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柔らかで洗練された気品、夕顔 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.7

柔らかで洗練された気品、夕顔 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.7

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気やすさはあるのに、どんなに聞き出そうとしても素性は明かさない謎めいた雰囲気のある夕顔。

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。

前回の六条御息所コーデ、なかなか好評でうれしかったです。

2024.06.24

まなぶ

繊細で慎み深い、六条御息所 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.6

漫画や有名なエピソードでキャラとしての印象が強くなっている人物ほど、原文を読んでみると作者は意外な部分を強調していたりして新鮮なイメージが湧いてきます。

平安時代は髪型も化粧も画一的で没個性。でも衣の襲ねを工夫して季節感やセンスの良さを主張していました。

2022.04.24

まなぶ

後ろ姿の美意識 「のんびり楽しむイラスト服飾史」vol.1

2022.06.24

まなぶ

ダイナミックな平安ファッション 「のんびり楽しむイラスト服飾史」vol.3

そんな彼女たちがもし、着物を自由に選べたならどんな着こなしをするだろう?と思いを馳せるこちらの連載、読者のみなさまもイメージを膨らませながら読んでいただけたらと思います。

さて今回の主役は……前回の六条御息所に取り殺されたもう一人の女君、夕顔です!

「源氏物語の女君がきものをきたなら」1

あっという間に死んでしまったせいか、また彼女を敵視する六条御息所がヴィラン的に見られるせいか(実際は全然違うことは、みなさま前回履修済ですよね?)、夕顔ってなんとなく「か弱い」「儚い」「いじらしい」といった”守られるべき弱者”のイメージがついていませんか?

私自身、漫画から入ったのでタッチに引っ張られたところもあり薄羽陽炎のような儚く脆い女性像がありました。

でも原文を読み、また彼女の辿ってきた人生を知るとそうとは言い切れない感じがするのですよね。

「源氏物語の女君がきものをきたなら」2

人のけはひ、いとあさましくやはらかにおほどきて、もの深く重き方は遅れて、ひたぶるに、若びたるものから、世をまだ知らぬにもあらず。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

女の感じは、とても驚くほど従順でおっとりとしていて、物事に思慮深く慎重な方面は少なくて、一途に子供っぽいようでいながら、男女の仲を知らないでもない。

原文の中で夕顔を評す言葉で現代語訳に当てはまりやすいのは「子どもっぽい」なんですよね。直訳だとあまり良い表現とも言えないのですが、「無邪気」とか「素直」「素朴」のような雰囲気でしょうか。

要するに、扱いやすい、男好きのする気安い女性だったということ。

夕顔と出会った時期は、気位の高い正妻葵の上とは打ち解けられないし、愛人の六条御息所も完璧なマダムで一緒にいてもカッコつけていなければならず、気が休まらなかった17歳の光源氏。

有名な『雨夜の品定め』で、頭中将など同僚たちから身分の低い女の良さを聞いて興味を持つのです。

2024.05.24

まなぶ

高貴な正妻、葵の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.5

そんな時に恋に落ちた夕顔は、高級住宅街ではなく小町(下町)の粗末な家に暮らしていました。

どうやら決まった夫はいない女主人のようですが、仕える女房たちは牛車が通るたびに「あの方ではないか?」とそわそわと見に行く様子もあって……

光源氏の方も、下心もなく病気の乳母を見舞った際に通りかかった家に咲く垣根の花を一房もらおうとした時に夕顔の方から扇に歌を詠んでアプローチしてきているのですよね。

気やすさはあるのに、どんなに聞き出そうとしても素性は明かさない謎めいた雰囲気。後に彼女は光源氏のライバル、頭中将の元愛人だったことも判明します。

ここまで読んでみて、どうですか?

白き袷、薄色のなよよかなるを重ねて、はなやかならぬ姿いとらうたげにあえかなる心地して、そこと取り立ててすぐれたることもなけれど、細やかにたをたをとしてものうち言ひたるけはひ、「あな心苦し」とただいとらうたく見ゆ。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

白い袷、薄紫色の柔らかい衣を重ね着て、地味な姿態は、とてもかわいらしげに華奢な感じがして、どこそこと取り立てて優れたところはないが、か細くしなやかな感じがして、何かちょっと言った感じは「ああ、いじらしい」と、ただもうかわいく思われる。

【京の染匠】 特選暈し染刺繍付下げ着尺 「麗華菱花文・薄紫色」
【織紫苑】 特選西陣織絽袋帯 「花菱襷紋」

何も知らないされるがままの弱々しい庶民の娘、というよりもどちらかというと高貴な男性を喜ばせるのが上手な玄人さん、ではないでしょうか?

銀座の一流クラブのホステスさんは美しいだけでなく洗練された気品があり、お客様の好みに合った会話が臨機応変にできる頭の良さがなくては務まりません。

かといって相手を緊張させるようなデキる女オーラを出すことなく、むしろ自然な気遣いが上手で相手をリラックスさせ心地よい時間を提供できるサービスのプロ。

銀座のホステスさんというと高級な訪問着をお召しになっているイメージですが、夕顔の着こなしは光源氏が「もう少し気取ったところがあればなぁ」と思うほどシンプルだったようです。

そこで、金糸銀糸や箔などは使わず柄行きもうるさくないぼかし染めのお着物で相手にも気を張らせない着こなしを考えてみました。

「夕霧に 紐とく花は玉鉾の たよりに見えし縁にこそありけれ 露の光やいかに」とのたまへば、後目に見おこせて「光ありと 見し夕顔のうは露は たそかれ時のそら目なりけり」とほのかに言ふ。をかしと思しなす。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

「夕べの露を待って花開いて顔をお見せするのは道で出会った縁からなのですよ。露の光(私の顔)はどうですか?」とおっしゃると、流し目に見やって「光り輝いていると見ました夕顔の露はたそがれ時の見間違いでした」とかすかに言う。おもしろいとお思いになる。

【京の染匠】 特選色無地着尺 特選西陣総刺繡紗紬九寸名古屋帯

はたまた祇園の芸妓さんたちにも通ずるところがありそう。夜の華やかな装いとはちがい、日中のお着物姿は派手さを抑えた色無地のことも多いですが、どこか品の良い色気と物腰の柔らかさから漂うなよやかな美しさにため息が出ます。

高貴な生まれの女人たちのように決められた男性を婿に迎え、通ってくるのを待つだけの生活とは違い、自分の生活を支えてくれる男性を見つけて虜にする必要があった夕顔。

頭中将も夢中になり過ぎて、その正妻の父親から嫌がらせを受けて行方をくらました……という過去があるほどに、夕顔の魅力は、家柄にビジネスにと縛られて張り詰めることの多かった殿上人の心を癒したのでしょう。

ここまで知ると六条御息所から恨みの矛先を向けられるのもまぁわかる……と若干思ってしまうわけですが、呆気なく亡くなってしまったために同情票が集まっている感じのある彼女。

男女が気軽にお外でデートなんてできなかった平安時代に車に相乗りしてお泊まりに出かけているあたり、個人的には、恋に生きた歌姫、和泉式部(身分の差を超えて熱愛中の敦道親王と車でお出かけしている)を重ねて見てしまいます。

もしかしたら女性からは嫌われるタイプだったかもしれないけれど、同じ女性として憧れる気持ちにもなる……

そんな夕顔ファッションは、シンプルなだけに素材の持つ魅力がポイントになりますが(笑)、薄紫のワントーンコーデは上品に色気アップできそうでちょっと試してみたいですね。

ITEM

記事に登場するアイテム

【京の染匠】 特選暈し染刺繍付下げ着尺 「麗華菱花文・薄紫色」

【織紫苑】 特選西陣織絽袋帯 「花菱襷紋」

【京の染匠】 特選色無地着尺 特選西陣総刺繡紗紬九寸名古屋帯

2021.06.29

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