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華道家にとっても着物は仕事着。 未生流笹岡家元 笹岡隆甫さん(前編)

華道家にとっても着物は仕事着。 未生流笹岡家元 笹岡隆甫さん(前編)

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1919(大正8)年に創流した未生流笹岡の三代家元・笹岡隆甫さん。伝統的技法に西洋の花を取り込んだ新しい「盛花」を特徴とする未生流笹岡の現当主は、異ジャンルとの掛け算的挑戦に積極的に取り組む注目の華道家です。いけばな界のこれからを牽引していくひとりとして奮闘する隆甫氏の想いに迫ります。 

2024.09.17

まなぶ

月愛でる傍にはススキを 「未生流笹岡家元に学ぶ、華やぎあるくらし」vol.1

仕事着としての着物は完全お任せで

この日、撮影クルーを出迎えてくれた未生流笹岡三代家元・笹岡隆甫さんのお召し物は、紋付羽織袴の正装姿。

紫がかった濃いブルーの涼感ある夏着物が、うだるような暑さを和らげてくれるようでした。

門前で

「お正月の初いけ式をはじめ、花をいけあげるときには着物が欠かせません。

そういった意味では、着物は私たち華道家にとって仕事着だといえるでしょう。パブリックな空間で着物を着ると気が引き締まりますし、その場が華やぐのは着物ならでは」

羽織紐

特別に誂えた、家紋が光る羽織紐

笹岡家の家紋は、丸に十字紋。薩摩島津家でお馴染みのこの紋は、ルイヴィトンのモノグラム柄のモチーフになったともいわれています。

「遡ると、先祖が薩摩藩の剣術指南を務めていたようです」というのが、そのルーツです。

バックスタイル

着物着用のペースは月2回程度。

「馴染みの呉服屋さんに完全にお任せです。色を選んで、こんなかんじでとお願いしています」

「春秋は多くなるので、毎週のように着ていますね」の言葉が示すとおり、華道家にとって花の豊かな春と秋は繁忙期。

「いまは花=春というイメージですが、昔は秋こそが花の季節でした」とのこと。

37歳で継承した未生流笹岡三代家元

茶室にて

「いまの時代はそんなことはないですが、当時は紙と鉛筆があればどこででも研究はできると、自宅で仕事をしていた父を見ていて、幼心に大学教授って楽しそうだなと思っていました。それで、華道家と二足の草鞋を履こう!と、建築学科へ進学。

先生になりたくて7年大学に通いましたが、家業が忙しくなってきて、これではどちらも中途半端になるなと感じ、25歳のときに華道に専念する覚悟を決めました。

同世代に花について伝えたいと考えていたこともあって、30代からではなく20代のうちに、少しでも早く始める必要があると思ったからです」

日本最古の歴史をもつ池坊を筆頭に、草月流、小原流を三大流派とし、細かく分ければ300もの流派があるなか、未生流笹岡もその一端を担っています。

創流は1919(大正8)年。

曾祖父・笹岡竹甫氏が伝統的技法である鱗形(直角二等辺三角形)を踏襲した新しい「盛花(もりばな)」を考案したことから始まりました。

隆甫さんが家元継承を決意したのは、2011(平成23)年のこと。

「祖父が脚を悪くして容易に出歩けなくなったので、元気なうちに……と家元を継ぎました」

花嫁修業としてお花を嗜む時代が終わりを告げて久しく、着物業界同様、いけばなの世界も斜陽だと言わざるを得ません。

そんな時代だからこそ発信していくことが大事と考え、隆甫さんはメディアへの出演にも気軽に応じ、海外でのパフォーマンスや異なるジャンルとのコラボレーションにも力を注いできました。

各大学の客員教授をはじめ、京都市教育委員や京都市「DO YOU KYOTO?」大使、NPO法人京都伝統フォーラム理事など、数々の役職を兼任しています。

「この業界は右肩下がりです。なかなかしんどいのが正直なところですが、やれることは何でもやります。

5年前から試験的に始まった京都市立の中学校でいけばなを教えるカリキュラムが、いよいよ去年から全校で実施されることになり、教育の現場で華道への理解を深める貴重な機会を得ることができました」

シンプル&シックが当代家元好み

江戸時代に描かれた須磨を題材とした襖絵が見事な客間には、着物と同じく涼感を届けてくれる家元の作品が。

客間の作品

毎年正月に行なわれる「未生流笹岡 初いけ式」で使用しているという首部分に鳳凰の柄が入った金属製の花器にいけられた花材は、2種類のナツハゼをメインに、白色のカラー・トルコキキョウ・バラ、オミナエシとオトコエシ。

「あまり手を加えず(=枝を裁かず)、涼しげな印象になるようにいけました」

客間にて

長らく祖父・勲甫氏から「新しい型を考えなさい」と言われてきた隆甫さん。

古典の型を学ぶなかで、その型には収まらないけれどやんちゃな(=面白い)枝ぶりの花材に出合います。そんな味のある自然の枝を活かす新たな型として考案したのが「新景色花(しんけしきばな)」でした。2016年のことです。

「個人的には、シンプルでシックなものが好きです。が、異なるジャンルとのコラボにおいては、半ば強制的に作風を変えることを求められるときもあります。

そこから新しい気づきや発見を得ることもあるので、今後も様々なジャンルとの掛け算には積極的に挑戦していきたいですね」

いけばなをお稽古する2つのメリット

庭にて

「いま当流の師範代はおよそ300人。女性が多く、3分の1が京都の方です。若いと10代の方もいますが、最も層が厚いのは70代。

どんな習い事や仕事でもそうですが、一人前になるにはそれなりの年月が必要です。未生流笹岡では、師範代になるのに5~7年はかかります。ですが、始めて1~2年で辞めてしまう人が少なくありません。いまは、新しい人にどう続けてもらうかが課題のひとつです」

いけばなを習うメリットを訊いてみると――

「姿勢が良くなりますね。美しくなるよう花の姿勢を正すことで、己の姿勢も正されます。自身の軸がズレていたら、鉛直が取れませんから。

もうひとつは、集中力が養われます。花に向き合うと、それに集中し、悩みや不満など余計なことを忘れられます。実際私も花をいけるときは、どうすれば美しくなるか、それだけを考えています。

花材の多い少ない、大きい小さいにかかわらず、花を触っているときはどんなときでも同じ顔をしていけていると思います」

続く後編では、花への向き合い方や祖父との想い出を語っていただきます。

家元がいけあげる月々の作品を通して、人生に花を取り入れる喜びについて知ることができる「未生流笹岡家元に学ぶ、華やぎあるくらし」も連載中。ぜひご一読ください。

2024.09.17

まなぶ

月愛でる傍にはススキを 「未生流笹岡家元に学ぶ、華やぎあるくらし」vol.1

取材・構成/椿屋
撮影/松村シナ

まなぶ

はじめましょう 花であそぶ節句

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