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穏やかな感性で愛や友情を育む、秋好中宮 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.10

穏やかな感性で愛や友情を育む、秋好中宮 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.10

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母(六条御息所)譲りの美貌と才覚を持ちながらも、”女のプライド”と”愛”の狭間で苦しんだ母の姿を知っているからこそ、常に一歩引いて全体を見ながら、女性同士のコミュニケーションを大切に育み、平穏を保つ冷静さのある秋好中宮。

2024.09.24

まなぶ

光源氏からの”愛”を受け取る、花散里 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.9

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。

暑さが和らいだかと思ったら一気に秋が深まりましたね。季節の変わり目の落差がありすぎて体調など崩されていませんか? わが家は全員、次々に熱を出しガタガタです……

さて、木の葉が色づき冷たい空気と夜長が心地よい「美しい秋」を愛した源氏の女君といえば?

その名の通り、秋好中宮あきこのむちゅうぐうですね。

正確にはこれまで出てきた女君とは違い、光源氏との恋愛関係はありません

光源氏が愛した六条御息所が、早逝した前東宮との間に設けた一人娘であり、母君の死後は光源氏の養女として輝かしい後ろ盾を以て冷泉帝(光源氏と藤壺の子)の中宮となった女性です。

2024.06.24

まなぶ

繊細で慎み深い、六条御息所 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.6

境遇としては玉鬘と似ていますね。

2024.04.24

まなぶ

紫の上と並ぶ”春の姫君”、玉鬘 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.4

気の多い光源氏からはもちろんアプローチされるのですが、母と源氏の関係を間近で見てきた賢い娘はなびきません

現代の感覚からすると母娘が同じ男性と関係を持つなんてそもそも理解できませんけどね……

源氏物語の女君がきものを着たなら1

御髪のかかりたるほど、頭つき、けはひ、あてに気高きものから、ひちちかに愛敬づきたまへるけはひ、しるく見えたまへば……
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
髪の掛かったところ、頭の恰好、感じ、上品で気高い感じがする一方で、小柄で愛嬌がおありになる様子がはっきりお見えになるので……

私が源氏物語を読んで感じた秋好中宮のイメージは、”コミュ力に長けた女性”。

母譲りの美貌と才覚を持ちながらも、母が”女のプライド”と”愛”の狭間で苦しむ姿を知っているからこそ、常に一歩引いて全体を見ながら、女性同士のコミュニケーションを大切に育んで平穏を保つ冷静さのある人のように思いました。

冷泉帝に入内した時にはすでに寵愛深い女御がいましたが、争うのではなく親交を深める稀有な妃

また実家として用意された六条院(光源氏と主要な女君の住まい)では、光源氏の最愛である紫の上ともユーモアのあるやりとりをして和やかな時間を過ごします

2024.01.24

まなぶ

源氏物語のもう一人の主役、紫の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.1

そして秋好中宮は、若い時に伊勢斎宮を務めています

ちょうど母・六条御息所が光源氏との恋に疲れ京から離れる良いきっかけになったのですが……

せっかくなので斎宮の衣装から、清らかで上品な花嫁衣装を描いてみました。斎宮は神様の妻になることなのでぴったりではないでしょうか?

源氏物語の女君がきものを着たなら2

斎宮は、十四にぞなりたまひける。いとうつくしうおはするさまを、うるはしうしたてたてまつりたまへるぞ、いとゆゆしきまで見えたまふを、帝、御心動きて、別れの櫛たてまつりたまふほど、いとあはれにてしほたれさせたまひぬ。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
斎宮は14歳におなりであった。とても可愛らしくいらっしゃるご様子を、立派に装束をお着せもうされたのが怖いまでに美しくお見えになるのを、帝は御心が動いて、別れの御櫛をさしておあげになる時、まことに心揺さぶられて、涙をお流し遊ばした。

伊勢への下向前に参内し、当時の帝(朱雀帝)から別れの櫛を賜ります。この時に朱雀帝は彼女に恋心を抱くのですが、その恋は実りませんでした。

この櫛は後々に入内する女君へ大切に引き継がれるので、櫛が主役になるような髪型ですっきりとした花嫁姿に

実は秋好中宮あきこのむちゅうぐう」という呼称は後世に付けられた通称

六条院では、かつての六条御息所の邸宅跡である西南の「秋の町」の主となり、里下がりの際にはそこで過ごしていた中宮。

御息所から強く戒められていたのについつい彼女の美しさに惹かれた光源氏が言い寄った際に聞いた、

「春と秋ならどちらが好き?」

という質問への答えから「秋を好む」→「秋好中宮」と呼ばれるようになったのです。

風うち吹きたる夕暮に、御箱の蓋に、色々の花紅葉をこき混ぜて、こなたにてたてまつらせたまへり。 心から 春まつ園は わが宿の 紅葉を風の つてにだに見よ
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
風がさっと吹いた夕暮に、箱の蓋に色とりどりの花や紅葉をとり混ぜて、こちら(紫の上)に差し上げなさった。
春をお好みでお待ちのお庭では、せめて私の方の紅葉を風の便りになさってください
手加工染訪問着 紋意匠地 「清祥秋草貝桶図」
【人間国宝 故・喜多川平朗】有職唐織袋帯「秋草の丸文」

六条院の東南「春の町」に住む紫の上とは、ユーモアたっぷりに”春秋談義”も楽しみました。

一人の男性を巡る、女たちのドロドロした想いを煮詰めたようなイメージのある『源氏物語』ですが、このあたりは女性たちの平和な世界。

原文には、秋好中宮本人の衣服についての言及はありません。

でも、彼女が取り仕切ったさまざまな行事でのしつらいや、仕える女房・女童たちの服装、出す褒美の様子などからセンスの良さが窺えるのです。

秋……

色とりどりの花や紅葉を箱に詰めて女童に持たせ、春の御方・紫の上のもとに届けさせる素敵なセンスに魅せられて、上のイラストでは、秋の草花を貝桶にあしらった気品ある訪問着を着せてみました。

このお返しにと、蝶や鳥に扮した可愛い童の舞手を用意して春を届けた紫の上。

秋好中宮は鳥役の子には桜襲、蝶の子には山吹襲と、きちんと色も合わせた褒美を持たせます。見事に風雅で感性の通じ合った女友達の交流ですね。

さて、冷泉帝への入内は遅れをとった秋好中宮ですが、もともと絵を描くのが好きという共通の趣味があったことで歳の差をものともせず、すぐに帝と意気投合しました。

何事につけても人との関係性を築くのが上手な人なんですね。

斎宮の女御、いとをかしう描かせたまふべければ、これに御心移りて、渡らせたまひつつ描き通はせたまふ。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
斎宮の女御は、とても上手に絵をお描きあそばすことができるので、この方に御心が写って、しょっちゅうお渡りになっては違いに絵を描き心を通わせ合っていらっしゃる。

絵を見ることもですが、彼女は描くのが得意だったようです。何かに寄りかかりながら筆を下ろしあぐねている優美な姿が思い浮かびますね。

冷泉帝とその女御二人の関係性は、一条帝を巡り読み物を介して勢力を争った定子と彰子に重なります。

史実では道長が源氏物語を書かせ、源氏物語の中では光源氏が絵合わせを開催しました。

賢后と呼ばれた彰子は、秋好中宮のモデルだったのかも……なんて思うと、史実と並行して書かれた源氏物語とのリンクに鳥肌が立ちます。

アートを描くのも見るのも好きな落ち着きのある女性なら、イラストのような現代柄のアンティーク着物を品よくアレンジして、現代アートを見に行きそう。

2021.08.14

よみもの

着物姿でアートの一部になる 「台湾きものスタイル考」vol.8

母・六条御息所も、決して激情型ではなく、むしろ賢く抜きん出るところが多いのに周りからどう見られるかを一番気にするような控えめな人でした。そして、だからこそ六条御息所は一人の男に人生を狂わされた哀しい人生になってしまいました。

そんな母の、”女としての苦しみ”を幼い時から目の当たりにしてきた娘は、誰よりも冷静に、着実に自分自身の安定した居場所を確立していきました

ただ恵まれた環境に在るだけでなく、誰かと争ったり妬んだりしなくていいよう自らコミュニケーションを取り、穏やかに良い関係を作る――

これって、万事されるがままのお姫様には結構難しいことだったと思うんです。

柔らかいけれど自分の軸がしっかりとある。秋好中宮は、そんな能動的な人なのでしょうね。

着物でのお出かけに絶好の、良い季節となりました。秋好中宮の気分で、芸術の秋にぴったりな美術館巡りはいかがでしょうか。

よみもの

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正絹手加工染訪問着 紋意匠地 三越誂え品 「清祥秋草貝桶図」

【人間国宝 故・喜多川平朗】 傑作有職唐織袋帯 「秋草の丸文」

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