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いけばなが映し出す生き様。 未生流笹岡家元 笹岡隆甫さん(後編)

いけばなが映し出す生き様。 未生流笹岡家元 笹岡隆甫さん(後編)

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祖父・笹岡勲甫氏に師事し、3歳のときから花と向き合う毎日を過ごしてきた未生流笹岡家元・笹岡隆甫さんの素顔に迫るインタビュー。幼い頃の稽古で学んだことから海外での思わぬトラブルまで、盛りだくさんでお届けする後編です。

2024.10.10

インタビュー

華道家にとっても着物は仕事着。 未生流笹岡家元 笹岡隆甫さん(前編)

いけばなは、生き様そのもの

華道には、「蕾がちにいけよ」という言葉があります。

いけた瞬間が最高の状態ではなく、少しずつ蕾が綻び、ときとともに花が開いてゆく――その移ろいも表現の一部。

「移ろいから何かを感じるのも花の魅力です」と隆甫さん。

花をいける隆甫さん

「花の顔を少し上に向けるだけで、観る人に与える印象はガラリと変わります。一気に元気に見えるんですね。

それを実感したときに、いけばなは技術なんだ!と痛感しました。だからこそ、家元として誰よりも上手くならないと、と必死に稽古を重ねました。

でも、技術的に優れた先生にたくさんの弟子がつくわけではない。大事なのは、人となり。

突き詰めれば、いけばなは技術でもあるけど、生き様そのものなんだと思い至るようになりました」

そう語ってくれた隆甫さんにとって、その生き様の最たる見本は祖母でした。

「祖母は60代で癌を患った際に、重病人にもかかわらず入院患者や医療従事者の方など、周りの人たちを励ましていた姿がいまでも鮮明に思い出せます。

絶対安静の身で外泊届を叩きつけて、家族で和倉温泉へ行ったこともありました。そのときは看護師さんが付き添ってくださいました。

祖母はいつでも人生を謳歌したい、周りの人たちを喜ばせたいという気持ちで突き進み続けました」

祖父が流花に定めた「カキツバタ」

未生流笹岡の流花は、カキツバタ。

尾形光琳が描いた『燕子花図屏風』でもお馴染みの、初夏に咲く鮮やかな青色の花です。京都では、大田神社、平安神宮、深泥池などでも観賞することができます。

杜若

深みある花色と瑞々しい葉の緑のコントラストが美しい一日花で、華道家の間では葉蘭ハラン・水仙と並んで、いけるのが難しい「葉物の三難物」といわれています。

文化が途絶えることを懸念した二代家元・勲甫氏。

あるとき、稽古花として難物であるカキツバタを自ら育てようと考え、城陽にある「杜若とじゃく園芸」を訪ねます。その際「家元自ら育てるのは難しいでしょうから、私が育てます」と請け負ってくださったのが、いまでは未生流笹岡名誉目代も務める岩見良三氏でした。

現在暑さによる生育の悪さも相俟って、端午の節句に花しょうぶが手に入らない状態も珍しくありません。同じように、カキツバタは近いうちに絶滅危惧種になると言われています。杜若園芸では四季咲き種を各地で栽培され、一年を通して良質なカキツバタが届くように心を砕いてらっしゃるといいます。

岩見さんとのご縁を得て、未生流笹岡は「かきつばたの笹岡」と呼ばれるようになったのです。

いつでも花への感謝を忘れないよう

いけ終えた花を処分するとき、そのままゴミ箱に捨てるのは気が引ける……と呟いたところ、隆甫さんが強く同意してくださいました。

「私は、役目を終えた花を半紙に包んで、お酒で清めて手を合わしています」

手を合わせる隆甫さん

「人によっては塩で清められることもあるかと思います。大切なのは、花を供養する気持ち、引いては自然に感謝する心を持つことです。

これは、いただきます、ごちそうさまと手を合わせるのと同じことではないでしょうか」

いま目の前にある花が一番好き

訊かれて困る質問を投げてかけてみました。

「一番好きな花は何ですか?」

茶室にて

「難しいですね……」と、しばし考え込んだ隆甫さん。

「ひとつだけとなれば、流派の花になるのでしょうが……本音を言えば、四季折々、それぞれいま目の前の花が一番好きなんです。キングプロテアのように主張が強いといけにくいのも本当ですし、やっぱり色合いのやさしい繊細なかんじの和花は総じて心が落ち着きます」

キングプロテアの花

家元人生最大のピンチ!

「10年前、トルコで花をいける機会を頂戴しました。

ヒッタイトの遺跡まで花を運ぶことになり、慎重かつ丁寧に梱包したものを細心の注意を払って輸送したのですが、現地の方が最終、現場までの1時間をピックアップトラックの荷台に乗せて運んできて……

到着したときには花が全部萎れている!というアクシデントに見舞われたときは、本当に大変でした。声も出ないって、ああいうことをいうんですね」

(C)未生流笹岡

「時間はどんどん迫ってくるし、何もしないわけにはいかない。仕方がないので、一か八か、その場にあったイチジクの木をノコギリで切り出して、作品をいけました。

いまとなっては笑い話ですが……あんな経験はもう二度と勘弁してほしいです(苦笑)」

さて、ときにお茶目さが垣間見られる家元の愛用品とは?

次回の記事もどうぞお楽しみに。

取材・構成/椿屋
撮影/松村シナ

2024.10.10

インタビュー

月愛でる傍にはススキを 「未生流笹岡家元に学ぶ、華やぎあるくらし」vol.1

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