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大谷友右衛門夫人 青木かずこさん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.6  ―歌舞伎俳優の妻はみな”プロデューサー”

大谷友右衛門夫人 青木かずこさん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.6  ―歌舞伎俳優の妻はみな”プロデューサー”

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今回は八代目大谷友右衛門さんのご夫人にご登場いただきます。劇場での装いから、ご子息である三代目大谷廣太郎さん、二代目大谷廣松さんにまつわるお品の紹介、京都祇園で培われた京好み、歌舞伎俳優ご夫人の仕事のことなどうかがいました。

2024.08.05

よみもの

故・中村富十郎夫人 渡邊正恵さん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.5  ―“妻の仕事“に正解はない、礼儀を欠かず誠意をつくす

劇場でお客さまをお迎えする装い

――「劇場でお客さまをお迎えするさいの装い」をテーマにお越しいただいております。どのようなお召し物かうかがってもよろしいですか。

八代目大谷友右衛門夫人・青木かずこさん

「はい。今日は絽の江戸小紋ですね。(取材時は7月)

私、関西人なので江戸小紋への憧れがあるんです。大阪の生まれで京都にも長くいたものですから、江戸のもの、という雰囲気に惹かれるんでしょうね。

江戸小紋は着やすいうえに格もありますから、一つ紋入れておけば初日でも千穐楽でも着ていけますし、そうでない日に着ても違和感がないんです」

なる錦やさんで誂えた江戸小紋

「また、帯で少し変化を付けられますよね。二重太鼓にするか、名古屋の織にするかでずいぶん幅広く着られますでしょ。ですので、いい江戸小紋を見つけるとついつい買ってしまうんです」

八代目大谷友右衛門夫人・青木かずこさん

今日の紋は、大谷家の女紋の水仙丸です。基本的には縫い紋が好きですね」

大谷家の女紋の水仙丸

2022.08.13

まなぶ

江戸小紋の種類と意味、江戸小紋の着物の着用シーンをまなぶ

――滅紫色の鮫小紋ですね。帯はどちらのものでしょうか。

京都の若松さんの帯

「こちらは京都西陣の若松さんのものになります。夏用のもので軽くて使い勝手がよくて、大好きな帯ですね。

名古屋なのですが、格がある文様なので付下げにでも締められますし、二重太鼓にするには大げさかな、というときにも重宝します

――正倉院の天平狩猟文ですね。金彩との地色の組み合わせも品があります。帯締めと帯揚げの色を合わせているんですね。

帯締めはあえて違う色をもってくる

「着物と帯の色合わせが少し地味かな、と思ったので明るめの色にしてみました。

着物の色と同色の帯締めをするのがあまり好きではなくて、あえて違う色をもってくることが多いです。同色で馴染ませないといいますか。

私は15歳のころから京都の祇園町で舞妓をしておりましたので、京好みの影響もあるかもしれません。そういえば、京都の方は江戸小紋をあまり着ないですよね。小紋ですとわりと華やかなものを着てらっしゃる方が多いように思います。

帯締めは道明さんが多いですね。無地のものが好きなので、無地のものしか持っていないかもしれません。無地でいろいろな色を持っていたいタイプです。

帯揚げは、絞りの入ったものが好きです。白地に赤とかピンクの入ったものもいいですよね、今日は色で選びました」

2023.09.19

まなぶ

有職組紐 道明(東京都台東区上野)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.6

2023.06.24

よみもの

道明が切り拓く日本の美の未来形 「古谷尚子がみつけた素敵なもの」vol.16

――草履の好みはどうですか。

ここぞというときはぜん屋さん

白いものにポイントで色を入れるのが好きです。ここぞというときはぜん屋さんですけれど、ほかは浅草の問屋さんで買うことが多いですね。つねに履いていると履きつぶしてしまうので、高いものですと少しもったいないんです」

――劇場でお客さまをお迎えする装いで、気をつけていることはなんでしょうか。

「みなさん同じだと思いますけれど、派手にならないようにすることですね。また、お客さまよりもいいものを着ないように、とは昔から言われていました。

あとやはり、季節感はきちんとしたいと思っています。

祇園まちでも、単衣はこの時期まで、絽はここまで、という感じでした。9月の頭はまだ暑いし絽でもいいかなと悩んでしまうところなのですが、きちんと単衣を着ていくというようにしています」

2024.10.14

まなぶ

おさえておきたい”きものの格”の話 「着物ひろこの着付けTIPs」vol.10

青春時代を祇園まちで過ごして

――若いときは舞妓さんでいらしたんですね。ご出身はどちらですか。

「関西です。実家は大阪ですけれど、15歳くらいから舞妓さんとして出ていたので京都にいた時間もありますね」

――着物を着始めたのは舞妓さんからですか。

「そうです。だから反対に、自分が選ぶ着物は地味めだと思います。周りからも地味といわれますね。

若いころ、15、16、17歳でとても派手なものを着るんですよ。それで少しお姉さんになると、同じ舞妓さんでも着物がうんと地味になるんです。そう育ってきましたので、大人になって華やかな明るいものを着るのが恥ずかしくて。

でもそのおかげで、二十歳のときに購入したもので、いまでも着ているものはたくさんあります。それくらい、急に落ち着く感じでしょうか」

――舞妓さんのお衣裳をまとえる、という経験はうらやましいものがあります。着付けもそのときに身についたのでしょうか。

舞妓さんの経験はとても楽しくいい経験

「そうですね、とても楽しい、いい経験でした。ただ、舞妓さんのあいだは帯を締めてもらっていたので、普通の帯が締められなかったんです。辞めてから実家の母に習いました。母は美容師でしたので、着付けもできたんですね。

ただ、困ったのは巻きが関西手なんです。

関東巻きができなくて、四苦八苦するんです。帯によっては柄がまったく違いますのでね。
そこだけがいまだに慣れませんね」

名前入りの扇子

こちらは夫である友右衛門さんからプレゼントされた名前入りの扇子

よみもの

花街のきもの

嫁いでからは手探りで

――ご結婚されてご苦労されたことはありましたか。

「そうですね。私が嫁いだときには、主人の母がもう亡くなっておりましたので、仕事のことなど聞くことができませんでした。

その辺は苦労といいますか、どうしていいかわからないことのほうが多かったですね。なんとか主人に聞いたり、古い番頭さんに教えていただいたりしました。

嫁いでからは手探りで

着物のことでは高麗屋のお姉さまのところへお電話して、「こういうときは何を着たらいいんでしょうか」とうかがうこともありました。

私が恥をかくのはいいのですが、主人が恥をかくことになるので気をつけたいな、と思っていましたね」

――ご子息お2人も歌舞伎俳優としてご活躍されています。歌舞伎の道を歩ませるのは大変ではなかったですか。

「歌舞伎俳優になりなさいと言ったこともないし、ならなきゃいけないということもなかったのですが、本人たちが歌舞伎をやりたいと思ったときに、踊りもなにもできていないと、彼らにとって可哀想なので、お稽古だけはきちんとさせるようにはしていました。

ちょうど同じ年ごろのお子さんが多かったので、お稽古場は楽しかったみたいですよ。自分たちで歌舞伎もやりたいと思ってくれたので、よかったのかな、と

年子の兄弟の子育ては、いま思えば大変でしたけれど、一気に子育てできたという感じではありますね。

いまは自分のやりたいことを。

もう、あっという間に子育ても終わってしまって、時間ができましたので、いまは自分のやりたいことができています。

昨年、バーを始めたんですね。主人に相談したら「やりたいならやったらいい」と言ってくれました。私が着物で立っているだけなんですけれど(笑)」

歌舞伎俳優夫人という仕事

歌舞伎俳優の奥さま方は、みなさんプロデューサーでもあるんですよね。自分の旦那をどうプロデュースするか、いろんなことを企画する方も多いと思うんです。

歌舞伎俳優の奥さま方は、みなさんプロデューサー。

主人のお友達に落語家の金原亭馬生さんがいらして、私も一緒にいつも楽しくお酒を飲んでいるんです。コロナ禍になったときに、2人とも舞台がなくなってしまいまして。でも、逆にいい機会だからふたりで二人会をやるのはどうかしら?と提案しました。

そうやって馬生師匠と主人が落語をする会を始めて、今夏で7回目になりました。ボケないためになにかやりましょう、というのが発端だったんですけれども(笑)。

こういう催しでなくても、襲名などありますと、パーティーからなにからすべて奥さまが取り仕切ってらっしゃいますでしょう。私たち、プロデューサーだと思います

思い入れのあるお品

――思い入れのあるお品をお持ちいただきました。

お配りものの扇子と帛紗。

お配りものの扇子と帛紗

「もうずいぶん前になるんですけれども、廣太郎と廣松の初舞台のときに作ったお配りものの扇子と帛紗です。

六代目の大谷友右衛門、私たちからみると祖父、彼らからみると曾祖父にあたる方、その六代目が描いた絵が残っていたんです。

戦争だとか、お引っ越しだとかで、書や絵がなくなってしまっていたのですが、この水仙の絵だけ見つかりまして。

水仙の扇子

明石屋の女紋が水仙丸なので、それで水仙を描いたんだと思います。せっかく残っていたんだから、この機会に扇子にしましょうと。

帛紗のほうはそのままではなく染めで。色も友右衛門の家の色である褐色かちいろです

――すっきりとした色で水仙とあっていますね。あと、こちらのショールと羽織ものはどういったものになりますか。

妹さまの手作りの羽織

「妹が、いまフランスに住んでおりまして。彼女はもともと和裁士だったんです。

移住してからは、むこうですてきな生地を買い付けて、和服にあうショールを作ったり、コートや羽織ものを作っているみたいで。どちらも彼女が作ったオリジナル品ですね。

こちらはショールなんですけれど、襟があってちょっと道行代わりにもなります。

アンティークビーズが一針一針、縫い付けてある。

90年くらい前のフランスのアンティークビーズを一針一針、縫い付けてあります。

彼女は日本の生地で着物や帯を仕立てるよりも、着物にプラスできるようなアイテムを、フランスの生地やビーズを使って作りたいと、渡仏したんです。使いやすくて姉冥利につきます」

妹さまの手作りショール

2023.10.16

まなぶ

羽織で着物をもっと楽しむ 「大久保信子さんのきもの練習帖」vol.6

着物ファンへのメッセージ

――着物を着て歌舞伎観劇されたい方へのメッセージをお願いいたします。

歌舞伎へもぜひ、怖がらずに劇場へ足を運んでほしい

「もし着物をお持ちでしたら、もったいないですから、ぜひ劇場へ着ていらしてください。

気おくれされるような場合には、着物でランチから始めて慣らしていくのがいいかもしれません。散歩でもいいんですけれどね。

『着ること』がまず大事ですよね。さらに『着て出かけること』ですよね。やはり着て出かけると慣れますもの。

また、実際に歌舞伎座にいらして、まわりはどんなお着物を着てるのかなと、ご覧になるのもいいと思うんですよ。

そうすると、こういう帯の合わせ方もあるんだな、とか、ああいう色の合わせ方もあるんだな、と見ていただくのも楽しいと思います。

私のバーにも着物で来ていただいても大丈夫ですので。まずは着物でお出かけしてみてください

まずは着物でお出かけしてみてください

公演情報

2024年11月30日(土)から新橋演舞場にて、ご長男である三代目大谷廣太郎さん出演の歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』が上演されます。劇団☆新感線と松竹の共同公演として2007年に初演されて17年ぶり、2月には博多座公演もございます。

朧の森に棲む鬼

チケットなど詳細はこちらのサイト(2024年11-12月新橋演舞場2025年2月博多座)をご参照ください。

また2024年11月21日からは、ご次男の二代目大谷廣松さん出演『立川立飛歌舞伎特別公演』の上演も。

立川立飛歌舞伎特別公演

チケットなど詳細はこちらのサイトをご参照ください。

大谷友右衛門夫人 青木かずこさんの『Barりき』はこちら。

東京都中央区月島3丁目16-5
Deat月島2-2階
080-8086-3081
定休日火曜
Instagram @kazuko3374

取材・構成・文/渋谷チカ
撮影/TADEAI 久野藍

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