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御菓子司 聚洸 『小田巻』を訪ねて 「京都・和の菓子めぐり」vol.13

御菓子司 聚洸 『小田巻』を訪ねて 「京都・和の菓子めぐり」vol.13

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室町時代より織物のまちとして栄えてきた西陣に店を構える「御菓子司 聚洸じゅこう」。季節の移ろいとともに、色を変え、銘を変えて愛される同店のシグネチャーのひとつ、「小田巻のきんとん」をご紹介します。

よみもの

京都・和の菓子めぐり

一言で「西陣」と括りはしても、意外と広いエリアを指すのだなぁ、などと思いながら、堀川通をバスで北上していくと、次第に観光と思しき乗客が減っていきます。

目指すは市バスの天神公園前から徒歩約3分、地下鉄の鞍馬口からでも徒歩10分ほどの場所に店を構える「御菓子司 聚洸」。

並びには、ちょっといいお値段の料理屋さんや京都らしい湯葉屋さんがある一方、銭湯や理容室、うどん店や中華料理店などもあり、暮らしの匂いも入り混じる心地のよいエリア。

聚洸外観

大宮通に面した入口

天神公園前のバス停で降り、住宅街の中の細い道を数回曲がりながら大宮通へと進んでいくと、ひらりと風に遊ぶ白い暖簾が見えてきました。

やや遠目から暖簾の奥の硝子戸に白い貼り紙がないのを確認すると、自然と口元が綻んでしまうワタクシ。なぜって、貼り紙がある日は「御予約のみの販売」の日、すなわち今日は店売り分がありませんよ、という印なのです。

聚洸店内

店内の硝子棚の中には季節の生菓子が並ぶ

繁忙期などは確かに予約で手一杯になってしまうこともあるものの、普段は店売り用の分もご用意されているので、ふらりと立ち寄って買うこともできなくはありません。

「なぜか完全予約制の店やと思われていることがあるのですが、全然そんなことないんですよ」と店主の高家裕典さん。

とはいえ、ご実家は同じく西陣の名店「塩芳軒」で、名古屋の「芳光」で修行された裕典さんが独立開業した人気店と聞けば、勝手なイメージでそう思ってしまう人が多いのも宜なるかな…… どうかこの機会に認識を新たにしていただけますれば、これ幸い。

まなぶ

御菓子司 塩芳軒

さて、カラカラと滑りのよい引き戸を開けて店内に入りますと、季節の生菓子が硝子越しにお出迎え。

晩夏の頃に店頭に並ぶ生菓子

晩夏の頃の生菓子

午後を待たずに品切れとなってしまうものもあるので、お目当てがある場合や、大切な方へのお手土産に……と考えているのであれば、電話にて予約をしておいた方がbetterでしょう。

その時期の生菓子の種類は丁寧に教えていただけるので、ご安心を。

そして、もし季節のラインナップに「小田巻おだまきのきんとん」があれば、こちらはmustで購入がよろしいかと。「聚洸」を代表する菓子との声も多い、逸品です。

菓子道具の「通し」

「通し」と呼ばれる道具

京都で「きんとん」といえば、目の細かさが異なる籐(とう)や馬毛を張った「通し」と呼ばれる道具で、こしあんをそぼろ状にしてまとわせたものが一般的。

一方、「小田巻のきんとん」は「小田巻」と呼ばれる絞り機の筒の中に、つくね芋入りのこしあん生地を詰めて手動で押し出し、糸状になったものを芯となるあん玉に巻いていくスタイル。

押し出す技術や成形する技術の高さはもちろんのこと、まずは筒に入れる二色のあん生地のやわらかさが全く同じでないと二色が同じスピードで押し出せなかったり、中で色が混ざって美しい二色の糸状にならなかったりと、手間のかかるお菓子とあって、京都でも手掛けるお店が少ない意匠です。

「小田巻」と呼ばれる道具

この道具自体も「小田巻」と呼ぶそう

こともなげにやってのける裕典さんの姿からは感じ取れませんが、現在のような美しい仕上がりに至るまでは実に長い期間を要したそうで、

「お茶の先生からの注文で初めてつくらせてもうたときは、酷いもんでした」

と苦笑しつつ振り返ります。ワタクシも1個だけ体験させていただきましたが、己の乏しい経験値を承知で申せば、体感としてはソフトクリームを美しくつくる技術の1000倍くらい難しかったです。それでも、

「せっかく手をつけたんやから、下手でもなんでもつくり続けてみよか」

と少しずつ精度をあげていくうちに、多くのお茶の先生や和菓子愛好家から「京都で小田巻のきんとんいうたら聚洸さんやね」と信頼を寄せられるように。

小田巻の製造工程

最後は手の上でトントンと整えて完成

モンブランのような渦巻きでも、単純な縦横の往復でもなく——

本当に糸をくるくると巻き取ったような巻き目は、上方向から絞り出してつくられたものとは思えません。

裕典さんの手にかかると、帯締めの「ぐけ」の部分のような糸巻き手毬状に仕上がるのが不思議で、いつまでも見ていたい手しごとでした。

小田巻のきんとん製『秋の声』

小田巻のきんとん製『秋の声』の美しい巻き目に感動

春には、緑色と桜色の『春の宴』
晩夏からは、お写真の『秋の声』
深まる秋には、茜色の『秋風』
お正月には、鹿の子が一粒のった『松』がお目見えします。

色を変え、銘を変えて愛される「聚洸」のシグネチャーアイテム。

小田巻のきんとんは、風や水など形のないものや、糸状の繊細さを表すその意匠の美しさだけでなく、その菓銘や意匠に相応しい、ふわりとやさしい口どけに至るまで全ての感動がひとつづきに繋がっているよう。

夏のあいだはお休みをいただくお菓子なれば、この秋の声を待ち侘びていた方も多いのではないでしょうか。

撮影/スタジオヒサフジ

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