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光源氏からの”愛”を受け取る、花散里 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.9

光源氏からの”愛”を受け取る、花散里 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.9

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なんとなく地味で光源氏との恋愛エピソード部分も少なく、一見さほど重要な人物ではないかのように思っていました。 でも、よくよく読んでいくと恋愛以外のシーンで物語の各所に、つまり光源氏の日常生活の中に花散里の名が絶え間なく出てくるんです。

2024.08.24

まなぶ

薄衣を纏った強い意志、空蝉 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.8

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。朝晩過ごしやすくなって徐々に秋めいてきましたね。

「源氏物語の女君がきものを着たなら」ではなるべく季節に合った女君を紹介しているのですが、実は夏がお似合いの女君が多くて……

というわけで今回は、少し季節は遡りますが、花橘で思い出す……そう、花散里の君に注目してみましょう。

光源氏に愛された女君は数多あれど、この花散里に明確なイメージってありますか?

源氏物語の女君がきものを着たなら1

容貌のまほならずもおはしけるかな。かかる人をも、人は思ひ捨てたまはざりけり。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
器量はさほど優れていないな。このような方をも父はお捨てにならなかったのだ。

桐壺院時代の女御の妹という高貴な出自、でも容姿はあまりよろしくない。光源氏も滅多に通ってこないけれど、文句も嫌味も言ってこないからたまに寄るには楽な相手……

私がはじめて源氏物語に触れたときの印象はこんな感じ。なんとなく地味で光源氏との恋愛エピソード部分も少なく、一見さほど重要な人物ではないかのように思っていました。

でも、よくよく読んでいくと恋愛以外のシーンで物語の各所に、つまり光源氏の日常生活の中に花散里の名が絶え間なく出てくるんです。

源氏物語の女君がきものを着たなら2

かやうなる方は、南の上にも劣らずかし
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
このような(染色・裁縫の)技術は南の対の紫の上にも劣らない。

紫の上と明石の君。

この二人が光源氏の最愛を分つような印象が強いせいか随分目立たないけれど、花散里って光源氏から紫の上に劣らぬ、つまり正妻級の待遇を受け、何かにつけて頼ったり大事な話を語り合ったりしているんです。

2024.01.24

まなぶ

源氏物語のもう一人の主役、紫の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.1

紫の上と明石の君が並び立つように見えるのは、二人とも美女であり光源氏との「恋」の感情をどちらも受けているから比較対象になり、本人同士も意識するし嫉妬もするのでしょうね。

花散里がその寵愛バトルから外れているように見えるのは、その登場シーンの描かれ方に注目していくと分かります。

源氏物語の女君がきものを着たなら3

縹は、げに、にほひ多からぬあはひにて、御髪などもいたく盛り過ぎにけり。やさしき方にあらぬと、葡萄鬢してぞつくろひたまふべき。我ならざらむ人は、見醒めしぬべき御ありさまを、かくて見るこそうれしく本意あれ。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
縹色のお召し物は、なるほど華やかでない色合いで、お髪などもたいそう盛りを過ぎてしまった。優美でないと、かもじを使ってお手入れなさっているのだろう。私(光源氏)以外の人だったら愛想尽かしをするに違いないご様子を、こうしてお世話することはうれしく本望なことだ。
正絹友禅小紋 「円弧菊」浅縹色

彼女が受け取っていたのは”愛”の部分。

自分の子(夕霧)や養女(玉鬘)の養育を任せたり、大事な行事に使う衣装の準備を相談したり。当時貴族女性の嗜みとして重要だった染色や織反、裁縫などが得意で常に趣味良く的確に対応できる彼女は、光源氏や夕霧の身の回りの衣類を最適に保ってくれていました。

通い婚が当たり前の平安時代、いつ夫が通って来なくなっても不思議ではないなか、男女の肉体的関係を超えた夫婦として理想的な信頼関係を構築し、出会った頃から生涯変わらぬ穏やかで良好な関係性だった人。それが花散里なんです。

一見容姿をディスってる?ような、老いた花散里を見た光源氏の印象。

でも、彼女の、自分に愛されようと若作りしたり取り繕おうとしないところ「絶対的に信頼してくれていると感じられてうれしい」のだと言います。

光源氏の感性、独特だけど、これって見た目を褒めるよりも深い愛を感じる部分ではないでしょうか。

縹色の地味目な着物を花散里らしい品の良さで気負わず着こなすなら薄化粧に髪もさっぱりとまとめたグレイヘアで。

2023.02.14

よみもの

グレイヘアへの移行 「きものとわたしのエイジング」vol.2

紫の上を正妻として立て、紫の上の父宮の五十の賀に向けた準備に協力したり、時には老いの哀しみに共感して寄り添ったりと、女性同士の関係もそつなく柔らかくこなしていく花散里……

まさに癒しの人であり、良妻賢母を絵に描いたような女性ですね。

源氏物語の女君がきものを着たなら4

夏の御住まひを見たまへば、時ならぬけにや、いと静かに見えて、わざと好ましきこともなくて、あてやかに住みたるけはひ見えわたる。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
夏(花散里)のお住まいをご覧になると、その時節ではないせいか、とても静かに見えて、特別に風流なこともなく、品よくお暮らしになっている様子がここかしこに窺える。
創作塩沢絣着物 単衣仕立て 正絹全通袋帯

暮らしぶりも、変に流行を意識しない、上品で洗練され清潔感のある様子。

いつふらりと来ても居心地の良い家。家人たちも主人の性格の良さと、光源氏から大切にされている様子から真面目に務めてくれるから、雰囲気も良い。

そんな環境を穏やかに作り出す有能な奥様なら、こんな着物姿でしょうか。

全体的に落ち着いた地味な色柄のお着物に、主張しすぎないけれど遊び心ある帯を品よく合わせて。

本当の意味での光源氏の両翼は、紫の上と花散里なのではないでしょうか。

実際に通う頻度で言ったら別宅でも良さそうな花散里を、二条院でもその後の六条院でも、きちんと対(屋敷の区画)を与えその「主人」として紫の上と差をつけない扱いをしています。妻のランクとしては明石の君よりも上なんですよね。

2024.02.24

まなぶ

つつましく賢い女性、明石の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.2

そこには、実子はいないものの花散里の持つ「母」としての偉大な力へのリスペクトが感じられます。

夕霧の母代わりというだけでなく、母を持たない光源氏にとっても素直に本音で頼れる懐の深い人。

褒めちぎるばかりになってしまいましたが、そんな彼女だって頻繁に来てはもらえない寂しさ、女性として恋愛対象としては見てもらえない悲しさを感じていなかったはずがなく、文中にも苦しい思いが滲むところもあります。

それでもひと目光源氏に会えばネガティブな感情はすっかり忘れてただただ喜び感謝する彼女の性質は、男性からしたらなんとも都合よく、居心地が良いに決まってますよね。

自分の人生、運命を変えることが非常に困難だったこの時代……

むしろあるがままに現実を素直に受け入れ、どんなことも大らかにポジティブに応じる彼女の生き方は、結果的に男性側の信頼と尊重を生み出しランクを引き上げたと言えますね。

2023.03.14

よみもの

コンプレックスや老化を受け入れる 「きものとわたしのエイジング」vol.3

現代の感覚からしたらあまりに女性の我慢の上に成り立っている夫婦関係に見えてしまいますが、どんな時代背景であれ、周りの雑音に乱されず確固たる自分のペースを持ち続ける人が勝ち!ってことなのかも。

今回のイラストを書く上で、自分の心地よい衣食住にこだわって静かに暮らす素敵なマダムたちをたくさん見つけたので、着こなしから参考にしてみたいと思います!

ITEM

記事に登場するアイテム

正絹友禅小紋 「円弧菊」浅縹色

創作塩沢絣着物 単衣仕立て 正絹全通袋帯

2021.03.31

まなぶ

有職菓子御調進所 老松 ときじくのかぐのこのみ『大和橘』 「和菓子のデザインから」vol.3

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