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コラム
介護ときもの「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.90

介護ときもの「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.90

2024.12.01 （2024.12.02 更新）

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介護をするときもきものですか？と聞かれると、「今のところは」と答えています。とはいえ、今後何があるかわかりません。

自宅から車で二時間弱のところに住んでいる伯母は、93歳。

お茶の先生をしながら、一人暮らしをしていました。なんでも一人でこなしていましたが、今年の4月から調子を崩し、入退院を繰り返すようになりました。

子どものいない伯母にとって、身内で一番近くに住んでいるのはわたし。病院への付き添いや、ケアマネージャーさんとの打ち合わせ、近所の方への挨拶など、やることは次々と出てきます。

同居しているわたしの父の介護も同時進行で、こちらも毎月2回、病院の付き添いが必要。

そんな生活をしていたら、どの病院のどこに車椅子が設置してあるのか、待合室のどのあたりに座らせたら不満を言われにくいか、いかにスムーズに会計まで済ませられるか、すっかり段取りが上手になってきたような気がします。

さまざまな検査の待ち時間には、タブレットを持ち込んで仕事をしたり、本を読んだりして「しなくてはいけないことがあるのにできないイライラ」を溜めないようにしているのも、わたしなりの工夫のひとつかもしれません。

いつものように片手にハンドバッグを持って車椅子を押そうとすると、車椅子のタイヤとハンドバッグがぶつかって擦れてしまうということに気づいたのも、S字フックがあると車椅子の背にハンドバッグを引っかけて使えると気づいたのも大きな学びです。

介護をするときもきものですか？と聞かれると、「今のところは」と答えています。

とはいえ、今後何があるかわかりません。

先日は友人と久々におしゃれしてランチをしたのですが、15時から父の病院の付き添いで、急いで帰宅して木綿の上っ張りを羽織り、華やかな帯回りを隠して、いかにも普段着、という雰囲気に変化させました。

上っ張りやかっぽう着など、袖口にゴムが入ったものって、一気に働き者感が出てくれるので助かります。

ふだんからきものを楽しんでいる友人は、お舅さんの付き添いで病院に行くときは必ず洋服に着替えると言っていました。

理由を聞いたら、

「認知症の義父が、急に大きい声で変なことを言ったりするから、待合室で注目を浴びてしまうのよ。きものを着ていると、あのきものの嫁さん気の毒に、みたいに言われるのが嫌で」

変に目立ちたくないときは、きものを着るのをお休みしたくなる気持ち、なんとなくわかる気がしました。

大事なのは、「わたしたちが気持ちよくきものを着る時間」ですからね。自分で自分の機嫌を取る感じ！

待合室で、年配の知らない女性から「あら、あなたのきもの姿、いいわぁ」と声をかけられたことがありました。

その方はきものが大好きなのだそうで、嫁に来るときは自分で白生地を織って持参したとか、その生地で白い紋付を縫って、旦那さんを見送るときに喪主としてそのきものを着たとか、実に興味深い話をしてくれたんです。

エレベーターで、華やかな振袖姿と一緒になったこともあります。病気のおじいちゃんに、振袖姿を見せるのだと言うお孫さんでした。

大事なのは、介護される側の気持ちと、介護する側の気持ち。着たいのならば着ていいし、お休みするならばそれもまたありです。

伯母の誕生日には、伯母からのお下がりのきものを着て、病院に面会に行こうと思っています。喜んでくれるといいな。

ほぼ一年中を着物で過ごし、着物ライフの楽しさをイラストとエッセイでつづる。執筆の他、着物や帯などのプロデュースも手がけ「着物は人生に寄り添うもの。おしゃれで楽しくて、お守りのような存在の布になれたらと願い、ものづくりをしています」と語る。著書に「大人かわいい着物読本」(主婦と生活社)、「おとなのときめきふだん着物」(河出書房新社)、「買ってはいけない着物と着物まわり」(実業之日本社)などがあり、最新刊は「東京着物さんぽ」(GB)。山形県在住で、子3人犬1匹の母でもある。