時代の流れで消えてしまっても、それはそれで仕方ないものなのか……

その辺りは、なかなか難しいところだなと思います。

まなぶ

扇子にまつわるルールって?

茶席の着物・江戸小紋
〜季節の染め帯/吹き寄せ〜

自然界において、木枯らしに吹かれ地に落ちた葉が集まった様子に美を見出し、それをそのまま写し取ったのであろう“吹き寄せ”の柄。

“吹き寄せ”の組み合わせには、現代では桜や梅が入った華やかであったり可愛らしかったりするパターンも多くありますが、しっとりとした筆致で松葉に公孫樹いちょう、紅葉などが描かれたこの帯には、まさに本来の、この柄が生まれた時期であろう今、晩秋の澄んだ冷たい空気すらも感じられるような風情が漂います。

深まる秋、鮮やかに染まる足元から空を見上げると、そこには移動する群鶴……そんな景色を思い浮かべつつ。

牙の銀杏の実をころりと添えて。

小物:スタイリスト私物

公孫樹いちょうの葉の間に、象牙の銀杏ぎんなんの実をころりと添えて。

帯揚げは先程のコーディネートと同じく輪出しですが、色が違うとずいぶん雰囲気が変わります。

秋色の小物で胸元を彩って、年末近くなってようやく訪れた袷の季節(……まだたまに微妙ですけど)、心地よく着物を楽しめる秋の日のお出かけを楽しみたいものですね。

今宵のもう一冊
『花暦』

澤田ふじ子『花暦ー寒椿ー』廣済堂文庫

澤田ふじ子『花暦ー寒椿ー』廣済堂文庫

真っ赤な花がわっと咲いている。
円通寺の椿は、小正月がすぎたころから花をぽとりと落としはじめた。

〜中略〜

 西外曲輪の道に人通りはなかった。おおいかぶさるように繁った椿の木の下で、ふきはなおもせっせと花をひろいつづけた。
この落ち椿を家にもって帰り、ふきは深い土鍋にそれを入れ、たっぷり水をくわえる。
つぎにかまどにのせ、四半刻ほどぐらぐら煮る。
そうしてその煮汁をたらいに空け、あらかじめぬるま湯につけておいた白布を、軽くしぼり、椿の煮汁につけて染めるのである。
媒染汁ばいせんじるはすでに錆釘さびくぎと梅酢を用いてつくってあり、四半刻ほど煮汁にもみ付けた布を、今度は媒染汁のなかにつける。
すると白布はしだいに発色し、やがて青磁色を呈してくる。媒染汁を変えれば桜ねずみ、藤ねずみ、黄茶色にもなった。
こうして染めあげた布を、ふきは特別の断わりがないかぎり、越後屋からあずかってくる仕立物の胴裏につかわせてもらっていた。

澤田ふじ子『花暦ー寒椿ー』廣済堂文庫

今宵のもう一冊は、同著者の『花暦はなごよみ』。

こちらも短編集なのですが、冒頭の『寒椿』は、10代で母を亡くし、病に倒れた父と2人の幼い弟を抱えて奮闘するふきが主人公。抜粋したのは、一家を養うため賃縫いに精を出し、ふきどのの仕立てに限る、と上物を任せられるほどに腕を上げたふきが、亡くなった母に教えられた秘伝により椿の花で白布を染めるシーンです。

以前、とある作家さんが椿の花で染めたという帯揚げを拝見したことがあります(確か、綺麗な銀鼠のような色だったかな……)が、実際に椿の花で染めると、作中でも触れられているように媒染剤によってさまざまな色が生まれます。

媒染剤だけでなく、天候や水によっても決して同じ色にならなかったり、花ではなく枝から抽出した液で染めても、ほんのりと花の色をその奥に含んでいたり、また逆に花からはまったく想像できないかけ離れた色が生まれたりするのが、草木染めの奥深く魅力的なところ。

椿、梅、桜、藤、蓮、菊……

さまざまな時代や土地を背景に、美しくて愚かで生々しい人間の生きる姿を、四季折々の花(植物)に託して綴られた12篇の物語。

それはまるで、季節の染め帯を一筋ずつ広げて、どんな柄が出てくるかとわくわくしながら見守るような。

ページを繰るごとに、そんな趣が感じられる一冊です。

本作でふきが拾い集めていたのは赤い花でしたが、着物や帯に描かれる椿と言えば、やはり赤か白のイメージ。でも、リアルな品種の中には、紅白がまだらに混じり合って、なんとも妖しげで不思議な魅力を醸し出すものもありますね。

丸っこい形が愛らしい紅椿が、黒の塩瀬地にきっぱりと映える染め帯を合わせたのは、紅白のグラデーションが美しい草木染めの紬の訪問着。

草履は紅つぼの白かな。赤い鼻緒の畳表もいいな。真っ白なコートに赤のバッグ?あ、真っ赤なベルベットのコートや絞りの羽織に、黒の草履やバッグもいいかも……

とにかく着て出掛けたくなる。そんな心踊るコーディネートになりました。

椿由来の色合いでまとめたコーディネート。

小物:スタイリスト私物

帯揚げは、鉄媒染で染めたらこんな感じに染まりそう(?)な、僅かに赤みのある煤色。帯締めは茶鼠と深い赤の縞。

なんとなく余計な色は入れたくなくて、椿由来の色合いでまとめたコーディネートに。

人工的で硬質な真っ白の半衿ではなく、ごくごく淡いピンクみのある生成りの半衿などを合わせると胸元がふわりと柔らかい印象にまとまりそうです。

お茶のお稽古ならば、同じく草木染めで霞ぼかしが染められた小紋に合わせて。

この小紋は少しお袖が長めなので、赤が効いたきっぱりとした帯とも相まって、初々しいお嬢さんといった風情(ちなみに、ふきは二十四歳。作中では時代的に“行き遅れ”などと言われてしまっていますが、現代ではまだまだ……)。卒業式などに、刺繍衿を合わせて袴を履いたスタイルも似合いそう。

何色ものニュアンスのある柔らかい色で霞が表されているので、ここで合わせた黒地や万能の白地といった無彩色の地色の帯は当然ながら、どんな色の帯を乗せても懐深く受け止めてくれ、帯合わせに困ることはなさそうです。

肌映りが良く、着映えする無地感覚の着物は一枚あるととても重宝。この小紋は八掛まで共柄で染められており、背に刺繍で洒落紋でも入れたら色無地感覚で使うこともできそうです。

春には桜や柳、青紅葉。秋には菊に紅葉、柿や葡萄などの実もの、そして冬には雪持ちの松や竹、南天など。先程ご紹介した、吹き寄せの帯を合わせても素敵でしょうね。

帯に使われたそれぞれの色と、霞に含まれた色とが響き合い、いっそうその深みを増して、さまざまな表情を見せてくれることでしょう。

古典モチーフながらモダンな印象も。

小物:スタイリスト私物

着物の霞にもほんのり含まれた椿の葉の色を帯揚げに。一色ではなくぼかしの白場があることで、胸元に明るさも添えてくれます。

ころんと丸い椿にはポップさもあり、古典モチーフながらモダンな印象も。

帯締めには、紅房が横からの姿に映える白ゆるぎをきりりと効かせて。

そう言えば……

「宗旦忌」で振る舞われるのは、宗旦が手ずから植えたと言われる、裏千家の今日庵の庭に今も根を張る大きな公孫樹いちょうの実を用いたことに由来する“銀杏餅”なんですよね。

今年の「宗旦忌」で、召し上がった方もいらっしゃるのでははないでしょうか。

お茶とは関わりの深い和菓子もまた、細やかに移り変わる季節を封じ込め表現した、日本らしい美意識の結晶でもあります。

本来ならば、いちばん着物を楽しめるはずの“秋”が、あったっけ……???と疑問に思うほど一瞬で過ぎ去り、気がつけばもう年末が目前。四季ならぬ二季になってしまいつつある現代において、その奥深い楽しみに触れられる残された貴重な場が、茶湯の世界と言えるのかもしれません。

さて次回、第四十四夜は。

着物を着て出掛けたい場所は?と聞かれると、かなり上位にランクされるであろう場所……の、裏側を舞台にした物語。

この“新春”に、ご予定されている方も多いかもしれません。

まなぶ

和菓子のデザインから

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