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光源氏のすべての恋の土台、藤壺の女御 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.11

光源氏のすべての恋の土台、藤壺の女御 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.11

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亡き母に瓜二つの美貌に加え、身分も申し分なく父帝の寵愛を受ける完璧な女性。光源氏ががみつめる女君の向こうには必ず彼女がいると言っても過言ではないほどの重要な人物…… の、はずなんですが。

2024.10.24

まなぶ

穏やかな感性で愛や友情を育む、秋好中宮 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.10

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。

すっかり朝晩冷え込むようになり一気に冬になってしまいましたね。

今回取り上げる源氏物語の女君はどちらかというと春から初夏のイメージの人ですが、深掘りしてみると案外このくらいの時期に合いそうなお着物を着こなしそうなので取り上げました。

光源氏の初恋にして永遠の理想の女性、藤壺の女御(宮)です。

源氏物語の女君がきものを着たなら1

源氏の君は、御あたり去りさまはぬを、ましてしげく渡らせたまふ御方は、え恥ぢあへたまはず。(中略)いと若う美しげにて、切に隠れたまへど、おのづから漏り見たてまつる。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
源氏の君は、主上のおそばをお離れにならないので、誰より頻繁にお渡りあそばす御方は、恥ずかしがってばかりはいらっしゃれない。(中略)とても若くかわいらしい様子で、しきりにお姿をお隠しなさるが、自然と漏れ拝見する。

亡き母に瓜二つの美貌に加え、身分も申し分なく父帝の寵愛を受ける完璧な女性

光源氏が経験するすべての恋の土台、いや彼がみつめる女君の向こうには必ず彼女がいると言っても過言ではないほどの重要な人物……

の、はずなんですが。

源氏物語を上辺だけさらってみると、藤壺ってどうもこれと言って「こういう人」と深く印象づけられるような個性が見えないような?

源氏物語の女君がきものを着たなら2

宮の御けしきも、ありしよりは、いとど憂きふしに思史おきて、心とけぬ御けしきも、恥づかしくいと欲しければ、何のしるしもなくて、過ぎゆく。「はかなの契りや」と思し乱るること、かたみに尽きせず。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
藤壺宮のご様子も以前よりは、いっそう辛いこととお思いになっていて、お打ち解けにならないご様子も、恥ずかしくおいたわしくもあるので、何の効もなく月日が過ぎていく。「なんと儚いご縁か」とお悩みになること、お互いに嘆ききれない。

帝の妃でありながら姉弟のように過ごしたその息子、光源氏と密通して不義の子を産んでしまう藤壺。その罪の意識から思うところはあってもあまり素直に口に出せないようですが、実は彼女の言動をよくよく解釈していくとイメージがだいぶ変わってくるんです。

藤壺さん、本当に光源氏の求愛は一方的なものだったの……?
一度きりの過ちだったの……?
光源氏を本気で拒絶していたの……?
ただただ若い男のわがままな恋に翻弄され流されるしかないか弱い女性だったの……?

源氏物語の女君がきものを着たなら3

いと憂くて、いみじき御気色なるものから、なつかしうらうたげに、さりとてうちとけず、心深う恥づかしげなる御もてなしなどの、なほ人に似させたまはぬを、「などか、なのめなることだにうち交じりたまはざりけむ」と、つらうさへぞ思さるる。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
とても情けなくて、ひどく辛そうなご様子でありながらも、優しくいじらしくて、そうかといって馴れ馴れしくなく奥ゆかしく気品のある物腰などが、やはり普通の女人とは違っていらっしゃるのを「どうしてわずかな欠点すら少しも混じっていらっしゃらなかったのだろう」と辛くまでお思いになられる。
【京の工芸染匠】 傑作本手描き京友禅訪問着 「四季花扇波濤紋」
名門【加島織物】 特選西陣織袋帯 〈嵯峨唐錦〉 「彩華文」

いえいえ、実は藤壺は光源氏の歌に返歌を贈っていて、それってつまり相思相愛ってことなんですよね。
しかも、どうやら文脈から察するに里下がりの際に逢瀬があったと明記されている以前にもコトは起きている様子。

こんなことは良くない、と思い悩む一方で光源氏を完全に拒絶することはできず優しく接してしまう。でも馴れ馴れしくはしないところがまた気品があって奥ゆかしくて貴婦人として完璧だ、と光源氏はますます惚れ直しているんですよね。

これってもしかして……イヤよイヤよも好きのうち……ってやつでは!?

現代の感覚だと幻想のような話ですが、平安の感覚だとこの「ポーズとして嫌がる」「体を許してからも打ち解けた態度を取らない」女性の行動は評価される美点であり、そこがまた『完璧な理想の女性像』だと言えるんですね。

本当は光源氏を好きだけどその感情だけに流されず、自分が置かれた立場の重要性と世間からの目をよく理解した上で光源氏から憧れ慕われ続けるだけの素晴らしい女人としての立ち振る舞いもして見せる。

とても賢く冷静な人なんですね。

2024.02.24

まなぶ

つつましく賢い女性、明石の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.2

藤壺の意外な性格をさらに垣間見ることのできる部分があります。それは冷泉帝出産の時の思いです。

「今死んだら長年の政敵である弘徽殿太后に呪われて死んだと笑い者になるから死んでたまるか!」(意訳)

と気力を振り絞って産後の衰弱から回復する……という。イメージ以上にかなり気の強い人でした!

2023.01.03

よみもの

出産当日、夫からのサプライズ ~夢訪庵・桝蔵順彦氏の世界~ 「帯に宿る、わたしだけの物語」vol.3

薄い藤色の上品な訪問着で年上の夫の隣でおとなしく微笑んでいる美人だった私の脳内、ガラリと変わっちゃいますね、これは。

お顔立ちが元から整っていることに加え、沈黙は金を知っている賢さ、したたかさ、気の強さもある藤壺には、気品のある白をベースにした主張の強めなお着物がお似合いになるのでは?

むしろはっきりした柄にも負けないオーラがありそうなので、ただ静かにそこにいるだけで場が明るくなり人が吸い寄せられていきそうです。

さて、光源氏への想いを表向き隠しながら桐壺院を騙す形で不義の子を帝にまで押し上げた手腕の持ち主、藤壺ですが産後はますますしたたかに、非常に男性的、政治的に動くようになるあたり、女<母になる強さなのでしょうか。

産後も桐壺院崩御の後も光源氏の執着は止まず何かとチャンスを見つけては会いに来てしまいます。藤壺にも情はあるものの、なんだか女々しい光源氏よりもずっと大人というか冷静に物事を見て動いていて中身が男女逆のような印象すら受けます。

母となり国母として将来の帝を護らねばならない藤壺は、光源氏からの思慕、そして本当は自分の子である冷泉帝への思いをある種利用する形で後ろ立てになってもらいます。その支えを保つためには光源氏からの好意を失わないよう、ほどほどに対応して泳がせることまでするのです。

この見方をすると……ちょっと情緒かき乱されますよね(笑)。

パーフェクトレディ藤壺、がっつり政治やってます!!

そして彼女、意志がとても堅く引き際も潔いんです

源氏物語の女君がきものを着たなら4

さま変はれる御住まひに、御簾の端、御几帳も青鈍にて、隙々よりほの見えたる薄鈍、梔子の袖口など、なかなかなまめかしう、奥湯かしう思ひやられたまふ。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
様変わりしたお暮らしぶりで、御簾の端、几帳も青鈍色になって、隙間隙間からわずかに見えている薄鈍色、梔子色の袖口など、かえって優美で、奥ゆかしく想像されなさる。

桐壺院の後、光源氏の異母兄、あの弘徽殿太后の子が朱雀帝として即位すると勢力は一変。自分が弘徽殿勢から恨みを持たれていることもわかっているので、東宮を守るためにも出家して争う気のないことを表明することにします。光源氏に息子を守ってもらいながらも、執着を断ち切ることのできる唯一の方法でもありました。

桐壺院一周忌の法要を盛大に執り行った後そのまますぐに出家してしまうスピード感も、光源氏に引き留められてなし崩しにならないよう考えたのかな、と思うと用意周到さと意志の強さに驚きます。

藤壺自身の服装に関する記述は無いのですが、尼君の住まいらしく青鈍色に揃えられた調度の中で女房たちが過ごす姿が描かれています。

2022.10.12

よみもの

寂聴さんに見せたかった着物姿 feat. 瀬尾まなほ「きもの、着てみませんか?」 vol.4-1

わが子の将来を第一に考え、表だってできることはやりつくし、頼れる人を上手に使って後ろ盾も作り、そして自分は目の敵にされているので邪魔にならないようキッパリと身を引く。

頭脳派だけどそれをあえて見せない賢さを、青鈍色と梔子という、当時の尼君の定番の姿を参考に着物姿で表すと……

やはり生地の良い色無地に当時の赤み強めな梔子色を効かせてすっきりと。青鈍色自体は少しぼんやりとした色なので、差し色が入るとキリッと見えますね。俗世の欲を手放した人の着物は華やかな柄も色も必要なく、かえって着る人のよさが際立って見えるでしょう。

ついつい気を回して盛り上げようと明るく振る舞ったつもりが空回りして後から頭を抱えることの多い私……やるべきことはきっちりやって、あとは黙ってそこにいるだけで華やいだ雰囲気になる、そんな素敵な大人の女性になりたいものです。

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【京の工芸染匠】 傑作本手描き京友禅訪問着 「四季花扇波濤紋」

名門【加島織物】 特選西陣織袋帯 〈嵯峨唐錦〉 「彩華文」

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