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踊る女と傾く男 〜小説の中の着物〜 天野純希『桃山ビート・トライブ』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十二夜

踊る女と傾く男 〜小説の中の着物〜 天野純希『桃山ビート・トライブ』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十二夜

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小説を読んでいて、自然と脳裏にその映像が浮かぶような描写に触れると、登場人物がよりリアルな肉付きを持って存在し、生き生きと動き出す。今宵の一冊は、天野純希著『桃山ビート・トライブ』。女は踊り狂い、男たちは三味線を、笛を、太鼓を凄まじい速さで掻き鳴らし、打ち響かせる。史実とフィクションを程良く織り交ぜ、混沌とした時代を駆け抜ける『傾き者』たち。一期は夢よ、ただ狂へ。ーいざや、傾かんー

2024.09.29

まなぶ

憂いの黒羽織 〜小説の中の着物〜 樋口一葉『十三夜』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十一夜

今宵の一冊
『桃山ビート・トライブ』

天野純希『桃山ビート・トライブ』集英社文庫

天野純希『桃山ビート・トライブ』集英社文庫

 与兵衛は、呆然と舞台の上を見つめていた。
 肌の黒い男が凄まじい速さで打ち出す音色は、加速することはあっても止まることはない。いったいどうすればあんな叩き方ができるのか。与兵衛にはまるで見当がつかない。
 やがて、舞台袖から三人の若い男女が現れた。それぞれ笛、三味線、扇子を持っている。
 目を引くのは、彼らの着ている衣装だ。男たちは派手な小袖に皮袴をつけている。娘のほうは紅い小袖にあでやかな打掛。そして、全員揃いのロザリオの先に、銀色の十字架が輝いている。最近流行っているらしい。傾き者というやつなのだろう。客席の中にも、似たような格好の者は多い。

〜中略〜

 ちほは扇子を持った右手を前に掲げ、能の舞のようにゆったりとした所作で後ろを向いた。と、全ての音がぴたりと止み、次の刹那、ちほと三味線を持った男が高く跳躍した。

天野純希『桃山ビート・トライブ』集英社文庫

今宵の一冊は、天野純希著『桃山ビート・トライブ』。

舞台は、安土桃山時代。戦乱の世を制し、天下統一を成し遂げつつあった織田信長が本能寺に斃れた後、一気に天下人の座に駆け上ったのは羽柴(豊臣)秀吉。

しかしその秀吉の治世も長くは続かず、徐々に苛烈さを増す民衆への締め付けに、不穏な空気が立ち込め始めていた頃。

時の権力者2人がともに好んだ、華やかで煌びやか、けばけばしいほどに豪奢な南蛮文化の流入と経済発展のその裏で、マグマのように迸るタイミングを窺って渦巻いていたのは、荒々しく、ふつふつと煮え滾るようなエネルギー。

抜粋した部分の“凄まじい速さで太鼓を打ち鳴らす肌の黒い男”は、イエズス会の宣教師とともに来日し、信長から武士の身分を与えられ、小姓として側に仕えたと史実にも伝えられる「弥助」(本作中では弥介)。

踊り狂うは「ちほ」(メンタルも喧嘩も、酒も食欲も最強)、ロックバンドのギタリスト並みの立ち弾きパフォーマンスを見せる三味線弾きの「藤次郎」(余計なことは考えず、感性と瞬発力だけですべて乗り切れるタイプ。ある意味羨ましい 笑)、そして由緒正しき笛職人の道を捨て、表舞台に躍り出た笛吹きの「小平太」(そのわりに覚悟が決まってないというか……いつまでも腹が据わらず、ずっとぐだぐだ言っていてちょっと鬱陶しい。まぁでもその弱さがとても人間らしく、愛すべきキャラとも言えますが)。

出雲阿国に庶民が熱狂していた五条河原で、そんな4人が奏でる音楽と踊りは、ようやく出口を見つけた、マグマの奔流のようなエネルギーの噴出であったのかもしれません。

タイトルからも想像できるように、いわゆる普通の時代小説とは少ーし毛色の違う本作。

通常、時代小説にはまず出てこないウエスタンラリアットだのグルーヴだのエンドルフィンだのといったカタカナ語に、時代小説の世界観に慣れた身からすると最初どうにも違和感が拭えなかったけれど、逆に言えば、時代小説の文体や言葉遣いに慣れない人には取っ付きやすいかもしれないですね。

史実とフィクションを程良く織り交ぜた、混沌とした時代を駆け抜けるような疾走感のある物語。

一期いちごは夢よ、ただ狂へ。
ーいざや、かぶかんー

今宵の一冊より
〜楽器尽くし〜

 着地と同時に太鼓、三味線、笛が一斉に演奏を開始する。
 圧倒的な音量だった。三味線の男は足を大きく広げ、弾くというより殴りつけるように弦を叩く。音も、まるで打楽器のようだ。太鼓と三味線が固めたリズムの上に、甲高い笛がかぶさる。立ったままで全身の力を笛に吹き込むかのような、激しい吹き方だった。
 笛が音を止めると、今度は三味線がリードを取る。左手が目にも留まらぬ速さで棹上を移動する。右手もそれまでの荒々しさは鳴りをひそめ、細やかな撥捌きに変わっている。
 笛も三味線も、見たところまだ若い。たぶん、二十歳前後だろう。技量は荒削りだが、激しく心を揺さぶられるような勢いがあった。
 再び笛の音が響き、三味線が奏でる旋律と絡み合う。
 その間も、ちほの動きが止まることはない。

天野純希『桃山ビート・トライブ』集英社文庫

和楽器という意匠は、着物や帯にあしらう柄としてはそう珍しいものでもないけれど、ここまで徹底して楽器のみを大胆に描いたものもそう多くはないと思います。一歩間違うと野暮ったくもなりかねない絶妙にぎりぎりなライン、そこがまた何だか不思議な味わいのある小紋。

確実に着る人を選ぶ。でもハマるとすごくカッコいい。そんな着物だなと。

この個性的な着物には、生半可な帯では負けてしまいそうだから……ということで選んだのは、ちょうどこの頃、室町〜安土桃山時代にかけてのわずかな期間のみ流行した“幻の”という枕詞とともに語られる“辻ヶ花染め”を織りで表現した袋帯。

一見柄と柄でぶつかりそうですが、直線的に揃えられた楽器の柄に対し帯の柄が斜めのラインであること、着物の柄に小さく使われているアクセントカラー(黒と青磁色)が共通すること(帯のアクセントに使われた深紫は八掛とリンク)

そこに、黒地の刺繍半衿などの引き締め小物もプラスして……

そんな、同じベクトルで引き合うような強さを持つ帯や小物を合わせたら、ちょっとわくわくするような、唯一無二の魅力を発するコーディネートになりました。

それまでは垂らしていた髪を“結う”スタイルが生まれたばかりの、ちょうどこの頃の風俗に倣って、唐輪髷からわまげ(前髪を左右に振り分けて垂らし、その他の髪を頭頂部でまとめ根元に余った髪を巻き付けたスタイル。遊女や役者の間で流行した)風に高い位置でまとめたり、垂髪すいはつをシンプルにひとつに結んで垂らしてみたり(現代でいうポニーテール)……

髪型にも、ちょっとこだわりたくなる。

身体の動きに連れて揺れる扇子の帯飾りを。

小物:スタイリスト私物

作中で、ちほは扇子を閃かせながら一心不乱に踊る。そんな姿をイメージして、身体の動きに連れて揺れる扇子の帯飾りを。

襟元を引き締めつつも華やかにしてくれるのは、色づいた南天が刺繍された黒地の半衿

満天の星が煌めく夜空のような、銀糸が織り込まれた帯揚げ。八掛とも呼応する深い葡萄色の三分紐、着物に使われたのと同じ配色で、まるで楽器のパーツのひとつのようにも思える堆朱ついしゅの帯留

それらの小物が胸元に奥行きをもたらし、散漫になりかねない柄をぐっと引き締めてくれます。

羽織:京友禅羽織 「銀杏づくし」
小物:スタイリスト私物

小紋の強さを少し和らげてくれる、銀杏の柄が染められた羽織を重ねて。

こんな柄は、前回ご紹介した乱菊に続いて晩秋〜年末の季節限定で楽しみたい。

2024.09.29

まなぶ

憂いの黒羽織 〜小説の中の着物〜 樋口一葉『十三夜』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四十一夜

また、春には桜で花見、秋なら紅葉狩。雪見の宴や節句にまつわるモチーフなどの帯や小物を合わせたら、各季節を愛でる装いに。

宴に音楽は付きものだから。

“祝宴”ということでおめでたい吉祥文様の帯を合わせて、結婚式の二次会などにも良さそうです。

まさに、柄 on 柄 on 柄。

……ですが、それほど違和感なく合ってしまうのが着物ならではの面白いところ。

柄 on 柄 on 柄

小物:スタイリスト私物

以前にも触れたことがありますが、柄のピッチとベクトルにさえ気をつけていれば、柄同士の組み合わせも恐るるに足らず、です。

2021.09.29

まなぶ

引き立て合う強さ 〜柄と柄の力学〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第五夜

今宵の一冊より
〜織の十字架(くるす)

深みのある泥染の黒、袷とは思えないほどの軽さとしなやかさは本場大島紬ならでは。

独特の生地の艶と相まって、動きにつれて翻る赤い八掛と織り出された十字架くるすが印象的で鮮やかに目に映ります。

異国情緒漂うバティック、プリミティヴな魅力のある絞りやざっくりとした粗さのある刺繍、クラシカルなヨーロピアンレースを思わせる質感にグラデーションが美しい紋紗……

立体感があり、奥行きを感じさせる生地をとりどりに組み合わせた半幅帯は、帯揚げや帯締めといった小物なしでも充分な存在感。

異素材ミックスが醸し出すカオスな面白さ。

これだけさまざまな生地が組み合わされていたら、どこを出すかによってずいぶん雰囲気が変わりますね。

まったく性格の違う異素材ミックスが醸し出す、カオスな面白さ。

こういった無地感覚の着物に主役として合わせるのはもちろん、先に挙げた和楽器柄の小紋のような主張強めな柄ものに合わせても、呼応し合って魅力的な着姿になりそうです。

大人っぽい甘さのある並びを前面にすると、また違った雰囲気に。

大人っぽい甘さのある並びを前面にすると、また違った雰囲気に。

ちなみに半衿は、2枚の半衿を用いた片身変わり

(ここでは普通の長さのある半衿を使っていますが、半衿にするにはちょっと長さが足りない生地を活かしたいときにも使える小技です!

2枚が合わさる衣紋の中心部分は、わざわざ先に縫い合わせなくても大丈夫。土台である長襦袢の衿にさえくっついていれば問題ないので、布端を少し折ってアイロンで抑えておき、軽く重ねて縫えばそれでOKです。

普通の長さがある生地なら、先に1枚を普通にかけた上に半分だけ重ね、中央がパカパカしないように軽くかがって(面倒くさかったら縫わなくても良いですし、布用の両面テープなどを使うと楽)。

半衿だけでなく、帯揚げでも何でも結局は”ただの布”(短い生地を真ん中ではぎ合わせれば帯揚げにも。縫い目は見えないところにきますしね)。

こうじゃないと、という固定概念に囚われることなく柔軟に考えたら、いろいろな楽しみ方ができます。

柄の生地を重ねて縫っただけ。

墨黒のふくれ織の半衿を普通にかけた上から、柄の生地を重ねて縫っただけ。

2024.09.14

まなぶ

半衿をかえて印象激変!おしゃれな着姿に 「着物ひろこの着付けTIPs」vol.9

まなぶ

きものは布

裏面はシックな紫のグラデーション。

紅の十字架くるすが程良い若々しさを感じさせつつ、モダンで落ち着いた雰囲気に。

裏面はシックな紫のグラデーション。

紬や木綿といったラフな普段着だけではなく、小紋など柔らかものにも合うこういった織の半幅帯は、帯揚げと帯締めを合わせて羽織を重ねたら、通常の名古屋帯と変わらないきちんとした印象になります

半幅帯は季節関係なく通年で使える素材も多いですが、夏場の浴衣にも合わせられる軽やかでいかにもカジュアルな印象のものとは違った、こういったしっかりした素材感の帯があると、着物でのお出かけがいっそう気軽になりそう

特にこれからの季節、出かけてから帰宅するまで羽織を着っぱなし、ということも多いかと思います。

半幅帯だと後ろ姿の腰のラインが丸見えになるのが気になる方も多いと思いますが、羽織を着ていればそれも問題なし。

結ぶのも簡単で枕も要らない半幅帯は、車を運転する方や椅子の背にもたれて座る必要のある観劇の際などには特に重宝しそうです。

今宵の一冊より
〜染の十字架(くるす)

シックな焦茶のたたき地に、ポップで華やかな色遣いでヨーロッパの紋章のような丸紋が散らされた訪問着。

合わせたのは、輝く水晶の玉が十字架のように並べて描かれた写実的な表現が印象的な帯

こういった遊び感覚の洒落みの強い訪問着は、袋帯にこだわらず、軽めの(でも個性の強い)帯でどんどん着こなすと良いのではと思います。

洋服に例えるなら、ひと癖あるデザインのドレッシーなワンピースのような感覚で。

観劇やちょっといいレストランでの食事など、いつもより少しだけドレスアップして出かけたい場所に、ぜひ。

ヴィンテージブローチを帯留にして。

小物:スタイリスト私物

年月を経て深みを増した渋い金に木の実のような石があしらわれた、リースみたいなヴィンテージブローチを帯留にして

半衿にはエキゾチックな華のある大胆な唐草の刺繍。そして帯揚げや三分紐には、ちらつく雪を思わせる白に金銀の小物。これから始まる、パーティーシーズンに備えたコーディネートです。

今宵のもう一冊
『岐山の蝶』

樋口一葉『十三夜』岩波文庫

篠綾子『岐山の蝶』集英社文庫

「あれが欲しいのか」
 ふと気づくと、信長もまた、きよの眼差しの先を追っていた。
 きよが見ていたのは、鮮やかな緋色の織物だった。南蛮渡りの派手なものである。きよの店でも扱ったことがない。
「欲しいのなら、買ってやろう」
 信長は優しく言った。きよが自分で身に着けたがっていると、誤解したらしい。だが、きよの返事も待たずに歩き出した信長に、あえてきよは声をかけなかった。
 南蛮渡来の品であっても、売っているのは日の本の商人で、反物一反に銀一両という法外な値段がついている。だが、信長は値切りもせず買い取ると、そのままきよの手にぽんと置いた。
天鵞絨びろうどというそうだ」
「これが、天鵞絨びろうど……。話に聞いたことはあったけれど、触るのは初めてだよ」
恐るおそるといった感じで、きよは緋色の布地の表面をぜた。
「何て柔らかい生地なんだろう。この肌触りといったら……」
きよはうっとりとした眼差しを、天鵞絨びろうどに向けたまま言った。
「帯にしたら、お前に似合うだろう」

篠綾子『岐山の蝶』集英社文庫

今宵のもう一冊は、篠綾子著『岐山の蝶』。

先にご紹介した『桃山ビート・トライブ』では、その冒頭で本能寺に斃れた信長。

時代はそこから少し遡って……『桃山〜』の若者たちに先駆けること数十年、“傾き者”の大先輩(?)とも言える信長、政略結婚によりその妻となる美濃国 斎藤道三の娘 帰蝶。

帰蝶の従兄で、密かに(そして互いに)想いを寄せていた明智光秀に、若き信長を(ついでに光秀も)惹きつける、帰蝶によく似た面差しの自由奔放で好奇心旺盛な謎めいた女きよ。

戦乱の時代、政略の道具としてではなく、“自分でなくてはならない生き方”を模索し追い求めた帰蝶を中心に、複雑に絡み合う4人の生が描かれます。

『桃山〜』で、精一杯傾いた格好をしている若造たちが鼻で笑われてしまいそうな信長のド派手な装い(単純にお金のかけ方が違う、というのもありますが)。抜粋部分にもあるように、京の都で古着や反物の店を手広く営むきよの扱う織物についてや、また、町人であるきよと城主(しかも天下人)の奥方であった帰蝶の衣裳の対比などに言及する描写なども多いので、読みながら脳内に広がる映像は実に煌びやか。

この少し前の室町時代、南蛮貿易により海を渡って日本にもたらされた“更紗”(その語源は美しい布を意味するポルトガル語のサラシャ、インド語のサラサーなど諸説あり)は、安土桃山時代の茶の湯の発展とともに珍重され世に浸透しました

時代を追うごとにその人気は高まり、江戸時代には、町人文化の発展や染色技術の向上とともにインド更紗、ジャワ更紗、ヨーロッパ更紗といった舶来更紗に対し、“和更紗”と呼ばれる日本独自の美意識を反映させた柄も生まれます

また、初期の頃(18世紀半ばくらいまで)に渡来した更紗は「古渡こわたり」と呼ばれ、ほんの小さな端切れさえも珍重されるように

厳密にいうと“更紗”は木綿の生地に染められたものを指しますが、現代の着物や帯においては絹地を用いたものも多く、何枚もの型を使って緻密な柄が染められる「江戸更紗」は東京都の伝統工芸品にも指定されています

現代においても、やはりそのエキゾチックな魅力は健在。

無地感覚優勢の世であるがゆえに逆に惹かれる、生命いのちの発露を丸ごと身に纏うようなプリミティヴなエネルギーに満ちた存在感。技術の発展に従って複雑で緻密になってはいっても、命や祈りをそのまま刷り込んだような素朴な力強さはやはり変わらず、更紗だけが持つ特有のもの。

それが更紗の最大の魅力だと思います。

型寄せで鮮やかに染められた蝶が舞い飛ぶ更紗の総柄の訪問着に、深い黒紫の光沢を放つ天鵞絨ビロード地に銀糸で花唐草が織り出された袋帯を合わせて。

絞りのような大胆な染めが施された羽織に浮かび上がるのは、コプト文様(古代エジプトにおいて、既存宗教とキリスト教とが融合してできたコプト教に由来する文様)の地紋。シルクロードを経て、飛鳥時代には日本に渡来していたと言われるこの文様も、その不思議な魅力のある素朴な味わいが好まれ、現代でも帯や着物の衣裳としてよく用いられています。

更紗、天鵞絨、コプト文様。

時代も風土も違う、世界各地で生まれその土地土地の歴史や日々繰り返される人の営みを背景に育まれた文化や美意識が、日本において着物の意匠として競演し、よりカオスな魅力を深めている。

大らかというかなんでもありというか……その懐の深さもまた、日本らしいところだなと。

こっくりと深い色遣いの小物で、深まる秋のニュアンスを添えて。

小物:スタイリスト私物

錆びた味わいの金糸で破れ格子の刺繍があしらわれた、深い千歳緑ちとせみどりの半衿。漆の色合いが、舞い飛ぶ蝶の深紅に呼応する木彫の紅葉の帯留。

暖かみのある素材感とこっくりと深い色遣いの小物で、深まる秋のニュアンスを添えて。

天鵞絨の帯

天鵞絨の帯は、その厚みと光沢、手触りなど、他にはない独自の魅力がありますが、生地の特性上滑らないので、締める際には少々慣れが必要かもしれません。

2回胴に巻いたあと、ちょっと緩かったからもうひと締め……なんて思っても絶対に締まってくれない(笑)ので(だから逆に、締めている間緩むことがないので安心とも言えますが)、1回ずつ胴に巻くたびにしっかり引き締めておくことが大切

それを怠ると、生地の厚みも合わせて、お相撲さんの“廻し”の如き貫禄の胴回りが完成してしまう危険性大ですのでくれぐれもご注意を。

まるで現代のロックバンド青春小説(?)のような『桃山ビート・トライブ』。

1970〜90年代にかけてのバンドブーム最盛期には漫画でも小説でもリアルでも、こんな展開が数多くあった気がします(戦云々はともかくとして)。

一般的には“殺生関白”などと悪名高い関白 秀次(秀吉の甥であり、一度は秀吉の後継に据えられながら、淀君の子 ひろい=後の秀頼の誕生によりその座から追い落とされ切腹させられた)ですが、そんな評価とは真逆とも言える本作での描かれ方は新鮮でした。

老いてゆく秀吉の、焦りと疑心暗鬼に駆られた狂乱が引き起こした歴史上の数々の失政を考え合わせると、実は本作に描かれた状況の方がしっくりくるというか……実際に近いのかもしれないなと思ったり。

とは言え史実通りの過酷な結末は当然変わらず、その悲劇的なクライマックスへと向かっていく終盤は読んでいてつらいものがあるのですが、それもまた歴史の中で実際に起きた数多くの悲劇のうちのひとつであり目を背けることはできません。

対して、『岐山の蝶』。

濃姫、あるいはお濃の方と呼ばれ、さも当然のようにその生涯が信長とともに語られる存在でありながら、史実としてはほとんど詳細な資料が残っておらず、実在さえ完全には立証できていないと言われる帰蝶を中心に、それを逆手に取って奇想天外と言っても良い程に大胆な設定で描かれた物語。

フィクションとはいえ、この時代のこの立場の女性として、さすがにちょっと無理があるのでは……?と、やや引っかかる部分がないでもないけれど、自らの生き方を模索する帰蝶をはじめとする女性たち(それぞれが抱える葛藤も、結局は根は同じ)の姿は現代の女性にも通じるものがあります。長く回り道をして辿り着いた、信長(彼もやはり葛藤を抱えており、その弱さもまた人間らしい)と帰蝶―――本能寺におけるふたりのラストシーンの描かれ方は、私としてはとても共感できるものでした。

どちらの作品も、史実(とされていること)を程良くスパイスのように織り交ぜ、効かせながら紡がれたその世界観は何ともシアトリカル※で、まるで目紛しく場面展開する劇団新幹線の舞台を観るよう。

安土桃山という時代そのものが、そんな奔流のようなエネルギーに満ちた時代であったとも言えるでしょうか。

※シアトリカル……演劇的な、の意

また、そう言えば……

革を使った帯や袴、ベルトを合わせたスタイリング。ブーツや靴などとの和洋ミックスの組み合わせも、現代では斬新で目新しい着こなしとして取り入れられているけれど、実は新しもの好きの信長初めこの頃の“傾き者”たちが、とっくの昔にひと通りやってくれちゃってるんですよねぇ……

長い歴史の中で、着物の柄や着こなしにおいては、たいていのことが既に試みられてしまっていて出尽くしており、もうそうそう新たなものは生まれてこない気がする。

歴史の中の着こなしに触れるたび、そんなことを改めて感じます。

さて次回、第四十三夜は……

茶人に憧れた白狐のお話。

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